千穂ハーレムのカースト最下位男
オリガミとアヤトリによる、「アヤトリ救済計画」の策定フェーズが始まった。
目的は、B世界とアヤトリが、運営に「停滞した知性体のいる世界」として削除されるのを回避することだ。
だが、これには少し時間がかかるらしい。
オリガミにとって、B世界の魔法文明は未知の異文化だ。まずは徹底的な現状分析が必要とのこと。
そして、肝心のアヤトリも全く当てにならない。
なにせ、何百年もの間、外界と隔絶して引きこもっていた筋金入りのボッチだ。
現在のB世界の原住民たちがどんな文化を築いているのかなんて、知る由もないだろう。
結局、二人(?)はアヤトリの事象記述操作を駆使し、現在のB世界のリサーチから始めることになったようだ。
というわけで、オリガミから改めて言われた。
『お兄様、計画立案が完了するまで、お兄様ができることはありません。羽根を伸ばすチャンスですよ?ネムさんの誕生日なんですよね?旅行行かれるんですよね?ついでに、子作りなどいかがですか?』
オリガミ、俺に子作りさせたがりすぎだろ。
でも、さすがに駄目だ。
ただでさえ、千穂とネムの二人をお嫁さんにするんだ。
けじめを付けられない部分がある分、それ以外の部分では、しっかりとけじめをつけておきたい。
もちろん、こんなものは自己満足に過ぎないだろうけども。
※※※
子作りはともかく、ネムの誕生日旅行は絶対に実現させたい。
だが、ここで一つ懸念がある。
最近、ネムとばかり一緒に居すぎて、千穂との時間が圧倒的に不足していることだ。
研究だの世界の危機だと言い訳をしてきたが、これでは婚約者失格ではないか?
俺は千穂のことも、ネムと同じくらい大切に思っているのに。
こういう不義理は、ボディブローのように効いてくる。後で取り返しがつかなくなる前に、手を打つべきだ。
なんにせよ、俺は千穂ともっと一緒にいたい。彼女の笑顔が見たいし、その柔らかい雰囲気に癒やされたいのだ。
そんな悶々とした思考を巡らせていたときだった。
「なあ、正太郎、ワタシの誕生日旅行だけどさ、千穂ちゃんも一緒じゃ駄目か?」
唐突に切り出されたネムの言葉に、俺はハッとした。
驚いた。まさに以心伝心だ。
「俺も、丁度そのことを考えていたところだ」
「お、マジか?気が合うな!」
「まったくだ。でも、どうしてネムも千穂を連れていきたいと思ったんだ?」
「正太郎と二人きりだと……なんだかB世界とかアヤトリとかの話ばかりしてしまいそうでさ。それじゃ、今までと変わらないんじゃないかと思って。オリガミも言ってただろ?羽根を伸ばせってさ。いつもと別のことをする時間が必要な気がするんだ」
ネムが言うことも最もだ。どうせ、これから、おそらく「アヤトリ救済計画」にかかりきりなる。それについてアレコレ話すのは、やるべきことでもないだろう。
「たしかにそうだな。でも、千穂の誕生日旅行は、千穂と二人きりで行くぞ?あいつはそっちの方が喜びそうだし」
「ああ。それも大丈夫だ。なんだか、ワタシが正太郎を独り占めしてる気がするんだよ。千穂ちゃん、寂しそうにしてないか?」
「正直、いつもと同じにしか見えないんだよ。だから状況に甘えちゃってたかもしれない。でも、俺も千穂と過ごせてないなって思ってたんだ」
「ネム……本当にいいのか?」
「ああ、勿論だ。というかワタシがそれがいいんだ。千穂ちゃんの、美味しい手料理も食べられるしな!」
手料理!結局、目的はそれなのか!
でも……確かに、俺も千穂の料理が食べられないのは辛いんだよな……
結局、俺たちは胃袋を掴まれていて、千穂から離れられない運命なのかもしれない。
※※※
いや……まてよ……俺、ちょっと千穂に甘えすぎてないか?千穂の好意と善意に甘えすぎなんじゃないか?
俺たちって、千穂に手料理ばかりつくらせて、何も返せてなくないか?
もっと、しっかりと日々の感謝を伝えて、千穂が俺たちから離れられないようにしなきゃ駄目なんじゃないか?
……こんなんじゃ、他の男のところに行っちゃうんじゃないか?
「ヤバイ……」
「お?どうした?正太郎?」
「ヤバイぞ、ネム!千穂が!千穂が!家から出ていっちゃうかもしれない!」
「な、何だってぇー!!」
知ってるぞ。旦那が出張中に間男を連れ込む奥さんが多い話。
YuuTubeの「スカッと系」動画で何度も見た。留守中に間男を連れ込んで、旦那を「ATM」呼ばわりするんだ。ああいう悲劇は、男が仕事にかまけて奥さんを放置するのがキッカケになるんだ。もちろん、裏切る方が悪いのだけど。
千穂がそんなことするとは思えない。千穂はそんなことするわけがない。
でも、千穂にそんなこと言われることを、ちょっとでも想像すると……ギャー!
俺の幸福値が下がる!オリガミに世界が滅ぼされる!
※※※
翌朝、ベッドから起き出してはすぐに、リビングへと向かう。
千穂は既に、朝ごはんの準備をしに来てくれていた。
今日の千穂は、白ニットにグレーのフレアスカートを履いている。その上からエプロンも着けていて、清楚でいて家庭的な感じがして最高だ。
こんな天使のような千穂を失う?そんなの、とんでもないことだ!
「千穂ぉ〜。家から出ていかないでくれぇ〜」
俺は千穂にすがりついた。もちろん、突撃するは柔らかな胸だ。男なら当然のターゲッティングであろう。
「千穂ちゃん、ワタシからも頼むよおぉ!」
俺の後にリビングに入ってきたネムも便乗して、千穂の腰にしがみつく。
「え?え?どうしたの?しょうちゃんとネムちゃん?」
いきなり抱きつかれた千穂は、目を白黒させている。
「ごめん!俺達ばかり好きなことして、千穂のことを考えもしないで!」
「千穂ちゃん、ごめんなぁ!正太郎、独り占めするみたいになっちゃってて!」
「え?え?え?」
千穂は完全に状況が飲み込めていない様子だ。困惑しきっている。
「わ、ワタシの誕生日旅行だけど、千穂ちゃんも来てくれよおぉ〜。なあ、頼むよぉ〜」
「え?だって、誕生日だよ?しょうちゃんと二人きりになりたくないの?」
千穂が不思議そうに首をかしげる。
「そ、そりゃあ、それも嬉しいけど……」
「そうでしょ?」
「でも、ワタシの幸せには千穂ちゃんの手料理も必須なんだよぉ。正太郎だけじゃ駄目なんだってぇ〜」
ネムが駄々っ子のように千穂のお腹の辺りに頬擦りをする。
「じゃ、じゃあ、お料理をお弁当箱に詰めてあげるから!ね?気兼ねなく行ってきなよ?」
千穂はそれでも俺たちに気を使っているようだ。なんて健気なんだ。
だが、その健気さが今の俺には突き刺さる。
他の女との誕生日旅行に持っていく弁当を、お嫁さんに作ってもらう男、正太郎……駄目すぎだろ!
ネムはさらに千穂に食い下がる。
「だ、だめだ!ワタシは千穂ちゃんとも一緒にいたいんだよぉ!正太郎とだけ一緒にいったら研究の話ばかりになるからさ!そんなんじゃ、誕生日旅行とは言えないだろ?気が休まらないしさ。な?な?人助けだとおもってさ!」
必死の形相でまくしたてるネム。
「夜だって、ワタシ一人じゃダウンしちゃうしさ!一緒に正太郎のケダモノを受け入れてくれよぉ!」
「わ、わかった。わかったから!」
千穂は顔を真っ赤にして承諾した。
「よ、よかったぁ!」
え?旅行先で、夜の大運動会が期待できるの?
ふむ……キャンピングカーでいくのは外せないとして……でも、夜の大運動会があるならキャンピングカーで寝るのはナシだな。
でかいベッドのあるコテージでも予約しておくか。
管理釣り場が隣接してるような場所だったら、最高だな。遠くてもいいから、オリガミにそういう場所を探してもらおう。
実はこのキャンピングカーは、改造に改造を重ねて、動く要塞のようになっていたりする。
イヌガミタイプの格納庫もあるし、車体上部には小型ドローンであるハチガミの発着ポートもあったりする。
さらには、キャンピングカーを作ってくれた匠ビルダーに、ゲートバリア展開用のデバイスを設置してもらったのだ。
もはや銃弾の雨に耐えられるし、ミサイルが飛んできても問題ない。
ふっふっふ。俺のキャンピングカーの戦闘力がどんどん上がっていってる。もはやロマンの塊だ。戦闘キャンピングカーだ。
※※※
俺がそんな風に、キャンピングカーに思いをはせているうちにも、ネムは千穂にデロデロに甘えていた。
まあ、無理もない。
実は少し前に、「アヤトリ救済計画」に関するオリガミのまとめた資料をネムにも見せていたのだ。
さすがのふてぶてしいネムも、俺達がうまくやらないと「B世界が何万何億という原住民とともに消え去る」などと聞けば、プレッシャーを感じて当然だろう。
もちろん、ネムには事象記述操作でアヤトリを拡張してもらう大魔導師になってもらうことも伝えた。
当然のごとく、事象記述操作という未知の技術でAIを作れるという話を聞いたネムは「オホ発作」を起こしていた。
予測できた確定オホ演出だったので、オリガミに頼み込んで、ハチガミを飛ばしてもらい、360度全方向から撮影することができきた。
おかげで、オホ発作の360度映像データも入手できたし、3Dモーションデータなんてものも手に入れられた。
素晴らしい。完璧だ……。今度、オホってるネムを折り紙で再現してみるのもいいかもしれない。
※※※
話がそれた。
まあ、世界の運命が俺達の双肩にかかっているということだ。
プレッシャーで甘えたくなるのも当然だろう。
ゴロゴロゴロゴロ……
千穂の膝の上で猫のように甘えるネム。
猫のリラックスしたときに出すあのゴロゴロ音、人間にも出せたのか。
知ってるか?この女、これで次の誕生日で22歳なんだぜ?
色々な意味で、俺が衝撃を受けていると、千穂が慈愛の女神のような笑みを浮かべながらネムを見る。
「もう、ネムちゃんたら……」
そう言って、ネムのサラサラの髪をやさしく撫でる。
くそ、うらやましい。
「ネム!そこは俺の場所なんだからな!順番こだぞ!」
俺は抗議の声を上げるが、ネムは千穂の膝にしがみついたまま動こうとしない。
それどころか、片手を振って俺を追い払う仕草までする。
「早いもの勝ちだ!それにワタシの誕生日、近いしな。ワタシに譲れよ。正太郎はあっち行ってろ。シッ!シッ!シッ!」
くそ、ネムめ!
※※※
そんな俺達を見たのだろう。耳裏の骨伝導イヤホンから、オリガミの声が届いた。
『……どうやら、ここは「お兄様のハーレム」ではなく、「千穂さんのハーレム」のようですね』
千穂のハーレム?ということは、ネムが千穂にNTRされたってことか……!?
……でも、まあ、相手が千穂なら許せてしまいそうな自分がいる。
なんだろう、この圧倒的なママ感。すべてを包み込む慈愛の前では、俺もネムもひれ伏すしかないのか。
『このままでは千穂さんの一強独裁体制です。やはり、対抗勢力として詩織さんもお迎えしては?お兄様の主導権を取り戻すためにも、戦力の増強を具申します!』
だから、詩織さんとはそういう関係にならないって。
っていうか、え?これ本当に千穂のハーレム?
俺、もしかして……カースト最下位じゃないか?
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