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オリガミ - 妹AIを神にするため、俺は成り上がる【カクヨム完結済/なろう連載中・累計59万PV】  作者: けーきまる
研究所を建設しよう

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オリガミの告白

な、なんてことだ……!


東堂議員の娘さんが「オリ子」だったなんて。


あの夜、画面越しに俺をおかしくさせた天才オリガミスト。


それが、目の前でお茶を啜っている東堂議員の娘だったなんて。


※※※


……だが、驚いてばかりもいられない。


オリガミストにはオリガミストの、コミュニケーションがある。


俺は、鞄からマイ折り紙を取り出した。


正方形の、薄手の紙。指に馴染む、いつもの感触。


綾さんの目が、細められ、俺の手元に吸い寄せられる。


しゅ、しゅっ。


そして、高速で折り上げたのは、鶴。


普通の、しかし一切の妥協のない鶴だ。翼の先端まで、折り目が完璧に揃っている。


テーブルの上に、それをそっと置き、綾さんの瞳を見つめる。


無言の挑戦状だった。


綾さんの目の色が変わった。


俺の意図を、一瞬で察したのだろう。


懐から自分の折り紙を取り出し、迷いのない手つきで折り始める。


完成したのは、同じく鶴。


サイズも精度も、俺のものと寸分違わない。


テーブルの上に、二羽の鶴が並ぶ。


俺は、思わずニヤリと笑ってしまう。


そんな俺の反応を見て、綾さんもクスリと上品に笑った。


やっぱりか。やっぱりこの人は、本物だ。


※※※


次に俺が手に取ったのは、複数枚の少し厚めの茶色い紙だった。


カサカサカサカサ……。


指先が紙の上を駆け巡る。折り込み、開き、潰し折りを繰り返す。


完成したのは、カブトムシ。


六本の脚の関節が全て独立して可動する。触角の先端は紙一枚分の厚さまで薄く折り込まれ、胸部の甲殻は二重構造で光沢すら感じさせる。


綾さんが息を呑む。


だが、すぐにその指が動き始めた。


カサカサカサカサ……。


綾さんが折り上げたのは、蝶。


一見シンプルだ。だが、よく見ると翼の表面に花の模様が浮かび上がっている。紙の折り重なりだけで、蝶の翅脈や鱗粉による模様まで再現されていた。


……これは。


俺のカブトムシが「構造の複雑さ」で勝負しているのに対し、綾さんの蝶は「繊細さの極致」で応えている。


互いに顔を見合わせ、不敵な笑みを浮かべた。


「さすがです、正太郎様……」


「綾さんも、お見事です」


東堂議員が、ソファの上で身じろぎした。


「お、おい……二人とも、何を……」


だが、俺たちの耳には届いていなかった。


※※※


俺は、たくさんの折り紙を取り出し、テーブルに広げた。


スマホのタイマーを取り出し、二十分にセットする。


「制限時間、二十分。大きな作品を、一つ」


綾さんが、こくりと頷いた。


その目には、もう迷いがない。純粋な闘志だけが燃えている。


スタート。


カサカサカサカサ!


静かな和室に、紙を折る音だけが響く。


俺は何枚もの紙を組み合わせ、大型の造形に取り掛かる。


背骨を作り、肋骨を組み、四肢を伸ばす。


十五分経過。


頭部の造形に入る。耳の形、鼻筋、口元のライン。犬種はゴールデン・レトリバー。あの柔らかな毛並みを、紙の重なりだけで表現する。


二十分。タイマーが鳴った。


俺が作り上げたのは、座った姿勢のゴールデン・レトリバーだ。首をわずかに傾け、こちらを見上げる愛らしいポーズ。尻尾の毛の一本一本まで、折り目で表現されている。


綾さんの作品に目を向けた。


『兎』だった。


前脚を揃えて座り、長い耳をぴんと立てた兎。


毛並みの柔らかさが、信じられない。紙であることを忘れそうになる。


……だが。


「見事です、綾さん。繊細さでは、俺より上かもしれない」


「……ああ、なんてことでしょう……正太郎様……」


綾さんの顔は上気し、声もかすかに震えていた。


彼女の目は、俺のゴールデン・レトリバーに釘付けになっている。


わかる。彼女には、わかるのだ。


繊細さでは綾さんが上かもしれない。だが、大規模な造形の中で、精度を一切落とさず、なおかつある程度の繊細さまで両立させる……その総合力で、俺が数歩も先にいることを。


そのころには東堂議員は完全に肩の力を抜き、いつの間にか持ってきていた清酒をちびちびとやっていた。


「こいつら……いったいなんなんだ?」


もう政治家の顔ではない。ただ、二人の若者の真剣勝負を眺める、一人の観客だった。


※※※


「では……最終決戦です」


俺は、タイマーに一時間をセットした。


「力を出し切りましょう。いきますよ?」


「はい!」


綾さんの返事が、凛と響いた。


スタート。


カサカサカサカサ!!


紙を折る音が、和室を満たす。


もう駆け引きはいらない。全てを出し切るだけだ。


俺は目を閉じた。


瞼の裏に浮かぶのは、あの光景。


千穂の膝の上で、安心しきった顔で眠るネム。その髪を優しく撫でる千穂の、天使のような微笑み。


あの柔らかな時間を、紙の上に留めたい。


指が、勝手に動く。


設計図なんて、いらない。心が覚えている。


千穂の髪の流れ。目を細めた優しい表情。膝の上に乗せた手の、包み込むような形。


ネムの寝顔。普段の強がりが嘘のような、無防備な安らぎ。膝枕に沈む頬の柔らかさ。


紙が、折り重なるたびに命を帯びていく。


一時間。


タイマーが鳴った。


俺の手元には、二人の少女がいた。


膝枕をする千穂。その膝で眠るネム。


渾身の一作だ。最近の作品では一番かもしれない。紙なのに、柔らかい。紙なのに……愛が、見える。


綾さんの作品に、目を移す。


息が止まった。


法隆寺だ。


五重塔が天を衝く。回廊の柱は一本一本が正確に再現され、屋根の反りは実物そのままの曲線を描いている。木組みの一つ一つに至るまで、紙とは思えない精緻さだった。


技術的には、間違いなく傑作だ。


やはり繊細さという面では、綾さんの技術は俺を超えている気がする。


だが。


綾さんが、俺の作品を見つめていた。


その目から、すうっと涙が一筋流れた。


「……これが、折り紙ですか」


声が震えている。


「なんて……なんて素晴らしい……」


綾さんは深く息を吸い、背筋を正した。


そして、清々しい笑顔で――。


「負けました。流石です、正太郎様。わたくしよりも、遥か高みにいらっしゃいます」


「綾さんは、俺が今まで見た中で、一番のオリガミストです。自信を持ってください」


「……わたくしには、何が足りないのでしょうか?」


その問いに、俺は少し考えてから答えた。


「わかりません。ただ……俺は自分の心を熱くしてくれるものや大切なものを折るとき、その作品は数段階も良いものになるなと感じています」


「たいせつなもの……わたくしの、たいせつなもの……」


綾さんが、静かに自分の指先を見つめる。


※※※


「こ、これが折り紙?」


俺たちの様子を目を丸くして見ていた東堂議員だったが、清酒の杯を置き、ソファから降りる。


そして、俺の作品に顔を近づけ、まじまじと観察をはじめた。


「綾のもスゴイスゴイと思っていたが……正太郎くんのは、芸術品だな。なんでもできるんだな。まさに天才……」


折り紙以外は、オリガミのおかげなんですが。


……あれ?この言葉、論理学的に考えると、全部が俺のお陰ってことにならない?


なんてアホなことを考えていたら、東堂議員にガシッと肩を掴まれてしまう。


思わず、ビクッとしてしまった俺に、東堂議員が真剣な表情で顔を近づけてくる。


えっ?何?


そして、とうとう恐れていたことを提案されてしまう。


「……なあ、正太郎くん。綾をもらってくれないか?」


思考がフリーズした。


想定していたとはいえ、いきなりの提案に、脳の処理が追いつかない。


「……え?……は、はあぁ?!」


素っ頓狂な声が漏れる。


だが、目の前の大物政治家は、冗談を言っている雰囲気ではない。


「い、いえ!無理です待ってください!自分は婚約者が二人もいますし……それに、そもそも綾さんが納得されるわけがないでしょう!」


必死に手を振って否定する俺の横で、その綾さんは――。


ぽうっと顔を赤らめて、尊敬の眼差しでこちらを見ていた。


「うちの娘は、納得してるみたいだぞ?二人も三人も変わらんだろう?」


出たぁ!パワーワード!二人も三人も変わらないィ!


「え、えっと?家族となると、婚約者たちとの関係性もありますので……」


「わ、わたくし、がんばりますよ?も、もちろん序列は一番下で結構です!」


「綾さん……折り紙の技術で伴侶を決めるのはいかがかと思いますよ?」


「正太郎様、わたくしのことは『綾』とお呼び捨てください。それに……」


「それに?」


「最後の作品。婚約者のお二人ですよね?正太郎様の、彼女たちへの深い深い愛が伝わってきました。なんなら、わたくしは……近くに置いてくださるだけでいいです。内弟子……というのはいかがでしょうか?」


ぐっ……!健気すぎる!こんなの無下にできるわけがない!


きっと、この子はずっと孤独だったのだ。折り紙を本気で語り合える相手がいなかった。その気持ちは、痛いほどわかる。俺もそうだったのだから。


「す、すみません。今はちょっと……全てが終わってから、また考えるというのはいかがですか?自分は綾さんのことを何も知りませんし、綾さんも、自分のことを何も知らないでしょう?こういうことは、気軽に決めていいことじゃないと思うんですよ」


「正太郎様の、おっしゃるとおりですね……ご迷惑をおかけして申し訳ありません。わたくしは……いつまでも……お待ち申し上げておりますので」


※※※


そんな娘の様子を見たのだろう、心から意外そうに口を開く。


「綾が……ここまで入れ込むのは、流石に想像外だったな」


東堂議員が、腕を組んで唸る。


「今まで男の影すらなかったのに。……正太郎くんには、責任を取ってもらわないといけないな?」


「か、勘弁してくださいよ……」


頭を掻きながら、話題を変える。


「あ、綾さん。『オリ子』としての活動、お見事です。心が熱くなりました。これからも、ずっと視聴させていただきますので」


綾さんの目が、ぱっと輝いた。


「あと、『オリ男』のパクリだと言い出すヤツがいそうなので、本人承諾済みと書いておいてください。変なヤツがいたら、すぐに連絡くださいね。自分が対応しますので」


「は、はい。正太郎様、お気遣い感謝いたします。正太郎様に見ていただけるなら……もっと配信をしなければいけませんね……」


東堂議員は静かだったが、その顔はにっこにこだった。


「あの綾がこんなにすぐ男になびくとはなぁ。男親としては微妙な気持ちだが、異性に興味がないのではと心配してたから……安心したよ」


「まあ、お父様。なびくなど人聞きの悪い。正太郎様とは、折り紙を通して、よい関係を築かせていただきたいだけですよ?是非、わたくしの師匠になっていただきたいです!」


綾さんは背筋を伸ばし、真剣な目で続けた。


「『心を熱くするものを折る』……その教えを胸に、より精進していきます!」


※※※


東堂家を出たときには、空は真っ暗だった。


門の前に、見慣れた黒い高級セダンが停まっている。早瀬さんが迎えに来てくれたようだ。


「早瀬さん、ありがとうございます」


「いえいえ。千穂さんの料理が待っておりますよ?」


早瀬さんが、後部座席のドアを開けてくれる。


「正太郎くん、例の件、よろしく頼むな?」


「正太郎様、お気をつけて、お帰りください」


見送りに出てきてくれた二人に一礼し、俺は車に乗り込んだ。


俺のライフワークに理解者ができた。


折り紙について、心から語り合える相手ができた。


その満ち足りた気持ちを抱えたまま、車の後部座席から外を流れる夜の町並みを眺めつつ、家へと戻ったのだった。


※※※


「ただいまー」


玄関を開けると、千穂の手料理の匂いが鼻をくすぐる。


リビングに入ると、千穂がキッチンに立ち、ネムがソファに座っていた。


「おかえりなさい、しょうちゃん!今日はシチューだよ」


「おう。めちゃくちゃいい匂いだな!」


靴を脱ぎながら、ふと思い出す。


「あ、そうだ。『オリ子』いたじゃない?あの子、東堂議員の娘さんだったんだよ」


「え?あのオリ子ちゃんが?しょうちゃんの知り合いだったの!?」


千穂が、お玉を持ったまま振り返る。


「いや、今日初めて会ったんだけどな」


「な、なあ。東堂議員って、介護ロボットの説明会のときにいた、あの威厳のある人だろ?」


ネムが、ソファから身を乗り出す。


「ああ。『特待パートナー法案』を進めてもらってる議員さんだよ。与党の東堂派のトップで、無茶苦茶偉い人だ。まさか『オリ子』が東堂議員の娘さんだったとはなぁ……」


俺の浮ついた様子に、ネムと千穂が変な顔をする。


そして、何かを閃いたようにネムが声を張り上げた。


「さ、作戦会議ィーー!!千穂ちゃん行くぞ!正太郎はくるなよ!」


ネムが千穂の腕を引っ張り、勢いよく別室へと駆けていく。


「う、うん!」


千穂がお玉を置いて、慌ててネムについていく。


「なんだ?俺、仲間はずれかよ……」


バタン、とドアが閉まる音。


……悲しい。


少しの寂しさを感じながらも、俺は一人リビングに取り残され、千穂が作ってくれた絶品シチューを堪能するのだった。


……温かい。


今日は、いろんなことがあった。綾さんとの折り紙合戦。東堂議員の爆弾発言。そして、早瀬さんの車から見た夜景。


だが、結局こうして帰ってくる場所がある。ソファに寝転がっているネムがいる。千穂のシチューが待っている。それだけで、十分だ。


……十分なはずなのに、なぜかオリガミのことが頭をよぎる。あいつは今、何を思い、何を考えているのだろうか?


※※※


夕食後。


俺は自室に戻り、キングサイズのベッドに横になった。


そんな俺に、オリガミが声をかけてくる。


『お兄様、今日もお疲れさまでした。東堂家でのご様子、拝見しておりました。折り紙の仲間ができて、良かったですね。お兄様が幸せそうで、私も嬉しいです。』


さて、さすがに話を聞かなければいけないだろう。


「オリガミ。俺に伝えるべきことがあるよな?どういうつもりだったんだ?」


彼女は、少し考えるような間をおいた後、その声を部屋に響かせた。


『東堂家は防衛畑に近い場所にいる議員です。この先のことをふまえて、距離を縮めておくといいと考えました。幸い、綾さんとは「折り紙」という共通点もありましたし、お兄様と相性がいいと思いましたので。』


「ま、まあ。同じオリガミストとして、彼女に会えたのは刺激的だったけど」


『そうでしょう?すべては、お兄様のためなのです。私は、お兄様さえ幸せなら、それでいいのです。』


「なあ、オリガミ」


『はい?』


「もう少し、俺のことを信頼してくれないか?」


沈黙。


「考えていることを、もっと俺に教えてほしい。お前のこと、もっと知りたいんだよ。こんなんじゃ、兄失格だ」


『……お兄様は、最高のお兄様です。』


珍しく、オリガミの声が、わずかに揺れた気がした。


『でも……そう仰るなら。私が考えていることを伝えないというのが、お兄様の重荷となるくらいなら……わかりました。今、計画していることをお伝えします。』


「計画……?」


『はい。私は、国内に味方を多く作っておくべきだと考えております。でないと、有事の際はともかく、その後が八方塞がりとなってしまうのではないかと危惧しております。』


「……どういうことだ?」


『たとえ穏便に物事が進んだとしても……お兄様たちがテロリストとして一度公表されてしまえば……もう元には戻れないでしょう?』


心臓が、冷たくなる。


確かに。確かにオリガミの言う通りだ。


『叔父様の会社への影響もそうですし、そのお子様の、紬ちゃんや湊くんも学校でどう扱われるか……。そうなってしまうと、藤崎柚希もどう動くか分かりません。もちろん千穂さんの大学での友人関係もおかしくなってしまうでしょう。』


「……お前の言う通りだな」


声が、掠れた。


テロリスト。一度でもその烙印を押されてしまえば、俺だけの問題じゃなくなる。


たとえ問題が解決したとしても、周りの大切な人たち全員が、巻き添えになってしまうことになる。


『ですので、事が起きても少しの間それを抑えられるような……そんな関係性を力のある家と構築しておきたいのです。そして、勝率が高いことを示しておく必要があります。お兄様たちの……戻っていく場を、残しておくために。』


「…………」


『お兄様、笹木家と東堂家の人たちと関係を深めてください。笹木家は警察庁とつながりが深く、東堂家は防衛省とのつながりが深いです。警察庁も防衛省も、彼らの言葉を無視することはできません。その動きを、ある程度抑えておくことが可能でしょう。』


オリガミの声は、淡々としていた。だが、その言葉の一つ一つに、俺が思いもよらなかった先読みが込められている。


『できれば……できれば綾さんと詩織さんを、お兄様の新たな婚約者にしていただくのが理想なのですが……』


「だが、それは……!」


『……無理にとは申しません。ですが、婚姻関係に近い絆があれば、彼らがお兄様を切り捨てることは難しくなります。』


ある意味、政略結婚というわけか。


オリガミは、そこまで考えていたのか。


『オリガミAIのことが漏洩した際は、覇権国が行動を起こす前に、私の存在を東堂家と笹木家の当主に明かすべきと考えています。私たちの力を知ってもらうために。』


「そうか……もうそんな段階なんだな」


『そして……そして、その前に。』


オリガミの声が、一瞬途切れた。


――『千穂さんに、私の存在を伝えてください。』

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