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オリガミ - 妹AIを神にするため、俺は成り上がる【カクヨム完結済/なろう連載中・累計59万PV】  作者: けーきまる
研究所を建設しよう

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ポイント・オブ・ノーリターン2

どうしたもんかな、これ。


詩織さんが綾の手を掴んだまま離さない。


綾はソファの上でのけぞり、詩織さんは床にしゃがんだ姿勢のまま、綾の指先をうっとりと見つめ続けている。


マズイ。詩織さんの奇行に、綾の顔が恐怖に引きつっている。


「詩織さん!綾がびっくりしてますよ!落ち着いて!普通の人は、そういうのに慣れてないんです!」


「ダメですよぉ!正太郎様、もうちょっとだけ!先っちょだけですから!」


なんだ?ネムと同じことを言っている。「先っちょだけ」っていうの流行ってるのか?


詩織さんは綾の右手を持ち上げ、手の甲をオリガミの発光にかざした。


ええ……。


顕現したオリガミを照明扱いかよ……詩織さん……パネェ……。


「ああ……見てください正太郎様!この伸筋腱(しんきんけん)!綾ちゃんの手に生で触れられるなんて……!正太郎様のとは全然違いますけど、これはこれで芸術ですよ!細くて、でもしっかり筋が通ってて……折り紙で鍛えられた手ですよね!?ね!?」


「詩織さん、落ち着いて!落ち着いてください!」


綾の顔が、青くなっていく。


「指の腹の硬さが違うんです!正太郎様の手は全体的に均一な硬さなんですけど、綾ちゃんの手は指先だけが特別硬い!伝承折りの証拠です!紙の端を合わせるときの精度が指先に出てるんですよ!」


くそっ。変態が、止まらない。


綾は完全にフリーズしている。


目を白黒させて、助けを求めるように、ゆっくりと首を回す。


「し、師匠……た、た、た、助けてたもれ……」


絞り出すような声だった。


いかん。変態がヨダレを垂らしはじめた。そろそろ、綾の手に頬ずりを始めそうだ。


さすがに止めなければ。綾のトラウマになってしまう。


「詩織さん、ストップです!ステイです!これ以上は駄目ですよ!」


詩織さんの両脇に手を入れ、綾から引き剥がす。


「あうっ」


へ、変な声だすな。


拘束から逃れた綾は、バッと立ち上がると、俺の背中に回り込んですがりついてきた。


「し、師匠?この方は?」


「笹木詩織さんだ。弁護士やってる。面識あるって言ってなかったっけ?」


「し、詩織さん……?あの……?」


小さなころの美しい思い出が、ガラガラと崩れていく瞬間を目撃してしまったかもしれない。


詩織さんは、ニコニコ顔で綾に声をかける。


「お久しぶりですね!綾ちゃんって呼んでいいですか?昔みたいに!」


「……あの、わたくしにお花をくださった……詩織さんですか?」


「そうです!覚えててくれたんですね!」


詩織さんがパッと顔を輝かせた。


「あの頃の綾ちゃん、すっごく可愛かったんですよ?壁の隅っこでつまらなそうにしてて……私が声かけたら、顔を真っ赤にしてうつむいちゃって!」


「……は、恥ずかしゅうございます」


綾の耳が赤くなった。


「お花をいただいて……折り紙の鶴を返したのは、覚えておいでですか?」


「もちろんです!あの鶴、今でも持ってますよ?」


「ええっ?そうなのですか?」


「だって、すっごく綺麗な鶴でしたからね!ちっちゃい手で折ったとは思えないくらい精密で。あの頃から、綾ちゃんの手には才能が宿ってたんだなあって!」


手フェチに狙われる才能だろうか。


「あのときは……優しいお姉さまだと思っておりました」


綾がぽつりと言う。


「あのときは?」


「い、いえ!今も!今もでござる、もちろんでござる!」


慌てて取り繕った。


目が泳いでいる。実に嘘が下手である。


「ふふっ、いいんですよぉ。私、自分が変態なのは分かってますから!」


詩織さんがカラッと笑う。


変態である自覚があったとは。


「でもね、綾ちゃん。私が好きなものを好きなことは、誰にも止められないのです!折り紙を折る人の手って、本当に美しいんですよ?」


そう言って、自然に綾の方へ近づこうとする。


そうはいくかと思い、体の向きを変えると――詩織さんは、俺の手をサッと両手で包み込んできた。


ふ、フェイントだと!?


詩織さんの両手のひらの温もりが伝わってくる。


……やわらかい。詩織さんの手、すべすべしてる。


抵抗する気力が失われていく。


「は、はあ……やっぱり正太郎様の手、素敵ぃ……ここは私のパラダイスですぅ」


パラダイス?さっきネムも似たようなこと言ってたな。


「お姉ちゃんパラダイス」でもあり「手フェチパラダイス」でもあるわけか。


待て!ここは俺の家だぞ!


※※※


さて。詩織さんには聞かないといけないことがある。


部屋に入ってきたとき、詩織さんは、顕現しているオリガミを見ているはずだ。


虹色に激しく光る少女が、空中に浮かんでいるのだ。普通は驚く。ネムだって初見は固まったし、綾は「殿中ですぞ!」とパニックになってた。


だが、詩織さんは何のリアクションもしなかった。綾の手に一直線だった。


そんなことあり得るのか?


……改めて、オリガミの方を見る。


オリガミは空中に浮かんだまま、表情のない顔で詩織さんを見ていた。


『……詩織さん。』


オリガミが声をかけた。


俺の手に頬ずりしながら「でへへへ……」とヨダレを垂らしていた詩織さんが振り返る。


虹色の光に照らされた詩織さんの顔。目を細めているが、驚きの色はない。


「あ、いつも正太郎様といっしょにおられる方だ」


……え?


「し、知ってるんですか?」


「知ってるというか……なんとなく?正太郎様のそばに、いつも誰かいるなあって。それが今、見えてるだけですよ?」


なんとなく?マジか?これが巫女の力ってやつなのか?


「眩しいですけどね!正太郎様の方がもっと光ってますから、大丈夫です!」


どういうこと?この直視できない輝きのオリガミより、俺の方が光ってるだと?


詩織さん……意味不明すぎるだろ。


『彼女の目には、いったい何が見えているんでしょうね?』


オリガミも、好奇心が隠せないようだった。


ま、まあいい。


詩織さんのことを深く考えても無駄だ。


とりあえず、オリガミを紹介しよう。


「詩織さん、紹介しますね。俺の妹のオリガミです」


そう言って俺は、手のひらを上にしてオリガミに向ける。


「……妹?妹さんだったのですか!?も……もしや幽霊さん?過去に事故か何かで?」


『いえ、私は、故人である藤崎宗一郎お父様と、お兄様によってつくられた、極めて特殊なAIです。お見知りおきを。』


「こちらこそ、よろしくお願いします!でも、安心しました!幽霊さんじゃなかったんですね!」


『はい。幽霊ではありませんね。幽霊が苦手なんですか?』


「幽霊だったら怖いですよ!正太郎様から祓わなければ……!でも、幽霊とかいるんですかね?見たことないですけど」


なんというマイペース。


『……私は祓わないでくださいね?』


「当たり前です!だって、正太郎様の妹さんなんですよね?正太郎様が大切にされてる方なら、どんな方でも受け入れますよ?それより正太郎様の手を……」


『ありがとうございます。ですが、手の話はまた後にしていただけますか。』


「あっ、すみません!幽霊といえば……ずっと思ってたんですけど、下の方に何かいる気がするのですが……こっちが幽霊ですかね?」


コアフロアのオリガミ本体まで、探知されてる。


思わず、背中に悪寒が走る。


『いえ、そちらも幽霊ではありません。ご安心を。』


「よ、良かったぁ!幽霊とか怖いですもんね!幽霊だったらどうしようって思ってたんですよ!」


『……そうですね。』


オリガミが小さく頷いた。


そして、骨伝導イヤホンにだけ聞こえる声で。


『お兄様。詩織さんは絶対に引き入れなければいけません。私の存在に「なんとなく」気付き、本体の場所も「なんとなく」掴まれています。「なんとなく」とか意味が分かりませんが、絶対に敵に回したくありません。彼女は確実に、お兄様のモノにしてください。お兄様の女たらしスキルでズブズブにして、身も心もお兄様のモノにしちゃってください。』


だから、女たらしではないと何度も……。


『それでは、私はそろそろ顕現を解除します。お兄様たちの目に悪影響がありそうですので。』


ふっ、と虹色の光が収束していく。


オリガミのアバターが透けていき、銀髪も、虹色の瞳も、黒袴も、光の粒子に溶けて消えた。


虹色だったリビングが、普通のリビングに戻った。


LED照明のあたたかな光だけが、部屋を照らしている。


オリガミめ……言いたい放題言って消えやがった。


普通に声でやり取りできるからいいんだけど。


「あっ、消えちゃった!もっと、正太郎様の妹さんとお話したかったのに!」


詩織さんが少し残念そうに言った。


「妹さん、綺麗な方でしたね!さすが正太郎様の妹さんです!」


……詩織さん……マジであなた、なんなんですか……。


※※※


三人でソファに座った。


俺が真ん中。右に綾、左に詩織さん。別にこの配置にしたかったわけではなく、二人が勝手にそうなった。


いわゆる両手に花だ。


綾はまだ少し顔が赤い。仮婚約者になったり、手フェチに狙われたりして、処理が追いついていないようだ。


詩織さんは対照的に、ケロッとしている。


「ねえ綾ちゃん、知ってます?私、正太郎様の手のリアルな模型を作成しているんですよ?」


「……はい?」


綾が聞き返した。当然の反応だ。


「『正太郎様ハンド』っていうんです。Ver.1はシリコン製で、Ver.2は骨格パーツ入りで関節の可動域まで再現してあるんですよ!」


「て、手を……再現……?」


綾が俺を見た。


目が「師匠、これは何の話ですか」と言っている。


「……事実だ。詩織さんは、研究所で毎日それを作ってるんだ」


あの呪物の制作を。


「毎日……?」


「そう、毎日!千穂ちゃんと一緒に、研究所の開発フロアで作ってるんだ!」


詩織さんが胸を張った。


「千穂ちゃんというのは、朝比奈千穂様のことでしょうか?正太郎様の大奥の序列一位の……」


序列とか、ないんだけどな。


「そうそう、千穂ちゃん!一緒に『正太郎様ハンド』を作ってるんです。千穂ちゃんも正太郎様の手が大好きなんですよ!」


もしかして……詩織さんの存在って、千穂にとってよくないんじゃなかろうか。千穂を変な道に引きずり込んだりしないだろうか?


い、いや。そんな状況になる前に、オリガミが教えてくれるはず。


……教えてくれるよな?


「ですが、Ver.3の設計がちょっと行き詰まっちゃいまして……」


詩織さんがため息をついた。


「Ver.3にはロボティクス技術とAIを駆使して、自律動作させてみようと思って、ネムさんに協力してもらってたんですけど……」


「ネム、忙しそうですか?」


「そうなんですよ!ネムさん、今日は研究エリアに張り付いてて、すっごい忙しそうなんです!まあ、ネムさんは、ネムさんのやりたいことがあるでしょうし、仕方ないんですけどね……」


……ネムは今、それどころじゃないのだ。


「その忙しさだけど、結構続くかもしれません。ちょっとネムに大変な仕事が舞い込んできちゃいまして」


「そうですか……残念です……」


心底残念そうに肩を落とす詩織さん。


だがすぐに、勢いよく顔を上げる。


「それでですね!」


詩織さんの目がキラリと光った。


なんだか、嫌な予感がする。


「綾ちゃんの手の模型、作らせてください!」


はあ……。


「わ、わたくしの……手を?」


綾が自分の手を見下ろした。


「そうです!さっき触って確信しました!綾ちゃんの手は正太郎様とは完全に別ベクトルの芸術なんです!正太郎様の手は均一な力加減と柔軟性が魅力で、綾ちゃんの手は指先の精密さと骨格の繊細さが魅力で!両方揃えたら最高のコレクションに……!」


「こ、コレクションて……お、お断り申す!」


綾がビシッと片手を伸ばす。


「わたくしの手は、折り紙を折るためのものでございます!複製されるのは……その……いささか……!」


「ええー!いいじゃないですかぁ!フルスキャンさせてくださいよぉ!」


詩織さんが綾の手に再び手を伸ばしてきた。


「ひ、ひいぃ!し、師匠!お助けを!」


「詩織さん、無理矢理はいけませんよ。こういうのは、もうすこし段階を踏んでですね……」


「むう……!正太郎様は、綾ちゃんばかりに優しくて、綾ちゃんが羨ましいです!」


詩織さんが唇を尖らせた。


次の瞬間には、切り替えて綾に笑いかける。


「じゃあ、今度、研究所の開発フロアに遊びに来てくださいね?綾ちゃんにも『正太郎様ハンド』見せてあげますから!」


「け、研究所に……?」


「綾は大学が夏休みに入ったら、ここで折り紙を折ることになったんです。研究所にも、たまに顔を出すことになると思いますよ?」


そう説明すると、詩織さんの目がさらに輝いた。


「え!毎日いるんですか!やったぁ!綾ちゃんに毎日会えるぅ!」


「ま、毎日参れるのは、夏休みの間だけでござるよ!わたくし、西の方の大学に通っているため!」


綾の顔は戦々恐々なのであった。


※※※


その後も、詩織さんはニコニコしながら、俺や綾にからんできていた。


何度断られてもめげず、決してへこたれない。


そんな詩織さんの屈託のない笑顔を見続けて、綾もふっと力が抜けたようだった。


「……あの頃と同じですね。詩織さんは、昔も今も、距離が近いです」


「えへへ、そうかもしれませんね!だって綾ちゃんの手、本当に素敵なんですよ?」


「あの頃とは、動機は変わっておいでのようですが……」


綾は小さくため息をつく。


それからふと、何か思い出したように顔を上げる。


「そういえば……詩織さんは……師匠とは、どのようなご関係なのですか?」


「正太郎様は私の全てです!」


即答だった。


「……全てでございますか?」


「いつかお嫁さんにしていただくんです!今も、毎日プロポーズしてるんですけど、ぜんぶ断られちゃうんです!でも……私は諦めません!いつか!きっと!必ず!正太郎様のお嫁さんになるんです!」


詩織さんは、今日もイキイキとしていたのだった。


※※※


眩しい……眩しすぎる。


こんな笑顔を毎日向けられて、何も感じないわけがない。


もう、グダグダするのは止めだ。


受け入れると決心した以上、詩織さんについても、これ以上引き伸ばすのはダメだ。


綾には悪いが、今すぐにでも、彼女も受け入れるべきだろう。


覚悟を決める。


「詩織さん、そのプロポーズの件なんですけど……」


「はい?なんでしょう!?」


「俺、詩織さんのプロポーズを受けます。綾と同じ、仮婚約者ということで、よろしいですか?」


俺の言葉に、一瞬、詩織さんがポカンとする。


「こ、こんやくしゃ……?」


そして、お腹の底から大声を出した。


「……え……え?えええぇ!なんでぇ!?なんでぇ!?や、や、や、やったああああぁ!」


ぴょんぴょんと跳ねながら、部屋の中をぐるぐると回り、大喜びをする詩織さん。


彼女の姿は、本当に輝いて見えた。


※※※


その姿を見ながら、考える。


東堂家、笹木家、そして得体の知れない詩織さんを味方にするには、これが一番のはず。


俺にはこれしか選択肢はなかった。これで間違ってないはず。


これで、お嫁さんは四人だ。


……本当にこれでいいのかはわからない。


だが、もう決めた。


もう戻れない。


そうとなれば、やらなければいけないことは明白である。


――彼女たち全員を幸せにするということだ。


これは絶対だ。


たとえどんな手段を使ってでも、皆を幸せにする。


小さな声でオリガミに語りかける。


「オリガミ。俺は彼女たち全員を幸せにしなければならない。協力してくれないか?」


『もちろんです、お兄様。東堂綾、笹木詩織の両名を、千穂お姉様とネムさんに次ぐ、幸福測定対象とさせていただきます。』


俺は今日、戻れないラインを、また一歩踏み越えたのだった。

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