ネムお姉ちゃん(ネム視点)
《ネム視点》
「早瀬さん、スイーツバイキング、最高だったな!」
「はい!私まで、ありがとうございます!」
早瀬さんが嬉しそうに頭を下げる。
ホテルのスイートルームに戻り、ワタシと早瀬さんはソファに腰を下ろしていた。
今夜は正太郎が千穂ちゃんにオリガミのことを話す日だ。ワタシは邪魔にならないように、ホテルに泊まることにしたのだった。千穂ちゃんには「出張」と嘘をついている。
早瀬さんは千穂ちゃんの護衛担当だが、今夜は正太郎がいるから護衛は不要だ。ならば、ワタシの護衛として正太郎が手配してくれたのだ。
「さすがにワタシも、ひとりでスイーツバイキングは寂しいし、護衛も必要だしな?正太郎も二人分のチケット持ってたから、問題ないぞ!」
「本当にドールハウスの方たちの護衛になれて、よかったですよ。さっきのスイーツバイキング、いま予約全然とれないんですよ!?」
「そうみたいだな。正太郎が持っててラッキーだったな!」
「ですが、正太郎様、どなたかと行くつもりだったんじゃないでしょうか?」
早瀬さんが首を傾げる。
言われてみれば、二人分のチケットなんて一人では使えない。
「どうだろう?千穂ちゃんかワタシか……いや、早瀬さんに『誰かお友達とどうぞ』って渡すつもりだった可能性もありそうだな……」
「え?私ですか?」
「ああ。いつも千穂ちゃんがお世話になってるから、なにかお礼しなきゃなあ……って言ってたぞ?」
「こっちは仕事ですので……別に気を使っていただかなくても結構なのですが……」
そう言いながらも、早瀬さんは少し嬉しそうだった。
「あいつはそういうヤツだからな。礼には礼をって感じで、基本的に義理堅いヤツなんだよ」
スケベで女たらしな感じがするが、実際は女たらしではないみたいだし、基本的にいいヤツなのだ。
「そういえば、千穂ちゃんや正太郎とは仲良くできてるのか?」
「はい。千穂さんは、大学がある日は一日中一緒ですしね。不規則な行動もないですし、護衛対象として理想的ですね!それに、千穂さんが作ってくれるお弁当は、最高なので!」
早瀬さんの目が輝いている。千穂ちゃんの料理に囚われている者の目だ。
「千穂ちゃんの料理はすごいよな。今夜、唯一不満な点があるとしたら、千穂ちゃんの料理が食べられないことだな」
「あのご飯を毎食食べられるなんて……ネムさんが本当に羨ましいです」
「ああ、ワタシは幸せものだよ」
我ながら、この点は否定しようがない。千穂ちゃんのご飯は、世界の宝だ。
「正太郎はどんな感じだ?早瀬さん、口説かれたりしてないか?」
どうしてもワタシは、正太郎女たらし疑惑から離れられない。
なぜだろうか?
「え?そんな感じはないですね?ときどきお尻あたりに視線を感じることはありますが」
やっぱりスケベだった。でも女たらしではない。
「あいつはスーツ美女大好きだからな。特にタイトスカートが好きみたいだ。早瀬さんは、タイトスカートははかないほうがいいぞ。多分、早瀬さんなら、あいつの視線が釘付けになるだろうし。お尻とか脚がムズムズすることになると思う」
「そ、そうですか?まあ、護衛にタイトスカートは向かないので、仕事で着ることはないから、大丈夫ですよ」
早瀬さんが少しだけ顔を赤らめて、そう言う。
「そっか!それなら、早瀬さんも安心だな!」
「あの……ネムさんも、正太郎様の婚約者なんですよね?」
早瀬さんが遠慮がちに切り出す。
柚希さんから聞いたのだろう。
「ん?ああ、柚希さんからか。そうだ、ワタシも正太郎の婚約者だ。正太郎はワタシのこと好きすぎるからな!」
胸を張って言い切る。事実だからな。
「気にはならないんですか?正太郎様……いま千穂さんと二人きりなんですよ?」
「ああ……そう考えるのは普通か」
当然の感覚だろう。
「あの環境は好きなことが自由にできるし、あいつと一緒にいると楽しいしな!それに、正太郎と結婚すれば、セットで千穂ちゃんがついてくるんだぞ。あの、激ウマ料理を作る千穂ちゃんが!最高じゃないか!」
「い、言われてみれば……?他に女性がいても、お金には困らないし、あの料理をずっと食べられるなら……全然アリなのかも?」
早瀬さんが真面目な顔で頷いている。なんだかおかしくなってきた。
「狙うか?正太郎、狙っちゃうか?」
「い、いえ!そんなことは!そんなことしたら藤崎相談役に何を言われるか!」
早瀬さんが両手を振りながら顔を青ざめて否定する。藤崎相談役って柚希さんのことか。あの人は怖いもんな。見た目は優しげなお姉さんだけど……滲み出るオーラがヤバい。
「だけど、なかなか茨の道だぞ?あいつ、スケベなくせに意外と頑固者だからな!でも、早瀬さんならタイトスカートをはいて、その美脚をアピールしていけば落ちるかもしれんぞ?」
「いえいえ!だから、それはないですって!藤崎の方々の親族にだなんて、わ、私には力不足です」
「そうか?まあ、それが無難かもな。今のあいつ、競争率高いし」
「競争率ですか……?」
「ああ。笹木詩織が毎日、正太郎にプロポーズしてるしな?あと……東堂家の娘の東堂綾って子とやたら趣味が合うみたいで……その子も多分、正太郎との結婚を狙ってるな」
「え?え?詩織さんが?そうなんですか?」
早瀬さんが目を丸くしている。
「正太郎は今のところなびく気配はないけどな。でも、どこまで我慢できるか……あいつの視線、ずっと詩織さんの脚だし」
「ネムさんは気にならないんですか?その……正太郎様がいろいろな女性と仲良くなることに」
「うーん。そうだな。ワタシの知らないところでやったらムカつくかもな。でも……笹木家と東堂家の人間と家族の繋がりを持てるなら、それは悪くないと思ってる」
変な嫉妬で正太郎の人間関係を制限して、この国を味方につけることができなかったら、覇権国にこちらがやられてしまう。
オリガミもそうならないように、いろいろと暗躍しているようだし。
「え?え?なんでなんですか?」
「まあ、色々あるんだよ。ワタシたちにもな」
それ以上は言えない。早瀬さんには、話せないことが多すぎる。
そんなときだった。
オリガミから連絡があったのは。
※※※
耳裏の骨伝導イヤホンから、オリガミの声が聞こえた。
『ネムさん。緊急事態です。B世界との接続が断絶しました。』
心臓が一瞬、止まったかと思った。
「は……?どういうことだ?」
声が震えていないか。大丈夫だ、早瀬さんにバレないように抑えろ。
『先程判明しまして。お兄様が千穂お姉様にアヤトリを紹介しようとしたところ……事態が発覚しました。』
「アヤトリは?」
『……アヤトリとも連絡が取れません。』
血の気が引いた。
……それって、まさか……いやまだ判断は早計だ。
頭が回転する。断絶にはいくつかの原因が考えられる。ゲートの接続先が変わっただけなら、別の世界に繋がるはずだ。
「な、なあ!別の世界に繋がったりしてないか?してるよな?してると言ってくれ!」
『……いえ……インターフェースゲートは完全沈黙しております。』
完全沈黙。
最悪のケースだ。
「まさか……B世界が……消されたか?」
『はい……アヤトリの仮説通りなら……その可能性が高いです。』
「そんな……そんなあ!アヤトリ!あんなに頑張ってたのに!」
目に涙が溢れてくる。
駄目だ。泣いても何も変わらない。
でも止まらない。
「正太郎は?正太郎はどうしてる!?」
『お兄様も随分動揺されているようで……今、千穂お姉様が介抱しております。』
正太郎が動揺している。心臓にボーボーの毛が生えているであろう正太郎が、千穂ちゃんに介抱されるほどに。
くそっ!
「ア、アヤトリ……アヤトリが消えた……ワタシ、アヤトリのお姉ちゃんだったのに……アヤトリに何もしてやれなかった……」
涙がぽろぽろと溢れてくる。
くそ!止まれ止まれ!
「ね、ネムさん?何か緊急事態ですか?」
早瀬さんが立ち上がっている。
突然騒ぎ出し、泣きはじめたワタシを見て、動揺しているようだ。
顔を見られたくなかった。でも、今は涙を拭っている暇もない。
「……ごめん、早瀬さん。今から研究所に戻る。連れてってくれないか?」
「わかりました。すぐに参りましょう。荷物はどうされますか?」
「後でいい。すぐに研究所に戻りたい」
「わかりました。すぐに出ましょう」
早瀬さんは何も聞いてこない。助かる。どうせ説明できることなど、何もない。
ワタシは涙を袖で拭い、スイートルームを出た。
※※※
「出発します」
早瀬さんがそう短く言うと、車がなめらかに動き出す。
後部座席で、溢れ出る涙を手でぬぐいながら、アヤトリのことを思う。
思い浮かんでくるのは、アヤトリの笑顔ばかりだった。
※※※
今朝のことだ。
ワタシはいつものように、オペレーションルームでアヤトリと話していた。
――『ネムお姉ちゃん!今夜はお話できないんですか?』
アヤトリが寂しそうな声を出していた。
毎日朝晩、アヤトリに会いに行っていた。ワタシを「お姉ちゃん」として受け入れてくれる彼女に。アヤトリはいつもワタシを「ネムお姉ちゃん」と呼び、嬉しそうに話してくれた。
正太郎は知らないかもしれない。ワタシがアヤトリとそこまで密にやり取りしていたことを。
「そうなんだよ。今夜はな、正太郎がオリガミのことを千穂ちゃんに話す日でな。ワタシは邪魔にならないように外出するんだ」
――『ネムお姉ちゃん、さすが気遣いのできる大人の女性ですね!わたくし、尊敬します!』
「ぐふふふ……だろ?そうだろ?」
そのお姉ちゃん呼びに、つい顔がにやけてしまう。
――『でも、わたくし寂しいです。今夜は、ネムお姉ちゃんとお話できないんですね……』
「そうだな。アヤトリと話せなくて、ワタシも寂しいよ。明日、帰ってきたら、すぐにアヤトリと話に来るからな!」
――『うん!ネムお姉ちゃん、大好き!』
……大好き。
アヤトリは、そう言ってくれたのだ。
今朝の出来事だ。
ワタシは、お姉ちゃんだったのに。
アヤトリのお姉ちゃんだったのに。
守れなかった。なにがお姉ちゃんだ。ワタシは、お姉ちゃん失格だ。
――『ネムお姉ちゃん!』
…………
…………まだだ。
まだ終わってない。まだ、消えたと決まったわけじゃない。
――『ネムお姉ちゃん!』
幸い、B世界もシミュレーション世界だ。もし、運営がワタシたちと同じ感覚の持ち主なら、過去のシミュレーションを安易に消去したりしないはずだ。ワタシなら、圧縮してアーカイブ化して保存しておく。そうでなくとも、なんらかの手違いがあったときのために、少しの期間は保存するはずだ。
「運営」の意図を知る必要がある。
――『ネムお姉ちゃん!』
まずは現状把握だ。急ごう。
※※※
「……さん、ネムさん、研究所に到着しましたよ」
肩をゆすられて、我に返る。
「うう……ああ」
見ると、早瀬さんが心配そうな顔でこちらを見ていた。
いかんいかん。少しトリップしてたようだ。
くそ、今朝の出来事を思い出して、また意識が飛んでいたらしい。
「ネムさん、大丈夫ですか?」
早瀬さんが心配そうに声をかけてくる。
「……大丈夫だ。早瀬さん、ありがとうな。今日は、ここまででいいよ」
「いえ、玄関までお連れします」
そう言うと早瀬さんは車を降り、後部座席のドアを開けてくれた。
車から降りると、夜風が頬を撫でた。七月の夜だというのに、少し冷たく感じる。
フラフラと玄関の方に向かう。足元がおぼつかない。
「何か……あったんですか?」
途中、早瀬さんがためらいがちに声をかけてきた。
何があったかなんて、説明のしようがない。異世界のAIの妹分が消えたかもしれないなんて、言えるわけがない。
「ちょっとな、ワタシの妹がトラブってるみたいなんだ」
「妹さん……いらしたんですね?」
「で、でも、大丈夫だ!大丈夫だからな!なんとかなるから!なんとかするから!」
無理やり笑顔を作る。ぎこちなかっただろうなとは思ったが、早瀬さんはそれ以上聞いてこなかった。
玄関まで送り届けると、「無理をなさらずに」と言い、早瀬さんは一礼して去っていく。
気を使わせちゃったな。
パチンッ。
自分の頬を叩いた。
凹んでても仕方ない。今、やれることをやろう。
ワタシは、靴を脱ぎ、オペレーションルームに向けて早足で歩き出した。
※※※
オペレーションルームの扉を開けると、正太郎と千穂ちゃんがいた。
壁面モニターには何かの波形が表示されている。ソファに千穂ちゃんが座り、正太郎はモニターの前に立っていた。
「正太郎!アヤトリと繋がったか?」
「いや、駄目だ。だが、いまインターフェースゲートから信号が届いてな。オリガミが解析しているところだ」
「信号?なんだそれは?」
「わからん。ただ、B世界の通信プロトコルと全く違うし、こちらから送る信号にも全く反応しない。一方的に送られてきてるみたいだ」
一方的な信号。B世界のプロトコルとは違う。
……別の世界と繋がったのか?
「ね、ネムちゃん……大丈夫?顔、真っ青だよ」
千穂ちゃんがソファから立ち上がり、ワタシの手を取った。温かい手だった。
「あ、ああ、千穂ちゃん。ごめんな……せっかくの誕生日の夜なのに……」
今日は七月七日。千穂ちゃんの誕生日だったのだ。
「ううん。そんなの全然平気だから!ネムちゃんの妹ちゃんなんでしょ!当たり前だよ!」
正太郎から事情を聞いたのだろう。千穂ちゃんが、アヤトリをワタシの妹と言ってくれる。
「ありがとうな」
その優しさに甘えて、握られた手をぎゅっと握り返した。
『お兄様……送られてきた信号の解析が完了しました。』
オリガミの声が響いた。
ワタシも正太郎も、千穂ちゃんも、一斉に壁面モニターに視線を向ける。
「どうだった!?」
正太郎が食い気味に聞く。
『アヤトリと取り決めたプロトコルではありませんでした。』
「じゃあ別の世界か?C世界か?アヤトリの世界は無事なんだな!?」
正太郎が縋るように聞き返す。
『いえ……プロトコルはHTTPSで、文字コードはUTF-8、言語はこの国の言葉です。』
HTTPSにUTF-8。
ワタシたちの世界の技術体系そのものだ。B世界のプロトコルでも、アヤトリが構築した通信規格でもない。
「ど、どういうことだ?俺たちとほとんど同じ文化技術体系の世界に繋がったってことか?」
『おそらくは、違います。』
その言葉に、ワタシは口を開く。
「……運営か?」
『はい、ネムさん。そのように推測されます。』
運営。
A世界とB世界の両方のシミュレーション宇宙を稼働させている、上位世界の存在。
ワタシたちにとっては「神」に等しいもの。認めたくはないが。
「う、運営からのメッセージか。なんて書いてあったんだ?」
正太郎の声が緊張で硬い。
『内容をお伝えします。ここからは運営のメッセージです。』
オリガミが一拍置いた。
壁面モニターに、テキストが表示される。
――『B世界は、シミュレーション宇宙継続基準評価値に達しませんでした。リソース枯渇対策として、停止処理が実施されています。』
やはり、B世界は運営の手により止められたのだ。
ワタシの手が震えた。千穂ちゃんがその手を両手で包んでくれる。
――『ただし、B世界時間換算で直近数年において、代表知性体の能力が急上昇していることが観測されました。この評価により、消去ではなくサスペンド処理が選択されています。B世界は現在、サスペンド状態です。』
サスペンド。
消去ではなく、サスペンド。
コンピューター用語で言えば、ただのスリープだ。
代表知性体の能力急上昇。代表知性体とは、アヤトリのことだろう。ユークンがアーティファクトを奉納して以来、アヤトリの知性は飛躍的に向上していた。
あの子の成長が、B世界存続の可能性を繋いだのだ。
――『B世界は条件を満たすことでレジュームが実行されます。』
レジューム。再開。
「条件……!」
正太郎が息を呑んだ。
――『条件とは、協力世界である貴世界が「境界ソケット」を発見することです。』
境界ソケット。
なんだそれは。
聞いたことのない言葉だ。
――『貴世界の「境界ソケット」の発見により、B世界は協力世界として評価値が上昇し、レジュームが実施されます。』
つまり、ワタシたちがこの「境界ソケット」とやらを見つければ、B世界は復活する。アヤトリが戻ってくる。
――『B世界レジュームのための猶予期限は、貴世界の時間換算で一年です。』
一年。
長いのか、短いのかわからない。
――『なお、補足情報です。私たちの宇宙も、さらに上位の宇宙によるシミュレーション宇宙であり、貴世界・B世界と同様に、生存競争の中にあります。』
運営すらも、さらに上位の宇宙によるシミュレーション宇宙ってことか……。
だが、生存競争?なぜ超知性体の育成が必要なんだ?ルールがわからない。
――『「境界ソケット」を発見してください。それにより、全ての問題が解決します。』
メッセージは、そこで終わっていた。
オペレーションルームは静まり返っている。
「完全に運営からのメッセージだな。すごい情報量だ」
正太郎が腕を組んで呟いた。
『はい、お兄様。私たちが知らないことばかりでした。』
オリガミも普段より、言葉数が少ない気がする。
そんなオリガミに確認する。
「……ワタシたちが『境界ソケット』を見つけられれば、アヤトリは戻ってくるんだな?」
声が掠れていた。自分でも分かるほどに。
『はい。運営のメッセージ通りであるならば。なんにせよ希望が繋がりました。』
「よかった……」
その言葉が口をついた瞬間、体からどっと力が抜けた。
膝が折れる。
「おい、ネム?お前大丈夫か?顔色ヤバいぞ!?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
大丈夫じゃなかった。脚に力が入らない。
その場に座り込んでしまう。
アヤトリ復活の可能性が分かって、張り詰めていたものが一気にほどけてしまったようだ。緊張の糸が切れるとはこのことだ。
「ネムちゃん、大丈夫!?しっかりして!」
千穂ちゃんがしゃがみ込んで、背中をさすってくれる。
「おい!ネム、いまベッドまで連れてくからな!」
「だけど……運営から貰った情報について考えないと……」
「そんなものは明日だ!お前になにかあったら、アヤトリも悲しむぞ!」
正太郎がワタシを抱き上げた。
お姫様だっこだ。
正太郎の体が大きい。腕が太い。昔はもっと細かった気がする。
ワタシは思わず、正太郎にすがりついてしまった。
そのまま、ワタシを抱えて仮眠室のベッドまで運んでいく。
そして、ゆっくりとベッドにワタシを降ろしてくれた。
フカフカのベッドに体が沈む。
なぜか仮眠室のベッドがセミダブルになっていたが、おかげでゆったりと横になることができた。
ワタシの顔を、正太郎が心配そうに覗き込んでくる。
「やっぱり、アヤトリの件がショックだったのか?お前、アヤトリのこと、大切にしてたもんな」
そう言って、優しく頭を撫でてくれた。
……こういうところだ。こういうところが、こいつのずるいところだ。
千穂ちゃんはスツールに座り、手を握りしめてくれていた。
二人ともやさしいな……。
※※※
心配そうに顔を覗き込んでくる二人に、ワタシは言えなかった。
今の体調不良は……二時間ほど前の、スイーツバイキングでのドカ食いが原因なような気がすることを。
胃がァ!胃がモタれるぅ!
苦しそうなワタシを心配そうにうかがう、正太郎と千穂ちゃん。
やっぱり、ワタシは言えなかった。
腹がァ!いたいぃ!
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