オリガミに持ってかれた!
「おほっ♡おほっ♡おほっ♡おほおおおおおおっっっ♡おほおおおおおおっっっ♡み、見えてくるぅ……!運営お問い合わせ!?星間通信!?並行世界通信!?あらたなステージへ飛び出す可能性のひかりィ……!」
ネムは天井を仰ぎ、顔を真っ赤にして、意味のない声を漏らしながら震えている。
きょ、強烈なのがきたな……。
無理もない。今回の発見はヤバ過ぎた。
未知の高度知性体とのコンタクトだ。こんなの、映画の中だけの話だと思ってた。まさか自分が立ち会うことになるとは。
ん?それとも、この"強オホ発作"は、さっき千穂の前で"オホ発作"を我慢した影響だろうか?
でも、せっかく我慢したところ申し訳ないが、ネムの"オホ発作"って、千穂との初対面のときに見られてるんだよな。
あれは確か、父さんがオリガミを作ったところを想像して発生した発作だったっけ?確か、ネムと会った翌日の話だ。
あれは……三年くらい前だったか。なんだか、すごいところまで来ちゃったな。
俺は、優しく「オホ発作」でフラフラしているネムを支える。
そして、彼女が倒れ込んで怪我したりしないよう、部屋の片隅に置いてあるベッドに横たえたのだった。
※※※
ネムをベッドに転がし、俺は、その隣に座る。
ネムのサラサラの髪の毛を弄んでいると、オリガミが声をかけてきた。
『相手は、運営ではないですね。』
「運営じゃない?マジで?」
『マジです。運営ならこちらの言語なども知っているでしょう。こんな、めんどくさい通信プロトコル確立プロセスは必要ないはずです。』
め、めんどくさい?
『現在、基礎概念のすり合わせを行っております。円周率の並び、フィボナッチ数列などを送信しました。向こう側からの返答より、数学的概念は向こう側も同じのようですね。』
もう、そんなところまで進めてるのか。さすがはオリガミだ。
ただ……相手が運営じゃなくて、オリガミはガッカリしているようだった。
オリガミも俺と同じように、インターフェースゲートの向こう側には、運営がいるものと考えていたのだろう。
気持ちは分かる。
俺も運営に詫び石を請求したかった!
……でも、運営、悪いこと何もしてなくない?
いや、むしろ、千穂やネムを俺の周りに置いてくれた。感謝しかない。まさか……伝説の神運営か?
さっきは、自分たちが支配されてる感じがして、ムカついてたけど、実際考えてみれば貰ってばかりじゃないか?
「か、神運営……」
「そこまでじゃないと思うぞ?作って放置だしな?」
頭の中の思考が漏れ出て、ボソリと呟いてしまった俺に、ネムが答える。
どうやら、発作から帰ってきたようだ。
ネムは、ベッドの上に上体を起こし、こちらを見ていた。
※※※
ネムは、さっきの発作などなかったようにしている。
本当に忘れているのか、目を背けたいだけなのか、わからない。でも、その点に触れるのは野暮ってものだろう。
ネムが口を開く。俺の"神運営"というつぶやきに対する言葉のようだ。
「千穂ちゃんやワタシやオリガミが、運営に直接作られたわけじゃないからな?運営は、あくまでこの宇宙を作ってくれただけであって、中のものは勝手に生まれてきてると思うぞ?」
そういえばそうだな。世界シミュレーターとはそういうものだろう。
いや、待てよ……?
「フィジカルAIの学習仮想世界みたいに、世界とアバターで、繋がっているソースが違ったりはしないのか?」
フィジカルAI用の学習仮想世界は物理法則だけを模倣した世界だった気がする。一方で、AIは高度なロボット制御AIだ。
「む、確かにそのとおりだな。世界は物理現象をつかさどるシステムに繋がってて、人間はAIが動かしてるってわけか……」
「正太郎は、この世界をフィジカルAIの学習仮想世界をベースに考えてるんだな。でも、確かに正太郎の考えの方が理にかなってる気もする」
お、こっち方面の話で、ネムに認められた?うれしくね?
「ただ、たとえそうだとしても、ワタシたちの個性は自然発生したものだと思うぞ?運営も、そんな大量のアバターに一体一体丁寧に個別に個性設定したりしないだろう」
それもそうだ。
とはいえ、俺も千穂もネムもオリガミだって、運営がシミュレーションしなければいなかったわけだ。
残念ながら、当面、詫び石は請求できそうもないな。
運営に手違いがあったときまで、大切にとっておこう。
※※※
俺とネムの話が、一段落したと思ったのだろう。
オリガミが、声をかけてくる。
『これからは、インターフェースゲートの向こう側とやり取りを続けて、コミュニケーション手段を確立してみます。向こう側と交流できれば、運営のことも何かわかるかもしれませんので。』
そうか。運営から貰ったインターフェースゲートだ。向こう側に運営やこの世界についてのヒントがあるかも知れない。
一体全体、向こう側はなんなんだろう?同じこの宇宙の存在なのか?それとも別のシミュレーター内の別宇宙の存在だったりするのか?
興味が尽きない。ワクワクする。
ただ、今の俺には、もっと興味をひきワクワクさせる思いつきがあった。
それは……インターフェースゲートの物理的特性だ。
※※※
「なあ、オリガミ?インターフェースゲートって複数作れるのか?」
俺の唐突な質問に、オリガミが少し考え込む。
『そういえば……まだ実験してないですね。』
「インターフェースゲートの開門方法は?」
『おそらくですが、あの"答え"の模様どおりに"質量配置"を行うことだと思われます。ゲート開門の再現実験は早急に行う必要がありますね。』
「インターフェースゲートの消し方は?」
矢継ぎ早な俺の質問に、オリガミは淡々と答えていく。
『質量配置を崩せば、消えると考えられます。これも再現実験の後に、実験する必要がありますね。』
「インターフェースゲートはサイズは制御できる?」
『質量配置で表現した模様の2倍ほどの半径をもつゲートが生成されるものと思われます。推測です。』
「インターフェースゲートは模様を傾けたら、どこに生成される?」
『模様と平行に、模様のサイズに応じた高さに生成されるものと思われます。推測です。』
ふむ……やっぱりそうか……これは……いけるんじゃね?
※※※
実験には、安全のため、五階のフィジカルAI学習フロアを使う。
トビガミとハチガミが、シュインシュイン飛び交い、フィジカルAIの学習を続けていたが。それは一時休止だ。
開発室に置いてあった別の3Dプリンタをエッホエッホと、ネムやイヌガミタイプとともに運び込み、電源やネットワークの接続設定を行う。
インターフェースゲートの実験と言っても、俺達の仕事はこれだけだ。後はオリガミに任せざるを得ない。
インターフェースゲートは危険なのだ。理由はわからないが、魅入られる可能性がある。物性も危なすぎるし、人間は近づかないほうが無難だろう。
結果、またインターフェースゲート生成に3Dプリンタを一台駄目にしてしまったが、先程のオリガミの推測は全て正しかった。
ちなみにインターフェースゲートの消去は、3Dモデルにあらかじめ切れ目を入れておき、針金のようなものでイヌガミタイプが樹脂を引っ掛けることで、質量配置を崩した。
これらの実験で、俺の疑問は全て解消した。
インターフェースゲート生成には例の模様を質量配置する。ゲートは複数同時生成ができる。ゲートのサイズと生成位置は、模様質量配置の大きさに比例する。模様を傾ければ、模様と共に、ゲートも傾く。そして、ゲートの消去にはその質量配置を崩せばいい。
完璧だ……
※※※
ネムが俺の意図に気付いたようだ。大きな声で、叫ぶ。
「おいおいおいおい!これは!まさか!まさか!」
「ネムも気づいたか……そう!これがあれば……」
俺はこれ見よがしにニヤリと笑い、一呼吸おいてから宣言する。
「"絶対に貫ける矛"と"絶対に壊れない盾"ができる!それも出し入れ自由だ!」
質量配置を崩したり、もとに戻したりする機構なんて、作るの簡単だろう。
「さ、最強の攻撃と防御じゃないか……!正太郎……天才かよ……インターフェースとしての機能ばかり見てた。流石、オリガミの開発者の一人だな!」
興奮して、手のひらを握り、胸の前に持ってくるネム。
そんなネムに、俺はいやらしい笑みを浮かべて、にじり寄る。
「ふっふっふ……それで……ネム……分かるよね?」
俺はネムの肩に手を置き、顔を近づける。
「ああ……で、でも……そんな、急に……」
顔を赤くして、もじもじし始めるネム。
そんなネムの耳に唇をちかづけ、俺は低い声でささやく。
「もう、俺、我慢出来ないんだよ……ネムが悪いんだぜ……」
「しょ、正太郎がそこまで言うなら……は、恥ずかしいけど……いいよ……」
ネムは上目遣いで、俺を潤んだ瞳で見つめてきた。
「ああ、可愛い子だ……さあ、こっちにおいで……そして……」
真剣にお互いを見つめ合う。そして、ニヤリと笑い、大きく息を吸い込んだ。
「「カッコいい名前をつけよう!」」
俺たちは同時に叫んだ。
※※※
今まさに始まろうとする命名会議に、またもや唐突に割り込んでくるオリガミ。
『ゲートバリアですね。』
「「……え?」」
出鼻をくじかれる俺たち。
『攻撃にも防御にも転用可能ですが、本来の目的は対象を守ること。ゆえにゲートバリア。お二人が茶番劇をされている間に考えました。機能的かつ、お兄様方の好む語感かと推測しましたが。』
冷静なオリガミの声が、その場の空気を支配する。
ちゃ、茶番劇……だけど……
「「い、いいじゃん……」」
ぐうの音も出ないとはこのことか。
黒い円に関する命名、全部オリガミに持ってかれた!
くそう……もっとセンスを。センスを磨かなければ。
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