✦ 16話 会いに来た理由 ✦
放課後
紬は部活を終え、タオルで汗を拭きながら校舎へ戻っていた
「あ、紬」
隣を歩いていた友達が、校門の方を指差す
「さっきからあそこにさ、人待ってる子いるんだけど」
「人待ち?」
「なんか、落ち着かない感じでさ」
紬は何気なく視線を向ける
——その瞬間、足が止まった
校門のところ
小さな背中
何度も背伸びして、中を覗こうとしている
「……陽向?」
気づいた瞬間、紬は駆け出していた
「陽向!」
呼ばれて、影が振り返る
目が合った瞬間——
表情が、ほっとほどけた
「……紬」
小さく呼ぶ
それだけで、十分だった
紬はそのまま近づく
少し息を整えながら、目の高さを合わせた
「どうしたの? こんなところで」
陽向は少しだけ視線を落とす
手は制服の端を軽く握っている
(来てもいいのか、少し迷ったけど)
「……待ってた」
短い言葉
でも、その理由は隠しきれない
紬は一瞬だけ表情を緩める
けれど、すぐに少しだけ真面目な顔に戻った
「家で待ってるはずだったのに」
陽向はうなずく
「……うん」
少し間を置いて、
「でも」
顔を上げる
「今日、学校で……ちょっと嫌なことあって」
紬の表情が静かに変わる
「それで?」
「……紬の顔、見たら落ち着くかなって思って」
言い終えると、少しだけ気まずそうに目をそらした
紬は何も言わず、そっと手を伸ばす
頭を撫でるわけでもなく、
ただ、軽く肩に触れる
「……そっか」
それだけ
でも、その一言で、陽向の肩の力が抜けた
後ろで友達がひそひそと話している
「え、あの子……」
「完全に頼られてるよね」
紬は少しだけ振り返り、照れたように言う
「……知り合い。ちょっと面倒見てるだけ」
「それ、もうお母さんじゃん」
即座に返ってきた言葉に、紬は小さくため息をつく
「違うってば」
そう言いながらも、陽向の手を軽く取る
「帰ろ」
「うん」
歩き出す
夕方の光が、二人の影を並べて伸ばしていく
少し歩いたところで、陽向が口を開いた
「……ねえ」
「なあに?」
「今日だけ、手……いい?」
遠慮がちな声
紬は一瞬だけ考えて、ふっと笑った
「今日だけ、ね」
強く握るわけじゃない
逃げない程度に、そっと
陽向も、それ以上は何も言わない
ただ、その手の温度を確かめるように、
少しだけ指を寄せた
(この温度がほしかった)
夕焼けの中
二人は並んで歩いていく
それは、守られているだけじゃない
自分で選んで、ここに来た距離だった




