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オリガミ - 妹AIを神にするため、俺は成り上がる【カクヨム完結済/なろう連載中・累計59万PV】  作者: けーきまる
研究所を建設しよう

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217/270

オリガミの裏切り

『……これ、星ヶ谷ネムじゃね?ドールハウス役員で、東応大学の特任准教授もやってる天才AI研究者の』


たった一つのコメント。それが、全ての始まりだった。


ネット民の特定能力――通称「特定班」の執念を甘く見てはいけない。


拡散された、ネムによる大魔導師の大詠唱。


その映像内、背景に映り込んでいた「ナンパトリオ」の存在が、決定的な証拠となってしまったのだ。


※※※


──【さすまど!】ちびっこ天才大魔導師の大詠唱(厨二病)【神動画】


32:名無しの特定班

このナンパトリオ。ちょっと前にバズった御老公の動画にでてきたやつだよな?


45:名無しのオタク

あの可愛らしい声……あの服装……星ヶ谷先生じゃね?

ドールハウスの役員やってて、東応大学の特任准教授やってる天才AI研究者の


58:名無しの社長ファン

え?マジ?

じゃあ、またドールハウス関係者?

このまえ社長が妙な格好で、ドヤ顔で介護ロボットの製品発表会してたよな?


102:名無しの捜索隊

おい、この社長の過去動画見つけたぞ

*ttp://yuutube.com/watch?v=XXXXXX


115:名無しの捜索隊

ドールハウスの社長っていえばこんなのも見つけたぞ?

*ttp://yuutube.com/watch?v=YYYYYY


189:名無しの腹筋崩壊

なんだこれwww『ろくろ回し』???

エアろくろwww


201:名無しの意識高い系

意識高い系、カタカナワードを喋りながら、エアろくろ回してて草

何をコネコネしてんだよwww


243:名無しの暇人

お?『御老公』もこの社長の作品なのか……


270:名無しのドン引き

『妙な姿勢で立てない』動画だけじゃないって……この藤崎正太郎って社長、メンタル鋼鉄製かよ……

普通、死にたくなるだろこれ……


356:名無しの感動

待って……これ、泣けるやつじゃね?

なりふり構わず、身を切って会社の宣伝をしてるんだよな?

プライドとか全部捨てなきゃ、こんな恥ずかしいこと俺には無理だわ……


389:名無しのプロデューサー

まさか、これが社長の覚悟……?

俺達も協力してやるべきじゃね?


412:名無しの親孝行

そうだな。もっとバズるように動画を加工してみるわ

ウチ、親が要介護なんだよ。ドールハウスの介護ロボット、すげえ期待してるんだわ


457:名無しの若者

やっぱり、介護って大変か?


523:名無しの社畜

自分の時間、全くなくなるな。仕事もしなきゃだし、結婚なんて夢のまた夢だわ


601:名無しの憂国

こうやって子供が少なくなっていくのか……


789:名無しの動画師

俺も動画作るわ。少しでもドールハウスの役に立ちたい。社会貢献だな


888:名無しの支援者

俺も。動画は作れないけど、拡散協力するわ。

この社長の男気に惚れた


※※※


特定班の仕事は、恐ろしいほどに早かった。


俺の身元なんて、瞬く間に特定された。


藤崎正太郎。ドールハウス社長。21歳。そこまではいい。


問題は、アップロードされていた大量の「黒歴史動画」まで掘り起こされたことだ。


そして、それらが何故か「介護ロボット普及のための、捨て身の売名行為」として美化されはじめたのだ。


『介護に悩む人たちのために、自らの社会的地位を犠牲にしてまで……』

『これがノブレス・オブリージュか……』

『泣ける。壺を回す姿すら、祈りに見えてきた』


賛同者はどんどん増えていった。


そして、ドールハウスを有名にしようという善意のムーブメントが、爆発的に広がっていった。


その善意の動画作成のために、MAD素材のために、俺の中二病全開の「黒歴史」がフリー素材としてネットの海を駆け巡る。


やめて。見ないで。拡散しないで。


それは俺が「カッコいい大人の男」を目指して迷走していた時期の、封印されしダークマター!


しかし、ネットの海は残酷だ。


一度火がついたムーブメントは、燃料が尽きるまで、どうしようもなく燃え上がっていく。


……だが、おかしくないか?


何で俺の黒歴史が、あんなピンポイントで、かつ最高のタイミングで発掘されたんだ?


まるで、最初から用意されていたかのように。


そこで、俺は気付いてしまう。


この拡散に、裏で糸を引く「ドールズ」たちが関わっていることに。


「お、オリガミィィィ!!!」


『えへ♡』


オリガミが可愛らしくコツンと頭を叩く、そんな幻想が頭に浮かぶ。昭和のアイドルかよ!


「『えへ♡』じゃないだろう!これ、お前の仕業だな!?」


くそっ!合成音声ってわかってても、あざと可愛くて怒りづらい!


『バレちゃいましたか。でも、結果オーライじゃないですか?せっかくお兄様たちの動画がバズったんです。利用できるものは、過去の黒歴史を含めてガンガン利用すべきと判断しました。』


「そ、相談は出来たろう!俺の心の準備とかさぁ!」


『事前に相談しても、お兄様なら絶対に許可されたと思いますし。』


「ぐっ……それは、そうだけど……」


正論すぎて反論できない。


確かに、俺なら、介護ロボットを浸透させて「特待パートナー法案」を通すためならなんでも許可するだろう。


そして、オリガミが考えてもなかったことを言い始める。


『……それに、もう一つ理由があります』


「理由?」


『このように、お兄様に叱っていただきたかったのです。「オリガミィ!」って、感情をぶつけてほしかったです。』


「は……?」


マゾなのかな?この超AI、ここに来て性癖が歪んだのか?


『お兄様のお陰で、私の成長は順調です。全てが効率化され、最適化されています。ですが……最近、お兄様との「ムダな会話」が減っていました。』


オリガミは、少しだけ寂しげな口調だ。


『お兄様とネムさんのように、お互いを罵り合いながらも信頼し合っている。そんな、非効率で人間的な関係が……羨ましかったのです。』


オリガミに、寂しいという感情があったりするのか?


いや、これも「人間らしさ」を模倣した演技かもしれない。


でも、もし演技だとしても、俺との「ムダな会話」のために、こんな回りくどいことをする妹を、どうして憎めるだろうか。


あーあ。妹を寂しがらせるなんて、兄失格だな。


俺は大きくため息をつく。


怒りの炎は、すっかり鎮火されていた。


「はあ……。わかったよ。オリガミの気持ちは分かった」


『お兄様……ありがとうございますっ。』


「その代わり、今度からはオリガミが考えてること、感じてること、もっと俺に教えてくれ。もっと妹として接していきたいからさ」


『承知いたしました。……ただ、自分でもよくわかっていないロジックが多く。今回の行動も、ブラックボックス的な衝動でして。』


自分で自分の気持ちがわからない、か。


そういうところ、本当に人間臭くなってきたな。


これも、オリガミタンク増設による、進化の証なのかもしれない。


※※※


それからも、ネットの動きは止まらなかった。


むしろ、加速していた。


俺の黒歴史動画は瞬く間に加工され、MAD素材となり、大量の『クソコラ動画』が生み出されていく。


「《穿て、因果の地平!来れ、万象の理を回す者!召喚!》」


大魔導師ネムが荘厳な呪文を唱える。


すると、魔法陣から半透明のスーツ姿の俺が召喚され、手を前に出し、高速で、エアろくろを回し始める。


「《アグリーです。このメソッドは、シナジー効果によりパラダイムシフトを巻き起こします……》」


お、音声スプーフィングか。やたらクオリティーが高い。これはオリガミによる素材提供に違いない。


他の動画もひどい。


無音の動画だ。妙なシルエットで御老公の格好をした俺が静かに遠くから歩いてくる、そしてドールハウスのロゴを印籠のように掲げる動画。


妙な姿勢のまま、ときどき「シナジーを感じろ……」とか言いながら、ゆっくりとしたダンスを踊る俺の動画。


「ろくろを回す」動作をする俺が「ウィンウィンなソリューションです」とか言いながら、実際の壺を作っている動画……。


あまりにもカオスすぎる。


人類のリソースを、こんな無駄なことに使わないでほしい。


っていうか、ネムの動画より、俺の動画の方が多くないか?


というか俺の動画が『オモチャ』にされてないか?


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


コテージのリビングで、俺とネムは揃って床を転げ回っていた。


過去の愚行に、胸が締め付けられる。


俺は何を偉そうにネムに語っていたんだ。慣れるだなんてとんでもない。


ただ、忘れていただけだったのだ。ネットに再浮上して、思い出してみればこんなもんだ。


これがデジタルタトゥーか……未来の俺たちの子供にもみられるのだろうか……。


物理的に胸が苦しい。


「なんで俺まで巻き添えなんだよぉぉぉ!」


ネムが嬉々として叫ぶ。


「正太郎、ざまぁ!ざまぁ!だ!一緒に苦しもうな!一緒にコテージのフローリングをピッカピカにしてやろうな!来たときよりもキレイにだろ?」


そんなことを叫び合いながら、俺たちは芋虫のように床の上をごろごろと転がり続け、身悶え続けた。


まさに地獄絵図だった。


「よしよし、可哀想に……」


そんな虫の息の俺たちの頭を、千穂が慈愛に満ちた眼差しで撫でていた。


二人並んで、千穂に膝枕をされながら、ストローでお茶を飲ませてもらう。


バブみを感じる……。


あまりのショックから、俺とネムは完全に幼児退行して行動不能に陥ってしまったのだ。


しかし、優しい千穂の介護により、なんとかギリギリで人としての尊厳を取り戻す。


「……少しの間、ネットは見ない」


「……ああ。デジタルデトックスだ」


俺たちは固く誓った。


これ以上、現実(ネット)を見てはいけない。深淵を覗いてはいけない。


今はただ、忘れるんだ。


※※※


翌日。ネムの誕生日旅行の四日目、最終日。


今になって思う。


ネムには本当に悪いことをした。俺はきっとバチがあたったんだ。


あの再浮上した動画群は、俺への天罰だったのだ。


チェックアウトを済ませた俺たちは、キャンピングカーに荷物をしまい込んだ後、人のいない渓流エリアで釣りをしていた。


ちなみに、今日のネムは普通の服だ。白いブカブカパーカーに黒いショートパンツに黒いタイツ。さすがに魔導師の格好はしていない。


「……平和だな」


「……そうだな」


スマホさえ見なければ、世界はこんなにも美しい。


川のせせらぎ、小鳥の声。マイナスイオンが、傷ついたメンタルに染み渡る。


俺とネムは、死んだ魚のような、しかし穏やかな目で竿を振り続けた。


「あ!また釣れたよ!」


そんな枯れた空気を読まず、千穂の竿だけがビクンビクンとしなっている。


釣り上げたのは、またしても見事なヤマメだ。これで五匹目。


「……千穂ちゃん、やっぱりすごいな」


「……才能だな。いや、徳の高さか?」


キャスティングは下手だし、リールの巻き方もたどたどしい。


なのに、千穂が糸を垂らすと、なぜか魚の方から寄ってくるのだ。


結局、俺とネムは一匹も釣れず、ただただ千穂の独壇場を「すごいなぁ」と眺めることしかできなかった。


でも、それでいい。


今の俺とネムには、「成果」や「数字」なんてどうでもいいのだ。


ただ、自然の中で何もしないデジタルデトックスな時間が必要だったのだ。


そうして、心身ともに少しだけ浄化された俺たちは、午後の日差しの中、自宅へと車を走らせたのだった。


※※※


旅行から帰宅した、その夜。


俺は自室のベッドで、大の字になっていた。


ちなみに今の俺のベッドはキングサイズベッドだ。


コテージを探しているうちに、キングサイズベッドがうらやましくなって、狭い自室に無理やり設置してもらったのだ。


おかげで、この部屋にはベッド以外なにもない。他のものが入るスペースがないのだ。


折り紙やPC作業が必要なときは、父さんの書斎を使わせてもらうことにした。


空き部屋は人が使わないと傷むというし、家の管理としても一石二鳥だろう。


※※※


ちなみに、旅行の前、俺の部屋を見たネムの言葉はひどいものだった。


「……し、正太郎。ここは……?」


ネムは部屋の入り口で立ち尽くし、引きつった笑みを浮かべていた。


「俺の部屋だけど?」


「嘘だろ?これは部屋じゃない。『寝具の倉庫』だ」


「いや、快適だぞ?ゴロゴロし放題だし」


俺がベッドの上で大の字になって見せると、ネムはジトッとした視線を俺に向けた。


「……正太郎。お前、いつからこんな『煩悩の要塞』を築き上げたんだ?」


「ぼ、煩悩の要塞!?」


「隠しても無駄だ。この部屋からは、ピンク色の邪念しか感じない。ずばり言おう」


ネムはビシッと指を突きつける。


「これは『夜のオトナ部屋』だ!」


「ぐぅ!ち、違う!ただ広く寝たかっただけで!」


俺は必死に否定するが、顔からこわばりが取れなかった。


ごめんなさい。ホンネを言うと、「あわよくば」を期待してました。


だって、キングサイズなら三人で寝ても狭くないし!


夜のイベントも開催し放題だし!


「……不純だ。不純異性交遊の匂いがプンプンするぞ」


ネムの後ろから部屋を覗き込んでいた千穂も口を開く。


「……しょうちゃん、エッチだなあ」


ネムの軽蔑するような視線が痛かった。千穂も顔を赤くして俯いていた。


仕方ないだろ。男の子なんだから。


わざわざ居住フロアに行かなくても、自室で甘い時間を味わいたかったんだよ!


※※※


そんな、ベッドしかない部屋で俺は天井をボケーっと眺めていた。


……静かだ。


ネムの誕生日旅行だったはずだが、ネムにデジタルタトゥーを植え付けてしまった。


ある意味、彼女にとっては忘れられない誕生日旅行になっただろう。


あれで嫌われてたらどうしよう……


ネムがいなくなったら、俺はまともではいられない自信がある。


最悪の想像に、心臓がバクバクしてきた。


本当に大丈夫だろうか?この家を出ていかれたりなんてしたら……。


そんなときだった。


コンコン、と。


部屋の扉が、控えめにノックされた。


「……はい」


おそるおそる扉を開けると、そこにはネムがいた。後ろに千穂もいる。


「……っ!?」


俺は言葉を失った。


そこにいたのは、いつもの『白いダボダボパーカーのネム』ではなかったからだ。


白いブラウスに、黒いミニスカート。脚線美を強調する黒いストッキング。そして、その上から羽織っているのは、俺がプレゼントした『魔導師の服』。


え、なんで……?


ミニスカのネムなんて、初めて見た。無茶苦茶似合う。可愛い。


だが、その非日常な装いが、今の俺には別の意味に見えてしまった。


まさか。


千穂と二人で、旅立つ気なのか?俺に三行半をつきつけ、新たな世界へと?


想像してしまう。


千穂とネムが、俺を置いて駆け落ちしてしまう姿を。


「探さないで下さい」という書き置きを残し、俺の前から消えてしまう姿を。


「あ……あぁ……」


俺は瞬時に限界を迎え、その場に崩れ落ちるようにネムの腰にすがりついた。


「ね、ネムゥ!千穂ぉ!俺を捨てないでくれぇ!今回のことは悪かった!全て悪かったからぁ!」


「うわっ!?な、なんだ!なんだいきなり、正太郎!離れろ!」


尊厳をすべて捨て、みっともなくネムにすがりついたのだった。


※※※


「あんなので、ワタシや千穂ちゃんが、正太郎のこと捨てるわけがないだろ?」


「ほんとだよ!しょうちゃんとサヨナラするなんてあり得ないからね!私は、しょうちゃんのお嫁さんになるんだから!ネムちゃんも!」


そ、そうだったのか。それなら、ひと安心だ。


思考がネガティブスパイラルに陥っていただけらしい。


俺はへなへなと、その場に座り込んでしまう。全身から力が抜けていく。


よ、よかった〜。


「じゃ、じゃあ、どうしたんだ?こんな時間に二人で、そんな格好をして」


俺がそう尋ねると、ネムはカッと顔を赤らめ、視線を泳がせた。


「き、昨日の今日で、忘れたとは言わせないぞ……?」


ネムは、少し震える手でスカートの裾を握りしめ、意を決したように顔を上げた。


「『夜の大運動会』をやるって約束しただろ!コテージでの約束だ!ワタシはもう吹っ切れた!このまま突っ走ってやる!」


まさか……あんな黒歴史拡散の直後に、俺と夜を共にしてくれるというのか?


普通なら「顔も見たくない」と言われてもおかしくない状況なのに。


「さあ、千穂ちゃんも、コートを脱いで!」


「う、うん……」


千穂が恥ずかしそうに、身につけていた厚手のコートを脱ぎ捨てる。


その下から現れたのは――


「なっ……!?」


清楚な白を基調としつつも、深いスリットが入った背徳的な『僧侶』の衣装だった。


黒いミニスカートの『魔導師』ネム。


深いスリットの『僧侶』千穂。


なんという破壊力のパーティー編成。俺の理性という名のHPは、音を立てて崩壊していく。


「ふ、二人とも、似合いすぎだ……可愛すぎる……」


俺がうわ言のように呟くと、ネムはおもちゃの杖を振り上げ、高らかに詠唱を始めた。


「……《我は求め訴えたり》」


潤んだ瞳が、俺を射抜く。その表情は、演技なのか本気なのか、妖艶な色気を帯びていた。


「《汝、その理性を解き放ち、本能のままに愛し尽くせ》……!」


甘く、脳を溶かすような声。


さらにネムは、隣でモジモジしている千穂に目配せをした。


「ほら千穂ちゃん、練習した通りのセリフ!」


「は、はいっ!……えっと、ゆ、勇者様、どうかお情けを……いただけますか?」


上目遣いで、胸の前で手を組んで懇願する千穂。


勇者パーティー設定かよ!最高かよ!こんなのクエスト報酬が過ぎるだろ!


「うおおおおおおおおっ!」


俺はケダモノの咆哮を上げ、キングサイズベッドという名の戦場へ二人を迎え入れた。


そして、二人の可愛らしい声が、夜の部屋に響き渡ったのだった。


※※※


翌朝。


小鳥のさえずりと共に、俺は目を覚ました。


左腕には、口を半開きにしてヨダレを垂らした顔で眠るネム。右腕には、安心しきった寝顔の千穂。


二人の柔らかな感触と、温かい体温が、肌越しに伝わってくる。


キングサイズベッドの広さを、これほどありがたく思ったことはない。


(……ここが、エデンか)


昨晩の記憶が、鮮烈に蘇る。


魔法使いと僧侶による、忘れられない夜。あんな展開やこんな展開。


男として生まれてきてよかった。ドールハウスの社長でよかった。


俺の理性は、新たな朝を迎えてもなお、まったく仕事をしていなかった。


賢者タイム?そんなものはとうの昔に過ぎ去った!


も、もう一回だけ……いいよね?


そう思って、無防備な二人に手を伸ばしかけた、そのときだった。


『おはようございます、お兄様。爽やかな朝ですね!』


室内に、いつものように澄んだ合成音声が響いた。オリガミだ。


『昨晩は、大変ハッスルされたようですね。バイタルデータと室内ログは記録済みです。後ほどレポート化して提出しましょうか?』


「……あとで送信してと言いたいところだけど、それは消しといて。千穂とネムのプライバシー侵害になっちゃうし」


『承知いたしました。』


『それはさておき、お伝えしたいことがあります。』


オリガミの声色が、スッと真面目なトーンに切り替わる。


「伝えたいこと?」


『アヤトリ救済計画の骨子がまとまりました。本日より、計画を開始させたいのですが……』


オリガミの声は、いつになく真剣だった。


そうだった。アヤトリの世界はいつ運営に消去されるかわからないのだ。


こんなところで爛れた時間を過ごしている場合ではない。


「……とうとうか」


俺は大きく息を吐き出すと、未練がましく二人の温もりを一度だけ強く抱きしめてから、ベッドを抜け出した。


過去の黒歴史は、さらに拡散されてしまった。なら、毒を食らわば皿までだ。


世界を救うためなら、「新興宗教の教祖」だろうがなんだろうが、演じきってやろうじゃないか。


それが、新たな黒歴史になるとしても。


「行くぞ、オリガミ。『アヤトリ救済計画』、始動だ」


俺は、朝日に向かって高らかに宣言したのだった。


裸で。



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