✦ 12話 言い返せなかった言葉 ✦
昼休み
教室の後ろで、陽向はノートを見つめていた
後ろから笑い声
女子二人が立っている
「陽向ってさ」
「私たちより、ずっと背低いよね」
笑い声
「……ちがう」
声が震える
でも、うまく言葉が出ない
「何が違うの?」
さらに笑われる
陽向はぐっと唇を噛んだ
「……お母さんは」
思わず出た言葉
「背が高くて……頭もいいんだ」
女子たちは顔を見合わせる
「それ、自分のことじゃないじゃん」
また笑い声
陽向は何も言えなくなる
視界がにじむ
(悔しいのか、悲しいのか、自分でもわからなかった)
夕方
家
「いじめ……か」
沙織が静かに言う
紬は何も言わない
ただ、話を聞いている
そのとき
部屋から陽向が出てきた
紬はすぐに近づく
でも、今回はしゃがまない
目線だけ合わせる
「ほんと?」
短く聞く
「……うん」
少し沈黙
「なんて言ったの?」
陽向は小さく答える
「お母さんのこと……」
紬は一瞬、息を止める
「そっか」
それだけ言う
少しだけ間
「……それ、ずるいね。陽向が言い返せないのわかってて言ってる」
小さく息を吐く
陽向が顔を上げる
「だってさ」
紬は軽く肩をすくめる
「自分のことじゃないじゃん」
陽向は言葉に詰まる
でも、紬の声はさっきまでと違う
優しいまま
「でも」
紬は続ける
「ちゃんと守ろうとしたんでしょ」
陽向の目が揺れる
「それは、いいと思うよ」
少しだけ近づく
でも抱きしめない
「次はさ」
少しだけ笑う
「自分のことで言い返しな」
陽向は小さく息を吸う
「……できるかな」
「できるでしょ」
即答
「だって、ちゃんと帰ってきてるじゃん」
少し間
「それだけで十分」
陽向の目に、少しだけ力が戻る
紬は軽く頭をぽんと叩く
「ま、今回は半分くらいは合格」
陽向は少しだけ笑った




