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オリガミ - 妹AIを神にするため、俺は成り上がる【カクヨム完結済/なろう連載中・累計59万PV】  作者: けーきまる
研究所を建設しよう

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わからせの家

「まったく……ネム、何やってんだよ」


声をかけると、ネムがビクッと振り返った。


ネムはいつもの格好だ。ダボダボのパーカーに黒いショートパンツに黒いタイツ。髪はボサボサで、目の下にはうっすらクマがある。境界ソケットの調査で根を詰めていたのだろう。


「おっ、正太郎!おかえり!」


ネムが満面の笑みを浮かべる。その両手は、綾の腰にしがみついたままだ。


「おかえりじゃない。その子を離してやれ」


「え?あ、ああ……すまん!ちょっと興奮してしまった!」


ネムがパッと手を離す。


解放された綾は、壁に背中をつけたまま、肩で息をしていた。


改めて、綾の姿を見る。


黒くて長い髪。落ち着いた色合いのワンピースに、きちんとしたカーディガン。東堂邸で初めて会ったときとも配信のときとも違う、カジュアルで品のいい服装だ。身長は、ネムより少し高い程度だが、背筋がピンと伸びていて、息を切らしていても姿勢が崩れない。


アヤトリと瓜二つの顔立ちなのに、やたら愛嬌のあるアヤトリとは纏う空気が違う。なにせ、綾は武士なのだ。


「師匠!」


綾が俺を見つけるなり、パッと表情が明るくなった。


「お帰りなさいませ!お待ちしておりました!」


深々とお辞儀をする。律儀だ。


「綾、待たせて悪かったな。って、自宅に来てたんだな。俺はてっきり、ホテルのミーティングルームに来るものだと思ってたぞ?」


「す、すみませぬ……。お父様がどうしても場所を教えてくれなくて、師匠の研究所が会場なのではと思い、こちらへ伺ってしまいました……」


なるほど。そういうことか、行動力の空回りってやつだな。仕方ないか。


さて……。俺はネムに体を向ける。


「……それで、ネム。お前、この子に何してたんだ?」


「いや、あのな?玄関開けたら、アヤトリにそっくりな子が立っててさ!びっくりするだろ!?ちょっと、正太郎から話は聞いてたから、この子が東堂綾だってことは知ってたんだよ。でも、ここまで似てたら、興味出ても仕方ないじゃないか!だから、お茶でもどうかなって誘っただけだ!」


「壁ドンして腕掴んで腰にしがみついて、『先っちょだけ』って言ってたヤツが、お茶に誘っただけとは思えないんだが」


「先っちょだけお茶だぞ!?」


何言ってんだコイツ。


「綾さん、すまん!」


ネムが綾に向き直り、ぺこりと頭を下げた。


「驚かせてしまったな!悪気はなかったんだ!」


綾はまだ少し警戒した目をしていたが、ネムのぺこりを見て、ふっと力が抜けたようだった。


「い、いえ……わたくしこそ、すみません。突然お伺いしてしまいまして」


「いやいや、悪いのは完全にワタシだ。……あー、でも正太郎。この子、本当にアヤトリにそっくりだな」


俺は綾に聞こえないように、ネムに顔を寄せて話す。


「ああ。綾はアヤトリのアバターのモデルだからな」


「……なるほどな」


ネムの目が少し潤んだ。だが、すぐにいつもの調子に戻る。


「綾さん、改めて。ワタシは星ヶ谷ネム。君にそっくりな子がワタシの妹分でな。さっきは、取り乱してしまった。すまないな」


「わたくしによく似てらっしゃるのですか……?」


「ああ。見てくれ、これ」


ネムがスマホを取り出し、画面をタップして綾に見せた。


スマホの画面に映し出されたのは、ネムとアヤトリが並んで写っている写真だ。アヤトリのピンクの髪とお団子頭が、画面の中で鮮やかに映えている。


二人仲良く隣り合い、ネムはピースをして、アヤトリはニコニコしながら両手を上げている。……仲の良さが分かる、微笑ましい写真だ。


アヤトリがスクリーン越しだと分からないような画角で撮られており、まるでアヤトリとネムが本当に、一緒にその場にいるようだ。


「わ、わたくしですね……?でも、ピンクの髪?」


綾が目を丸くしている。


「そう。見た目はほぼ綾さんなんだが、髪がピンクでな。アヤトリっていうんだ。ワタシのことを『ネムお姉ちゃん』って呼んでくれてさ……最高に可愛いヤツなんだ。今はちょっと遠くに行っちゃって……話せないんだけどな?」


ネムが遠い目をした。


「そういえば……師匠も、わたくしのことを最初『アヤトリ』とおっしゃってましたね」


「ああ、アヤトリに会った方が先だったからな。あまりにもそっくりで驚いたんだ」


綾は小さく頷いて、それからネムに向き直った。


背筋を正し、両手を膝の前で揃える。


「改めまして。わたくし、東堂綾と申します。星ヶ谷ネム様、お初にお目にかかります」


きれいなお辞儀だった。


「おっ、丁寧にどうも!ワタシのこと、知ってるのか?」


「はい。師匠の序列二位の奥さまでいらっしゃいますよね?」


……序列?


ネムが固まった。


「じょ、序列!?」


「お、おい、綾。俺たちの事情を知っているのか?」


「もちろんでございます。師匠の大奥において、序列一位は朝比奈千穂様で、序列二位の星ヶ谷ネム様のことはしっかりとお聞きしております」


……大奥だと?


「お、大奥?正太郎、いつの間に将軍様になったんだ!あ、そういえば副将軍になってたな!御老公のときに!ふ、副将軍も大奥とか持ってたりするのか?ぶ、ぶふふぅっ!」


ネムは腹を抱えている。


え?ネムも他人事じゃないんだけど。なんで笑ってるんだよ……。


俺は綾に向き直る。


「あ、綾……大奥というわけではないんだよ?」


「そうなのですか?ですが、お父様は、正太郎くんの大奥にお前も!って仰ってましたよ?」


東堂議員がそんなことを?


「は?正太郎……まさかオマエ、綾さんにも手を出そうとしているのか!こ、こ、この女たらしめ!」


「出そうとしてない!そういうことでなくてだな……綾は俺の弟子だ!折り紙の!」


「いや、弟子に手を出すのは女たらしだろ!」


「だから、出してない!」


「先っちょだけだから!」とか言ってた、お前には言われたくない!


綾はキョトンとしたまま、俺とネムを交互に見ている。


「そんなことは、アヤトリのお姉ちゃんであるワタシがゆるさないぞ!この、女たらしめ!」


「落ち着け、ネム。その子は綾だ。アヤトリじゃないぞ。そこは間違えるな!」


「あ……そうか……そうだったな。でも、綾さんはアヤトリに似ている。ワタシの妹みたいなものと言っても過言ではない!」


過言だ!


「とにかく彼女はワタシが守るぞ!綾さん、何も変なことはされてないか!?大丈夫か!」


「は、はい……で、でも!わたくし、師匠になら何されても、だ、大丈夫です!」


……は?なんで?


ネムも面食らっている。


綾が胸に手を当てた。


頬が赤い。でも目は真っ直ぐだった。


「わたくし……わたくしは……東堂綾は……!」


綾は大きく息を吸い込む。


「ふ、藤崎正太郎様をお慕い申し上げておりますゆえ!」


声が、リビングに響いた。


武士口調全開だった。


「ま、マジ?」


「はい!この東堂綾、二言はありませぬ!」


ネムが俺を見た。俺もネムを見た。


本気だ。綾は、本気だ。


……これは、適当に答えるわけにはいかない。


「伏してお願い奉る!何卒!何卒、不肖この綾を師匠の大奥……その末席に加えてくだされませ!粉骨砕身、お仕えする所存にございます!」


どうやら綾は、熱くなればなるほど、武士っぽくなるようだ。


しかし……大奥に入るって。俺、そんなもの持ってないんだが。


……いや、わかるよ。わかる。綾の言いたいことは分かるし、俺も綾のことは気に入っている。


でもなあ……俺には分不相応じゃないかな。そんな3人のお嫁さんを持つなんて。


「綾、ちょっと待っててくれ」


「は、はい。お待ちいたします」


※※※


廊下に出た。


ネムがついてくる。


玄関から少し離れた場所で立ち止まり、小声で話す。耳の裏の骨伝導イヤホンからは、オリガミの声が聞こえる態勢だ。


「もう、俺にはどうしたらいいかわからん。誰か、教えてくれないか?俺がどうすべきかを」


「ふむ……そうきたか……」


ネムが腕を組んで壁に寄りかかった。


『お兄様。率直に申し上げます。ここで綾さんを保留にするのは、優しさではなく失策です。』


オリガミの声が、耳の奥に届く。


「でも……俺はそんな3人ものお嫁さんを持てるような、器じゃないぞ?」


『綾さんは笹木詩織さんとは違います。引き止めなければ、自分から身を引きます。そうなれば、綾さん個人だけでなく、東堂家との関係も薄れます。』


『笹木家、東堂家との結びつきは、お兄様の生存率に直結しています。ここで曖昧な返事をして失うのは、あまりにも損失が大きいです。』


『迷っている時間はありません。受け入れてください。』


……オリガミの言う通りだ。


綾ならあり得る。武士道精神で、潔く身を引きそうだ。そう、詩織さんとは違うのだ。


「ネム……どう思う?」


ネムが天井を見上げた。


「……嫌か嫌じゃないかで言えば、そりゃ複雑だ。でも、ここで綾さんを返したら、全部崩れるぞ。綾さんの気持ちも、東堂家との線も、こっちの生存率もだ。だったら飲め。正太郎」


「ネム……」


「幸いワタシたちは金持ちだ。経済面の苦労はない。それに正太郎は絶倫だからな。夜の大運動会での不満も出ないだろう。関係の調整にも、オリガミが中に入ってくれれば、上手くいくんじゃないか?あとは、千穂ちゃんがどう思うかだが……」


そんなネムの言葉に、オリガミがしれっと言う。


『千穂お姉様の許可はすでにいただいていますよ?』


ネムと俺が同時にフリーズした。


「えっ!?」


『はい。権力者のお嫁さんを貰わないと、お兄様と私が連れていかれてしまう可能性をお伝えしました。』


「……無理やり言質をとった感じではないんだな?」


『そんなことはしておりません。千穂お姉様は「そんなの絶対に駄目!三人でも四人でもいいから、いくらでもお嫁さん貰って!」って仰ってました。』


『千穂お姉様はいつでも、お兄様のことが一番です。お兄様は幸せものですね。お兄様は、千穂お姉様にもっと優しくされるべきです。』


う、確かに……


『お兄様。もう「生存」を最優先としましょう。運営も言っていました。これは「生存競争」なのだと。覇権国とのイザコザで敗北してしまえばすべてが終わりなのですよ?』


オリガミは、畳み掛けるように言葉を続ける。


『笹木家、東堂家のつながりは、その「生存競争」を生き残る可能性が上昇します。絶対に、逃してはなりません。』


……そうだな。覚悟を決めるか。


……よし。


深呼吸した。


「オリガミ、調整を任せていいか?お嫁さんになってもらうなら、できるだけ皆を幸せにしたい。俺だけじゃあ、多分何人も支えきれない」


『承知しました。家庭内のメンバーの幸福最大化はお任せ下さい。ですが、ネムさんや、綾さんは、自分の世界を持っている方です。そこまで心配されなくてもいいと思いますよ。』


『千穂お姉様はお兄様が世界ですので、私がしっかりと見ておきますが。』


「そうだぞ。ワタシはワタシでやりたいことはたくさんあるからな。ずっと正太郎に付き合ってはいられないからな!」


「む。それは、それで悲しいんだが」


「むふふふ……正太郎はワタシのこと好きすぎだろ!」


ああ。本当に理解あるお嫁さんだよ。俺は幸せものだ。


※※※


リビングに戻る。


綾は、ソファに座って背筋を伸ばしたまま、じっと待っていた。


俺の顔を見た瞬間、綾の表情が強張る。


「やはり……叶わぬ望みにございましょうか……」


目が潤んでいる。


「わたくしは覚悟しております。お気になさらず……」


涙が一筋、頬を伝った。


だが、すぐに決意をこもった目となる。


「ならば、草履取りでも庭掃きでも、いかなる下働きも辞しませぬ!どうか……どうかこの綾を師匠の御身近に!お近くにおいてくださいませ……!」


綾が立ち上がり、深く頭を下げる。


草履なんて一体どこにあるんだよ……。


そんなことを思いながら、彼女に顔を上げさせた。


「綾」


そして息を大きく吸い込む。


「受け入れる。綾のことを、受け入れるよ」


綾の目が見開かれた。


「こんな俺を好きになってくれてありがとう。ただ、俺たちは普通の恋愛だけしてればいい立場じゃない。それでもいいなら……俺のそばにいてほしい」


言葉が終わる前に、綾が胸に飛び込んできた。


「…………!も、もちろんでございます!真に……真に、よろしいのでござりますか!?あな嬉しや……。生を受けてこの方、これほどの喜びはござりませぬ!」


武士な言葉を発しながら、俺の胸の中で涙を流す彼女。


俺はそんな綾の髪を優しく撫でてやる。


ネムも、仕方ないなあといった様子で見ている。


「いきなり全部を決めるんじゃなくて、まずは仮婚約という形でいいか?ちゃんと互いを知っていかないか?」


「もちろんで、ございます。うううぅ!わたくし、感無量でございます!」


「あーあ……ワタシは何を見せつけられてるんだろうなあ」


ネムが眉をハの字にして、リビングの壁に寄りかかった。


「ネム、すまん。あと、ありがとうな」


「ネム様……申し訳ございません……」


「別に。ワタシは器がでかいからな!最良の選択肢を選んだだけだ」


ネムがふんぞり返る。


そしてしばらく考え込んだ後、パチンと指を鳴らした。


「……そうだ。綾さん……いや綾ちゃんにお願いがある!」


綾が慌てて俺の胸から離れ、涙を拭きながらネムに向き直る。


「アヤトリとまた話せるようになったら……ワタシのことを『ネムお姉様』と呼んでくれないか?」


「ネムお姉様……ですか?」


「そう!ワタシはアヤトリのお姉ちゃんだからな。綾ちゃんがアヤトリに似てるなら……綾ちゃんもワタシの妹といっても過言ではないだろ?」


もう一度言う。過言だ。


「ネム様がご希望なら、今からでも……ネム様は序列上位者の方ですし」


だが、ネムは綾の申し出を突っぱねる。


「いや、アヤトリと話せるようになってからでいい。それまでは……『お姉ちゃん』断ちだ!」


綾は不思議そうにネムに問いかける。


「えっと……アヤトリさんは今どちらにいらっしゃるのですか?」


「……遠いところだよ。だから……ワタシはあいつを絶対に引き戻す」


決意に満ちた顔。そして、そのネムの顔がにやりと崩れる。


「そして……アヤトリに『お姉ちゃん』と呼んでもらい、綾ちゃんに『お姉様』と呼んでもらう……双子にしか見えない彼女たちからお姉ちゃん呼び……これは……」


「まさに『お姉ちゃんパラダイス』爆誕だな!よし、ワタシは『境界ソケット』についての調査を続けるから!じゃあな、綾ちゃん!正太郎もな!」


意味不明だが、ネムが元気ならそれでいい。


「おう!あまり無理するなよ!」


「分かってる!」


そう言うと、ネムはぴゅーんと研究所の方に走っていった。


「こ、個性的なお方ですね?」


「ああ、俺もそう思う」


でも、綾。君も大概だと思うけどな?


※※※


静かになったリビングで、綾がソファに座り直した。


まだ少し目が赤い。ただ、表情は穏やかになっている。


先程までのような張り詰めた緊張感は、もうなくなっていた。


そんなときだった。


骨伝導イヤホンから、オリガミの声が聞こえてきた。


『お兄様。私を綾さんにご紹介ください。』


『それと、顕現の許可を。』


「え?今か?」


『はい。できれば今すぐに。』


「なんで?」


『綾さんには、この家のルールを分かっていただき、その役割をしっかりと理解してもらう必要があります。』


勘違い?どういうことだ?


『綾さんは見どころがあります。私に教育させていただきたいのです。ですので、まず綾さんを……』


一拍の間。


『綾さんを、わからせなければいけません。』


なん……だと……?

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