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オリガミ - 妹AIを神にするため、俺は成り上がる【カクヨム完結済/なろう連載中・累計59万PV】  作者: けーきまる
研究所を建設しよう

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千穂③

七月七日。七夕。


千穂の、二十一歳の誕生日だ。


玄関先で、ネムが出発の準備をしている。


今日は千穂と二人きりで過ごしたい。


俺だけで、オリガミのことを彼女に伝えたい。


そう頼んだら、ネムは快く引き受けてくれた。


代わりに、俺が密かに隠し持っていた、予約一年待ちのスイーツバイキングのチケットをせしめられたのだが。


ネムは、ダボダボ白パーカーに、黒いショートパンツに黒いストッキングを着ている。完全にいつもと同じ格好である。


そんな彼女が、玄関で声を張り上げた。


「じゃあ、ワタシは出張に行ってくるな!デキる女は仕事もプライベートも充実してるものだ!」


ネムが腰に手を当てて、胸を張っている。


その小さな体で精一杯の大人アピールをしている姿は、微笑ましいとしか言いようがなかった。うーん、さすがドールハウスのマスコットだ。


「ああ、行ってらっしゃい。気をつけてな」


「正太郎!例のスイーツバイキングのチケットありがとうな!アレ、ワタシ行ってみたかったんだよ!」


「パティシエの先生のツテでな、なんとか買えたんだよ」


それより聞きたい。俺がそれを持っているのを、どこで知ったのかを。


千穂が横から顔を出す。


「ケーキバイキング?ネムちゃん、ケーキバイキング行くの?出張行くんじゃなかったの?」


ネムの顔が一瞬固まった。


「しゅ、出張先のホテルでのケーキバイキングな!出張はバリバリあるぞ!バリバリだ!」


「そっか……ネムちゃんがいないとちょっと寂しいな……どこに出張なの?お弁当とかいらない?」


千穂が小首をかしげて、本気で心配している。


ネムの目が泳いだ。


「に、西の方にちょっと……が、学会があるんだ!それで登壇しなきゃいけないんだよ!」


ヤバイ。嘘に嘘を重ねて、ネムがどんどん追い詰められている。


俺のお願いのために、これ以上ネムに嘘をつかせるわけにはいかない。


横から助け舟を出すことにする。


「ちょっと、会社関連で学会からネムの登壇を頼まれちゃってな。例の介護ロボットの件。あれ関係で、ネムが講演することになったんだよ」


「そうなんだ。ネムちゃん、気をつけていってきてね?」


千穂がにこにこしながらネムの手を握った。


ネムが安堵の表情を浮かべる。嘘なんてつかせて、すまん、ネム。


「お、おう!じゃあ、いってくるよ。正太郎も千穂ちゃんも、ちゃんとラブラブベタベタするんだぞ?わかったか?」


「う、うん。わかったよ。ね、ネムちゃんに、美味しいご飯を作らなきゃだしね!」


「それは絶対に頼むぞ!?ワタシは今夜、千穂ちゃんの料理を食べられないんだからな!」


ネムは涙目だった。


「では、早瀬さん、ネムをお願いします」


玄関の外に待機していた、護衛の早瀬さんに声をかける。早瀬さんはいつものパンツスーツ姿だ。


「任せてください、正太郎様、千穂さん。しっかりとネムさんの護衛任務させていただきます。コレのために!」


早瀬さんが、人差し指と親指でビシィッと丸を作る。いつものお金のジェスチャーだ。これを見るのも何度目だろうか。


「……ふふふ、早瀬さん、いつもそれ言ってるね」


千穂がくすくすと笑う。


「うっ……そ、そろそろ別のネタ探さないと駄目ですかね……?」


早瀬さんは苦笑いしながらそう言うと、ネムを促して、車の方へ歩いていく。


「では、正太郎様、ネム様をお預かりしますね」


「じゃあな、正太郎!千穂ちゃん!明日帰ってくるからな!」


ネムが大きく手を振る。


俺と千穂も手を振り返す。


早瀬さんの運転する高級車は、滑るように研究所の正門から家を出ていったのだった。


※※※


リビングに戻る。


二人きりだ。


「いっちゃったね」


千穂がソファに腰掛けながら、窓の外を見た。


「ああ。ネムが家や研究所にいないのは久しぶりかもな。あいつ引きこもりだし」


「そうだね。でも、私とたまに研究所の周りを走ってるんだよ。体力つけたいって」


「そうなのか?」


初耳だった。ネム、そんなことしてたのか。


「うん。しょうちゃんをもっと満足させたいんだって」


「うっ!」


嬉しいなぁ……。


「ネムちゃんは、しょうちゃんのこと、大好きだからね!」


千穂が目を細めている。千穂は本当に、ネムのことを娘のように可愛がっている。ネムのほうが年上なのに。


「……まったく、千穂もネムも、俺には勿体ない女の子だよ」


「そんなことないよ。しょうちゃんは、かっこいいんだから!」


か、かっこいい?……あ、もうだめだ。


千穂が、可愛すぎる。


「え、なに?」


「ごめん千穂。部屋にいこうか」


「え?え?え?わわっ!」


俺は、戸惑う千穂をお姫様抱っこして、自分の部屋へ連れ込んだ。


有無を言わせない。


「え?え?え?」


千穂はまだ戸惑い気味だ。


そんな千穂の桜色の唇を、強引に奪う。


「ん、んんっ……ま、まだ昼だよう……」


「千穂、ごめん。我慢できない」


今日は千穂の誕生日だ。


一日中、千穂の望むことをやろうと思っていた。


だが……俺は、耐えられなかった。千穂が魅力的すぎたのだ。


「しょうちゃん……」


千穂の手が、俺の背中に回る。


そして俺と千穂は、昼間から愛し合ったのだった。


※※※


お昼過ぎ。


シャワーを浴びて、服を着替えて、リビングに戻ってきた。


結局、千穂にお昼ご飯を作ってもらってしまった。


俺、駄目だなぁ。


食後、めずらしく千穂がほっぺたを膨らませて文句を言ってきた。


「もう!しょうちゃんは、えっちなんだから!もうお昼過ぎになっちゃったよ!」


怒ってる姿も、実にキュートである。


「し、仕方ないだろ。千穂が可愛すぎて我慢できなかったんだよ。くそっ!早く結婚したいな!」


「け、結婚?」


千穂が目を丸くした。


「そう。千穂と結婚して、赤ちゃんを作るんだ。そして仲良く末永く暮らす」


「あ、赤ちゃん?」


千穂の顔が、みるみる赤くなっていく。


「柚希さんの、灯(あかり)ちゃん見てさ。すごく可愛いと思ってさ。もし俺と千穂の子供だったら、どんだけ可愛いのかなって思って」


「うん、灯ちゃん、すごく可愛かったよね!わ、私も……しょうちゃんとの赤ちゃん、欲しいな……」


千穂が顔を赤らめてモジモジしている。


チラッチラッと上目遣いでこちらを見てくる。


……やばい。千穂が可愛すぎる。このままだとまた俺が暴走してしまいそうだ。


慌てて千穂から目を背ける。


さて。もっとイチャイチャしていたいが、俺にはやることがある。そろそろ作業に入らなければ。


「じゃあ俺はタルト作るよ。千穂はどうする?」


「私は、しょうちゃんの料理を見てるから!」


千穂に見られると緊張するんだけど……。絶対に千穂の方が上手だし……。


「大丈夫だよ。しょうちゃんが私のために何かを作ってくれるだけで嬉しいんだから」


そう言うとテーブルの椅子に座り、にこにこしながらこちらを見てくる。


どうしよう。作業工程について千穂大先生に「素人質問で恐縮なのですが……」などと言われたらどうしよう。


固まる自信あるぞ?「あ……、えっと、それは……その……」って、口モゴモゴってなっちゃうぞ?


だが、俺も男だ。


こんなことでへこたれてなるものか。


「千穂大先生に笑われないように、俺、頑張るから!そこで見守っててくれ!」


「うん。絶対に笑わないけどね!」


千穂が目を細めて言った。


絶対笑わないって言ったからな?信じるからな?


※※※


工程はしっかりと、プロのパティシエに習っている。


お菓子作りに関しては、普通の料理以上に、レシピ通りに作ることが大切だ。


アレンジなどは厳禁である。


冷蔵庫から、前もって寝かしておいたパイ生地を取り出す。一晩休ませた生地は、ほどよく締まっている。


まず麺棒で伸ばす。一定の厚さに、丁寧に。


……折り紙でいうなら、折り目を揃えていく感覚に近い、か?


いや全然違うな。折り紙は紙の反発力と折り目の精度で制御するが、タルト生地は弾力と粘性のバランスで押さえていく。全然違う。


タルト型に生地を敷き込む。端をつまんで貼りつけ、余分な生地はナイフで切り落とす。


これが意外と難しい。


指先だけで厚みを均一に保ちながら、型の形に沿わせていかなければならない。


「しょうちゃん、上手だよ!」


「千穂、まだだ!まだ褒めるな!これからが本番だ!」


フォークで底面をピケしていく。丁寧に、丁寧に。


「……なんか、真剣な顔してるね」


「折り紙と同じ集中力で臨んでる。俺の千穂への愛の結晶だ」


「愛の結晶……え、えへへ……」


千穂が照れて俯いた。


次はアーモンドクリームだ。


昨夜作って冷蔵しておいたやつ。バター、砂糖、アーモンドパウダー、卵を混ぜたものだ。レシピ通りに作っているので問題ないはず。


スプーンでアーモンドクリームを型に流し込む。表面を均して、厚みが均等になるように。


仕上げは洋梨だ。


昨日シロップで煮ておいた洋梨をスライスして、タルトの上に並べていく。外側から内側へ、扇形になるように。


これが一番楽しい工程だ。デザインしている感じがある。


よし。……まあ、まあまあ綺麗に並んだと思う。


「こんな感じかな。オーブンに入れるぞ」


予熱しておいたオーブンの扉を開ける。


ここまで来たら、あとは機械に任せるしかない。


180度で40分。扉を閉める。


これで、後は待つだけだ。


うまくいきますように。


※※※


――40分後。


オーブンから取り出す。


生地はきちんとサクサクに焼けている。焦げているところもない。洋梨も綺麗に色づいている。


成功だ。我ながら、よくできた。


「しょうちゃんすごい!」


千穂がにこにこしながら、俺を見ている。


やっぱり、たどたどしい部分があったんだろうな。


千穂の目は、子供を見守るような目だ。


ふーっと息を吐く。


「め、めちゃくちゃ緊張したよ」


「うん、すごく頑張ってた!しょうちゃん、かっこよかったよ!」


千穂の前で無様をさらさずに済んだ。それだけでも大きな成果だろう。


さて、タルトは粗熱を取ってから冷蔵庫で冷やす必要がある。食べるのは夕食後だ。


※※※


その後は、千穂に耳かきと膝枕をされていた。


おかしい……今日は俺が千穂をもてなす日のはずなのに。


「あ!おっきなのを見つけたよ?とっていい?」


「おねがいしゃ〜す〜」


「ふふふ。しょうちゃん、ゆるゆるになっちゃってるよ?」


ああ……そこ……マジで気持ちいい……。


「き、今日は俺が千穂にご奉仕しようと思ってたのになあ……」


「大丈夫だよ。私はこうやってしょうちゃんのお世話をするのが大好きなんだから」


て、天使だぁ……。


俺が完全にとろけかけたところで、インターホンが鳴った。


ピーンポーン


「しょうちゃん、お客さんかな?」


「料理のケータリングが届いたんだと思う。受け取ってくるわ」


名残惜しいが、千穂の膝から頭を持ち上げる。


「うん、わかった。じゃあ、私はお皿を用意しておくね」


千穂が小走りでキッチンに向かう。誕生日なのに、俺が千穂の世話になってしまっている。


おかしいなあ……?


※※※


その後は、届けられた料理を、千穂と並んで食べた。


高級レストランのケータリング。前菜からメインまで、一つひとつが丁寧に仕上げられている。


「美味しいね!美味しいね!」


千穂は嬉しそうに食べながら、時折何やらメモしている。


料理の参考にするつもりなのだろう。


……まったく、千穂はすごいな。


誕生日ディナーですら勉強の場にしてしまうとは。


俺も、もぐもぐと料理を味わう。


ふむ……やっぱりなんか物足りないな。俺は千穂の料理のほうが好きみたいだ。


千穂ってやっぱりスゴイんだなあ。


※※※


食後。


冷蔵庫で冷やしておいたタルトを取り出し、六等分にカットしてお皿に盛り付ける。


千穂の前に、コトリと置いた。


「さあ、お嬢様。どうぞ召し上がれ」


「わああ!しょうちゃん、おいしそうだね!」


千穂がフォークを手に取り、ひと口食べる。


しばらくの沈黙。


心臓が止まるかと思った。


「……おいしい!」


よかった。


「サクサクだよ!洋梨も甘くて、美味しい!」


息を吐く。全身の力が抜けていく。


「本当に?辛口でいいぞ?」


「本当に美味しいよ。ちゃんと」


千穂がにこにこしながら、もうひと口食べる。


……よかった。本当によかった。


プロのパティシエに教わっておいて、これで失敗していたら泣くところだった。


「しょうちゃん、ありがとう。すごく嬉しい」


千穂が、静かにそう言った。


千穂の声は、穏やかだった。


「千穂に喜んでほしくて作ったからな。練習で十台くらい洋梨タルト作ったぞ。お菓子作りも大変だな?」


「うん……」


千穂はもう一度タルトを見て、また小さく笑った。


……さて。食事も終わった。


タルトも無事に成功した。千穂も喜んでくれた。


ここまでは、完璧である。


だが……ここからが本番なのだ。


※※※


「千穂」


呼びかけると、千穂がフォークを置いてこちらを見た。


「これから俺の……いや、俺たちの全てを、千穂に話そうと思う」


「…………!」


千穂が息を飲んだ。


目が大きく見開かれる。


「今までごめんな?仲間外れみたいな形になっちゃって」


「それはいいんだけど……?いいの……?私……知っていいの?秘密を隠したりするの、得意じゃないよ?」


千穂が不安そうな顔で、自分の胸元を押さえた。


知っている。千穂が嘘の下手な子だってことは。


「そこは問題じゃなかったんだ。千穂がうっかりさんで秘密を漏らしそうになったとしても、それを止める技術はあるんだよね」


「そ、そうなんだ」


千穂が目をぱちくりとさせる。


「なんていうかな……秘密を抱えてること自体が千穂の重荷になるんじゃないかと思ってたんだ。本当にごめんな?」


俺がずっと恐れていたのは、それだった。


正直、俺たちの秘密は重すぎる。流出すれば、世界大戦になるかもしれないというレベルのものだ。


そんな秘密を抱えることが、心に及ぼす重荷は、俺がよく知っている。


「そうだったんだね。私のためにありがとう」


千穂が微笑んだ。優しい笑顔だった。


「だけど、その秘密が秘密じゃなくなりそうなんだ」


「どういうことなの?」


「秘密がバレちゃうような技術が、この世界に生まれたんだ。量子コンピューターって言うんだけどね」


「量子コンピューター?なんかスゴイ計算ができるって、前に動画で見たような……」


「そうそう。それだよ。それが普及したら……俺たちの秘密が、世界中にバレてしまうんだ」


千穂の表情が、真剣なものに変わった。


「そうだったんだね……。その秘密って……今から教えてもらえるの?」


「ああ。千穂には是非とも知っていてほしい」


「私に?り、理由を聞いてもいいかな?」


何故千穂なのか。そう思うのは、当然のことだろう。


「理由か……これは俺の家族に関することなんだ」


「家族?しょうちゃんのお父さんのこと?」


「そう、俺の父さんにも大きく関係してることなんだよね」


父さん、と口にした瞬間、胸の奥が少しだけ疼いた。父さん、俺は今日、一歩踏み出すよ。


「ちなみにこのことは、一緒に父さんの研究を引き継いだネム以外は知らない。だから、この秘密を打ち明けるのは千穂が初めてだ」


千穂の瞳が揺れた。


「すごく重要そうなことだけど……私なんかが知っていいのかな?」


「千穂だから知っていてほしいんだ……千穂だから……でも……」


「でも……?」


千穂が、不安げに俺の顔を覗き込んだ。


「……俺は千穂に知ってほしいけど……ち、千穂が望まないなら……それを無理強いするつもりはないよ……というか、無理強いなんてできない」


声が震えた。


「ひ、秘密を知ってしまったら、もう俺たちのもとから離れられないと思うから……」


覚悟を決めて伝えた。


千穂には、選ぶ権利がある。知ってしまえば、もう戻れない。


沈黙が落ちる。


数秒が、永遠のように長かった。


「わかった」


千穂が、まっすぐに俺を見た。


「大丈夫だよ。全部、教えて。しょうちゃんの元から離れることなんて、絶対にないから!何があってもだよ!」


千穂の声は、まっすぐだった。


「ときどき、しょうちゃんが苦しそうにしてたのって、私に隠し事をしてる罪悪感だったんだよね?それなら、私がその秘密を知れば、しょうちゃんは楽になれるんだよね?」


……苦しみも筒抜けだったのか。うまく隠してたつもりだったんだけど。


「そっか……俺の考えてること、全部ばれちゃってたんだな」


「もちろんだよ。私は、しょうちゃんの幼馴染で婚約者で、しょうちゃんのことを一番長く見てるんだからね!それに、しょうちゃんのことが、だ、大好きだからね!」


千穂が、顔を赤らめながら、にっこりと笑った。


やばい、眩しすぎるだろ。


「ち、千穂……」


……くそ。かなわないな。


「じゃあ、案内してくれるかな?しょうちゃんたちの秘密の場所に。なんだか、ちょっとドキドキするかも!」


千穂が立ち上がった。


「わかった。ありがとう。じゃあ、今から研究所の地下一階にいこう」


俺も立ち上がる。そして、千穂の手を取った。


柔らかくて温かい、千穂の手だ。


さあ行こう。


この研究所の心臓部である「コアフロア」へと。


――オリガミのもとへと。

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