✦ 21話 境界 ✦
一週間後
放課後の教室
陽向はノートを片付けていた
「……ねえ、陽向」
振り向くと、同じクラスの女子が立っている
少しだけ気まずそうに、でも目は逸らさない
「この前、ごめんね」
陽向は一瞬驚いて、それから小さく頷いた
「……うん」
女子はほっとしたように笑う
「前は言いすぎたけど……今日はちゃんと言いたくて・・
陽向ってさ、小さくてかわいいよね」
そう言って、軽く頭に触れる
陽向は少し戸惑いながらも、照れたように笑った
「……ありがとう」
帰り道。
校門の外で、紬が待っていた
「おかえり」
「ただいま」
並んで歩き出す
しばらくして、陽向が話し出す
「今日ね」
紬は前を向いたまま聞く
「クラスの子が、優しくしてくれた」
「そう」
短い返事
「頭、なでてくれた」
(胸の奥が、少しだけざわついた)
その一言で、
紬の足が、ほんのわずかに止まりかけた
でも、止まらない
「……そう」
もう一度、同じ言葉
少しの沈黙
夕焼けの光が、二人の影を伸ばす
紬は、自分の手を見た
ほんの少しだけ、力が入っている
(……何してるの、私)
心の中で、静かに問いかける
一度、息を吐く
それから、何事もなかったように言う
「よかったね」
陽向は少し驚いた顔をする
「うん……」
紬は続ける
「学校で、ちゃんと関われてるってことでしょ」
まっすぐな言葉
陽向は、少し考えてから頷いた
「……うん」
紬はそれを見て、ほんの少しだけ目を細める
それでも
ほんの一瞬だけ
手を伸ばしかけて――
やめた
代わりに、歩幅を少しだけ合わせる
「陽向」
「なあに?」
「……帰ったら、続きやるわよ」
いつもの声
陽向の表情が明るくなる
「うん」
また少し歩いて
今度は、陽向の方から手を伸ばした
そっと、紬の指に触れる
紬は一瞬だけ驚く
でも、振り払わない
軽く握り返す
「……今日は、いいわよ」
小さく言う
陽向は何も言わない
でも、少しだけ近づいた
夕焼けの道
二人は並んで歩いていく
さっきよりも、ほんの少しだけ
距離を、意識しながら




