✦ 15話 外から見たかたち ✦
休み時間
紬は自分の机に座り、お弁当を広げていた
隣の席の友達が、その中身をのぞきこんで声を上げる
「今日も立派なお弁当だね。紬ってほんと、よく食べるよね」
紬は軽く笑う
「部活やってると、これくらい必要なの」
箸を動かしながら、もう一人の友達がふと思い出したように言った
「そういえばさ、最近ずっと陽向くんの面倒見てるんでしょ?」
紬は一瞬だけ箸を止める
「……まあ、ね。ちょっと事情があって」
「勉強も見てるって聞いたよ?」
「ほぼ毎日」
さらっと答えると、二人は顔を見合わせて、くすっと笑った
「なんかさ」
「最近の紬って、“お母さん”みたいじゃない?」
紬は目を丸くする
「え、私が?」
「だって、送り迎えしてるし、勉強もつきっきりでしょ?」
「この前なんて、手つないで歩いてるの見たよ」
「それ、もう完全にお母さんじゃん」
紬は少し顔を赤くして、すぐに言い返した
「違うわよ。私は妹。……ただの世話焼きな妹」
「でもさ」
「授業参観にも行ったんでしょ?」
その一言に、紬は言葉に詰まる
少しだけ視線をそらしてから、小さく頷いた
「……行ったわよ」
「で?」
「どうだったの?」
紬はあの日を思い出して、ほんの少しだけ笑った
「先生にね、“お母様ですか?”って聞かれたの」
「えっ!」
「それで?」
紬は肩をすくめる
「……そのまま、“はい”って答えちゃった」
一拍遅れて、笑い声が弾けた
「えー! ほんとに!?」
「すごい、それ!」
「14歳のお母さんじゃん!」
紬はむくれたように言う
「だから違うってば」
それでも、笑いはしばらく止まらなかった
やがて笑いが落ち着くと、友達の一人がふっと真面目な顔になる
「でもさ」
「紬って、ちゃんとやってるよね」
その言葉に、紬は少しだけ目を瞬かせた
「え?」
「だって、そこまで誰かの面倒見るのって、なかなかできないよ」
もう一人も頷く
「うん。正直、すごいと思う」
紬は少しだけ言葉を失う
箸を持つ手が、わずかに止まった
(ちゃんと……やってる)
その言葉が、胸の奥に静かに落ちる
ふと、ある光景がよぎった
人混みの中
少し遅れて、自分を見つけて——
小さく、「紬」と呼んだ声
あのときの、落ち着いた目
ちゃんと自分でここまで来た、という表情
紬は、ふっと息をつく
そして、小さく笑った
「……そうかもね」
友達がすぐに反応する
「ほら、認めた」
「やっぱり“紬お母さん”じゃん」
紬は軽く肩をすくめる
「どうかな」
少しだけ考えてから、ゆっくりと言葉を選ぶ
「でも」
視線を落とし、指先でお弁当箱のふちをなぞる
「不器用で、すぐ自信なくすけど」
小さく笑う
「ちゃんとやろうとしてるのよ、あの子」
顔を上げる
その瞳は、やわらかくて、まっすぐだった
「だから……見ててあげたいなって思う」
友達は少しだけ驚いたように目を見開き
それから、優しく笑った
「……うん」
「それ、もう十分“お母さん”だよ」
紬は照れたように視線をそらす
(言われると、なんかむずがゆい)
けれど、その口元は少しだけ緩んでいた
窓の外に目を向ける
青い空の下で、校庭に生徒たちの声が広がっている
(私がやってることって)
(間違ってないよね)
心の中で、そっと確かめる
大げさな決意は、もういらなかった
ただ——
(あの子が自分で歩けるようになるまで、
ちゃんと、そばで見ていこう)
それだけで、十分だった




