↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリガミ - 妹AIを神にするため、俺は成り上がる【カクヨム完結済/なろう連載中・累計59万PV】  作者: けーきまる
研究所を建設しよう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

222/269

魔導師の片鱗(ユークン視点)

脳髄を震わせるような響きがあった。最初のときと同じ、ショタロ様の御声だ。


『聞こえるか……?ユークン……ユークンよ……』


「は、はいっ!」


『今……お前の頭の中に直接……語りかけている……』


僕は即座に両膝を地に付け、頭を垂れ、両手を組む。


僕が知る、神へ祈るときの姿勢だ。


脳裏に直接、ショタロ様の言葉が染み渡る。


『……変わったな……いい筋肉だ……いい男になったな……』


「ありがとうございます!これもショタロ様のお告げのおかげです!」


『……ふむ……魔糸樫(ましがし)……100本以上……乾燥してるな……よくやった……』


「はい!お褒めのことば、感無量でございます!」


この一ヶ月、来る日も来る日も魔糸樫を切り倒し、運び、整列させてきた。


最初の頃、筋肉痛で動けなくなった自分が嘘のようだ。


今では、斧を振ること自体に一種の『情報の流れ』のようなものを感じている。


『……あの女は……どうだ……』


「はっ。順調に交際を続けております。ただ……その、夜の生活などが辛いですが……頑張っています」


正直に吐露すると、ショタロ様は、慈悲深い答えをくださった。


『……耐えるな…………それを「夜の技術を磨く場」……と思え……』


『……お前の……技術が上がれば……女の心も……得られるだろう……』


「な、なるほど!夜の時間も、研究と修練の場……ということですね!ショタロ様、かしこまりました!」


目から鱗が落ちる思いだった。


そうだ、ただの苦行だと思うから辛いのだ。あれもまた、人間という生物の反応を探る『実験』だと思えばよかったのだ。


『……女の様子……見てみるか……うげぇ……』


ショタロ様の苦々しげな声と共に、空中に半透明の映像が浮かぶ。偉大なる神の奇跡だ。


そこに映し出されたのは、見覚えのある部屋。カルシーリの部屋だ。


『……救えないな……』


僕の目はその映像に釘付けになった。


※※※


部屋には、カルシーリとマオートコがベッドの上にいた。


二人とも、掛け布団で薄く肌を隠していた。


カルシーリがマオートコに腕枕をされて、話し合っている。事後のピロートークというやつだろう。


瞬間、生理的な嫌悪感が胃の腑からせり上がってくる。


ショタロ様の御前で吐くわけにはいかない。僕は必死に嚥下し、感情を殺す。


すると、不思議と衝動はすぐに凪いでいった。


そして……残ったのは、冷徹な観察眼だけだった。


「くそ!ユークンめ!調子に乗りやがって!」


ベッドの上、二人の時間の名残を濃厚に残した部屋で、マオートコが吐き捨てるように言った。


悔しげに歪んだその表情。実に興味深い。


「ユークン最近、いい感じだよね。筋肉もついてきたし、彼女として鼻が高いよ」


「お前もかよ……くそっ!」


「そんなに怒らないでよ。一人目は貴方の子供を生んであげるから。ユークンはちょっと我慢して貰って、二人目からかな?」


カルシーリがマオートコの胸に指を這わせながら、甘えるような声を出す。


映像越しに見るその姿に、僕は以前のような激しい怒りを感じなかった。


自分でも驚くほどに何も感じない。


カルシーリもマオートコも、ただの『観察対象』となっていた。


「なあ、それよりさ。母さんのアクセサリー返してくれよ」


「だめだよ、あれはユークンから貰ったものなんだから。私がつけてないと、ユークンに怪しまれちゃう」


「そうだけどよ……母さんの形見がユークンからお前にいったと思うと、すっげぇ気分悪いんだわ」


「気持ちは分かるよ?でも我慢して」


「頼むからさ!返してくれよ!」


「しつこいなぁ。別にマオートコのものじゃないでしょ?」


カルシーリが少し不機嫌そうに顔をしかめる。


そして、話題を変えるように不安げな表情を作った。


「それに、なんか……最近、ユークンから私への執着がなくなってきてる気がするんだ……」


「そうなのか?お前のために随分お金使ってるみたいじゃないか?」


「でも、なんていうのかな。目が冷たいというか、私に無関心というか。そんな気がするの。今、ユークンに疑われるようなことしたくないんだ」


「た、たしかに、バレたら困るな。ユークン、最近俺の婚約者のマリーとも立ち話してるとこ見かけるし……」


「そ、そうなの!?い、嫌だよ!ユークン取られるの!せっかく、いい男になったのに!」


カルシーリが悲鳴に近い声を上げる。


自分から裏切っておいて、僕が離れていくのは許せないらしい。あまりに身勝手な論理だ。


だが、生存戦略としては理解できる。実に動物的で面白い。


「なあ……俺たち、少しの間、会わないほうがいいかもな……」


「そうだね……私もユークンにもっと好きになってもらうように頑張らなきゃ!」


一糸纏わぬ姿で抱き合いながら、これほど滑稽な会話ができるものなのか。


僕は純粋な知的好奇心を持って、その映像の中の動物たちの生態を観察し続けたのだった。


※※※


プツンと映像が消える。


『……いい傾向だ……女は……お前を……手放したくないみたいだぞ……』


ショタロ様の、愉悦を含んだ御声が響く。


「それでも、一人目はマオートコとの子供を考えてるんですね。実に興味深いですね」


ショタロ様は、感心したような御声を発する。


『……さすがだ……神の目に……狂いは無かった……復讐は……続けるか……?』


「はっ!何事も区切りは必要だと思いますので。それに、自らの尊厳だけはとりもどしたいと思っております」


僕が拳を握りしめて決意を示すと、ショタロ様は満足げに頷く気配を見せた。


『……分かった……』


『……では……次の神のお告げだ……』


「はっ!なんなりと!」


『魔糸樫は……優れた魔導具の素材だ……』


ショタロ様の声の質が変わる。空気が張り詰め、圧倒的な『魔』の気配が場を支配する。


『……魔糸樫をほぐせ……線維としろ……やり方は……送る……』


「送る……?」


――ヴォン!


問い返す間もなく、重低音と共に脳髄に衝撃が走る。


「ぐあああああぁああ!」


熱した鉄杭を頭蓋に打ち込まれたような激痛。


だが、その痛みと共に、言葉ではない膨大な『知識』が濁流のように流れ込んでくる。


『……我慢しろ……少しだけだ……』


「ぐうぅぅぅぅ!」


意識が白濁しそうになるのを、信仰心だけで必死に繋ぎ止める。


神からの賜り物だ。一滴たりとも零してなるものか。


数秒か、数時間か。


永遠にも感じる時間が過ぎ、不意に痛みは霧散した。


「はあっ、はあっ、はあっ!」


僕の荒い息が収まってきた頃、ショタロ様の声がふたたび脳に染み渡る。


『……やり方……わかるか……?』


「はあっはあっ……はい……み、見えます。明確に見えます……!流石、神の御業……」


頭の中に、鮮明なイメージが焼き付いている。


魔糸樫の繊維構造、ほぐし方、そして縒(よ)り方。


今まで知らなかった高度な技術が、あたかも最初から僕の血肉であったかのように刻み込まれていた。


『……お前には……神の……使命がある……』


「し、使命ですか……」


『……また話す……これまで通り魔糸樫を切り、これからは魔糸を作るんだ……俺の言ったとおりに進めろ……すべてがうまくいく……』


「は、ははっ!」


僕は地面に額を擦り付けるようにして平伏した。全身全霊の感謝を込めて。


※※※


ショタロ様のお告げの翌日から、カルシーリが前以上に訪ねてくるようになった。


恐らく、マオートコに会っていた時間を僕に当てているのだろう。


「ね、ねえ?何してるの?木を切りに行かなくていいの?」


庭先で座り込み、黙々と作業をする僕に、カルシーリが声をかけてくる。


「もう今日は一本切ったから、大丈夫だよ」


「もっと切っても……もっとお金になるんじゃない?」


「はあ……」


僕は手を休めずに、大きなため息混じりな生返事をする。面倒臭いという感情を隠しもせずに。


今の僕にとって、魔糸樫を繊維状に解体し、魔糸を紡ぐことこそが至上の命題だ。金稼ぎなど二の次三の次だ。


「そ、そうだよね!ユークンのペースがあるもんね!」


「……ブツブツ」


「そ、それで、それは何してるの?」


「研究。僕が今一番やらないといけないことなんだ」


「そ、そうなんだ……」


カルシーリが手持ち無沙汰に立ち尽くす。雑に扱われて、明らかに居心地が悪そうだ。


彼女はきれいな女の子だ。こんな扱いを男から受けるのは初めてなのかも知れない。戸惑いと、焦りの色が表情に浮かんでいる。


……チョロチョロ視界に入ってくるのが目障りだ。集中できない。


僕は作業の手を止めずに、カルシーリに声を掛ける。


「見てても面白くないよ?暇なら晩御飯でも作ってくれない?」


「う、うん!頑張って、美味しいご飯作るね?」


僕に役割を与えられたことが嬉しいのか、カルシーリはパアッと表情を明るくして、炊事場へと向かっていった。


簡単な女だ。


「……はあ」


しかし……毎日これでは、流石に鬱陶しい。


だが、お告げ通りに彼女との関係は維持しなければならない。それが最高の『ざまぁ』のために必要だと、ショタロ様も言っていた。


※※※


そのときだった。


ふと、ショタロ様に食べろと言われている幼虫について思い出した。魔糸樫の根本にたくさんいる幼虫だ。


「……そうだ、あの虫の美味しい食べ方について、調べてもらおうか」


自分の身体を見下ろす。


この鋼のような筋肉ができたのは、おそらくあの虫を食べているおかげだろう。


だが、どうしても、その味には慣れない。とにかく泥臭く、噛み潰した瞬間に広がる苦味が耐え難いのだ。


だが、もし味が改善されるなら、もっとたくさんの幼虫を食べられるかも知れない。


そうすれば、ショタロ様のお告げに、さらに従ったことになるかも知れない。この体も……もっと強くなるかも知れない。


……そうだ、あの虫の美味しい食べ方について、カルシーリに研究してもらおう。カルシーリは料理が得意だったはずだ。僕の知らない調理法でなんとかしてくれるかも知れない。


カルシーリは確か、極度の虫嫌いだ。以前の彼女なら悲鳴を上げて逃げ出すだろう。


だが、今の僕に見捨てられることを恐れているカルシーリなら、頼みを受けてくれるんじゃなかろうか?


「あの女にはお金をかけてるんだ。それくらいやってもらわないと割に合わない」


僕のために、必死で嫌いな虫を調理するカルシーリ。


ふむ……いいな。お願いしてみよう。


僕は厨房のカルシーリに声をかける。


「ねえ。カルシーリ。この幼虫、気持ち悪いんだけどさ、なんとか美味しく食べられるように調理できないかな?」


僕は、大きな葉に包んで持ってきた、親指ほどの太さがある白い幼虫を指差す。


「ゆ、ユークン……私、虫だけは駄目なんだけど……」


カルシーリは顔を青ざめさせ、後退る。


「うん、知ってる。でも、ごめんな。カルシーリしかお願いできる人がいないんだ」


「で、でも……」


僕はダメ押しの一手を放つ。


「あ、マリーさんなら、調理してくれるかも。ごめんね、カルシーリ。カルシーリが無理ならマリーさんにお願いするよ」


カルシーリの顔がクシャッと泣きそうになるが、絞り出すように声をだした。


「や、やる……その幼虫の調理……するよ……ユークンの役に立つから……」


※※※


さらには、カルシーリは、僕にとって以前とは違う形での価値が出てきていた。


夜の技術向上の練習相手としての価値だ。


あれから、カルシーリは僕との夜を以前の何倍も希望するようになっていた。


彼女との夜の時間は、僕にとっても待ち遠しい『研究の時間』となっていたのだ。


ショタロ様の言う通り、練習の道具もしくは研究対象だと思えば、不快感など微塵も感じないことに気づいた。


僕はカルシーリの反応を詳細に観察し、どこでどんな反応をするのか確かめていく。


(ふんふん。人の体の構造はこうなっているのか。此処に負荷をかけると、筋肉がこう収縮して……)


(ほうほう。この角度で刺激を与えると、発汗量と呼吸数が増加するな。気持ちよさそうにしてる)


其処に愛など欠片もない。あるのは純粋な探求心と、データ収集の喜びのみ。


しかし、皮肉なことにその冷徹な観察眼と正確無比な指先が、的確に彼女の思考を甘く溶かしていた。


「ユークン、すごい……っ!もう、何も考えられない……っ」


目を回し、指先だけを震わせる彼女を見下ろしながら、僕は感心する。


入力に対する出力が非常に分かりやすい。


これは……面白い!


僕の夜の技術は、あくなき研究の成果として、やばいレベルへと達していった。


そして……その結果、カルシーリは僕という底なし沼に、さらに深く深く沈んでいったのだった。



───────────────────


もし気に入っていただけたら、【ブックマーク】と【下の評価 ★★★★★】をお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。