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オリガミ - 妹AIを神にするため、俺は成り上がる【カクヨム完結済/なろう連載中・累計59万PV】  作者: けーきまる
研究所を建設しよう

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魔法使いの家庭教師

翌日。


俺は家庭教師という名目で、千代夫人の姉の家にいた。


都心から少し離れた住宅地。どこにでもあるような、普通の一軒家だ。


リビングで、千代夫人の姉と向かい合って座っていた。


彼女の息子の名前はタダシというらしい。今回の作戦は、このグレた息子の更生だ。


「藤崎社長、千代がすみません。無理を言ったみたいで……」


「いえいえ。もともと無理を言っているのは俺なので。千代夫人は悪くありませんよ」


タダシの母は、四十代半ばくらいだろうか。品のある顔立ちだが、目の下に濃いクマがある。手も少し震えていた。


相当、追い詰められているように見える。


「それで……息子さんのことで、お力になればいいんですね?」


「ええ……」


タダシの母が、膝の上で手を握りしめた。


「あの子、昔はとてもいい子だったんです。小学校の頃は成績も良くて、友達も多くて……」


声が震えている。


「でも中学に上がってから、だんだん成績が落ち込んで。本人なりに頑張っていたみたいなんですが、どうしても追いつけなくなって……」


「……」


「それからです。勉強を投げ出して、言葉遣いも荒くなって、家族にも当たるようになって」


タダシの母が唇を噛んだ。


「最近では、あまりガラの良くない連中と付き合い始めたみたいで……。夜中に帰ってくることも増えましたし、お金の使い方もおかしくなってきて」


「……」


「私、もうどうしたらいいのか……」


頑張ってるのに結果が出ない。


そういうのって、しんどいよな。


勉強については、高卒の俺がしたり顔で言えることでもないが。


「頑張ってるのに結果が出ないのって、一番つらいですよね」


タダシの母が顔を上げた。


「息子さんが荒れてるのは、まだ諦めきれてない証拠だと思うんですよ。本当にどうでもよくなったら、暴れもしないと思いますし」


タダシの母の目が潤んだ。


「お母さんが心配してくれてるのも、ちゃんと伝わってると思います。大丈夫です。俺に任せてください」


「……ありがとうございます。藤崎社長だけが頼りなんです。どうか、どうかよろしくお願いします……!」


タダシの母が深く頭を下げた。


……よし。なんとか力になってやろう。


「あ、あと俺のことは『藤崎社長』じゃなくて『藤崎先生』でお願いします。一応、家庭教師という名目で来てますので」


「あ、そうでしたね。すみません、藤崎先生」


「じゃあ、案内お願いします」


タダシの母が立ち上がり、二階への階段に向かった。途中で振り返る。


「あの、藤崎先生。あの子、きっと失礼なことを言うと思います。本当に申し訳ないのですが……」


「大丈夫です。そういうのは慣れてますから」


今まで、更生してきた連中に比べれば、高校生なんて可愛いものだろう。


※※※


二階の部屋の前に着いた。


扉の向こうから、怒鳴り声が聞こえてくる。


「クソババア!家庭教師なんか呼んでんじゃねーよ!帰れ!しばくぞ!」


……おかわいいこと。


タダシの母が、申し訳なさそうに俺を見た。目に涙が浮かんでいる。


そんなタダシの母に軽く頷き、扉越しに声を張り上げる。


「高卒家庭教師の藤崎先生が来ましたよー。タダシ君の家庭教師ですよー。救世主ですよー。あけてくださーい」


「う、うるせえ!だれがあけるかよ!」


「あれぇ?こわいんですかぁ?俺を、しばくんじゃないんですかぁ?扉をあけないとしばけないよぉ?」


――ガンッ!


扉の向こうから、何かがぶつかる音がした。物を投げたのだろう。


「だまれ!」


振り返って、タダシの母に小声で言った。


「えっと、お母さん。この扉、壊していいですか?あとで弁償しますので」


「え……?構いませんが……」


足元に置いていたキャリーケースを開けた。


中から、四足歩行の犬型ロボット――イヌガミタイプが静かに這い出てくる。


タダシの母が目を丸くしている。


唇だけで指示を出す。


「頼む」


『お兄様、かしこまりました。扉の鍵を破壊します。』


イヌガミタイプの頭部にある多目的アームから小型ドリルが展開した。


ウィィィィン……ガギッ、バキン。


鍵はあっけなく壊れた。


「お、おい!なにやってんだよ!」


「じゃあ、入りますねえ。藤崎先生が来ましたよー」


ずかずかと中に入っていく。


散らかった部屋。カーテンが閉め切られて薄暗い。ベッドの脇に座り込んだ少年が、こちらを睨んでいた。


金髪。痩せ型。目つきが鋭い。だが、顔立ち自体は悪くない。身長は……俺より少しだけ低いくらいだな。


「てめっ……!」


拳を振りかぶった。殴りかかってくる。


「た、タダシ!やめてぇ!」


タダシの母が悲鳴を上げた。


――『折(せつ)』。


ガンッ!


俺の顔を直撃しようとしていたタダシの拳が、見えない壁に跳ね返った。


「いてぇ……!な、なんなんだよお前……!」


拳を押さえて、うずくまっている。殴りかかった自分だけがダメージを受けた現実に、きょとんとした顔でこちらを見ている。


「あれ?タダシ君、なにかしましたか?」


「……っ!」


タダシが睨みつけてくる。だが、もう手は出してこなかった。


タダシの母の方を振り返る。


「あとはお任せください。二時間ほどしたら、また来ていただけますか?」


「は、はい……。大丈夫でしょうか……?」


「大丈夫です。お母さんは少し休んでいてください」


タダシの母が不安そうな顔で部屋を出ていった。壊れた扉を押して、なんとか閉める。


さて。


「タダシ君」


「……なんだよ」


布団にもぐり込もうとしている。


「お母さん、泣きそうだったよ。あんまり困らせちゃだめだろ」


「うるせえ。あんなババアどうなってもいいんだよ」


「……いいなあ、お母さんがいて」


タダシの手が止まった。


「俺、両親いないからさ。ちょっと羨ましいよ」


タダシは何も言わない。


布団にもぐり込んで、毛布を頭まで被ってしまう。


……さて、どうしようか。


『お兄様。今回は、側坐核砲(そくざかくほう)の「薬」の側面をお見せしたいと思います。許可をお願いします。』


骨伝導イヤホンから、オリガミの声が届いた。


唇だけで返す。


「……なるほど。あれかぁ……」


『この男がグレたのは、成績が落ち込んだのがきっかけです。つまり、勉強ができるようになれば全て解決します。側坐核砲で学習意欲と集中力を、無理やり引き出してあげましょう。あとは本人の力で立ち直れるはずです。』


「わかった。側坐核砲の使用を許可する。……勉強させるかぁ」


タダシに明るく声をかけた。


「タダシ。勉強しようぜ!」


「……は?」


毛布の隙間から、怪訝な目がこちらを見た。


「勉強して、自分を取り戻そうぜ!」


「無駄なんだよ!俺なんかいくらやっても無駄なんだよ!」


「いや、学校の勉強なんてやれば誰でもできるよ。タダシはやってる時間が少ないか、やり方がマズイだけだ」


「……んなわけねーだろ」


「いいから布団出てこい。出てこないと、ちょっと辛い目にあうかもよ?俺、一応魔法使いだし」


「……は?魔法?頭おかしいのかよ」


唇だけでオリガミに指示を出す。


「オリガミ」


『はい、お兄様。最低出力の前庭砲(ぜんていほう)を照射します。よろしいですか?』


「ああ、構わない。布団から追い出す」


『イヌガミタイプ、前庭砲を照射します。』


オリガミの声とともに、イヌガミタイプの頭部が僅かに動く。


「ぐっ……!?な、なんだこれ……!?うぁぁぁぁ!」


布団の中で悶え苦しむタダシ。


「タダシ、つらいか?」


「やめろぉ!やめてくれぇ!」


「じゃあ、布団から出て机につこうか」


「わかった!わかったから!やめてくれ!」


「止めて」


『はい。照射を停止します。』


タダシが布団から這い出て、ふらふらと机の前に座った。顔が青い。


「こ、これでいいかよ……」


「うん。じゃあ問題集開いて」


「……勉強って、何すりゃいいんだよ」


「簡単な問題でいい、一問ずつ解いていけ。わからないところは俺が教える」


俺が分からなかったら、オリガミが教えてくれる!


「……」


タダシが渋々、机に積まれた問題集を開く。ほこりを被っている。


唇だけでオリガミに話しかける。


「で、今回は側坐核砲をどう使うんだ?前から言ってた『薬』の側面なんだろ?」


『はい。今回は、最低出力の側坐核砲を使います。タダシさんが真剣に問題に取り組み、それを解き終えたタイミングで、ランダムに照射します。勉強中にまれに快感が得られるようにします。』


「ランダム……変動報酬か」


『おっしゃる通りです。いつ来るかわからない報酬が、一番依存性が高いのです。ソーシャルゲームのガチャと同じ原理ですね。勉強すること自体が快感と結びつくようになります。』


勉強のガチャ化。なかなかとんでもない発想だ。


『ただし、あくまで最低出力です。本人の意思を歪めるほどではありません。きっかけを作るだけです。コントロール可能なカフェインみたいなものですね。』


これが毒も薬になるってことか。


タダシの肩を軽く叩いて、声を掛ける。


「ほら、早く始めろ。一問ずつでいいからさ」


「……わかったよ」


タダシがペンを持って、問題集に向き合い始めた。


……ほほう。半分くらいは解けるじゃないか。全く勉強してないのにこれか。地頭は悪くないと見た。


やっぱり、勉強時間が少なかっただけなんじゃなかろうか。


そして数分後。


「おうふぅ!」


「タダシ君、どうした?」


「な、なんでもねぇよ!」


顔が赤い。身体がびくっと跳ねていた。


……一発目か。


「タダシ君、解き続けるんだ。本来、勉強ってのは楽しいものなんだぞ?」


「……おう」


その数分後。


「おおっ……」


またその数分後。


「ほおおおっ……」


俺は、何回か報酬刺激を打ち込まれたであろうタダシに声を掛ける。


「挙動不審だな。どうした?」


「な、なんか体がおかしいんだけど……勉強してると、たまに気持ちよくなるっていうか……」


「……そうか。うまく効果が出てるみたいだな。俺が魔法をかけた。勉強が大好きになる魔法だ」


「え……」


「どうだ?気に入ったか?」


「あ、ああ……悪くねえ……」


「じゃあ、頑張れ。ほら、手が止まってちゃ気持ちよくなれんぞ?」


「……っ!」


タダシが猛然とペンを走らせ始めた。


※※※


二時間後。


壊れた扉がそっと開く音がした。タダシの母が、恐る恐る顔を覗かせている。


タダシは机にかぶりつき、わき目もふらずに問題集を解き続けていた。


「た、タダシ……?」


「うるさい!今いいところなんだ!邪魔すんな!」


タダシの母が、ぽかんと口を開けて俺の方を見た。


「お母さん、あとちょっとだけタダシ君と二人にしてもらえますか?」


「は、はい……」


タダシの母が出ていった。


「さて、タダシ君。俺はそろそろ帰るから」


「え……」


ペンが止まった。


「魔法は残しておいてほしいか?」


「お、おう!頼む!お願いだ!」


さっきまで殴りかかってきたやつの目じゃない。すがるような目だ。……大丈夫なのかコレ?本当に『薬』か?


キャリーケースからマットブラックの首輪型デバイスを取り出して渡す。オリガミがコントロールする側坐核砲を撃つための端末だ。


「ほら、これを受け取って首につけとけ。魔法の効果が続くから」


タダシが恐る恐る受け取った。大事なものを受け取るように、両手で慎重に。


「別に外してもいいからな?勉強でいい気分になりたかったら、つければいい。あと、夜はちゃんと眠れよ?睡眠とらなかったら効果なくなるからな?」


「わ、わかったよ……俺……勉強やるわ……」


タダシの目は、もう問題集に戻っていた。


「お、おふぅ」

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