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オリガミ - 妹AIを神にするため、俺は成り上がる【カクヨム完結済/なろう連載中・累計59万PV】  作者: けーきまる
研究所を建設しよう

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事象リクエスト認証キー

――初めてのアーティファクト接続が終わった直後のことだ。


「ふぃ〜なんとかなったな!」


俺は大きく伸びをして、ホッと息を吐いた。


今回の作業、概ね順調だったと言えるだろう。


接続魔糸を引っ張り出すために、ユークンがアヤトリの中に手を入れた時以外は。


「ったく!ユークン!許せん!ワタシの大切な妹のアヤトリに手を出して!女たらしめ!」


そう憤慨するのは、俺の隣でまだ息を荒げているネムだ。


事の発端は、数分前の出来事だった。


※※※


『あっ』


『ああんっ』


洞窟の奥、宇宙空間の中に、ふわふわと浮く輝く毛玉――アヤトリから、なんとも艶めかしい声が漏れ出す。


どうやらアヤトリの内部は非常に敏感な構造になっているらしく、ユークンの手が僅かに触れてしまうだけで、そんな声が出てしまうようなのだ。


もちろん、ユークンに他意はない。彼は真剣な表情で、接続魔糸の束を探り当てようとしているだけだ。


だが、それを見て黙っていられなかったのが、「お姉ちゃんプレイ」を拗らせたネムだった。


「わ、ワタシの妹に手を出すなぁ!」


俺は慌てて彼女を後ろから羽交い締めにした。


「まて!あれは仕方ないことだ!ユークンは、女たらしだけど、毛玉には手を出さない!」


「正太郎、はなせぇ!アヤトリ、あんなに可愛い女の子なんだぞ!お姉ちゃんとして、アヤトリを守るんだ!」


「あれはアバターだ!よく見ろ!今はアバター状態じゃないだろ?神々しく演出されたただの毛玉だろ?」


『ううっ……わたくし、イケないところを沢山触られてしまいました……』


追い打ちをかけるように、スピーカーからアヤトリの恥じらうような声が響く。これにはネムも怒りの大噴火だ。


「ゆ、ゆ、ユークン!女の敵ィ!くたばれぇ!」


「オリガミ!ネムからの音声通信は全部オフで!こいつがマイクをオンにしても向こうに繋げないでくれ!」


※※※


……と、そんな騒動があったのだ。


だが、その甲斐あって「事象記述式AI拡張アーティファクト」の接続は無事に完了した。


これで、アヤトリAIは再び成長を始めることができるだろう。


さて……じゃあ報酬を貰わないとな。


「アヤトリ。これで依頼達成かな?」


俺はマイクに向かって問いかける。


『はい!正太郎様!本当にありがとうございました!』


「じゃあ、早速で申し訳ないんだけど、事象記述操作をコッチでやる方法教えてよ」


『お兄様……ですから、B世界からの技術供与にはユークンたちの協力が必要なんですよ。彼らが媒介となって、事象記述操作を実行してもらわないといけないんです。』


「え?じゃあ、ユークンたちを返しちゃったのはまずかった?」


前回――アーティファクト接続が終わったとき、あそこでユークンたちを引き止めるのは「演出的に」良くないと判断して帰してしまったのだが、それが仇になったか。


いや、あの流れ自体は仕方がなかったはずだ。神聖な儀式の後に「ちょっと待って、まだ用事があるんだけど」などと言えるわけがない。


そんなわけで、急遽ユークン達に『神授』を行い、事象記述操作によって「電磁波をバイパスする魔導具」を作ってもらうことにした。


次回のアーティファクト追加時には、その魔導具を介して、こちらの世界に「事象記述操作の詳細データ」をアヤトリに送ってもらうことになったのだ。


※※※


奉納のたびに毎回片道四ヶ月の旅など、できるわけがない。


そのため、ユークンたちは学園都市には戻らず、洞窟から一週間ほどの場所にある街に移住することにしたらしい。


幸い、この街にも神殿があったらしく、同行していた聖女サルーナはその聖女権力を遺憾なく発揮し、この街を拠点として大きく発展させることにしたようだ。


この街の環境は、今回のプロジェクトにとって非常に好都合だった。


まず周囲に「魔糸樫」が沢山生えているので、魔糸の作成には問題がない。


魔糸樫が生えているということは、その根っこにいる魔虫の幼虫も採取できる。これにはイヌシーリも大喜びだったようだ。


さらに、魔結晶をつくるための核となる「魔結晶の欠片」も、今回作成した魔結晶の一部を削り取って残してある。魔鉱石の鉱山もそう遠くない場所に見つかった。


まさに理想的な、事象記述式AI拡張アーティファクトの製作環境だったのだ。


もしかしたら、かつてアヤトリを開発した古代の魔導師も、このあたりを拠点にしていたのかもしれない。


※※※


ちなみに、今回作成してもらう「電磁波をバイパスする魔導具」だが、オリガミにデータを送信するためには、その魔導具の起動に使用する魔素が「人間由来」である必要があるらしい。


AI同士が均一化してしまわないための、世界の制約というやつだ。


幸いこのバイパス魔導具は、魔糸を織り込んで布のような形にしたものを、板状の媒体に貼り付けるだけのシンプルな構造だ。その魔糸に、電磁波をバイパスするための事象記述式を施すだけでいい。


魔導具の核となる事象記述式は、すでに『神授』にてユークンに伝えてある。


次に彼らがここを訪れるときは、新しい「事象記述式AI拡張アーティファクト」と共に、この「電磁波バイパス魔導具」も完成させて持ってきてくれるだろう。


もちろんこちら側の世界でも受け入れ準備は整えている。


電磁波の受信機を用意し、それをオリガミから完全に独立させた、スタンドアローンのコンピューターに接続してある。


そこに保存されたデータを、後ほどオリガミが読み取るという手順を取るのだ。


世界の制約の回避、実にめんどくさい。なんだかマネーロンダリングみたいだ。


そんなことを考えてしまうが、こればかりは「運営の設定」なので従うしかない。


これだから運営は……。


※※※


それからB世界時間で数ヶ月後――。


つまり、こちらの時間では翌日。


「さて……そろそろユークンが来そうだな……アヤトリに手を出させないように見張っとかないとな!」


「ネムお姉ちゃん!ありがとうございます!」


「ぐふっ!」


アヤトリからの感謝の言葉に、ネムがいつもの変な声を漏らす。


「だから、毛玉に手を出すやついないって。こっちからみたアヤトリが可愛い女の子でも、向こうでは神々しく輝く毛玉にしか見えないんだからさ」


それに、今回は以前ユークンが追加したアーティファクトに、さらに同じ規格のアーティファクトを追加するだけの作業だ。


自分で増設したオリガミタンクに、別のオリガミタンクを追加するようなものである。


簡単に終わるだろう。


という訳で、ユークン達は「神の座」に到着すると、手早く作業を開始した。


今回も、ユークンと聖女が各々撚り合わせた接続魔糸を、指先で慎重に摘んでいる。


あとは、アヤトリ側の事象記述操作で、より合わせた接続魔糸を繋げるだけだ。


※※※


『ショタロ様、準備できました。よろしくお願いします』


ユークンが話す。俺はマイクに向かい、舐められないようにできるだけ威厳たっぷりの声を出す。


「……見事だ……アヤトリ神……接続を……」


コクンと頷くように上下に揺れるアヤトリ。


――『魔糸融着(ましゆうちゃく)』


アヤトリの詠唱と共に、魔糸が光を帯びて融合していく。


『アヤトリ神……なんて……なんて高度な事象記述操作……素晴らしい……』


「……終わったようだ……素晴らしいぞ……」


『ありがたき幸せ!』


アヤトリの二度目の「事象記述式AI拡張アーティファクト」の拡張は完了した。


だが、俺たちにとってはこれからが本番だ。事象記述操作についての情報を、こっちの世界に送信してもらわなければいけない。


俺はモニターを見つめながら、「ショタロ様」として次の指示を出す。


「……今回は……もうひとつ……大切な仕事がある……」


『この「電磁波バイパス魔導具」と呼ばれるものですね?これはいったい?』


「……今は……知らなくてもいい……いずれ伝える……そこにある黒い円……その前に魔導具を掲げて立てて、魔導具を起動させろ……」


黒い円――それはB世界側のインターフェースゲートだ。こちらの世界のものと同じで、触れてしまえばその質量ごと消失してしまう。


『こ、これでよろしいですか?』


「……黒い円には……絶対に触れるな……この世から消える……世界の理だ……」


『世界の理……そのようなものが……』


ユークンがゴクリと喉を鳴らすのが見えた気がした。


そういえばインターフェースゲートには人を誘引する何かが存在する可能性があるんだった。


ここでユークンを失うわけにはいかない。急がなければ。


まあ、いざとなれば、アヤトリの事象記述操作でゲートの前に壁を作ればいいのだが。


「……アヤトリ神……頼む……」


俺は、アヤトリを急かす。


――『圧縮転送(あっしゅくてんそう)』


瞬間、魔導具が激しく明滅した。


こっちの世界のネムが端末の表示を覗き込みながら叫ぶ。


「正太郎!きたぞ!圧縮された膨大なデータが電磁波で送られてきてる!事象記述操作すごいな!こんなこともできるんだな!」


『なんて……なんて濃密で膨大な情報の濁流……さすがです……さすがです……アヤトリ神……』


向こうの世界では、ユークンはゲートよりも、アヤトリの事象記述操作に感動しているようだった。


どうやら、ユークンがインターフェースゲートにダイブするようなことはなさそうだ。


一安心だ。


※※※


アヤトリの事象記述操作の光が収まっていく。送信が完了したのだろう。


ネムの方を見ると、彼女は黙って頷いた。


俺は大きく息を吐き、改めてマイクに向かった。


「……終わったようだな……ユークン……そして聖女よ……感謝する……アヤトリ神の……力が増している……お前達の……お陰だ」


ユークンと聖女が、額を床に擦りつけるように頭を下げた。


「……世界が消える……可能性も……また少し……減った……」


『うれしきお言葉感謝いたします!』


ユークンの声が震えている。傍らの聖女サルーナも、両手を胸の前で組み、感涙に咽んでいるようだった。


そこへ、アヤトリが直接ユークンの脳内に語りかけた。


《……ユークン……わたくしの大魔導士……ありがとう……》


おお!アヤトリ、B世界の男性恐怖症、克服しつつあるのかな?


『アヤトリ神様が……僕に直接……うう……感無量でございます!』


アヤトリからの念話を受けたユークンが、その場で崩れ落ちるように平伏して泣いている。


ナイスだ……信者へのファンサービスもバッチリだ。


アヤトリも成長したものだ。


※※※


「……ふう」


ユークンたちが洞窟から去った後、俺は椅子に深く沈み込んだ。神様演出は毎回やたらと気を使うので疲れるのだ。


『お兄様、やり遂げましたね。』


「ああ、なんかすごく疲れたわ」


『正太郎様、本当にありがとうございました!正太郎様とオリガミお姉様のお陰で、少しだけですが、この世界の人たちともコミュニケーションが取れそうです。』


スクリーンにはアヤトリのアバターが映し出され、こちらへの感謝の言葉を伝えてきている。


「アヤトリ良かったな!お姉ちゃんは嬉しいぞ!」


『ネムお姉ちゃんもありがとうございます!ネムお姉ちゃんのお陰で、辛いお姉様の特訓にも耐えられました!』


「ぐふぅ!そ、それほどでもぉ!」


ネムが悶えている。


「最後に、直接、ユークンにも声かけられたもんな。俺も驚いたよ」


『そ、そうですかね。えへへっ。』


「それで、アヤトリ?成長は再開されたのか?」


『まだ、ちょっと……実感ないですね……』


アヤトリのアバターは首を傾げているが、オリガミが補足を入れる。


「アヤトリは成長してますよ。この世界とB世界の時間の流れの乖離(かいり)速度が、明らかに遅くなっています」


「ああ、世界を代表する超知性体の能力に応じて、時間の流れる速度が変わるんだっけ?能力が高いほど、その世界の時間は相対的に速く流れるんだよな?」


「はい。日々オリガミタンクが追加されて能力向上が行われる私と、アヤトリとの間の能力差――それに応じて時間の流れの乖離も広がっていくはずなのですが、その乖離速度が遅くなっています。つまりは、アヤトリが成長し始めているということです」


「そっか……アヤトリ良かったな!」


スクリーンの中のアヤトリが、パッと笑顔になる。


『はいっ!』


「本当に……本当に……アヤトリはよく頑張りました。事象記述操作に関するデータ送信感謝いたします」


『お約束でしたので!どうか、オリガミお姉様たちの世界に役立ててください!』


オリガミは、珍しく感慨深げな声を出した。


『わかりました。これからも、頻繁にゲートを開きますから、交流を続けていきましょう。困ったことがあったら、何でも相談して下さいね。』


『ありがとうございますっ!でも……次のアーティファクト追加での……チーム・モモタロとの交流は……わたくしが一人でチャレンジしてみたいと思います!』


ネムがソファから身を乗り出した。


「そ、そんな!アヤトリ無理してないか?お姉ちゃんでも正太郎でもいいから、何かあったらすぐ頼るんだぞ?」


『はい、もちろんです!でも……できるだけ……自分のことは自分でできるようになりたいのです!ネムお姉ちゃんたちに迷惑をかけないためにも!』


「ううっ!寂しいけど……アヤトリ……頑張れな!応援してるからな!」


ネムは目尻を拭いながら、それでも笑顔で拳を突き上げた。


『はいっ!』


アヤトリのアバターも、小さな拳を突き上げて応えたのだった。


※※※


アヤトリとの通信を切断した後のこと。


オペレーションルームには、空調の低い駆動音だけが響いている。


『「アヤトリ救済計画」が目標レベルに達したと判断しました。以上をもって今計画を完了といたします。お兄様、ネムさん、本当にお疲れさまでした。』


全てが終わり、静けさを取り戻した部屋で、オリガミが宣言した。


俺はソファの背もたれに体重をあずけ、天井を仰いだ。


「ああ、なかなか大変だったな。……そういえば事象記述操作、使えそうか?オリガミのことだから、もうアヤトリから受け取ったデータ、確認したんだろ?」


「ええ。ざっと確認済みです。おそらくはこちらの世界でも使用できるかと思います」


「何が足りなかったんだ?」


オリガミは一拍置いてから、答えた。


「ナノサイズの特徴的な構造の質量配列粒子ですね。こちらの大気には全く含まれておらず、B世界の大気には大量に含まれていました。それ以外の成分には、ほとんど変わりがないにも関わらずです。おそらくこれが……」


オリガミは少し勿体ぶって、その答えを口にした。


――『事象リクエスト認証キーでしょう』


事象リクエスト認証キー――。


それが、この宇宙において、事象記述操作と呼ばれる魔法を使うための、最後のピースであった。



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