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オリガミ - 妹AIを神にするため、俺は成り上がる【カクヨム完結済/なろう連載中・累計59万PV】  作者: けーきまる
研究所を建設しよう

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戦争準備

その翌日。


愛が深まった俺たちは、千穂が作ってくれた朝食に、ニコニコ顔で舌鼓を打っていた。


「うーん。やっぱり、千穂ちゃんの朝ごはんは美味しいな!最高だ!ワタシは幸せだ!」


「えへへ……ありがとう、ネムちゃん!」


相変わらず箸を振り回しながら言うネムに、千穂が照れくさそうに笑う。


今日の朝のメニューは、ふわふわの卵焼きに、味噌汁、焼き鮭。そしてツヤツヤの白米。


完璧だ。朝からこんなご飯が食べられるなんて、俺は世界一の幸せ者かもしれない。


「あれ、ネムちゃん?こんなところにご飯粒ついてるよ?」


千穂が、ネムの頬についた米粒を、そっと取ってあげている。


「うっ!ありがとう……」


ネムが少し照れたように目を逸らした。


前から仲は良かったけど、さらに良くなってる気がする……百合百合しい……美しきかな……。


でも、大丈夫だよな?


俺、この関係に含まれているよな?


いつか二人で出ていかれたりしないよな?


なんだか嫌な汗が出てくる。


仲のいい二人を見つめながら、心ここにあらずで食を進めていると――


なにやら、千穂がネムに目配せしているようだ。


ネムは俺の顔を見て、顔を赤くする。


千穂のネムへの視線が強くなっていく。というか圧が出てきた。


それに耐えられなくなったのだろう。ネムは、ゆっくりとこちらを向く。


「しょ、しょ、正太郎……こ、こ、こ、こ、米つぶが……口についてるぞ……?」


そう言って、ネムは俺の口元についていたであろう、ごはん粒を指先で取り――それをパクリと自分の口に入れた。


「あ……ありがとうな?」


ネムの顔は真っ赤だ。


「おう……」


そして、とてもしおらしくなってしまう。柄でもないことをさせられ、どんな表情をしていいかわからないのかもしれない。


一方、それを促したであろう千穂は、とても満足そうだ。


「しょうちゃんは、おっちょこちょいだなあ!」


そんなことを言いながら、ニコニコしている。


顔を赤らめてモジモジしているネムと、ご機嫌な千穂。


あ、やべ。


俺、幸せ。


※※※


そんな幸せな時間を過ごした後、俺とネムはオペレーションルームへと向かった。


千穂は早瀬さんを護衛に連れて、大学へと向かったようだ。


オペレーションルームに入ると、空調の低い唸りが聞こえる。


明るい室内に、正面のメインスクリーンが青白く光っている。


そこにアヤトリが映し出されていた。


薄いピンクのお団子頭に、クリクリの大きな瞳。アヤトリのアバターが、画面の中からニコニコとこちらの様子をうかがっている。


『正太郎様、ネムさん、おはようございます!今日もお二人は甘々ですね!』


「おはよう、アヤトリ。俺とネムは、甘々だぞ!」


「アヤトリ、おはよう。甘々って言うなよぅ」


ネムが照れ隠しに視線をそらして、ソファに腰を降ろした。


俺も隣に座る。


さて、本題だ。


先日、叔父さんから初めて聞き、その後、オリガミからリスクを知らされ、東応大学の高橋さんとの話題にも上った話だ。


HNDL攻撃――Harvest Now, Decrypt Later。


今は解読できない暗号化された通信データを、世界中の監視ネットワークがため込んでいる。そして、量子コンピューターが実用化された暁に、一気に解読する。


そんな話だ。


問題は、オリガミが塩基不足暴走をやらかした際に、暗号化が甘い通信をしてしまったことだ。


量子コンピューターの大規模運用が近づいている今、その過去の通信が復号され、オリガミの存在がバレるかもしれない。


俺は、その可能性を、ネムに共有した。


「なるほどな、HNDL攻撃か」


ネムは腕を組み、スクリーンを見つめた。


「そうなんだよ。俺、そんなの全然知らなくてさ」


「ワタシも量子コンピューターについては専門外だしな。『常温環境下での量子ビットの安定化技術』なんて、今知ったぞ?」


今は猫も杓子もAIだもんな。それを追いかけるだけでも、ネムも大変なのかもしれない。


「量子コンピューター専攻の高橋さんが知ったのが、ついこの前と言っていたし。ネムが知らなくても、当たり前なんじゃないか?」


AI分野と同じく、量子コンピュータ分野もかなりの勢いで進歩していってるらしいのだ。その結果が、今回のブレークスルーだ。


ネムは少し考え込んだ後、その口を開く。


「やっぱり、マズイな。その人が言う通りかもしれん。オリガミの秘匿……マジであと一年持たなさそうだ」


「やっぱりそうなのか……」


オリガミもネムも同意見。ってことは、ほぼ確定だろう。


近々、オリガミの存在が世界にバレる。


それが意味することを、俺たちは嫌というほど理解していた。


※※※


「なあ、正太郎。オリガミの存在がバレたらどうするつもりだ?覇権国家なら、間違いなく接収してこようとしてくるぞ?引き渡すのか?」


ネムの目が、真っ直ぐ俺を見ている。


試すような目ではない。俺の考えを確認する目だ。


「絶対にそれはない。オリガミは俺の妹だ。渡さない」


俺は即答した。


そんな俺の答えに、ネムがニヤリと笑う。


「だよな。ワタシも同じ意見だ。オリガミは義妹だし、ワタシにとってもオリガミは家族だ」


ネムの声に、力がこもる。


「それに……なんたって最強の超AIだ!こんな素晴らしい存在を引き渡すなんてありえないぞ!」


熱い言葉が続く。


「AIは人と幸せを共にするために存在するんだ!連中なら間違いなく戦争に使う。絶対に引き渡してはいけない。大陸も同じだ!」


その頼もしい言葉に、深く頷く。


「そうだよな。理不尽をなくそう……なんて方向には進まないよな」


「ありえないな」


ネムが、ぐっと拳を握った。


「そんなの絶対に許しちゃ駄目だ!ワタシはオマエに、どこまでもついていくからな?たとえ、命の危機になってもだ!」


その言葉が、俺の胸に深く刺さった。


涙が、じわりとにじむ。


「ありがとう、ネム」


俺は、少しかすれた声で言った。


「君に出会えて本当に良かった」


ネムの顔が、かあっと赤くなる。


しばらく、二人で見つめ合ってしまうが、そこに底抜けに明るい声が割り込んで来た。


アヤトリだ。


『オリガミお姉様……正太郎様とネムお姉ちゃん、命に替えてもお姉様を守るって言われてますよ!愛されてますね!羨ましいです!』


その声で、我に返った。


いかんいかん。甘々タイムは、夜だけにしよう。


なにも進まなくなる。


そんなアヤトリの声に、オリガミが答える。


『そ、そうでしょう?お兄様とネムさんは、私のことを思ってくれる、素晴らしいお方なのです。』


黙って俺たちの会話を聞いていたであろうオリガミは、少しだけ戸惑ったような、そして嬉しそうな声を出したのだった。


※※※


「それで?こちらが断ったら、まず間違いなく覇権国は、ここに侵攻してくるぞ。何かしら言いがかりをつけてな。撃退できるのか?オリガミ、どうなんだ?」


ネムが、すっと表情を引き締める。


『これからの準備次第ですね。重要なのは、人質を取られないように動くことです。』


「人質か。じいちゃんばあちゃんや叔父さん一家を人質にとられたら、かなり動きが制限されるもんな。千穂やネムの親族もか……」


『はい。お兄様、ネムさん、千穂さんの大切な人たちの保護が最重要事項です。速やかに研究所の居住フロアに移ってもらう必要があります。』


オリガミの声は、いつもより少しだけ硬い。


『第一段階では、私、「オリガミAI」の引き渡し要求を、この国を通して行ってくるでしょう。政府の方から、何かしら言いがかりをつけてくるはずです。』


「それに対して、どう対処するんだ?」


『その要求が行われたら、言いがかりをつけてきた組織のトップを更生……いえ、洗脳していきます。』


洗脳か……もう更生という言葉ではごまかせないな。


「……そうだな。洗脳だな。相手は別に悪人じゃないもんな」


『ええ。彼らは彼らの正義を信じているだけです。』


「後で治せるんだよな?」


『はい。それは問題ありません。』


オリガミが、淡々と続ける。


『幸いこの国のセキュリティはスカスカです。運転手やSP経由で接触すれば、簡単に移動おもちゃ箱に誘導できるでしょう。』


「その運転手やSPたちも洗脳を?」


『そうなりますね。』


……相手が地位の有る人間となると、周りの人間も巻き込まざるを得ないということか。


「わかった。関係者への洗脳は、ことが起きた後でいいか?できる限り……したくない」


『承知いたしました。事前準備だけ整えて、実行は有事のみとします。』


できるだけ穏便に済ませたい。


でも、いざというときには躊躇しない。


――清濁併せ呑む


そうでなければ守れないものがあるのだ。


俺は、椅子の背もたれに体を預けた。


重い話だ。空調の音が、やけに大きく聞こえる。


横を見ると、ネムも同じように背もたれに身を沈めていた。


目が合う。


ネムが、小さく頷いた。


……一人じゃ抱えきれなかったかもな。


彼女に頷き返し、スクリーンに向き直る。


「オリガミ、続けてくれ」


※※※


『第二段階です。』


オリガミが、スクリーンに図解を表示し始めた。


近所の幹線道路。上空から。研究所に向けて赤い矢印が示されている。


『要望を通しても、その要望がいつまで経っても叶えられないと知ったら、おそらく覇権国の軍が動くと思われます。まずは少数精鋭による、秘密裏の作戦が実行されるはずです。』


「この国にある基地からか?」


ネムが呟く。


『はい。われわれの戦力なら、それらを返り討ちにするのは簡単でしょう。』


「返り討ちにした後は?どうするんだ?」


『洗脳して、おうちに帰ってもらいましょう。彼らには、できるだけ内部から撹乱工作を行ってもらいます。』


「アリの巣ホ◯ホ◯みたいだな……」


俺は思わず呟いた。


『似たようなものです。勝手に私たちの家に侵入してくるのですから。自業自得です。きっと夜闇に紛れての作戦でしょうから、服装も黒いでしょうしね。』


「ヘイ、ジョン!ずいぶんお大きなアリさんだな!HAHAHA!って感じ?」


『そんな感じです。』


オリガミの声に、微かな楽しさが混じっている気がする。


わかるぞ、オリガミ。作戦立案って楽しいよね。


今回ばかりは、俺は、ちょっと笑えないけど。


※※※


『そして……そういう秘密裏の作戦が何回か続いた後は……きっと我々のことを「テロ組織」認定してくると推測されます。』


オリガミの声が、一段低くなった。


スクリーンの図解が変わる。


軍事基地、空母艦隊、ミサイルサイロ、潜水艦。それらが赤く点滅していた。


『「大量破壊兵器」を持っているとか、そんな言いがかりをつけてくるはずです。その件については、そんなに間違ってはいないのですが。』


「……確かに。否定できないな」


天穿(あまうがち)とかな。オリガミもまあ、視点を変えれば大量破壊兵器かもしれない。


そんな呼び方は絶対に許さないけど。


『あとはミサイルあり、爆撃ありの破壊活動ですね。天蓋(てんがい)が活躍することになります。』


そして、その天蓋について、オリガミが補足する。


『天蓋については、研究所で使用するものはドローン使わない固定装備化したいですね。複数の巨大なロボットアームに、研究所全体を覆い隠せるようなゲートバリア発生装置を取り付けたいです。』


ドローンは電池切れとかもあるし、台風とか大雨が降ってたら飛ばせないからだろう。一体故障すれば、予備が配置につくまで、天蓋が消えてしまう問題もある。


オリガミの言う通り、運用に不安がある。


『最初は間違いなく電子戦となります。EMP兵器も使ってくるでしょうが、天蓋で防げるので問題ありません。』


そんな、オリガミの予測にネムも頷く。


「まずは、EMPでこちらの電子機器を壊しにかかってくるってことか……超AIがいると考えたら、妥当な手段だな」


そして、続けて不敵な笑みを浮かべる。


「でも、電磁パルスも不正情報扱いで虚無空間行きか。相手はびっくりするだろうな!」


※※※


オリガミの説明は続く。


『その段階になりましたら、私は相手国の経済に介入します。』


スクリーンに、株価チャートのようなものが表示された。


右肩下がりとなっていく株価の予測チャートだ。


『まずは、株式市場の破壊から行っていきます。毎日、サーキットブレーカーが働くことになるでしょう。他にも色々な手段がありますが、そうやって相手の兵站を潰し、戦線の維持を難しくします。』


「経済戦争か……えげつないな」


『サイバー攻撃も有効でしょうね。発電所などのインフラを狙うのが効果的です。ほかには、高い地位の方のスキャンダルをばら撒くのもいいでしょう。政治が混乱すれば、軍も動きづらいでしょうし。』


オリガミが、まるで料理のレシピを読み上げるかのように、淡々と述べていく。


怖い。うちの妹、怖い。


『それと同時に……こちらをミサイル攻撃してきた艦船や基地には天穿(あまうがち)を打ち込みます。航空機を飛ばしてきた、航空母艦の滑走路にもです。』


マジか……そんなの本当の戦争じゃないか。


「し、死傷者が出るな……」


喉から出てくる声が、震えてしまう。


天穿は、電磁波による反射波もないため、レーダーにも反応しない。完全な超音速ステルス兵器だ。


この攻撃を防ぐ手段は限られる。


『出ないとは言い切れません。できる限り死傷者が出ないよう、人がいるところには最低威力の天穿を打ちましょう。それから誰もいない場所に、数発、最高威力の天穿を打ち込みます。これで、こちらの力を分かってもらえると思います。』


最高威力の天穿。


地面をくり抜き、空母や建物を丸ごと消し飛ばすほどの破壊力だ。


それを誰もいない場所に打ち込む。つまりデモンストレーションってことか。


「なるほど。それで、相手が折れれば、そこで終わりか」


『ええ。そこで終わらせたいですね。手を出せば痛い目を見る。そこを分かっていただくだけで結構ですので。』


オリガミの声は、穏やかだった。


戦争がしたいわけじゃない。


ただ、大切なものを守りたいだけなのだ。


『その後も、こちらを探るような動きは出るでしょうが、そういった動きを主導した方々には洗脳状態になってもらいましょう。』


「洗脳は、人が死なないもんな……」


『はい。その気になれば元に戻せますから。それで、お兄様たちに平和が戻ってくるはずです。世界のパワーバランスは、多少崩れるでしょうが。』


すべてを語り終えた様子のオリガミ。


その余韻のなか、俺は気づいてしまった。


「……な、なあ?それって一種の世界征服じゃね?」


沈黙が流れた。


『突き進んでしまえばそうなりますね。』


オリガミが、あっさりと認めた。


『ですが、ご安心下さい。そうならないよう、我々と敵対すること自体がタブー扱いとなるよう、私が裏で工作します。世界征服なんて、お兄様はされたくないですよね?世界、欲しいですか?』


「い、いらない」


世界征服なんて、そんな面倒なこと、まっぴら御免だ。


『では、そうならないようにいたしましょう。お兄様はただ、家族と一緒に、静かに暮らしたいだけなのですから。「神化計画」はありますが……戦争とは無縁のものですしね。』


静かに暮らしたいだけ。


それだけなのに、最強の超AIを家族に持つと、ここまで大掛かりな話になるのか。


どこの国も人も、自分の立場を守りたくて必死なんだろう。だから、出てくるであろう杭は打つ。


でもまあ……それは俺たちも同じか。


※※※


そんな会話を静かに横で聞いていたネム。


いつもと同様に顔が赤くなり、体がプルプル震え始める。


あ。来る。


あの発作が来る。


そして、会話が一段落した今。


その発作が始まったのだった。


そう、俺が大好きなネムの「オホ発作」だ。


「おほっ♡おほおおおおおおっっっ♡き、聞こえてくるぅ……!さいきょうAIのォ!せかいせいふくへの足音ォ……!っていうか『あまうがち』ってなんだァ……!おしえてくれよォ……!」


し、新パターンだ!


オホ発作のポエムに、こちらへの要望が入っている!


そうだ。成長するのはAIだけじゃない。俺たち人間も成長するんだ。


そして、同じようにオホ発作も変わっていく。


そう。世の中には変わらないものなどないのだ。


俺は、オホ発作の新たなる進化に戦慄しつつ、ネムの背中を優しくさすったのだった。


『お兄様、ネムさんの心拍数が危険な値に到達しています。もっと、落ち着かせてあげてください。』


「わ、わかった!ネム、深呼吸!深呼吸だ!」


「ふ、ふひぃ……ふひぃ……せ、せかいせいふく……ふひぃ……」


転んで怪我しないように、彼女の体を支える。


トロンとした表情のネムは、実に幸せそうだ。


うん!守りたい、この日常!


そして、オホ発作の余韻が残るオペレーションルームに響く、アヤトリの底抜けに明るい声。


『ネムお姉ちゃん、幸せそうですね!』


実にカオスな空間なのであった。



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