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オリガミ - 妹AIを神にするため、俺は成り上がる【カクヨム完結済/なろう連載中・累計59万PV】  作者: けーきまる
研究所を建設しよう

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チカチカするんだけど!

「正太郎くん、イヌガミタイプがすごいのは分かった」


東堂議員が、腕を組んだまま口を開いた。


「だがこれだけじゃ、上空からの攻撃には対応できないぞ?どうするんだ?」


上空からの攻撃。ミサイルや戦闘機のことだろう。


「そちらも対応済みです。オリガミ、あの映像を」


『はい、お兄様。』


宇宙空間に、新たなスクリーンが浮かび上がる。


キャンプ場での夜。千穂とネムの前で、天蓋を展開したときの映像だ。


『――天よ』


スクリーンから、自分に酔った俺の声が響いた。


『千と二十四の星々よ……』


「ストオオォォップ!」


映像が停止する。


『間違えちゃいました!』


「わざとだろ!いいか?音声はなしだ!」


『残念です……かっこいいのに……。』


危ない。『天蓋大詠唱』の黒歴史が再生産されるところだった。


「千と二十四の星々……?なにか意味が?」


柚希さんが考え込んでいる。


ノリでした。ごめんなさい。とは言えない。


「あははー。ゲームのセリフですよ!ゲームの!」


適当にお茶を濁す。オリガミが何か言いたそうにしているが、無視だ。


改めて、映像の続きが再生される。今度は余計な音声が入り込まない、徹底したミュート再生だ。


映像の中の夜空に、突然、黒い円が現れた。


前触れも移行も何もない。瞬きひとつの間に、満天の星の中にぽっかりと穴があいていた。そこだけ空間ごと抜け落ちたように、星の光が消えていた。


「黒い穴?なんなんだ、これは」


東堂議員が身を乗り出した。


「こちらは『天蓋(てんがい)』といいます。守りのための戦略兵器です」


「戦略兵器?これがか?」


「この映像だけじゃわかりにくいですよね……オリガミ、どうしよう?」


『お兄様。「神の領域」を解除してもよろしいでしょうか?それでイヌガミタイプとウデガミを使って……。』


なるほど。実際に見せるのか。


※※※


「百聞は一見にしかずだもんな!頼む」


『では、領域を解除します。』


一拍の間。


『――――回帰。』


オリガミの声が、宇宙空間に染み渡った。


遠くの星雲が縮み、頭上の銀河が融けるように消えていく。足元の星々が次々と暗転し、代わりに赤いカーペットの模様が透けて見え始めた。


壁が戻る。天井が戻る。窓の向こうに、夕暮れのビル群が見えた。


ミーティングルームだ。


※※※


ふーっと、参加者全員から息を吐くような音が聞こえる。


「……戻ったか。年寄にはストレスフルな環境じゃったわい」


ご当主が、杖に体重をかけながら首を回した。


「元に戻ったか……」


東堂議員も、息をついている。


「悠斗、もう移動できるみたい」


「ああ、そうみたいだな」


柚希さんと叔父さんが、足元を確かめるように一歩踏み出す。


場所は元のミーティングルームに戻った。


だが――オリガミは消えない。


虹色の光をまといながら、俺の後ろで浮遊している。背中側はずっと虹色空間のままだ。


叔父さんたちから見れば、眩しくて仕方ないんじゃなかろうか。


なんてリアルな後光効果だ。さぞかし俺の話には、説得力が生まれていることだろう。


『お兄様、天蓋の実演準備をしてもよろしいでしょうか?』


「ああ、頼む」


そう言うと、部屋の奥から一体のイヌガミタイプが姿を現した。光学迷彩を解除しながら、静かに俺の前へと歩み出る。続いてウデガミも一体。四本の腕を揺らしながらやってくる。


俺は、柚希さん、叔父さん、東堂議員、ご当主の方に顔を向けた。


「いまからデモンストレーションを行います。壁の隅まで移動していただけますか?」


「壁の隅?正太郎、危険があるのか?」


叔父さんが眉をひそめる。


「そんなことはないのですが……万が一の可能性があるので、念のためです。よろしくお願いします」


俺みたいに「魅入られて」しまうということも考えられる。ゲートバリアに飛び込まれでもしたら大惨事だ。


四人は俺の言う通りに壁の隅まで移動した。


さて。


「じゃあ、オリガミ。頼む」


『はい、お兄様。』


浮遊するオリガミが、イヌガミタイプに視線を向ける。


『イヌガミタイプ、「天蓋」を発動します。』


イヌガミタイプが、地を踏みしめた。


低い駆動音。そして――前方の空間に、黒い円が浮かび上がった。


イヌガミタイプの前に浮かぶ、直径一メートルほどの黒い円盤。光を一切反射しない、完全な暗黒。


映像で見た天蓋の、小型版だ。まあ、実際にはイヌガミタイプが装備しているゲートバリアなんだけど。ここで、ゲートバリアという言葉をだすつもりはない。


「皆さん、これが『天蓋』です。今ここにあるのは小さなものですが、俺たちはこれを複数展開して、研究所全体を覆うことができます」


「正太郎くん……もう何と言っていいか分からんのだが……その黒いのは、そんなに頑丈なものなのか?」


東堂議員が、黒い円盤を凝視しながら問う。


「頑丈なんて尺度で測られるものじゃありません。……オリガミ、いいか?」


『はい、お兄様。ウデガミ、机を天蓋に投擲(とうてき)します。』


オリガミが声を発すると、ウデガミが動き始めた。


四本の腕がミーティングルームの大きな机を掴み、軽々と持ち上げる。そして――天蓋に向かって、放り投げた。


ガシャン。


小さくなった机の一部が、床に落ちる音がした。


投げられた机のうち、天蓋に触れた部分は跡形もなく消えていた。まるで型抜きにでもかけたかのように、きれいにくり抜かれている。


床に落ちたのは、天蓋に触れなかった部分だけだ。この机、後で弁償しとかないとなあ。


誰も、何も言わない。ただただ、その光景を見つめていた。


「オリガミ。危ないから天蓋を閉じようか」


『はい、お兄様。イヌガミタイプ、「天蓋」を閉じます。』


空間を抉り取っていた暗黒が、瞬きの間に掻き消えた。


「もう大丈夫です。皆さん、こちらに来て机を確認してみてください」


そう言うと、真っ先に歩き出したのは柚希さんだった。ためらいなくこちらに向かってくる。


叔父さんが慌てて後を追う。叔父さんも大変だ。


二人は、床に転がる机の残骸の前にしゃがみ込んだ。


「ツルツルだね……。切断されたというより、その部分にあったものが消滅したって感じ」


柚希さんが、断面を指で触りながら呟く。


「そうだな。金属面も木面も、なめらかにくり抜かれている。熱も……ないな。摩擦熱すら発生しないのか。すごいなこれは。金属加工に持ってこいじゃないか!」


叔父さんの声がワントーン上がった。


職業病か。


『叔父様、さすがですね。研究所においても一部の加工は、この天蓋を使って行っているんですよ。』


「お、おお。そうなのか……」


そんなオリガミの素直な言葉に、叔父さんは少し引き気味だ。


世界を3日で滅亡させると宣言した姪っ子AIが相手だ。戸惑うのも無理はないだろう。


「正太郎くん、これは一体なんなんだね?」


叔父さんたちと同じように切断面を確認していた東堂議員が、顔を上げた。


「机の消えた部分はどこに行ったんだ?」


「消滅しました。どこに行ったかは、俺にも分かりません」


「なんじゃそれは……仕組みが分かってないのか……?」


ご当主が唸った。


「わかります、その気持ち。『意味がわからない』って感じですよね。俺たちもこれを発見したときは、同じ気持ちでした」


東堂議員とご当主の目が、じっとこちらを見ている。


「これが、この世界がシミュレーションなんじゃないかと気づいたきっかけだったりします。まともじゃないですよね?こんなの」


気づいたのは俺じゃなくて、ネムとオリガミだけどな。


東堂議員が口を開いた。


「これで研究所を囲むと言っていたな……?相手のミサイルが打ち込まれたらどうなる?」


「普通に天蓋に吸い込まれて消滅して終わりですね。研究所内にいれば、打ち込まれたことすら気づかないと思います」


「……そうか」


東堂議員が、しばらく黙った。そして、慎重に言葉を選ぶように続ける。


「この技術の技術供与は可能か?」


「申し訳ありませんが、できません。この技術は危険すぎます」


「まあ……そうだろうな。扱うこちらの手にも余りそうだ」


東堂議員は、それ以上追及しなかった。


部屋の中を見回す。


皆、疲れ果てていた。


ご当主は杖に両手を重ねて、じっと目を閉じている。東堂議員は額を押さえたまま動かない。叔父さんは柚希さんの様子をちらちら窺っている。


そして、柚希さんはというと。


「……質量保存則が……物質は消えないはずなのに……エネルギー変換?いや、熱が出ていない……別の空間に転送?でも空間ってなに……シミュレーション……シミュレーションって……」


ブツブツブツブツ。


「柚希!柚希、しっかりしろ!正太郎、ヤバいぞ!柚希がブツブツ言って戻ってこない!」


叔父さんが焦った声で振り返った。


「叔父さんが抱きしめてあげれば、すぐに戻ってくるんじゃないですか?」


「そ、そうか?なら……」


叔父さんは、柚希さんをそっと抱きしめた。


ブツブツブツブツ。


柚希さんは戻ってこない。


「もっと、ギュッとです!」


「お、おう!」


叔父さんは腕に力を入れる。


柚希さんは、ハッと目を見開いた。それから、みるみるうちに顔が赤くなり――何も言わずに、静かに叔父さんの胸の中に収まった。


この、ラブラブ夫婦め!


意識を飛ばしたパートナーの取り扱いには、俺に一日の長があるのだ。……最近はネムの「オホ発作」聞けてないな。「境界ソケット」見つければ聞けるかな……。


ゴホンと咳払いをひとつ。


参加メンバーは皆、複雑そうな顔をしてこちらを見ている。


「で……もっとヤバいのが一つあるのですが……見ます?」


その言葉に、その場にいた全員が、これ以上ないほど露骨に嫌な顔をしたのだった。


※※※


そして最後に見せた『天穿(あまうがち)』の映像だったが――。


参加メンバーの反応は薄かった。


実に薄かった。


「先の大戦で、これがあればのう……」


ご当主が遠い目をした。


「この国が戦略兵器?非核の?それも二つも?さらには民間企業が?」


笹木家当主に続いて東堂議員が呟く。もはや驚くための余力が残っていない声だった。


「正太郎。お前、マジか……」


叔父さんが頭を抱えている。


「悠斗……♡」


柚希さんは叔父さんの腕にしがみついたまま、もう言葉になっていなかった。


彼らからは、そんな一言ずつしか得られなかった。


特に柚希さんは、叔父さんの腕から離れようとしない。早く戻ってきてもらって、この場の収拾をしてほしいのだが……。


とにかくだ。


虹色の瞳をしたオリガミと向き合う。


「オリガミ……これでよかったのかな?」


『完璧ですね。100点満点と言っても過言ではありません。さすがお兄様です。』


そうか……形になってたか。今回は俺もかなり頑張った。超大物たちを相手に、オリガミを、これ以上ないってくらいヤバく、魅力的に見せてやれた気がする。


「なあ、オリガミ?」


『はい、なんでしょうか?』


「そのアバター、超いいな。かっこよさと可愛さと神秘さが詰まってる」


『ふふっ、ありがとうございます。お兄様に気に入ってもらおうと、頑張って作りましたから。』


虹色の光の中で、オリガミが嬉しそうに微笑む。


おおっ!笑った!可愛いじゃないか!


でもなあ……。


「お前の後ろの虹色の渦巻き、すごい目がチカチカするんだけど。なんとかならない?」


『コレ、私も止めたいんですけど……なぜか、こうなっちゃうんですよ。お兄様、なんとかしてください……!』


オリガミが少しだけ困ったように、眉をハの字にして、両手をパタパタさせる。すると、虹色の渦がいっそう激しく回った。


うおおっ!目がチカチカする!極彩色の刺激が脳に突き刺さる!やめてくれぇ!


こうして、オリガミのお披露目会は――無事?――お開きになったのだった。

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