✦ 18話 守る側にいる人 ✦
放課後
陽向は学校の正門を出た
足元を見つめたまま、ゆっくりと歩いている
「いた」
背後から声がかかる
振り向くと、同級生の女子が二人
どこか楽しげに、距離を詰めてくる
「やっぱり小さいよね」
「ほんとに中学生?」
笑い声が、軽く刺さる
陽向は立ち止まり、ぎゅっと唇を噛んだ
言い返そうとして、でも言葉が出てこない
「……チビ」
小さく落とされた一言
そのときだった
「――陽向」
静かな声が、背後から届いた
振り向く前に分かる
その声だけで、胸の奥の緊張がほどけていく
紬が、そこに立っていた
(紬が来た瞬間、胸のざわつきが消えた)
迷いのない足取りで近づいてくる
そして何も言わず、陽向の隣に立った
「……どうしたの」
穏やかな問いかけ
陽向は答えられず、うつむく
女子たちが気まずそうに視線をそらす
「別に……ちょっと話してただけ」
その言葉に、紬はすぐには返さなかった
ただ一度だけ、二人を静かに見る
それだけで、空気が少し変わる
紬は、陽向の肩にそっと手を置いた
強く守るわけでもなく、
ただ「ここにいる」と伝えるように
「行こ」
短い一言
それ以上、何も言わない
陽向は一瞬戸惑ったあと、
小さくうなずいた
二人が歩き出すと、
後ろの笑い声は、もう追ってこなかった
しばらく無言のまま歩く
夕焼けが、二人の影を長く伸ばしていた
陽向が、ぽつりと口を開く
「……何も言わなくてよかったの?」
紬は少しだけ考えてから、答える
「言葉で止めても、同じことを繰り返すだけよ」
穏やかな声
「それより」
ほんの少しだけ視線を落とす
「あなたがどうするかのほうが、大事」
陽向は黙る
手が、少しだけ揺れた
「……悔しかった?」
紬の問い
陽向は小さく頷いた
「……うん」
少し間を置いて、
「でも……逃げなかった」
かすかな声
紬は、それを聞いて目を細めた
「そう」
短く、でも確かに受け取るように
紬は歩幅を少しだけ緩める
「じゃあ、それでいいわ」
それだけ
大げさな褒め言葉も、慰めもない
でも、その声はまっすぐだった
陽向が、そっと手を伸ばす
迷いながら、紬の指先に触れる
紬はそれを振り払わない
少しだけ指を返して、軽く握る
「……今日は、特別ね」
小さく言う
陽向は何も言わない
でも、その手を少しだけ強く握り返した
夕焼けの道を、二人で歩いていく
守られているだけじゃない
ほんの少しだけ、自分の足で立ったまま
それでも、隣には確かに誰かがいる




