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オリガミ - 妹AIを神にするため、俺は成り上がる【カクヨム完結済/なろう連載中・累計59万PV】  作者: けーきまる
研究所を建設しよう

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東堂綾

「千穂ぉ!止めるなあぁ!」


「だめだよ!だめだって!そのVTuberの子、駄目になっちゃうよぉ!」


千穂が俺の腕にしがみつき、全体重をかけてぶら下がっている。だが、俺の指は止まらない。タブレットの画面には、スーパーチャットの送金画面が表示されていた。


「なんだ?なんだ?なにごとだ!?」


騒ぎを聞きつけたネムが、部屋に飛び込んできた。うたた寝でもしていたのか、髪がボサボサで目が半開きだ。


「ネムちゃん、手伝って!しょうちゃんが、大金をスパチャしようとしてるんだよ!この子、駄目になっちゃう!」


「はあ?千穂ちゃんどういうことだ?」


ネムが寝ぼけた目をこすりながら、俺のタブレットを覗き込む。


画面に映っているのは、柚希さんから教えてもらった折り紙系VTuber『オリ子』の配信ページだ。


「ああ……なるほどな」


状況を把握したネムが、呆れたようにため息をついた。


「なあ、正太郎?この子、まだ収益化できてないぞ?お前がどんなに頑張ろうが、スパチャできないからな?」


「え?……本当だ……なんて、なんてことだ……。おかしいだろ!世界!」


膝から崩れ落ちそうになる。


あの神業的な折り紙技術に、金銭という形で敬意を表することすらできないというのか。


「世界って……しょうちゃん見てよ。まだこの子、VTuberはじめたばかりだよ?視聴者少なくても、仕方ないんじゃないかな?」


千穂が、俺の背中をさすりながら優しく諭す。


「アバターもイラストの一部を動かしている簡易的なものだし、手は実写だしな。VTuberとしてはクオリティが低すぎる。これを見るのはお前みたいな折り紙好きだけだろ」


ネムの言葉は、正論だ。正論すぎて胸に刺さる。


「こんな……こんな理不尽があっていいのか……」


「正太郎、お前が、コメントしてやればいいよ。この子を応援するコメントをな?それだけでも十分喜んでもらえるぞ?」


ネムが肩を叩いてくれた。


その通りだ。金銭だけが応援じゃない。言葉で、想いを届ければいい。


「そうか……わかった!コメントで応援するよ!」


俺はタブレットを構え直し、コメント欄に指を走らせた。


渾身の応援コメントを打ち込む。


「『オリ子ちゃん、ヤッホーその折り紙の技術、凄すぎてビックリしちゃったヨ〜まさに神業だネ!今度、優しく教えて欲しいカモナンチャッテ〜!応援してるゾ』っと……完璧だ!」


リビングが、しんと静まり返った。


千穂とネムが、凍りついたように俺を見ている。


「おじさん構文はやめろ!」


そんな、ネムの叫びが、俺の部屋に響き渡ったのだった。


※※※


数日後。


結局、俺のコメントに対する『オリ子』からの反応はなかった。


あのおじさん構文が悪かったのだろうか。


気にはなる。気にはなるが……今はそれどころではない。


今日は、東堂議員との重要な会合がある。


花火会社の件を通さなければ、『天穿(あまうがち)』の配備計画は進まないままだ。


……だが、移動中の車内で、つい『オリ子』の配信ページを開いてしまう自分がいた。新しい動画は、まだ上がっていない。


タブレットをカバンにしまう。


俺は今、東堂議員の自宅に訪れていた。


秘書だと思われる若い男性に案内されたのは、重厚な木目調の東堂家の和室だ。


以前「特待パートナー」関連の話し合いをしたのと同じ部屋である。


和室なのに革張りのソファが置かれている、和洋折衷な空間も相変わらずだ。


男性に促され、そのソファに座って待っていると、程なくして奥のふすまが開いた。


東堂議員だ。


「東堂議員、ご無沙汰しております」


俺はすぐに立ち上がり、頭を下げる。


「いやいや、正太郎くん会いたかったよ。訪ねてきてくれるのをずっと待ってたぞ」


相変わらず、身に纏った品のいい和装がよく似合っている。


「あの『介護ロボット』を推進した第一人者ってことで、私の党内の発言力もかなり高まったから、その御礼も言いたかったしな」


東堂議員は、笑顔でそう言いながら向かいのソファに腰を下ろした。


与党の有力派閥「東堂派」を率いるベテラン国会議員。


細身で引き締まった顔立ちに、白髪混じりの髪を綺麗に撫でつけた清潔感のある風貌。


その眼光に飲み込まれないよう、俺は腹に力を入れて答える。


「お役に立てたなら幸いです」


「正太郎くんが推進する『特待パートナー計画』もしっかりと進めてるから安心してくれ。絶対に二年以内には法案を通してみせるから」


「あ、ありがとうございます!」


――『特待パートナー計画』


それは、千穂とネム。愛する二人と、合法的に結婚するという極めて自分勝手な理由のために、俺が提案した法律だ。


東堂議員には、この法案の成立に協力してもらっているのである。


※※※


「それで?今日は別件なんだろう?どんな用件なんだ?」


東堂議員が身を乗り出す。


「実は……花火会社を、子会社化したいと考えておりまして……」


俺は、用意してきた資料をテーブルに広げた。


花火会社の現状分析、市場動向、そしてドールハウスの新規事業計画。


東堂議員は資料を一通り眺めた後、腕を組んだ。


「花火会社?潰れそうなところ?そんなのいくつでもあるが……なぜ今、花火会社なんだ?」


「高性能なドローンAIが完成したので、花火やウチのVTuberと組み合わせて、伝統と科学が融合した新しいエンタメの形を作っていこうかなと……」


嘘は言っていない。


ドローンAIも、VTuberとの連携も、花火との融合も、全て本当の事業にしてもいい。実際にそんなショーをやっても採算は取れるだろう。


だが、真の目的は別にある。あくまで『天穿(あまうがち)』に必要な、マイクロ固体燃料ロケットの調達だ。


カバーストーリーは、真実の中に紛れ込ませるのが効果的なのである。


「ドローンAIか。いいじゃないか……ふむ……」


東堂議員の目が、資料の『ドローンAI』の文字に釘付けになっている。


「なあ、正太郎くん。今度、防衛に関わる者との場を設けさせてもらいたいんだが……どうだ?」


やはり来たか。


これは、花火会社の話ではない。東堂議員はずっと、このお願いをするタイミングを計っていたのだろう。


ドールハウスのAI技術を、防衛分野に。


政治家として、それを考えるのは自然なことだ。国の安全保障に関わる立場なら、なおさらだろう。


「……いいでしょう」


俺は短く答えた。


オリガミの技術が、自分たちのコントロール外で軍事利用されるかもしれないという懸念はある。


だが……今はそれどころじゃない。


HDML攻撃により、オリガミの存在が漏洩する日が迫っている。


俺たちには時間がないのだ。


できるだけ早く『天穿(あまうがち)』の配備を完了させなければならない。


そんな俺の返答に、東堂議員がどこかホッとしたように息を吐く。


「花火会社だったな?国の状況もこんなんだ。イベントごとも少なくなっててな。潰れそうなところなんて、たくさんあるよ」


東堂議員は少し悲しそうな顔をして、続ける。


「リストを送っておくから、好きなところにコンタクトを取ってくれ。もちろん、私の名前を使ってもいい。彼らを助けてくれるなら、私も嬉しいよ」


「ありがとうございます。助かります」


政治家との付き合いは、常にギブアンドテイクだ。


俺は花火会社へのアクセスを得た。東堂議員は、防衛分野への橋渡しという目的を果たした。


互いの思惑はすれ違っている。だが、それで良い。利害が一致しているのなら、問題はないのだから。


本題が終わり、張り詰めていた空気が緩む。


秘書が淹れ直した茶を啜りながら、東堂議員が柔らかな笑みを浮かべた。


「ふう……正太郎くんの話は、相変わらず予想がつかないな。まあ、これからも良い関係が続けられそうで安心したよ」


「ははは。突拍子もないことばかりお願いして、申し訳ありません」


「いやいや。若者はそれぐらいでなくては駄目だ。少し無謀なくらいがちょうどいい」


そう言って、東堂議員は豪快に笑う。


そんな、俺の気の緩みを見抜かれたのかもしれない。


不意に、東堂議員が口を開いた。


「そうだ、丁度いい。私の娘を紹介するよ。丁度、昨日帰省してきてな。綾、こちらに来なさい」


しまった……。用が済んだら、すぐに退散すべきだった。


だが、その声には有無を言わせない響きがある。これは流石に断れない。


まさか、お見合い案件だろうか?


嫁が二人だろうが三人だろうが変わらないなどと、また言われそうだ。


いや、待て待て。流石に自意識過剰だろう。


取引先に、家族を紹介することなど普通の話だ。


いきなり婚約者としてねじ込もうとしているわけではないはずだ。たぶん。


そんなことを考えているうちに、ゆっくりと襖が開いた。


そして、現れたのは、小柄な一人の少女だった。


身長は……ネムより少しだけ高いぐらいだろうか。


黒髪をきちんと結い上げ、上品な和服を身に纏っている。


所作の一つ一つが洗練されており、背筋が真っ直ぐに伸びた歩く姿には、育ちの良さが滲み出ていた。


……が、その顔はとても見慣れたものだったのだ。


「綾(あや)、正太郎くんに挨拶を」


「はい、お父様。正太郎様、お初にお目にかかります。『東堂綾(あや)』と申します。いつも父がお世話になっております」


深々と、美しいお辞儀。


「……あ、アヤトリ……な、なんで?」


思わず、口をついて出た。


そう。目の前にいる東堂綾の顔は、B世界の管理AIである『アヤトリ』のアバターと瓜二つだったのだ。


いや、瓜二つどころではない。完全に同一人物だ。


やられた……『時間調整』ってこれか……!


オリガミは、彼女が帰省して家にいるタイミングを待って、俺をここへ誘導したのだ。


アヤトリのモデルになった本人と引き合わせるために。


オリガミぃ!図ったなァ!


「アヤトリ……ですか?」


綾さんが、不思議そうに小首を傾げる。


その仕草すら、画面の中のアヤトリと重なる。


駄目だ。動揺してはいけない。この子に罪はないのだ。


すべては、ちょっとアレな妹AIが仕組んだことなのだから。


俺は居住まいを正し、必死に平静を装った。


「いえ、申し訳ございません。忘れてください。えっと……自分は『藤崎正太郎』と申します。正人さんには、いつも良くしていただいておりまして……」


しどろもどろになりながらも、なんとか挨拶を絞り出す。


しかし、綾さんの反応がおかしい。


挨拶を返すでもなく、俺の体の一部を凝視している。


※※※


「……あの?何か?」


そんな言葉に答えることもなく、綾さんの視線が、俺の手元に注がれていることに気づいた。


……俺の手を、じっと見つめているのか?


なんだか、猛烈に嫌な予感がする。


背筋に冷たいものが走るような、既視感。


「もしかして……オリ男さま、ですか?」


なんでバレた!?


まさか、この子も新たな「手フェチ」勢なのか!?


詩織さんといい、この世界の手フェチ人口って、そんなに多いのか?


脳裏にあの『正太郎ハンド』がちらつき、身震いが走る。


「い、いえ。違います!確かに『オリ男』は、ドールハウスに所属するVTuberですが……じ、自分は代表なので、配信活動する時間なんて有りませんよ!」


必死に否定する。


「……でも、正太郎様のその手……間違いないはずですが……」


しかし、綾さんの目は誤魔化せない。確信に満ちた瞳で、俺の指先を見つめている。


そのときだった。


ふと、テーブルの片隅に視線が吸い寄せられた。


お茶の横に、さりげなく置かれた小さな折り紙。


――『椿の花』。


一枚の紙から、切れ目なしで折り出された、精緻な花。


花弁の一枚一枚が、微細な折り目で構成されている。紙の厚みすら計算に入れた、神業的な造形。


見間違えるはずがない。


あの夜、スクリーン越しに俺の脳を焼き尽くした、あの『椿の花』だ。


心臓が、早鐘を打つ。


まさか……まさか!


「綾さん……あなたはまさか……オリ子……ですか?」


綾さんの頬が、淡く紅に染まった。


「……え?ご存知なのですか?」


綾さんは、ためらいがちに続ける。


「は、はい……恥ずかしながら、わたくしの折り紙を、皆様に見ていただきたいと思ってしまいまして……つい先日から『オリ子』として配信させていただいております」


綾さんが、恥じらいながらも、どこか嬉しそうに微笑む。


その瞬間、俺の中で全てが繋がった。


俺が百万円をスパチャしようとして、千穂に全力で止められた相手。


俺の脳を破壊した、正体不明の天才オリガミスト。


それが、東堂議員の娘だったなんて。


綾さんが不思議そうにこちらを見ている。その指先には、折り癖がくっきりと刻まれていた。


同じだ。俺と、同じ手をしている。


なんてことだっ!なんてことだぁーー!

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