胸に顔を埋めていいから!
『神山たちには、当分の間、ゴビ砂漠周辺に滞在してもらいましょう。これからも色々な魔法の被験体になってもらう必要があります。』
オリガミの提案が、スピーカーから流れてくる。
ゴビ砂漠……か。
暴発などがあったときに周りに迷惑をかけないように、人のいない場所に留めておくってことだな。
魔法の実験台として、ゴビ砂漠に強制滞在とか、しんどいよな。
本当に喜んでやってるのだろうか?信じられん……。
「きちんとお金は送ってやってな?そこで死なれたら、さすがに嫌だぞ」
『お兄様はお優しいですね。』
「ゴビ砂漠に放置して優しいと言われるなんて……根は深いな……まあ無理もないか」
ネムは複雑そうな表情だ。
『そうですよ、ネムさん。神山たちは許せません!絶対に!』
「オリガミ。頼むから、意図的に死んでしまうような状況に追い込んだりはしないでやってくれ。この先目覚めが悪くなるからさ」
『お兄様、流石です。本当に器が広いですね。ふふっ。』
オリガミが「はい」と言わないのが怖い。
でも、これ以上、念を押す気にもならない。
まったく……なんで俺が神山たちを助けるような発言をしなきゃならないんだ。
まあ……オリガミが俺自身より俺のことを、大切にしてくれてるということだけはハッキリと分かる。
全く、俺は幸せものだな。
※※※
『では、少し魔法の仕組みについて情報共有いたします。』
オリガミの声が、スピーカーから流れてくる。
魔法の仕組みとな?
『まず、事象記述操作、いわゆる「魔法」を発動するには三つの要素が必要です。』
三つの要素か。
メモを取るべきかな。
いや、多分、オリガミが後で資料にまとめてくれるだろう。
『一つ目はB世界で言う「魔素」です。これはリクエストを送信するための燃料のようなものです。お兄様は1000QFと超高値、ネムさんは300QFと高値です。一般人の平均は10QFぐらいでしょうか。ちなみに私は1QFしかありませんが。』
「QF?なんの略なんだ?」
『QFは「Quantum Fluctuation」の略称です。「量子ゆらぎ値」のことです。これがいわゆる情報指向性。そして魔法適性でもあります。』
『なぜこれが、量子ゆらぎが燃料になるのか?それは、魔法のリクエストを境界CFTに送信する際、この量子ゆらぎが通信媒体として機能するからです。』
なるほど……わからん。
でも、「量子ゆらぎ値」より、B世界の「魔素」って呼び方のほうがわかりやすいかも。
そんなことを思っていると、オリガミが言う。
『わかりました。では「量子ゆらぎ値」のことは「魔素」と呼称します。』
何がわかったと言うんだ。俺は何も言ってないぞ。
オリガミがエスパーすぎて困る。
※※※
そこで、ネムが叫ぶ。
「ちょっと待て!これ、魔法適性の話だろ?正太郎が1000QFでワタシが300QFだと?正太郎の三分の一だって?なんでだ!」
どうやら納得いかない様子だ。俺に魔法適性でボロ負けして悔しいのだろう。
ふっ、天才ってのは人を傷つけてしまうものなのか……。
地団駄を踏んでいるネムに、オリガミは静かに答える。
『それは……私にもわかりませんね。お兄様がそれだけ素晴らしいということでは?旦那様が、すごい人で良かったですね?私なんて1ですよ?ゼロじゃないので、観測魔法は使えますが。』
ネムが頭を抱えるように考え込んでいる。
「そ、そりゃそうだけどさ……?な、なあ、この値は変わったりするのか?」
『向こうの世界でカルシーリさんの情報指向性が急上昇してましたね……魔虫を食べてる影響も合ったかもしれませんが、同じく情報指向性の高いユークンと多く夜の大運動会をしてたかもしれませんよ?』
「俺は一向に構わんぞ!!」
俺は目を輝かせる。
オリガミ、ナイスな誘導だ。さすが我が妹!愛してるぞ!
カモン、愛するネム。俺の夜はかなりフリーだぞ?
ネムは顔を真っ赤にして、俺から視線をそらす。
「ううっ!カルシーリほどは、無理かも……体が持たないんだよ……アレは……」
や、やさしくするよ?
※※※
『魔法の仕組みに、話を戻しましょう。』
そうだった。大切な話の途中だった。
イカンイカン。
パンパンと自分の頑を叩いて集中し直す。
『二つ目は事象リクエスト認証キー。これは運営が設定した三次元質量配列物質で、簡単に言えば「魔法を使える場所を作成」するためのものです。』
『今回は、3Dプリンタで作成しました。フロアに転がってる球状の層状構造です。』
あたりを見回すと、サッカーボールほどの大きさの球体が、床に転がっていた。
真っ白なプラスチックのような素材で、表面には同心円状の層構造が見える。
強いて例えるなら……層が細かくてすごく多い、真ん丸な蜂の巣だ。
なるほど、あれが認証キーか。
『効果範囲は、事象リクエスト認証キーの大きさの、およそ10000倍となります。つまり、1m四方の事象リクエスト認証キーがあれば、ここから、ほぼ10km四方の範囲で魔法を使えるということです。』
「おお効果範囲、かなり広いじゃないか!」
俺が感心して頃には、ネムはもう指を折って計算を始めている。
1メートル四方で10キロ四方か。
それなら、手のひらサイズで……100メートル四方?
結構、使い勝手良さそうだな。
「でも、そんなに広いと、偶然、魔法が発動しちゃったりしないか?」
『それは問題ないと思われます。魔法発動の記述操作式は、かなり複雑です。数十年スパンであれば、一発ぐらい暴走するかもしれませんが。簡単に発動条件が成立するようなものでは有りません。』
それなら安心か。厨二病患者が偶然発動させてしまうこともなさそうだ。
「熱点」の魔法が発現して、夢見る漢の家が火事になるようなことはないってことだな。
よかった。
ホッと胸をなで下ろす。
※※※
『三つ目は実際の魔法発動のエネルギー源ですが、これは魔素ではありません。境界CFTが発動地点周辺のケイ素化合物から核融合でエネルギーを取得します。つまり、魔素はリクエストにつかう燃料、エネルギーは「システムが自動調達」という役割分担です。』
「核融合?大丈夫なのか、それ?」
なんか、大層な単語が出てきたぞ。
『数個の原子が核融合する程度です。問題ないでしょう。かなり都合の良いシステムがここに仕組まれているようです。このあたりは完全に運営の設定ですね。』
オリガミの言葉に、ネムは大きく目を見開いて驚いている。
「コントローラブルな常温核融合ってやつか……もう無茶苦茶だな。ほ、本当に都合のいいシステムだな」
ネムの顔が赤くなってきている。
おっ、オホの兆候か?
プルプル震え始めたが、徐々に収まって行く。おお!耐えた!
すごいぞネム!
ネムの深層心理も学習したのかもしれないな。
いちいちオホってたら、ネムが大好きな面白い話を聞き逃してしまうことに。
※※※
『では、実際に魔法を使ってみましょうか。身を守るために、お兄様に、ぜひとも習得してほしい魔法があります。板を出現させる「顕板」という魔法です』
「板?」
『はい、板です。空中に固定して、顕現させることができます』
板って……地味だな。
いや待て、空中に固定できるなら……
「なるほど……いざというときの盾として使えということだな?」
『はい。ほかにもうまく使えば、足場を作って落下を防止したりすることも可能です』
この言葉に、ネムがパッと顔を明るくしてはしゃぎ始める。
「おお!それは便利そうだ!その上に立てば、実質、空を飛んだってことにならないか!?ワタシ、一番な!」
『顕板』――空中に板を作るだけの魔法だが、想像以上に汎用性が高い。
これは確かに、習得しておく価値がありそうだ。
『魔法行使にはイメージが大切になります。例えば「顕板」の場合は、縦幅・横幅・厚さのサイズ、出現位置の3次元座標、傾き角度の数値を頭の中で明確にイメージし、「顕板」とトリガーワードをはっきりと口に出す必要があります。』
『なお、イメージが曖昧だとシステムがデフォルト値で補完するため、予期しない結果になる可能性があります。』
サイズ、座標、角度か。
「んん?その程度の条件だと、厨二病患者が魔法を偶然、暴発させちゃわないか?」
さっきの説明と矛盾してる気がするぞ。
『この魔法の発現には、私が多くをサポートさせていただいております。本当はもっと詳細情報を指定する必要があるんですよ?』
「え?じゃあ、オリガミがいないと魔法使えないってこと?」
もしそうだとしたら、ちょっと悲しい。
『そんなことはありません。後日、私が行っている情報指定を魔法陣化します。それがあれば、私のサポートがなくても魔法は発動するでしょう。』
「おお、そうなんだ」
よかった。
「いちいちオリガミに助けてもらうなんて、カッコ悪いからな」
俺がそう言うと、ネムも立ち上がって、ガッツポーズを取る。
「わかる、わかるぞ!やっぱ、魔法は自力で発動してなんぼだよな!」
ネムも同意見のようだ。
『では、早速「顕板」の魔法を使ってみて下さい。さあ!さあ!さあ!』
なんかオリガミ、イライラしてない?
神山の話、したからかな?
よくわからないが、これ以上、オリガミの機嫌を損ねたくはない。
早速、魔法にチャレンジするか。
※※※
「じゃあ、ワタシからやるからな!正太郎は後な!」
どうやら、ステータスで先をこされたのが、悔しかったみたいだ。
ネムは俺から距離をとり、変な動きを始める。
「えーと、イメージイメージ……縦幅……横幅……厚さ……傾き……」
目を閉じて、手で頭をグリグリしている。
なんだ、この仕草。
かわいすぎだろ。
小動物か。
「よし!――けんばん!」
フィン!
ネムの周囲が瞬間的に明るくなり、空気を切り裂くような音がした。
「な、なんか発動した感じしたぞ!……でも板はどこだ?」
ネムはキョロキョロとあたりを見回す。
俺もあたりを見回すが、見つからない。
失敗だったのかな?
『お兄様、ネムさん、上を見て下さい』
「上?」
ネムと同時に、顔を上げる。そこには、白い板が浮いていた。
「おお!成功した!成功したぞ!」
「やったな!ネム!」
上空に、真っ白な板が浮遊している。
サイズは……1メートル四方ぐらいか?
結構でかい。
『ネムさん、これは成功ではありません。』
「え?そうなのか?」
成功じゃないの?ちゃんと板、出てるけど。
『はい。座標指定が滅茶苦茶です。イメージをしてたとき、目を瞑ってたでしょう。あれがまずかったんだと思います。』
「な、なるほどな。確かにどこに出現させるかとかはイメージできてなかったかも……デフォルト値で補完して、予期しない結果出るってこういうことか……」
ネムは悔しそうに唇を噛んでいる。
その表情も可愛いな。
※※※
「じゃ、次は俺の番だな……。ふっふっふ。一発で成功してやるぜ!」
ネムの失敗を見たことで、イメージすべきことが明確になった。
座標は……目の前、2メートル先。
高さは俺の胸の位置。
サイズは……
「しょ、しょうたろう!もう一回だけ!もう一回だけワタシにやらせてくれ!頼む!」
ネムが服の裾を掴んで、懇願してくる。
その目は潤みを帯びていた。
「ええー?どうしようかなあー?」
もったいぶるような俺の言葉に、ネムの表情が、どんどん切実になっていく。
そして、言い放つ。
「後で、胸に顔を埋めていいから!」
「乗ったぁ!」
秒で決まった。
そんなの考えるまでもない。
俺のパラダイスがそこに有るのだ。
※※※
『お兄様、胸に顔を埋めるついでに、子作りされては?』
「それは結婚してからだ」
即答しておく。
ものには順序ってものがあるのだ。
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