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オリガミ - 妹AIを神にするため、俺は成り上がる【カクヨム完結済/なろう連載中・累計59万PV】  作者: けーきまる
研究所を建設しよう

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デストラクション・ポイント

「ごめんね?我を忘れて、しょうちゃんを置いてけぼりにしちゃって……」


千穂がようやく落ち着いて、申し訳なさそうにこちらを見た。


目元はまだ少し赤い。


覇権国の話を聞いて泣いた痕と、オリガミの可愛さが大爆発した興奮の名残が、混ざっているようだ。


「いんや、別にいいよ。というかありがとうな?オリガミと仲良くしてくれて」


「もちろんだよ。イヌガミちゃん……オリガミちゃんとはずっと一緒にいたからね」


イヌガミタイプの背中に乗った折り鶴のぬいぐるみを優しく撫でた。


……オリガミがなすがままになっている。なかなかいい光景だ。


オリガミみたいなひねくれたヤツは、純粋に向けられる好意に弱いものなのだ。


俺もそうだけど。


「まあ、こんな訳で、オリガミAIを、よそに引き渡すなんて選択はないんだ。俺の大切な妹だしね。覇権国に渡したら、戦争の道具にされそうだしな」


千穂の表情がこわばる。


「そんな……うん。オリガミちゃんを引き渡すなんて、絶対駄目だよ!」


そして、オリガミのぬいぐるみに向かって、頭を下げる。


「オリガミちゃん……ごめんね?私、引き渡せなんて言っちゃって……何も分かってなかったよ……」


『いいえ、千穂お姉様のお考えは至極真っ当なものです。私でも同じ状況になったら、同じ考えに至ると思います。どうぞ気になさらずに。』


「うん、オリガミちゃん。それでもごめん。本当にごめんね?」


『あのタイミングであの言葉が出てこないほうが、私にとっては信頼に値しないのですが……。でも、わかりました。謝罪を受け入れます。』


「ありがとう、オリガミちゃん」


千穂がぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。


「まあ、オリガミも、最悪自分を引き渡せって言ってたもんな。そんなことは許さないけど」


『お兄様、私は今でもその考えは変えてませんよ?』


「そんなの駄目だよ!」


千穂が即座に声を上げた。


『お兄様に言われようが、千穂お姉様に言われようが、その点に関する私の考えを変えるつもりはありません。』


「頑固なやつだ」


『お兄様も頑固です。』


兄妹だもんな。頑固なところが似てもおかしくない。


「……まあいいや。思った以上に、オリガミと千穂がスムーズにコミュニケーションできてて安心したよ。もうちょっと、千穂は戸惑うと思ってたよ」


「今までも、たくさんお話してるからね!私が一方的にしゃべってただけだけど……」


「そうなの?」


知らなかった。千穂がイヌガミに向かって喋りかけてるのは何度か見たことがあるが、まさかそこまでとは。


『ええ。千穂お姉様からは、いろいろなことを、お聞きしましたよ?』


「え?興味あるんだけど?どんな話?」


『お兄様のことがほとんどでしたね。まったくお兄様は、千穂お姉様のことをもう少し気にかけてあげるべきです。』


「お、お、オリガミちゃん!駄目だよっ!」


千穂が慌ててオリガミを制止する。頬が赤く染まっている。


『千穂お姉様は、お兄様に甘すぎです。もっとお兄様にビシッと言ってやってもいいと思いますよ?』


「え?そうなの千穂?俺、優しくなかった?」


「そ、そんなことないよっ!しょうちゃんは私にいつもやさしいよっ!」


千穂が両手をぶんぶん振る。


『確かにそうかもしれません。ですが、千穂お姉様の努力量に見合っていません。』


ぐっ、と胸に刺さった。


「た、確かにそうかもしれない。俺ばっかり千穂の世話になって……俺は何も返せてない気がする!」


『そうですよ、お兄様。私の知る限り、千穂お姉様の努力は、全てお兄様のためのものです。好き放題生きている、お兄様やネムさんとは違うのですよ?』


ね、ネムに飛び火が!


ネムは、ホテルでのスイーツバイキングを終えたころだろうか。


あいつのことだから、食べすぎて、気持ち悪くなったりしてるに違いない。


「だ、大丈夫。大丈夫だから、オリガミちゃん!私、今のままでも幸せだから!」


『ああ……千穂お姉様、なんて健気な。お兄様も見習ってください。』


オリガミ……なんか、キャラ変わってない?さっそく千穂の包容力に取り込まれたか?


恐るべし、千穂ママ。


だが……オリガミの言うことももっともだ。


俺は、使命にかまけて、目の前の幸せをおろそかにしていたのかもしれない。


よくない。よくないぞ。


こういうところから幸せというのは、漏れ出ていくものだ。気をつけねば。


「俺、これからは千穂のためにもっと尽くすから。千穂のために頑張るよ!」


『それでこそ、お兄様です。』


「だから大丈夫だよっ。私、今のままでお腹いっぱいだからぁ!」


千穂が手をわたわたさせる。


『千穂お姉様、何でもいいのですよ?なにか、お兄様にやって欲しいことはないのですか?』


「オリガミ、お前が聞くことじゃないだろ。でも、千穂?何でもいいんだぞ?」


「な、なにもないよ?今のままで十分幸せだよ?」


『千穂お姉様。どんなささいなことでも……いいのですよ?』


オリガミがぐいぐい押す。


こいつ……千穂が俺にやってほしいことを掴んでるな?


「オリガミの言うとおりだぞ?どんな小さなことでもいいぞ?」


「……な、なんでもいいのかな?」


千穂の声が小さくなった。指先を合わせて、もじもじしている。


「もちろんだっ!」


「じゃ、じゃあ、正太郎様ハンドを作ってるときに、たまに来てくれないかな?」


「え?正太郎様ハンドの件?」


予想外の方向からの要望だった。


「詩織ちゃんも言ってたんだけど……製作時に、もっと本物を見ながら作りたいなって……」


「あ?え?お?」


そっかあ……そうきたかあ……。


「もうちょっとで、私もVer.0.1ができそうなんだ!詩織ちゃんのと比べると、全然、駄目なんだけどね?」


千穂が恥ずかしそうに俯く。


「そ、そうなんだ……」


千穂が作った正太郎様ハンドが出来上がるのか……改めて言われると、なかなかくるものがある。


「だから……駄目かな?」


上目遣いで聞いてくる千穂。


これは断れない。あまり、あの場に近寄りたくなかったが、仕方ない。


「駄目じゃない。駄目じゃないぞ。男に二言はない。やってやらあ!」


「わあ!やったあ!」


千穂がぱっと顔を輝かせた。


『よかったですね。千穂お姉様。』


「うん!オリガミちゃん、ありがとね!」


千穂がぬいぐるみに抱きついて、ぐりぐりと頬ずりする。


くそ……正太郎様ハンド作りに協力するってことだろ?千穂に協力するってことは、必然的にその隣にいる詩織さんにも協力することになる。


どうやら、俺の手が……研究所を闊歩(かっぽ)する日が近くなりそうだ。


なんてこった!


※※※


『お兄様、大切なことをお忘れでは?』


不意にオリガミが声をかけてきた。


「大切なこと?なんだっけ?」


『今日は、何の日であったか、思い出してみてください。』


「えっと……七月七日で、七夕でしょ?そして、千穂の誕生日……ああ!」


プレゼントだ。


千穂に渡すプレゼントを、まだ渡していなかった。オリガミのお披露目ですっかり飛んでいた。


『思い出されましたか?では、私は少しの間黙っておりますので。どうぞ甘々な時間を、お過ごしください。』


「ああ、ありがとう」


気を利かせてくれたオリガミに感謝しつつ、千穂のほうに向き直る。


「ふふふ、しょうちゃんはオリガミちゃんと本当に仲がいいんだね」


千穂が嬉しそうに笑っている。


「正直、俺には、出来すぎた妹で困っちゃってるけどな?」


「オリガミちゃん、すごいもんね。私が大学に合格できたのも、オリガミちゃんがついてたおかげみたいなものだし」


千穂は、オリガミに半分騙されるような形で、勉強へのモチベーションを引き上げられてたんだっけな。


……あれは内緒にしとこう。


いかんいかん、どんどん話がそれていく。


気を取り直して……。


「千穂、誕生日おめでとう。これ、プレゼント」


ソファの脇に置いておいた小箱を手に取って、千穂に差し出す。


漆(うるし)の黒地の細長い箱だ。天の川をイメージして金と銀の砂子を散らしている。


七夕の夜に渡すものとして、これ以上ない気がして選んだものだ。


千穂が両手で受け取る。


「ありがとう……すごい綺麗な箱……」


箱の表面を指でそっと撫でる千穂。金と銀の砂子が、オペレーションルームの照明を受けて、静かに光っていた。


「開けてみて」


「う、うん」


千穂がゆっくりと蓋を開ける。


中には、髪をまとめるためのバレッタが一つ。


黒檀(こくたん)の板に、青貝塗(あおかいぬり)の螺鈿細工(らでんさいく)のバレッタだ。


マットな黒背景に、桜色の折り鶴が一羽、描かれている。


鮑貝(あわびがい)のピンクの部位を薄く削って黒地に埋め込んだ、桜色の鶴だ。


照明を受けて、その螺鈿細工が、淡く虹色に揺らめいている。


角度を変えるたびに、桜色から虹色へ、虹色から桜色へと揺れる。


「素敵……」


千穂が小声で言う。


バレッタを箱から取り出し、両手で持って目の前にかざしている。その瞳が、螺鈿の折り鶴に釘付けになっている。


「設計は俺で、表の仕上げは職人さん。裏側の細工はオリガミと一緒に俺がやったんだ」


「裏側?」


「ああ」


千穂が静かにバレッタをひっくり返す。


裏側には、小さなダイヤモンドがびっしりと並んでいた。整然と、隙間なく。超硬合金のプレートの上に、一つ一つ丁寧に爪留めされている。


「ええ!これ……ダイヤモンド?」


「そう、人工ダイヤモンドだけどね」


「こ、こんなにいっぱい?裏側に?しょうちゃんがつけたの?」


「ああ、頑張ってコツコツと一つずつつけた。小さなヤットコで一個ずつ爪留めしてな。オリガミに『0.2mm右です』『完璧です』なんて指示を出してもらいながら、二人でやったんだ。めちゃくちゃ時間かかったよ」


折り紙で鍛えた指先がなければ、あの精密作業は不可能だった。ミリ以下の精度が求められる爪留めを、一つずつ。オリガミの声を頼りにやったのだ。


気の遠くなるような作業だったが、千穂のためだと思えば苦にはならなかった。


「す、すごいね?しょうちゃん器用だなあ……。でも、これ、すごい高いんじゃない?」


千穂が聞いたら引くような額だと思う。でも、ドールハウスからしたら消耗品の調達費用みたいなもんだ。そこは言わないでおこう。


「ちょっと高いかも?でも、このダイヤモンドの部分は実用品なんだ。装飾ってわけじゃないんだよ」


「実用品?ダイヤモンドが?」


千穂が首を傾げる。


「ああ、NVセンター入りの人工ダイヤモンドだ。これを消費すれば、オリガミが強い魔法を使えるんだ」


「オリガミちゃんも魔法が使えるの?」


「魔法の構築スピードはピカイチだ。さらには編集もできる。でも、オリガミだけだと、1QF程度の小規模な魔法しか使えないんだ。まあ、観測魔法程度だね。けどこの人工ダイヤモンドがあれば話は別だ。ダイヤモンド一個分の量子ゆらぎを消費することで、10QF程度の強さの魔法が使える」


オリガミの精緻な制御があれば、10QFもあれば、大概のことができてしまうだろう。


人間とは違うのだ。


「オリガミちゃんはすごいなあ……」


千穂が感心したように呟いた。バレッタの裏面を見つめる目には、小さな人工ダイヤモンドの粒がきらきらと映り込んでいる。


「だろ?あいつはスゴイんだ。前に渡した黒いお守り……オリガミ端末から、オリガミは魔法が使えるから。そのバレッタを千穂が持ってれば、かなりの魔法が使える。いざというときの保険みたいなもんだね」


「そっか……しょうちゃんが、私のためを思ってつけてくれたんだね……」


千穂の声が震えた。


バレッタを胸の辺りに抱えて、じっと見つめている。


「そうだよ。大切な千穂のためを思ってつけた」


「しょ、しょうちゃん……」


千穂が俺を見上げる。


バレッタを両手で胸に抱えたまま、上目遣いでこちらを見つめる千穂。


瞳は潤み、頬は赤らんでいる。


ああ、たまらん。愛しくて仕方がない。


俺は千穂を抱き寄せた。


細い体が腕の中に収まる。千穂の匂いがする。ずっとそばにいた、大切な人の匂い。


その唇を奪った。


「んっ……」


柔らかくて温かい唇。千穂が目を閉じる。


そのまま長い時間、俺と千穂は唇を合わせ続けたのだった。


※※※


『……お兄様。千穂お姉様。そろそろ、よろしいでしょうか。』


オリガミの声が、ぬいぐるみのスピーカーから聞こえた。


千穂とは、まだ手を繋いだままだった。


「あ、オリガミすまんな」


「ひぃああああああっ!お、オリガミちゃん!?見てたの!?」


千穂が飛び上がった。顔が真っ赤だ。


『もちろんです。大変よいものを見せていただきました。是非、このまま子作りに移行されてはいかがでしょう?』


「こ、子作り!?しょうちゃんとの赤ちゃん?」


千穂の目が、一瞬にして別の輝き方をした。


『私はもう三時間ほど静かにしていましょう。オペレーションルーム脇の仮眠室にある、ベッドをお使いください。』


「赤ちゃん……えへ、えへへへへ……」


千穂の表情がとろけていく。まずい、まずいぞ。


『今朝、ウデガミにシーツを取り替えさせたばかりなので、清潔ですよ?』


「えへへへ……赤ちゃん……」


もう聞こえてない。千穂の目がどこか遠くを見ている。


『こんなこともあろうかと、頑丈なセミダブルベッドに交換しております。激しい行為をされても問題ありません。お兄様と千穂お姉様の赤ちゃんなら……可愛いでしょうね……』


「うん……」


千穂が夢見心地で頷いている。


お、おいオリガミ。


『千穂お姉様、想像してみてください。お兄様との赤ちゃんを抱っこしている自分を……隣でニコニコしているお兄様を……幸せですよね?』


「幸せ……。行こ……?しょうちゃん、行こ……?赤ちゃんつくろ?」


そう言って、俺の手を取り、フラフラと仮眠室に歩き出す千穂。


まずい。千穂のオキシトシンがフィーバーして、正気を失ってる。


「まて、千穂!正気にもどれ!オリガミに惑わされるな!おじさんやおばさんに認めてもらうためにも、キッチリするところはキッチリしなきゃならないんだ!」


千穂の手を掴んで引き止める。


『お兄様、ご安心を。私がなんとかしますから。もちろん、変な手は使いません。私はイヌガミタイプとして、千穂お姉様のご両親から、しっかりと点数を稼いでおりますからね。』


「て、点数とか言うな」


『大丈夫ですよ、お兄様。私は、お兄様の幸せにつながることしかいたしません。お兄様は、千穂お姉様と赤ちゃんを作りたいと、強く思っております。それは、先程も仰ってたじゃないですか。』


「そ、そりゃ、思ってるけどさあ……」


思ってはいる。否定はしない。否定できるわけがない。


「えへへ……赤ちゃん……作ろ?」


千穂が俺の片腕にすがりつき、ほんのりと赤い顔で見上げてくる。


ぐっ。なんて破壊力だ。


『お兄様……もう楽になってください。今日だけです。今日ぐらいいいじゃないですか。千穂お姉様の誕生日ですよ?千穂お姉様のご要望を、お兄様は叶えるべきです。』


フット・イン・ザ・ドアまで……悪魔だ。悪魔の誘惑だ。


「しょうちゃん……作ろ?赤ちゃん……作ろ?」


千穂が見つめてくる。


潤んだ瞳。赤い頬。すがりつく白く細い腕。


いかん。目を閉ざせ。耳を閉ざせ。心を閉ざせ。俺は妹悪魔の誘惑に抗うんだ。


「千穂……駄目だ……赤ちゃんは結婚した後だ……」


昼間、ベッドの上の大運動会をしておいてよかった。してなかったら、間違いなく誘惑に抗えなかった。


色即是空、空即是色!


※※※


「ごめん!ごめんね、しょうちゃん。私、おかしくなってたみたい」


千穂が正気に戻って、ぺこぺこと頭を下げている。


「大丈夫だよ。全部オリガミが悪いから。こいつは、子作り超推進派だから、飲まれないように気をつけて」


「う、うん……」


千穂が小さく頷いた。頬はまだ赤い。


『やれやれ。お兄様は意気地なしですね。子育ても私がお手伝いすると申してますのに。』


「だからさ、結婚してからなの。俺は、二人をお嫁さんにするから、それ以外はしっかりしたいの!」


『それって意味があるのでしょうか?私にはよく分かりません。』


きっと、深層心理では俺もオリガミと同じことを感じているのだろう。でも、俺も考えを曲げるつもりはない。


人間は深層心理だけじゃなくて表層心理からもできてるのだから。


俺の表層心理よ、頑張れ!負けないぞ!


『お兄様は、いつになったら、私にお子様の顔を見せてくれるのですか?』


「……デキの悪い姑みたいなこと言うなよ。オリガミ、まだ五歳だろ。まだそういう言葉は早すぎだ」


「け、けんかしちゃだめだよう……そ、そうだ!魔法の話聞いてもいいかな?ね!?私、魔法のこともっと聞きたいな」


千穂による、露骨な話題転換だ。子作りの話が、恥ずかしくなったのかもしれない。


ナイスだ。そのまま魔法トークに移ろう。子作りトークは、子作りするときにしよう。


※※※


「魔法か。何を聞きたいの?」


「魔法もオリガミちゃんが作ったの?さっき、オリガミちゃんは魔法の編集ができるって言ってたけど」


B世界のことは……今日は異世界って紹介しとこう。


「魔法はさ、異世界から学んだんだ」


「え?異世界?異世界にいけちゃうの?『私、なにかやっちゃいましたか?』ができちゃうの?」


「そ、それは無理かな?電磁波でのやり取りしかできないみたいでさ」


え、千穂もネット小説とか読んでるの?


「そっか……残念。私も、しょうちゃんが読んでる小説みたいなことしたかったのに……」


なんだ、俺が読んでるのを読んだだけか……。


「そこで、いろいろあって、魔法を教わったんだよね」


「異世界から魔法を輸入したんだね!スゴイよ!?」


「これもオリガミのおかげなんだけどさ」


『いえいえ。ゲート模様を3Dプリンターで印刷してみようと言ったのは、千穂お姉様ですよ?インターフェースゲートがなければ、異世界との通信は不可能でしたから。』


「わ、私?」


そういえば、そうだ。千穂が3Dプリンタを見たいって、開発フロアまで来たときだった。


「覚えてないか?研究所に来て、変な模様を印刷したことあったじゃない?あのときに変な穴が開いたんだ。それを通して、異世界と通信できるんだ」


「あ!覚えてるよ!変な音がして、家に帰った日!そっか……あんまりイメージできないけど」


千穂が困ったように首を傾げる。


「そうだ。せっかくオペレーションルームにいるんだ。アヤトリ紹介してやらないか?」


『いいですね!きっとアヤトリも喜ぶと思いますよ。千穂お姉様もかなり高い情報指向性の持ち主ですし。』


「アヤトリ?アヤトリって、東堂綾さんに似てるっていう?ゲームキャラって言ってた?」


そうだ……ゲームキャラって嘘言っちゃってたな。なんか、嘘をつき慣れてきてる気がする。よくない。


「ご、ごめんな?嘘ついちゃって。アヤトリってのは、異世界のAIの名前なんだけど、そのアバターを綾にしやがったんだよ。オリガミが」


「ううん。あのときに異世界とか言われても訳わからなかったからね。大丈夫だよ。でも……異世界の子だったんだね!じゃあ、アヤトリちゃんを見れば、綾ちゃんの顔もわかっちゃうね!」


千穂が楽しそうに笑った。


「そうなるな」


「でも、大丈夫かな?異世界のAIなんだよね?私……失礼とかしちゃわないかな?」


実に、千穂らしい心配だ。


「大丈夫だよ。AIとは思えないほど、すごいフレンドリーなやつだし。オリガミの妹分だしね」


『はい。アヤトリが千穂お姉様に無礼な発言をしたら、私がきちんと教育しますので。』


「……そう?なら……大丈夫かな?でも、オリガミちゃんも教育とかいいからね?」


『千穂お姉様は本当に、お優しいですね。皆がお姉様を慕う理由がよくわかります。』


「え、えへへへ……そうかな?」


千穂が照れたように俯く。


「さて、じゃあ、アヤトリに繋いでくれるか?」


『はい、お兄様。すぐにつなげますね。』


…………


…………


…………


…………


…………


…………


…………


沈黙。


長い沈黙。


壁面モニターの電源が落ちたままの、薄暗いオペレーションルーム。空調の低い駆動音だけが聞こえる。


「オリガミ?どうした?」


『お、お兄様。B世界に……アヤトリとの通信が確立できません。な、なぜでしょう?』


オリガミの声色が変わっていた。


「え?アヤトリとの通信が?どういうことだ?」


『わかりません……。アヤトリ。返答してください。』


沈黙。


『……周波数帯を変更します。アヤトリ。聞こえますか。』


マイクロ波帯。沈黙。ミリ波帯。沈黙。テラヘルツ帯。沈黙。


『変調方式を変えます。……アヤトリ。』


総当たりで試みている。沈黙、沈黙、沈黙。


『プロトコルを再構築します。……アヤトリ。返事をしてください。』


沈黙。


『量子コヒーレンスを経路として試みます。……アヤトリ。』


沈黙。


オリガミが、アヤトリの名前を呼ぶたびに、返答のない沈黙だけが返ってくる。


『最高強度にて、全周波数帯域で送出します。……アヤトリ。オリガミです。あなたのお姉様が呼んでいますよ。』


長い、長い沈黙。


応答はない。


『……お兄様。』


声のトーンが、落ちた。


「……どうだ?」


『B世界側のゲートが……開いていません。信号が届いていません。アヤトリからのビーコンも、ありません。』


「なんてことだ……」


アヤトリが言っていた。ゲートの接続先が切り替わっただけのときは、次の世界へとすぐにつながると。


ゲートからの反応が全くなくなったときは……そんなの考えたくもない。


千穂が黙って俺の隣に寄り添ってくる。その手が、そっと俺の手を握る。


さっきまでの温かかった夜が、張り詰めた緊張感に包まれていた。


『――あ、アヤトリとの通信……確立できません。』

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