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オリガミ - 妹AIを神にするため、俺は成り上がる【カクヨム完結済/なろう連載中・累計59万PV】  作者: けーきまる
研究所を建設しよう

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丸戸丸男

「さあさあ、さっさとこんな大学出て、丸戸とやらの研究室のある大学に行くぞ!」


紳士教授の研究室を飛び出したネムが、廊下を全力で駆けていく。


「待て待て、走るな。廊下は走っちゃいけない!ルールだ!」


「走らなきゃこっちが捕まるんだ!ワタシのメンタルが崩壊する前に、ここを離脱する!」


「ネム!落ち着けって。走ったほうが目立つぞ!」


「うっ!た、確かにそれもそうだな……」


ネムを言いくるめつつ、歩いて階段を下り、研究棟の出口を目指す。


「星ヶ谷先生ー!」


背後から声が聞こえる。


どれだけ知れ渡ってるんだよ……。


「すまんな!星ヶ谷先生は急いでるんだ!」


そう、声が聞こえてきた方に言葉を投げかけつつ、俺とネムはエントランスを飛び出す。


建物を出てからは、猛ダッシュだ。


キャンパスの広場を横切る。すれ違う学生たちが「あ、さすまどの……」なんて囁くのが耳に入る。


……マジで皆知ってるのな。


俺たちは、走る脚を止めなかった。


そして……正門をくぐり抜けた瞬間、ネムは輝くような笑顔で、両手を上げたのだった。


「やった!脱出成功だ!」


ネムは、息が上がって、頬も赤かったが、達成感に満ちた表情だ。


「お疲れだな。なんかゾンビ映画の気分だったぞ」


「それな!二度と来ない!絶対に!今後は全部リモートだ!」


……リモートでも紳士教授との罵り合いはできるしな。


※※※


駐車場に止めてあった車に乗り込む。


丸戸さんの研究室がある大学までは車で数十分。早瀬さんは千穂の護衛についているので、今日はいない。


イヌガミタイプがいるので、今の俺たちに護衛は基本不要なのだ。


助手席でネムがシートベルトを締める。


「で、丸戸丸男か。あのロートルの保証なら、まあ実力はあるんだろうな」


「でも、フィギュアで研究室を追い出された男だぞ?大丈夫なのか?」


正直、意味が分からない。


「腕と生活態度は別だろ」


「……それはそうか」


ネムの生活態度だって褒められたものじゃなかったもんな。


ネムが腕を組んで、窓の外を見ている。


エンジンをかけ、ナビに目的地を入力して、車を出す。


さあ、丸戸研究室へゴーだ!


※※※


数十分後。


目的地の大学に到着した。東応大ほど大きくはないが、理系の研究棟が立ち並ぶキャンパスだ。


紳士教授が事前に連絡してくれていたらしく、受付はスムーズだった。


研究棟の三階。廊下の突き当たりに「丸戸研究室」のプレートが貼られたドアがある。


ノックしようとすると、ネムが俺の後ろに回り込む。


「……なんで隠れてるんだ?」


「隠れてない。今回のワタシは、正太郎の後方支援だ!気にするな!」


後方支援って何だよ。どんな後方支援をしてくれるんだ。


まあいいや。


コンコンコンコン


扉をノックする。


「はーい!開いてるお!」


中から妙にテンションの高い声が返ってきた。


ドアを開けて目に入ってきたものは……ただのオタ部屋だった。


机の上、棚の上、窓際、モニターの横、あらゆるところにフィギュアが置いてある。美少女フィギュア。メカ系フィギュア。等身大のタペストリー。その隙間に、かろうじて実験機材やモニターが配置されている。


紳士教授の言葉が脳裏によみがえった。フィギュアを置きすぎて東応大を追い出されたと。


こりゃ、追い出されてもしかたないわ。


「いらっしゃいだお!」


デスクの前に立ち上がったのは、太った男だった。ボサボサの髪に、丸いメガネ。Tシャツにカーゴパンツ。首からは何かのキャラクターのストラップが下がっている。古き良き、という表現がぴったりくるタイプのオタクだ。


その横に、もう一人。細身で背が高いメガネをかけた青年が控えめに立っている。顔立ちは似ているが、こちらはシュッとしていて、なんだか清潔感がある。


「俺っち、丸戸丸男だお!ブラックホールと二次元美少女が大好きなナイスガイだお!」


太った方が満面の笑みで名乗った。


口調もヤバい。こういう喋り方するキャラ、ネットで見たことあるぞ……?


丸戸さんは、隣の青年の方に手を向ける。


「あと、こいつは弟だお!実験の手伝いをしてもらってるお!」


弟が深々と頭を下げた。


「兄さんがいろいろご迷惑をおかけすると思いますが、どうか見放さないでやって下さい」


この人、すごい苦労してそう。


この研究室の惨状を見れば分かる。


「はじめまして、藤崎正太郎と申します。ご紹介いただきまして、伺わせていただきました」


「おお、教授の紹介の人かお!聞いてるお!あの人はこの大学を紹介してくれた恩人だお!」


丸戸さんが何度も頷く。実に、人なつっこい笑顔だ。


言葉遣いはヤバイが。


※※※


俺の後ろから、ネムがおそるおそる顔を出す。


丸戸さんの目が、ネムを捉えた瞬間――見開かれた。


「ね、ネムたん!」


ネムの体がビクッと跳ねる。


丸戸さんの巨体がドタバタとこちらに近づこうとしてくる。


ネムは俺の背中にピタリと張り付いて、大声を出した。


「や、やめろぉ!ちかづくなぁ!」


弟さんは、必死にベルトで引っ張って、丸戸さんの巨体が前に進むのを押し留めている。


「さすまど、超可愛かったお!あの大詠唱、マジで最高だったお!俺っち何回も見たお!」


「うるさい!うるさい!あとネムたん言うな!」


ネムが耳を塞ぐ。


あー。ネムをここに連れてきたのは失敗だったかも知れんなあ。


せっかく東応大から逃げてきたのに、逃げた先でも『さすまど』か。恐るべき黒歴史だ。


帰ったら優しくしてやろう。


弟さんが即座に頭を下げた。


「に、兄さんがすみません!」


これじゃ、ネムは役に立ちそうもない、俺が話を進めるしかないだろう。


「あ、これ、俺の名刺です。どうぞ、お受け取りください」


話の流れを無視して、名刺を取り出して丸戸さんに差し出した。


さすがにこれ以上の『さすまど』トークは、駄目だ。ネムがかわいそうだ。


「ありがとうだお!あと……ネムたん、ごめんだお。怖がらせるつもりは無かったんだお」


そう言うと、丸戸さんは、申し訳なさそうに名刺を受け取る。


ネムは何も答えない。俺の背中にピッタリと張り付いてる。コバンザメかな?


「紳士教授から聞いてるお!俺っちの研究について聞きたいとか……」


丸戸さんはそう言いながら、名刺に目を落とした。


そしてポカンと口を開ける。


「え、ドールハウス株式会社の……」


読んでいる。


「代表取締役……」


沈黙が部屋を包む。


「……お?」


止まった。


丸戸さんの顔が、ゆっくりと上がった。目が点になっている。


そして、名刺と俺の顔を、三往復した。


「お、お、お、マジでござるか?ドールハウス!?」


声が裏返った。


「キターーー!アユ美たんの事務所じゃん!」


丸戸さんが名刺を両手で持ったまま、その場で小刻みに跳ねている。床が揺れる。フィギュアが何体かカタカタと震えた。


「ド、ド、ドールハウスの社長さん!?正太郎氏って、あの、ドールハウスの正太郎氏!?マジかお!?マジなのかお!?」


「ま、マジですけど……」


「うおおおおおお!」


丸戸さんが両手を天に突き上げた。名刺を握りしめたまま。


「ちょ、名刺!名刺折れるから!」


弟さんが、あわてて丸戸さんの手から名刺を救出している。


「正太郎氏!アユ美たんのアクリルスタンドっていつ出るお!?あと、アユ美たんの好きな食べ物って何だお!?配信で言ってたチョコレートはミルクとビターどっちだお!?あと去年のバレンタイン配信で着てたピンクの衣装をフィギュア化する予定はあるのかお!?」


あ、アユ美ファンだ……あいつ人気だな……。


「えーと、グッズは企画チームに聞かないとわからないですけど、アユ美は人気なので何かしら動いてるとは思いますよ。フィギュアは……検討しておきます」


「マジかお!?検討!?検討って、つまり可能性あるってことかお!?」


「可能性はゼロじゃないです」


「ゼロじゃないいいい!」


丸戸さんが机をバンバン叩いている。フィギュアが一体、棚から落ちた。弟がさっと受け止める。


「アユ美たんはねぇ、声がいいんだお!あの包容力!あの気品!疲れた心に沁みるんだお!俺っち、アユ美たんの配信聞きながら実験データ整理するのが至福の時間なんだお!」


ネムが蚊帳の外で腕を組んでいる。目が死んでいた。


「あと、アユ美たんの瞳の色がねぇ、光の加減で微妙に変わるところがすごいんだお!あれ、どういう技術なんだお!?」


「き、企業秘密です」


そう。オリガミの操るアバター、ほぼ全ての瞳から、ときおり虹色の光が漏れ出してしまうようになったらしい。ドールズたちも例外ではないということだ。


オリガミがボヤいていたのを覚えている。


「くぅぅぅ!そこは教えてくれないのかお!」


丸戸さんが悔しそうに拳を握る。


※※※


「ところで丸戸さん」


「丸戸さんなんて、水臭いお!丸戸って呼び捨ててくれお!」


「えっと……じゃあ丸戸氏と呼ばせていただいても?」


「いいお!いいお!むしろそうしてくれお!」


完全にペースを握られてしまっている。


いかん。いかんぞ。このままじゃ、全然話が進まない。


話の流れを変えるぞ!


「そ、そういえば、丸戸氏ってどうしてブラックホールの研究始めたんですか?なんか動機とかあったりするんですか?」


俺の質問に、丸戸氏の目が輝く。


「もちろんだお!俺っち、異世界転生したかったんだお!でもトラックに轢かれるのは怖いから、物理的に異世界への扉を開こうと思ったんだお!」


話の流れが変えられない!この人も、本当にブレない。


でも……何かを始める切っ掛けなんてそんなものかもしれない。


丸戸氏は、話を続ける。


「ブラックホールって、異世界への入り口かもしれないじゃん!ワームホールとか、特異点の向こう側とか!だから俺っち、ブラックホールの研究を始めたんだお!」


「な、なるほど……」


「結局、異世界には行けてないでござるが……。でゅふふふ」


丸戸氏が照れくさそうに笑った。


異世界を救うために、丸戸氏を訪問したなんて言ったら、どうなるだろうか。


……絶対面倒になる。とりあえずは内緒にしておこう!今は、向こうとの通信もできないし。


「でも、研究自体はめちゃくちゃ面白いんだお!ホーキング輻射とか、ブラックホールの情報パラドックスとか、宇宙の根本に関わる問題だお!異世界の入り口は見つからなかったけど、まあ、それはそれだお!」


そういうと、丸戸氏は大声で笑ったのだった。


「でゅふふふふふははぁ!!!げほぉ!げほっ!げほっ!」


す、すげえ……何だか分からんが……とにかくすごい男だ。


「ううう……兄さん……勘弁してよ……」


弟さん……マジでご苦労さまです。

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