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オリガミ - 妹AIを神にするため、俺は成り上がる【カクヨム完結済/なろう連載中・累計59万PV】  作者: けーきまる
研究所を建設しよう

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千穂大爆発

千穂の手を引いて、廊下を歩く。


向かう先は、物置だ。


「しょうちゃん、物置に行くの?」


「ああ。その通りだよ」


千穂が小首を傾げた。


「でも……あの部屋、小さい頃に探検したことあるよ?何もなかった気がするけど……」


「実はさ、父さんの研究室があったんだ。物置の奥から行ける地下室にな」


「え?おじさんの?」


千穂が目をぱちくりさせた。


物置の扉を開ける。古い段ボール箱と掃除道具が並ぶ空間。左奥には、妙な壺がずらりと並んだ棚がある。


ネムのコンピューターなどは、全て研究所に移され、今はもとの状態に戻されている。


「あ、この壺の棚、小さい頃怖くて近寄れなかったんだよね……なんだか壺が倒れてきそうで」


俺も千穂と同じだった。やれやれ……父さんの思惑通りだったってことだな。


「実はこれ、棚ごとスライドするんだよ。ちなみに壺はしっかり接着されてるから倒れない」


壁の感圧式スイッチに触れる。


低い駆動音とともに、壺の棚がゆっくりと横に滑った。


「ええっ!?す、すごい!秘密基地みたいだね!」


千穂の目が輝いている。


暗がりに自動照明が反応して、パッと足元が照らされた。地下への階段が姿を現す。


「行くぞ。足元に気をつけてな」


千穂の手を握り直して、地下への階段を降りていく。


柔らかくて温かい手。俺が共に生きていきたい人の手だ。


今からこの手の持ち主に、俺たちの全てを見せる。


階段を降りきった先に、スライドドアがある。


ドアの前で立ち止まる。


「……千穂」


「うん」


「ここから先は、研究所の心臓部だ。準備はいいか?」


千穂がこくりと頷いた。


ドアに手をかざす。認証が通り、スライドドアが左右に開いた。


※※※


暗闇だった。


一歩踏み出した瞬間、照明が点灯する。


白い光が、一斉に空間を満たしていく。


「……こ、ここは……?」


千穂が息を飲んだ。


目の前に広がっていたのは、途方もなく広い空間だった。


白い床。白い天井。そして――整然と並ぶ、無数の黒い箱。


一辺およそ一メートルの立方体。その側面には、折り鶴のマークが白く浮かび上がっている。同じ形の箱が、等間隔で、どこまでも続いている。


千穂は口を半開きにしたまま、呆然と立ち尽くしていた。


「ここはコアフロア。この研究所の中枢だよ。――オリガミAIの本体が置かれてる場所だ」


声が静かに響いた。静かな空間のせいか、わずかに反響する。


「お、オリガミAI?」


「千穂の家にいるイヌガミも、研究所で作業してるイヌガミタイプも、ウデガミも、全部オリガミAIが動かしてるんだ」


千穂がゆっくりと周囲を見回す。


「床に沢山の黒い箱があるだろ?折り鶴のマークがついた」


「うん……」


黒い箱が整然と並ぶ光景は、壮観というよりも、どこか神秘的だった。


「この黒い箱は、オリガミタンクっていうんだ。一つ一つが、オリガミAIの頭脳の一部なんだ」


「タンクって……水槽なの?」


「うん、まあ水槽かな。超純水に様々な必要物質が溶け込んだ液体が入ってる」


「液体……?AIなのに?半導体とかじゃないってこと?」


千穂の疑問はもっともだ。普通ならAIといえば半導体を思い浮かべるだろう。


「オリガミAIは特殊でさ、半導体は使ってないんだ。DNAで作られたAIなんだよ」


「DNA?」


「そう。父さんは、ナノボットをニューロンとしてAIを作ってやろうと思ってたみたいなんだ。シミュレーションでそのナノボットの立体構造までは計算できてたみたいなんだけど……その立体構造を実際に作れなかったみたいでさ」


ここから先は、俺自身の話になる。


「あるとき、父さんがさ、なんかよくわからないデコボコした模型を持ってきて、この構造を折り紙で折れないかって頼まれたんだよね。父さんからの頼みごとなんて珍しかったから、パパっと折ってあげたんだよ。そのデコボコした物体っていうのが、シミュレーションで導き出したナノボットの立体構造だったわけなんだが」


「しょうちゃんが折り紙で?」


「ああ。研究で行き詰まってた、父さんの気まぐれだったんだと思う。俺の考えた折り方で、上手くいくなんて思ってなかったんだと思う。でもその折り方を、DNAオリガミ技術で再現したら……自己組織化して、その立体構造が完成しちゃったんだよ」


千穂が目を丸くしている。


「しょうちゃんの折り紙が鍵になったってこと?」


「そう。そこが不思議なんだよ。何故か俺の考えた折り方じゃないと、どのDNAナノボットも、思ったとおりに自己組織化しないみたいなんだ」


千穂はまだ半信半疑のようだ。


「でも……DNAを使ったAIなんて聞いたことないよ?ネムちゃんが来てからAIについて色々調べたけど……」


「ああ、そりゃそうだよ。だって世界でここにしかないもの。オリガミAIは世界最高のAIだからね。それも他のAIよりも何世代も先をいくレベルの」


「世界一のAI……」


そう言うと、千穂がもう一度、広大な空間を見渡した。


黒い箱が静かに並んでいる。白い折り鶴のマークが、照明に照らされ、ただの黒い箱を神秘的なものにしている。


「すごい……すごいよ、しょうちゃん!」


千穂が両手を胸の前で握り締めた。その目がキラキラと輝いている。


「しょうちゃんたち、そんなスゴイ研究してたんだ!」


「うん、そうなんだ。オリガミAIはスゴイんだよ。でも、すごいから……すごすぎるからこそ、秘密にしなきゃいけなかったんだ」


千穂の表情が、ふっと不安そうなものへと変わった。


※※※


タンクの間の通路を歩きながら、話を続ける。


千穂は俺の隣を歩きながら、静かに耳を傾けていた。


「こいつは……オリガミAIは、世界のバランスを崩してしまう、そんな代物なんだ」


「世界のバランス……?」


「ネムなんて、このオリガミAIを手に入れた国が、次の覇権国家になるとまで言ってた。だから、秘密にせざるを得ないんだ」


千穂の足が止まった。


「覇権国家……」


「そんなわけでオリガミAIの存在が漏れた暁には……間違いなく様々な組織に狙われることになる。そこら辺の組織ならなんとでもなるんだよ。俺たちは、もうそれを跳ね除けるだけの力があるから」


千穂は黙って聞いている。


「でも、相手が国家だった場合は話が別だ。俺たちだけじゃ、どうにもならないことがある。そして、最終的に俺たちの敵になるのは、おそらく今の覇権国家だ」


沈黙が落ちた。


タンクの間を吹き抜ける、かすかな空調の音だけが聞こえる。


「しょうちゃん……」


千穂の声が、震えた。


「大変だったね?」


その言葉と同時に、千穂の両腕が俺の頭を抱きしめた。


千穂の胸の中に、顔が埋まる。柔らかくて温かい。


……千穂の匂いがする。


「ずっと、ずっと……こんな重いもの、抱えてたんだね……」


「……千穂」


「泣いてもいいんだよ?」


泣かない。泣かないけど。


……くそ。千穂の温かさが、沁みる。


しばらくそのままでいた。


千穂の心臓の音が聞こえる。穏やかに、一定のリズムで鳴っている。


顔を上げる。


「ありがとう、千穂。大丈夫だ」


千穂が少し寂しそうに微笑んで、腕を解いた。


「……ねぇ、しょうちゃん。オリガミAIを渡しちゃうことは、できないの?」


当然の疑問だろう。


「そう簡単にはいかないんだ」


「そうなの?」


「たとえオリガミAIを渡したとしても、俺たちの平和な生活は戻らない。オリガミAIを手に入れた国も、俺たちの口封じをしてくるだろうし、他の国も必死になって俺たちを手に入れようとしてくるはずだ。なんてったって、オリガミAIの研究者だからな」


俺は静かに続ける。


「それに……俺はDNAナノボットニューロンを設計できる唯一の存在らしいから」


「ゆ、唯一?」


「ああ。俺の考えた折り紙のやり方で折らないと、DNAはナノボットの形に自己組織化しないんだ。何故かわからないけどね。だから……俺は大切に扱われるかもな。そして、一生DNAナノボット設計のための機械として使われるんじゃないかな」


「機械として……?そんなの、だめだよ!」


「俺だって、もちろん嫌だよ。でも、多分拒否できない」


「な、なんで?」


「俺の大切な人間が、間違いなく人質に取られるからだよ。もし千穂やネムが人質に取られたりしたら、俺はいいなりになるしかないんだ」


千穂の瞳に、みるみる涙が浮かんだ。


「そ、そんな……ひどい……ぐすっ!」


俺は千穂の頬に手を伸ばして、涙を拭った。


「泣くなって。大丈夫だから。俺たちはまだ負けてないし、負けるつもりもない」


千穂がぐしぐしと目を擦る。


「渡せない理由はまだあるんだ。むしろこっちの比重が高い」


「え?」


「紹介するよ。こっちに来てくれ」


千穂の手を取って、オペレーションルームへ向かう。


※※※


コアフロアの一角にある、厚い扉の前に着いた。


認証を通して開ける。


オペレーションルームだ。壁面を埋め尽くす大型モニターに、ローテーブルとソファ。


今は、モニターの電源は落としてある。代わりに、部屋の照明だけが静かに点いていた。


「ぐすっ!ぐすっ!こ、ここは?」


ベソをかき続ける千穂に優しい声で答える。


「ここはオペレーションルームだ。色々な作戦行動をモニターするための部屋だな」


「ぐすっ!作戦行動ってなに?」


「うーん。それは後まわしにして……ソファに座って……ほら、もう泣かないで。俺は大丈夫だから」


背中を擦りながらそう言うと、目をうるませながらも、言う通りにソファに腰を下ろした。


「さあ、これから千穂に俺の家族を紹介するよ……今日はそのためにここに来てもらったんだ」


「か、家族?」


「ああ、家族だ。大切な大切な家族だ。じゃ、紹介するね」


千穂の手を離して、部屋の奥へ声をかける。


「俺の大切な妹――『オリガミ』だ」


棚の影から、それが現れた。


イヌガミタイプ2。千穂の家にいるのと同型の、犬型のロボットだ。


だが、一つだけ違うところがある。


その背中に、ふわふわのピンク色の折り鶴ぬいぐるみが乗っていた。首元にはフリフリのレースのリボンが結ばれている。


……おずおずと、ゆっくりと歩いてくる。


ソファに座っている千穂の前まで来ると、イヌガミタイプは軽く姿勢を低くした。背中のぬいぐるみが、ちょうど千穂の膝の高さに来る。


千穂は目を丸くして、それを見つめている。


『千穂お姉様……初めまして。オリガミと申します。宗一郎お父様の娘で、正太郎お兄様の妹です……こ、こんな恰好ですみません……。』


オリガミの声が、折り鶴のぬいぐるみの内側から流れた。


いつもの澄んだ声だが、少しだけ緊張しているように聞こえる。


「千穂、この子は俺の妹の『オリガミ』だ。俺の大切な家族なんだ。AIだから体はないけど、今はこの機体を動かしてもらってる」


千穂に向き直って説明する。


しかし――千穂の反応がない。


微動だにしない。


目を見開いたまま、ピンクの折り鶴のぬいぐるみを凝視している。フリーズしている。完全に。


『ち、千穂お姉様?どうされましたか?何か不備でもございましたでしょうか?』


オリガミが不安そうに声をかける。


俺は千穂の肩に手を置いて、軽く揺さぶった。


「千穂?おーい、千穂?」


その瞬間だった。


千穂の手が、ぷるぷると震えながら、ぬいぐるみへと伸びた。


そして――千穂の声が大爆発した。


「きゃ、きゃ、きゃわいいーー!!」


千穂が飛びつき、ピンクの折り鶴ぬいぐるみを両腕で抱きしめた。


「かわいい!かわいい!かわいいよぉ!オリガミちゃんっていうの?私、朝比奈千穂っていうの!よろしくね!」


「ちょ、千穂!?」


予想を上回る勢いだった。


『ち、千穂お姉様?この格好、かわいいですかね?』


オリガミが困惑した声を出す。


「かわいいよ!かわいすぎるよ!オリガミちゃん、ずっと私のところにいるイヌガミちゃんだよね!」


『え……?ど、どうしてそれを……?』


オリガミの声に、わずかに動揺が混じる。


「千穂お姉様だって!きゃー!きゃー!かわいい!かわいいよぉ!イヌガミちゃんのときもかわいかったけど、このぬいぐるみが乗ってる姿も最高だよぉ!」


千穂のテンションが天元突破している。


さっきまでグスグスと泣いていた人間と同一人物とは思えない。


「そうだろう、そうだろう。オリガミは超かわいいヤツなんだよ」


俺は腕を組んで、誇らしげに頷いた。


さあ、妹自慢の時間だ。存分にやらせてもらおう。かわいいだけじゃないぞ?こいつは超賢いんだ!


『えっと、千穂お姉様、私がイヌガミだって、どうしておわかりになったんですか?』


オリガミは理由が気になって仕方がないようだ。


「当たり前だよ!だって私の様子を窺う動きが一緒だもん。他のイヌガミタイプの子たちと違うもん!」


『は、はい、千穂お姉様。さすがですね……よく観察されています。』


オリガミが感心したように言った。


そうなのだ。普通のイヌガミタイプは、オリガミの中にある、イヌガミタイプを操作するためだけのリージョンが動かしている。


だが、千穂に付き従っているイヌガミは違う。あの機体は、オリガミが直接コントロールしているのだ。


理由は簡単だ。オリガミが直接動かしたほうが性能が高くなるからだ。


千穂の安全のため、彼女の傍にいつもいるイヌガミには、最強の存在であって欲しかった。だから、イヌガミだけはオリガミが操作していたのだ。


だけど、それを見抜くとは……すごいな、千穂。


「じゃあ、私のイヌガミちゃんも喋るようになるんだね!ううん!オリガミちゃんって呼んだほうがいいかな!?」


千穂がぬいぐるみを抱きしめたまま、オリガミに熱く語りかける。


『千穂お姉様が、そうお望みなら。』


「千穂お姉様だって!キャー!キャー!かわいすぎるよぉ!」


千穂がぬいぐるみに頬ずりしながら、きゃーきゃーと騒いでいる。


ふむ、思った以上の好反応だ。


ほら見ろ、オリガミ。


「な?オリガミ、これでよかったろ?『手抜き』じゃなくて、これがベストだったんだよ!」


オリガミは、ぬいぐるみは「手抜き」だと言った。もっとかっこよく登場したいと言った。実に不満そうだった。


だけど、千穂にはそんなものは要らない。ぬいぐるみだ。ふわふわのピンクの折り鶴ぬいぐるみ。それが正解なんだ。


かわいいは正義なのだから。


『お兄様の仰っていた通りですね……私もまだまだのようです……。』


オリガミの声に、まだ納得していない響きがあった。


千穂は止まらない。


「きゃー!お兄様だって!しょうちゃんのことお兄様って呼んでるぅ!オリガミちゃん、かわいい!かわいいよぉ!」


ぬいぐるみを抱きしめ、頬ずりし、撫で回し、また抱きしめる。


千穂のかわいいの無限ループが止まらない。


……とうぶん戻ってこないだろうな、これは。


ソファに腰を下ろして、幸せそうな千穂と困惑するオリガミを眺めることにした。


千穂はなかなか戻ってこないのであった。


※※※


ふう……ようやくだ。ようやく千穂にオリガミについて話せた。


こんな開放感は、千穂に秘密を抱え始めてからは、一度もなかったかもしれない。


数年もの間抱えていた、重い……本当に重い荷物を下ろせた気分だ。


俺の心は今までになく軽くなっていた。


さて……次は、この世界の話でもするかな……?

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