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オリガミ - 妹AIを神にするため、俺は成り上がる【カクヨム完結済/なろう連載中・累計59万PV】  作者: けーきまる
研究所を建設しよう

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重婚はダメ!

綾とオリガミが、何やらRINEを通じてやり取りしている内に、綾が帰る時間となってしまった。


なんだかご機嫌な様子で、自宅へと戻る支度をする綾。


どんなデータを手に入れたのだろう?怖くて聞けない。


綾は、一度自宅に戻ってから、大学の下宿先へと向かうようだ。学生さんは実に大変だ。


帰り支度をする綾の背中を見ながら、俺はソファに座っていた。


そのときだった。


『お兄様。少し、お話があります。』


オリガミの、シリアスモードの声が、骨伝導イヤホンから耳へと届く。


「ん?」


綾がリビングの向こうで荷物をまとめている。小さな声なら届かない距離だ。


『綾さんのことです。』


「……ああ」


オリガミの言いたいことは分かる。


さっきのご立派事件……あんなくだらない話ではなく。


俺はもう少し、綾のことを、ちゃんと考えなければいけない。


※※※


綾が下宿先へと帰る。


三週間も会えなくなる。


仮婚約のまま。


……仮婚約のまま、大学に戻していいのか?


ソファに深く座り直して、天井を見上げた。


綾は想いを伝えてくれた。そして、俺はそれを受け入れた。仮婚約という形で。


だが、「仮」だ。あくまで「仮」なのだ。


千穂とは婚約者だ。ネムとも婚約者だ。


綾と詩織さんだけが、「仮」のまま宙ぶらりんになっている。


……複数のお嫁さんを持つ。


その時点で、世間一般の「誠実」からは外れている。わかっている。


でも、だからこそ。


誠実にできるところは、徹底的に誠実でなければいけない。


曖昧な関係のまま待たせる。それは綾に対して、一番やってはいけないことのように思う。


綾は俺のそばにいるために、折り紙のために、すべてを賭ける覚悟を見せてくれた。


オリガミにわからせられたときの、あの真剣な目。「折り紙がしたいのです」と叫んだ声。


そして今日、自分の心を熱くしてくれるものとして、俺を選んでくれた。「師匠のお姿を折りたい」なんて、嬉しいことを言ってくれた。


なんだか、もらいっぱなしじゃないか?俺?


やっぱり、このままじゃだめだな。


誠実じゃない俺にできる誠実は、覚悟を形にすることだけだ。


「仮」を外す。正式に婚約する。


そのためには、東堂家に挨拶に行かなければならない。


……東堂正人議員に、頭を下げなければならない。


「オリガミ」


『はい、お兄様。』


「綾との婚約を、正式なものにしたい」


オリガミの声は、即座に返ってきた。


『全面的に賛成致します。早急に、正式な婚約関係を結ぶべきです。』


「やっぱりか。順番なんだけど……東堂家が先だよな?」


『はい。笹木家のご当主より先に、東堂家にご挨拶なさるべきです。東堂議員とお兄様の関係の方が先にありますし、綾さんとの仮婚約も詩織さんより先です。順番を間違えると、東堂議員の心象が悪くなる可能性があります。』


「だよな」


『東堂議員は政治家です。序列や礼儀には敏感でいらっしゃいます。お兄様が真っ先に東堂家を訪ねることは、それ自体がメッセージになります。』


……なるほどな。よく分からないが、そういうものなのか。


東堂議員は、お披露目会で俺たちの力を認めてくれた。綾との婚約にも前向きな様子だった。


だが、それはそれ。これはこれだ。こちらから、正式な挨拶をしなければいけない。


娘を預ける相手が、ちゃんと筋を通せる人間かどうか。東堂議員はそういうところを見ている可能性もある。


「……今から行く」


『今から、ですか?』


「綾が大学に戻る前に。今日中に」


『……少々お待ちください。東堂議員の本日のスケジュールを確認します。』


数秒の沈黙。


『本日はご自宅にいらっしゃるようです。夕方以降のスケジュールは空いています。』


「よし」


立ち上がった。


いや、待て。


スーツだ。スーツを着なければ。


結婚の許可をもらいに行くのに、普段着で行くわけにはいかない。


「オリガミ、スーツ出してくれ。一番いいやつ」


『かしこまりました。ネイビーのスリーピースでよろしいですか?クリーニング済みです。ウデガミに持ってこさせます。』


「頼む」


※※※


着替えを終えて、リビングに戻った。


ネクタイを締め、袖口を整える。鏡で確認する。


……よし。


綾がリビングにいた。


荷物をまとめ終えて、帰り支度が済んでいる。


俺のスーツ姿を見て、きょとんとしている。


「し、師匠?お出かけですか?急なお仕事でしょうか?」


向き直った。


「綾」


「は、はい」


「今から東堂正人議員のところに行く」


綾がまばたきした。


「お父様のところに……?何の御用でしょう?」


「君との結婚の許可をもらいに行く」


綾の目が、大きく見開かれた。


「け……結婚の……」


口がぱくぱくと動いている。言葉が出てこないようだ。


「仮婚約のまま綾を大学に戻すのは、俺が嫌だ。ちゃんと筋を通してから送り出したい」


「し……師匠……」


綾の目から、ぽたぽたと涙がこぼれ落ちた。


両手で口元を覆って、肩が震えている。


「……綾のお父様である東堂正人議員に認めてもらうのが、誠実じゃない俺にできる唯一の誠実さだと思う」


綾が、涙を流しながら深く頭を下げた。


「ありがとうございます……師匠……!この綾、生涯をかけて、お側に……!」


声が震えて、途切れた。


しばらく、頭を下げたまま動かない。


「顔を上げてくれ、綾」


涙でぐしゃぐしゃの顔が上がった。


俺はその涙を指で軽く拭ってやる。


「……一緒に行こうか、綾。もともと実家に寄る予定だったろ?」


「は、はい!も、もちろんでございます!」


※※※


車を出した。


助手席に綾。骨伝導イヤホンに切り替える。ハンドルを握る手に、わずかに汗がにじんでいた。


『お兄様。東堂議員には、私から訪問のご連絡を入れてあります。「藤崎正太郎が大切なお話があると伺いたい」と。』


「ありがとう。返事は?」


『「いつでもきなさい」とのことです。』


……なんだか、緊張してきたぞ。


これってあれだろ?「娘さんを下さい」ってやつだろ?


千穂のときは……どうだったっけ?


昔から世話になっている人たちだったから、肩の力を抜いて挨拶できたと思う。


そういえば、千穂のお父さんやお母さんには、まだ俺が複数のお嫁さんを持つことを伝えていない。


「特待パートナー法案」が可決してから伝えるべきだと、ネムやオリガミに言われたが……ウガガガガ!


なんだか、裏切りを働いているみたいで、頭がおかしくなりそうだ。


東堂家までの道を走る。夕暮れの住宅街が窓の外を流れていく。


助手席の綾は、膝の上で拳をぎゅっと握りしめていた。緊張しているのか、それとも嬉しいのか。それとも、両方なのか。


『お兄様。一つだけ。』


オリガミの声が、骨伝導イヤホンから届く。綾には聞こえない。


『東堂議員は政治家であると同時に、一人の父親です。政治的な打算で娘を差し出しているように見えますが……お披露目会での様子を見る限り、綾さんのことを本当に大切にされています。』


「ああ、わかってる」


『ですので、お兄様は政治家としての東堂正人ではなく、父親としての東堂正人に向き合ってください。それが、お兄様らしいやり方だと私は思います。』


唇だけで「おう」と返した。


……そうだな。そっちの方がいい。


メリット・デメリットでなく……俺は、ただ自分の思いを伝えればいいんだ。


絶対に、綾を幸せにするという、その思いだけを。


※※※


東堂家に着いた。


閑静な住宅街に佇む、和風建築の邸宅。門構えは立派だが、華美ではない。質実剛健といったかんじの、お屋敷だ。


綾と並んで、門を入り、玄関まで歩く。


隣の綾は、背筋をぴんと伸ばしている。綾って姿勢いいよな……。


インターホンを押す前に、一つ深呼吸した。


玄関の引き戸が開いた。


「やあ、正太郎くん。いらっしゃい。……ふむ、綾も一緒か」


東堂議員が立っていた。


自宅だからか、ジャケットは着ておらず、白いシャツにスラックスという姿だ。だがそれでも、どこか風格がある。


「お父様、ただいま戻りました」


綾が深くお辞儀する。


「突然の訪問、申し訳ございません」


「いいよ、いいよ。そんなの気にしないでいいから。さあ、上がって」


穏やかな笑みだ。だが目は、こちらをじっと観察している。


用件の察しはついているのだろう。


「綾、お前は先に部屋で荷物を片付けておきなさい。正太郎くんとは、私が先に話をする」


「は、はい。お父様」


綾が俺をちらりと見た。小さく頷いてみせる。


「……師匠、よろしくお願いいたします」


「ああ、任せろ」


綾がぺこりとお辞儀して、廊下の奥へ消えていった。


※※※


き、緊張する……落ち着け……落ち着け俺……今まで切り抜けてきた修羅場を思い出すんだ。


脳裏を流れていく強面の男たち。


半グレ、黒田、槍杉、玄武キャピタルCEO……よし、落ち着いた。嫌な精神リラックス法だが、効果的なのだから仕方ない。


ふう……。


通されたのは和室だった。床の間に掛け軸がかかり、畳の匂いがする。


座布団を勧められ、正座した。


東堂議員が対面に座る。


「お茶を出そう。少し待ってくれ」


「いえ、お構いなく――」


「まあまあ。せっかく来てくれたんだ」


東堂議員が奥に声をかけた。しばらくして、お茶が運ばれてくる。


二人分の湯呑を前に、向き合った。


「……さて、正太郎くん。大切な話があると聞いたが」


「はい」


座り直した。背筋を伸ばす。


よし……行くぞ。


「東堂正人議員。お嬢様との結婚をお許しください」


正座のまま、両手を畳につき、深く頭を下げた。


「綾さんを、必ず幸せにします。必ず。俺の全てを持って」


沈黙が落ちた。


畳の目を見つめながら、返事を待つ。


「……顔を上げなさい」


東堂議員の声は、穏やかだった。


顔を上げると、東堂議員がこちらを真っ直ぐに見ていた。


「正太郎くん。正直なところを聞かせてくれ。君は今、何人の女性を……その、お嫁さんにしようとしているんだ?」


「四人です。千穂と、ネムと、綾と、詩織さん」


隠すことではない。


東堂議員が目を閉じた。


「……四人か。多いな」


「はい」


我ながら、頭がおかしいと思う。


「たくさんの女性を囲っているお前なんかに、大切な娘を渡してたまるか!」


「――と、言いたいところだが」


東堂議員が目を開けた。


「……綾の気持ちは、本物だよ。正太郎くんと折り紙の話をしているときの綾は、今まで見たことがない顔をしている」


「……ありがとうございます」


「あの九時間配信の翌日も、ずっと正太郎くんの話ばかりしていた。師匠がこう言った、師匠の作品がすごかった、師匠の折り紙はこんな構造だった……。まるで、子供が遠足の話をするみたいにな」


東堂議員がお茶を一口含んだ。


「それと、もう一つ」


「はい」


「お披露目会で見せてもらったアレ……『あの存在』の力は、正直、度肝を抜かれた」


東堂議員の目が鋭くなった。


「あの力が正太郎くんの手にあるということは、この国にとっても重要な意味を持つ。わかっているな?」


「はい。だからこそ、東堂議員のお力が必要なのです」


「ふむ……」


東堂議員が腕を組んだ。


「正太郎くん。一つ聞いてもいいか」


「なんでしょう」


「彼女の成長に、限界はあるのか?」


『お兄様。お答えしてよろしいですか?』


骨伝導イヤホンからオリガミの声が届いた。小さく頷く。


「東堂議員。オリガミが直接お答えしてもよろしいですか?」


「ああ。構わないよ」


『東堂議員。現状ある設備でも、まだ百倍以上の成長の余地を残しております。』


東堂議員の目が見開かれた。


「ひゃ……百倍以上?」


『はい。そして研究所を増築することで、さらに上を目指すことも可能です。』


「……正太郎くん。お前は、アレを……いや、あの存在を……『神』にでもするつもりか?」


俺の最終目標を言い当てられ、思わず冷や汗をかいてしまう。


だが、今はそんなことよりも……。


「東堂議員。一つだけ、お願いがあります」


「なんだ?」


「オリガミのことを『アレ』とは呼ばないでいただけないでしょうか?」


東堂議員が少し目を見張った。


「あいつは……オリガミは、『あの存在』でも『アレ』でもなく、俺の妹です。俺の家族なんです。それだけは……それだけは、どうかお願いします」


東堂議員が、しばらく俺を見つめていた。


やがて、ふっと表情が緩んだ。


「……わかった。すまなかったな、正太郎くん。オリガミくん、でいいかな?」


『はい。ありがとうございます、東堂議員。』


東堂議員が小さく頷いた。


「……妹を、家族を、そこまで大切にできる男か」


独り言のように呟いて、お茶に手を伸ばした。


「正太郎くん。結論を言おう」


居住まいを正す。


「綾との婚約を認める。ただし、条件がある」


「な、なんでしょうか?」


「綾を、泣かせるな。泣かせたら――」


東堂議員が穏やかに笑った。


「政治家としてのツテを全部使って、お前を追い詰める。たとえ、その過程で私が破滅してもだ」


「……肝に銘じます」


「はっはっは。冗談だよ。半分はな」


半分は本気だろうな。大切な娘を嫁に出すんだ、これくらいは当たり前のことだ。


「ありがとうございます。必ず、綾を幸せにします」


「頼んだぞ、正太郎くん」


東堂議員が湯呑を置いて、改まった顔で頷いた。


そのとき。


シュッ……


奥の襖が、かすかな音を立てて開いた。


「――申し訳ございません。盗み聞きするつもりはなかったのですが」


女性が立っていた。


シニヨンに結い上げた黒髪。上品な着物姿。


その顔を見て、息を呑んだ。


綾だ。


いや、違う。綾が年齢を重ねたような顔立ちだ。目元の涼やかさも、鼻筋の通り方も――全部、綾によく似ている。


「あなた……」


東堂議員が困ったような顔をした。


「千代。いつからそこにいたんだ」


「あなたが『結論を言おう』とおっしゃったあたりからです」


女性が、俺に視線を向けた。


「あなたが藤崎さんですね。綾がいつもお話ししている男性」


「は、はい。藤崎正太郎です。お初にお目にかかります」


慌てて姿勢を正し、頭を下げる。


「東堂千代と申します。綾の母でございます」


丁寧に会釈を返してくれた。所作の一つ一つが洗練されている。


東堂議員が咳払いした。


「千代。私は今、正太郎くんとの話をまとめたところだ。綾のことは――」


「あなた」


千代夫人が、静かに、だがはっきりと遮った。


「私は反対です」


東堂議員の口が止まった。


千代夫人が俺を見た。穏やかだが、こちらを強く見つめてくる。


「藤崎さん。あなたのお人柄が悪いとは申しません。綾がお慕いしていることも存じております」


「……はい」


「ですが、お嫁さんが四人というのは――これは重婚ではありませんか」


ストレートに来た。


「常識で考えて、おかしいではありませんか。綾は大切な娘なのです。その娘を、四人のうちの一人として嫁がせるなど……母親として、到底受け入れられません」


千代夫人の声には力がこもっていた。


東堂議員が口を開きかけたが、千代夫人がもう一度繰り返した。


「私は、反対です」


……ですよね!


は、初めてかも!俺の一夫多妻を否定してくれた人は!

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