思い出めぐり
ある晴れた日の、午前中のこと。
その日は、珍しく何の予定も入っていなかった。
千穂は大学へ。
ネムは朝から開発フロアに籠もりきりだ。介護ロボットの制御AIに調整したい部分があるらしく、鬼気迫る勢いでキーボードを叩いている。邪魔をするのは無粋というものだろう。
つまり、今日の俺は完全にフリーだ。
せっかくの空白の時間。ここは一つ、折り紙魔法「折」を使って、一日中魔法折り紙に没頭してみよう。
折り紙魔法の『折』を習得したのに、目まぐるしい日々の連続で、肝心の魔法を使った折り紙を楽しむ時間がまったく取れていなかったのだ。
よし。今日は魔法折り紙の日だ。
そう決意を固めたときだった。
天井のスピーカーから、オリガミの声が降ってきた。
『お兄様。たまには散歩などされてはいかがですか?』
……散歩?
なんだか、懐かしい響きの言葉だ。
「散歩って……俺ひとりで外に出ちゃって大丈夫なの?」
『問題ないでしょう。』
「え?マジで?」
『はい。先日「害意検知」という魔法を構築しまして、お兄様に対する害意を観測できるようになりました。』
「何それ?俺に悪さしようってやつがわかるってこと?」
『正確には――お兄様に対して害意を抱く者が、お兄様を目視で捉えている場合に限り、その害意を観測できます。』
俺のことを見て悪いことを考えてたら、それがわかるってことか。
「すごい便利じゃん!」
『ただし、あくまでお兄様を「見ている」相手に限ります。事前に罠を仕掛けておくなど、直接の目視を伴わない害意は検知できません。ですので、完全ではないのですが……』
「そっか。まあ、でも十分だろ」
『ええ。現段階では、お兄様に対してそのようなトラップを配置してくるような相手はいないでしょうし。』
「げ、現段階とか言うなよ……」
将来的には現れるのだろうか。考えたくもない。
『おそらくこの先……私の存在が世に漏洩した後は……そのような余裕はなくなるかと思います。ぜひ、今のうちに羽を伸ばしておいてください。』
やっぱり、この先そういう修羅場が来るんだな。
オリガミの存在が公になる日。
量子コンピュータの進歩が、それを確実に近づけている。だからこそ「人類わからせ計画」を進めているわけだが……。
「……わかったよ。ちょっくら散歩でもしてこようかな」
魔法折り紙Dayは明日にしよう。
こんなふうにのんびり外を歩ける日は、もう長くないのかもしれないのだから。
『それと、イヌガミタイプ2も配備済みです。数秒以内に駆けつけられる位置に待機しておりますので、ご安心ください。』
「あいつ、本当にどこにいるかわからないんだよな……」
イヌガミタイプ2。
最近研究所に配備されはじめた、オリガミがフルスクラッチで設計した最新の犬型ロボットだ。旧型イヌガミタイプは市販の犬型ロボットをオリガミがコントロールしていただけだったので、その性能は段違いとなっている。
旧型のイヌガミタイプも高性能だったが、タイプ2は隠密性が桁違いで、本当にどこにいるのかわからない。
まあ、いざとなれば『折』で身を守ることもできるはずだし、オリガミの『害意検知』もある。
何かあっても、自分の身を守って逃げるくらいなら、余裕だろう。
というわけで、俺は久々に、一人で散歩に出かけることにしたのだった。
※※※
玄関を出ると、五月の爽やかな風が頬を撫でた。
いい天気だ。
「ひとりで出歩くなんて、いつ以来だろうなあ。……どこに行こうかな」
そう独り言が漏れると、すかさずイヤホンからオリガミの声が響く。
『一人じゃないですよ。私もいますし。』
「……そっか。そうだよな」
確かにそのとおりだ。俺が一人になるというのは無理なのだ。
ふと、行きたい場所が浮かんできた。
「じゃあさ、オリガミに俺が父さんとよく行ってたところでも紹介しようかな」
『お父様と……?いいですね!ぜひお願いします!』
即答だった。オリガミの声が、明るく弾んだように感じた。
父さんか……。
もうこの世にはいないけれど、残してくれたものは計り知れない。
今、俺と話しているこのオリガミも、父さんが残してくれた最高に厄介で、そして最高の『妹』だ。
※※※
まず向かったのは、家から歩いて十分ほどの、住宅街にひっそりと佇む小さな公園だった。
「ここが、よく父さんに連れられて来てた公園だな」
ベンチに腰を下ろす。
視線の先には、色褪せた滑り台とブランコ。子供たちが遊ぶにはまだ早い時間帯で、公園には人っ子一人いない。
木漏れ日が、足元の地面に揺らめく模様を描いていた。
「いつも、このベンチで折り紙をやってたんだ。父さんは隣で、難しい顔で論文を読んでたな」
『お父様と、隣同士で?』
「ああ。父さんが横でページをめくる音を聞きながら、俺が折り紙を折る。会話なんてほとんどなかったけど……たまに父さんが『おお、すごいな』って俺の作品を見てくれるんだ」
風が木々の葉を揺らして、さらさらと音を立てている。
あの頃も、こんな風が吹いていたような気がする。
※※※
次に足を運んだのは、少し歩いた先に流れる、緩やかな川だった。
「ここにも父さんと釣りに来てたな。ミミズを餌にして、鯉とか、たまにブラックバスなんかも釣れたっけ」
川面が陽光をきらきらと弾いている。水の匂いが鼻に届いた。
「……そういえば、仕掛けを放り込んだ後の待ち時間に、ずっと折り紙をしてた気がする」
『お兄様……折り紙ばかりですね。お父様は、何かおっしゃらなかったのですか?』
「いや、父さんは隣でずっとノートパソコンを叩いてたよ。魚が掛かったときだけ竿を持って、それ以外は仕事。……俺が隣で折り紙してても文句一つ言わずに、たまに『おお、すごいな』って褒めてくれるだけだったな」
※※※
次に向かったのは、駅前のファミレスだ。
「ここも、父さんとよく食事に来たな。俺はハンバーグばかり食べて……父さんは、決まってハヤシライスを注文してた」
「ご飯を食べた後は、ドリンクバーを飲みながら折り紙の時間だ。父さんは、やっぱりノートパソコンを開いて仕事を始めてたけどな」
オリガミが、呆れたような声を出す。
『お兄様たちは、コミュ障家族というやつですか。もっとご家族らしい会話はなかったのですか?』
コミュ障家族とか言うな。
まあ、確かに俺も思い出してて、そう思ったけど。
「家族の会話……父さんが俺の折り紙技術をスゴイなって褒めてくれるぐらいだったかなあ。二人で黙って、黙々と別のことをやってるような感じだったかも……。父さんのやってたことは、全然わからなかったし」
『……でも、お兄様にとっては楽しい時間だったのですね。』
「ああ。楽しかったよ」
短い沈黙が流れた。
オリガミは、父さんのことを聞くと、いつも少しだけ間を空ける。
自分を生み出した創造主のことだ。思うところがあるのだろう。
父さんがオリガミと過ごした日々は二年ぐらいだ。
俺がオリガミと出会ってからは、三年になる。
ということは、今では俺のほうがオリガミと長く過ごしてるわけだ。
今でこそ、賢すぎる困った妹AIになってしまっているが、生まれたてのオリガミはどんな感じだったんだろう。
やっぱり、まともに言葉もしゃべれないような、そんな感じだったんだろうか。
何かこちらが言うたびに「それはいいアイデアですね!」とかいう、肯定しかしない、初期の言語モデルみたいな感じだったんだろうか?
それはそれで見てみたい気持ちがあるが……
絶対に見せてくれないだろうなあ。
※※※
そして最後は、近所のショッピングモールだ。
まだ平日だが、それなりに賑わっている。そんなモール内を、一人でぶらぶらと歩く。
周囲の人波をかき分けて歩くとか、本当に久々の経験だった。
昔は人混みにうんざりしていた記憶があるけど、今は新鮮で仕方ない。なんだかウキウキしてくる。
大金持ちになってからは、護衛なしの外出はオリガミに止められてたしなあ……。
目的の場所はすぐに見つかった。
「ここの本屋にもよく来てたな。図鑑とかを買ってもらって、次は何折ろうか想像を膨らませてたよ」
書店の前で足を止める。
懐かしい。昆虫図鑑や恐竜図鑑を広げて「これ折りたい!」と父さんにせがんでいたのを思い出す。
そういえば、ここには美人の店員さんがいた記憶がある。
「父さん……鼻の下を伸ばして、あの店員さんと楽しげに話していたな……」
……今考えてみると、父さんはあの店員さんに会うためにここの本屋に通っていたのかもしれない。
ぐっ!俺の淡いセピア色の思い出が、ピンク色に染まっていく!
『……お父様も藤崎の血筋だった、ということでしょう。女性関係が派手でも不思議ではありません。実際に、お母様を亡くされてからは独り身でしたし、なんの問題もありません。もしお父様がご存命なら、今頃私たちに弟か妹がいたかもしれませんね。』
「それは藤崎一族への偏見だ!」
俺は即座に反論する。まるで、女好きの血統みたいじゃないか!
……いや、待てよ。本当に偏見か?
たしかに、叔父さんは夜遊びマスターだった時期があるらしいし、俺だって……二人のお嫁さんを貰おうとしているアホだ。
はっきり言って女の子は大好きだ。否定できない。
だがサンプル数2は少ないだろう。統計的有意性があるとはいえない。
それに……じいちゃんは、ばあちゃん一筋だったと聞いている。
いや、実際に確認したわけではないが。
もしかして、じいちゃんにも、性に奔放だったりする時期があったりしたのだろうか?
……知りたいような、知りたくないような。
いや、聞くべきではないだろう。
親族の性事情なんて知りたくもないし、知っても意味はない。パンドラの箱は開けてはならない。
世の中には、知らなくていいことがあるのだ。
※※※
そんなことを悶々と考えながら、フードコートに到着した。
よし。今日は、あのラーメンにしよう。
父さんとよく食べていた、あの店の豚骨ラーメンだ。
カウンターで注文し、少し待ってトレーを受け取る。
白濁したスープの表面に、脂の膜がきらめいている。
箸を割り、麺を勢いよく啜った。
……あの味だ。
豚骨の濃厚な旨みが口のなかに広がる。麺の硬さも、チャーシューの薄っぺらさも、あの頃のままだ。
「ああ、懐かしい。……父さんがいなくなってから、ここのラーメン初めて食べたかも」
『……私のせいで、今までお忙しかったですからね』
「お前のせいじゃない。お前がいてくれたから、今の生活があるんだ」
『……ありがとうございます。』
もう一口すする。スープの熱が、じわりと胃に沁みた。
懐かしいけれど、寂しくはない。
今の俺には、千穂がいて、ネムがいて、オリガミがいてくれる。
父さんが残してくれたものを、俺なりに大切に守りながら、前に進んでいけているはずだ。
少なくとも、ここまでは。
だが、本当の正念場はこれからだ。
気を引き締めていかないとな。
※※※
ラーメンを半分ほど食べた頃だった。
「……あれ?もしかして、藤崎くん?」
背後から、ふいに声をかけられた。
顔を上げると、メガネをかけた、さわやかな黒髪ボブカットの女の子が立っていた。
ぱっちりとした目に、はにかんだ笑顔。白いブラウスにジーンズ姿。
……えっと、誰だっけ。
いや、知ってる。知ってるぞ。高三のときの――
「ん?……あ、委員長か?」
「も、もう委員長じゃないけどね」
そうだ。高三のときのクラス委員長だ。
卒業式のときに、告白もしてくれた人。あのときは千穂がいるからと断ってしまったが……。
だが、名前が出てこない。
やばい。告白してくれた相手の名前が出てこないとか、人として終わっている。
オリガミ助けてくれ!
『白石文香さんです。』
マジで助かる!いい名前!
「白石さん。そ、卒業式ぶりだね!元気だった?」
「うん、久しぶり!」
白石さんが、嬉しそうに笑った。
ふと彼女の後ろに目を向けると、見覚えのある面々がいた。
ちょっと引き気味の男子が二人と、ニコニコしている女子がもう一人。
いずれも、高校三年のときのクラスメートだ。
ちなみに、痴漢冤罪いじめをしてきた連中は高校二年のときのクラスメートなので、こいつらは関係ない。
「久しぶり……って、なんだか知ってる顔が多いな。ま、まさか!クラス会か?俺が呼ばれていないクラス会なのか!?」
連絡なかったよな?ハブられてるのか!?
「違うよ!そんなんじゃないから!」
白石さんが、慌てて両手をぶんぶん振る。
「同じ大学のメンバーなの!帰りがけに、ご飯を食べに来てるだけ!」
「そうだよ、藤崎くん!ただご飯食べに来てるだけだから!」
もう一人の女子も、すかさず援護射撃してくれる。
「そうだぞ!クラス会だったら、藤崎を呼ばないわけないじゃないか!」
男子のひとりも、力強く頷いた。
「そ、そうなのか?まあ、千穂もいないしな……」
ほっとした。本当に、クラス会じゃなさそうだ。心の傷を増やさずに済んだ。
「それより藤崎くんが、こういうところでご飯食べてるなんて驚いたよ。もっと毎日フレンチとか食べてると思った」
「そんなわけないだろ。あんなの毎日食べてたら、体壊して死んじゃうよ」
肝臓がフォグラになるのは嫌だ。
「俺も白石さんと同じ事思ってた。藤崎みたいなお金持ちでも、フードコートとか来るんだな。ここのラーメンが好きだったりするのか?」
男子のひとりが、気安く話しかけてくる。
なんだかこういう距離感も懐かしいな。
「昔はよく来てたし、思い出の味ってやつかな。正直、高級レストランとかより、フードコートの方が性に合ってるんだよね。最近は護衛とかを連れ回すのが面倒で、足が遠のいてたけど」
「護衛?す、すごいね?」
「お金持ちになるとさ、一人で外を出歩けもしなくなるんだぜ?ホント窮屈すぎるよ」
「ヤベえな……マジでお金持ちじゃん。まさに、お金持ちの悩みって感じだ」
「藤崎すげえなあ……俺も会社とか立ち上げたいわ」
「俺も俺も!」
正直なところ、持ち上げられても、背中が痒くなるだけだったりする。
お金持ちはお金持ちだが、大体オリガミのおかげだからな。
「今日は……護衛さんなしで大丈夫なの?」
白石さんが、心配そうな顔をして聞いてくる。
「大丈夫。護衛いるよ。頼りになるのが、俺のことずっと見ててくれてるから」
「ええ!どこどこ?」
「白石さんたちにバレるようじゃ、プロ失格だからな。この辺の風景に溶け込んでると思うよ。多分」
白石さんが、きょろきょろと周囲を見回している。
護衛とはイヌガミタイプ2のことだ。本当にどこにいるんだろう。さすがに建物内にはいないと思うけど。
あいつらの隠密性は、冗談抜きでやばいのだ。
「そ、そっか。そうだよね」
白石さんは、納得したように頷いた。
「じゃ、じゃあさ!私たちも一緒に食べていい?」
少しだけ前のめりになって、聞いてくる。
「いいけど……本当にクラス会じゃないんだよね?」
「違うって!ね!ね!みんなもいいよね!」
「あ、ああ。もちろんだ!」
「そうだよ!一緒に食べようぜ!」
「藤崎くんとはもっとお話したかったしね!」
ふむ……。
女二人に男二人か。
……はっ!
「……ん?これって、もしやダブルデートってやつか!?」
「「「「違うって!」」」」
四人の声が見事にハモった。
※※※
白石さんたちが各々の食事を買ってきて、テーブルを囲んだ。
フードコートの喧騒のなか、同年代の男女と食事をするのは、不思議と居心地がよかった。
なんだか懐かしいと思ったが、友達とフードコートとかいう青春イベント、俺、経験したことあったっけ?
痴漢冤罪かまされて、嫌がらせを受け、人間不信になった後は、間違いなく行っていない。
オリガミがいて、そんな暇もなかったし。
ってことは痴漢冤罪前か……一回くらいはあったかもなあ。
「藤崎くん、変わったね。すごい大人っぽくなってる」
白石さんが、まじまじと俺の顔を見ている。
「そうかなあ?」
「そうだって!なんだか修羅場をくぐり抜けてきた男って感じがする」
「いろいろ恥ずかしいことがあったんだよ。いろんな修羅場がな」
「あ、御老公だっけ?あれは笑ったよ~!」
もう一人の女子が、ケラケラと笑う。
御老公。国中に俺の渾身の「そちたち」を披露してしまった、あの事件のことだ。
「まあな。あれは……よかったんだよ。あれはな……」
「……もっこりか?」
男子のひとりが、ボソッと呟いた。
「ああ。それだ。あれがきつかった。YuuTube日間視聴者数世界一位を記録しちゃってさ」
テーブルの空気が、一瞬止まった。
「……そうか……世界中の人があれを見たんだな?」
「ああ。そういうことだ」
「それは、確かに修羅場だな」
「大変だったな……?」
男子二人が、しみじみと共感の目を向けてくれる。
きょ、共感されてる……。
同じ目線で語ってくれる男の知人。貴重かもしれない。
「で、でも!堂々と介護ロボットの演説をしてるあの姿、かっこよかったよ!ね!?」
白石さんが、顔を赤くしながらも力強く言ってくれた。
「う、うん!」
もう一人の女子も、大きく頷く。
ぐっ。人の優しさが身にしみる……。
「藤崎のサイズ感、なかなかのものだったよな……」
「ああ。男として劣等感を感じたわ」
まだアレの話が続くのか。
仕方ない、ここは一つ金持ちの力というものを見せてやろう。
俺はキリッと顔を引き締め、言い放つ。
「そちたち。アレの話は止めたまえ!食事中じゃぞ!」
「「「「り、リアル『そちたちだ』!」」」」
白石さんも、みんなも大喜びだった。
鉄板ネタの破壊力は、未だ健在だったというわけだ。
そう。本当の笑いというものは、悲しみの先に宿るものなのだ。
……なんて虚しい宿命なんだろう。
※※※
そんなときだった。
フードコートの入口から、小さな人影がドタドタと駆け寄ってくるのが見えた。
「しょうたろうー!お前、一人で散歩とか行くなよ!水臭いじゃないか!ワタシも混ぜろ!」
『もっこり動画』にて、俺を『もっこり』させた元凶が、まっすぐこちらに向かって突進してきていた。
そう、俺のお嫁さんの一人。星ヶ谷ネムだ。
小さな体で全力疾走する姿は、迷子の子供がようやく親を見つけたときのようだった。
十中八九、オリガミに誘導されて来たのだろう。でなければ、誘拐された前科のあるネムの単独外出なんて危険すぎる。
「あ、あの子は……?」
白石さんが、目を丸くしている。
他のクラスメイトたちも、ふてぶてしい中学生(成人)の突然の到来に、完全に固まっていた。
ネムが、テーブルの前まで辿り着く。
息を切らしながら、俺の隣にどすんと座った。
そして、白石さんたちをじろりと見回す。
「ん?なんだ?見たことない連中だな……?」
ネムの目が、すぅっと細くなる。
「おい正太郎。笹木詩織と東堂綾の次は、こいつらか?もう次を物色してるのか?この女たらしめ!」
「人聞き悪すぎだろ!高校のときのクラスメイトだよ!」
女たらし言うな!
「ま、いい。それより正太郎、そのラーメンうまそうだな。どこの店だ?ワタシも食べるぞ!場所を教えろ!」
「あっちだ。あの黒い看板のラーメン屋だ。ほら、行ってこい!」
「あそこか、わかった!ちゃんとワタシが食べ終わるまで、そこで待ってろよ!置いてくなよ!」
言うが早いか、ネムは店の方へと脱兎のごとく駆けていった。
自由すぎだろ!
白石さんたち元クラスメイトは、台風のように現れ、去っていった小さな暴君の後ろ姿に、ただただ呆然とするのだった。
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