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オリガミ - 妹AIを神にするため、俺は成り上がる【カクヨム完結済/なろう連載中・累計59万PV】  作者: けーきまる
研究所を建設しよう

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世界の真実

半壊した3Dプリンタの上に浮かぶ、漆黒円。


それに、なぜか視線が吸い寄せられる。目を離すことができない。


漆黒円の中には、何も見えない。でも、本当にそうか?もっと近づけば見えるのでは?見えるのならば、見てみたい。


俺は、漆黒円へと近づいていく。


『お兄様?アンノウンには、あまり近づかれないほうが……』


オリガミは漆黒円を「アンノウン」と呼んでいるようだった。


漆黒円に、近づいて覗き込んでも何も見えない。闇よりも深い闇。なのに、なんで、なんでこんなに惹かれるんだろう。


知りたい知りたい知りたい。


『お兄様?』


「正太郎?どうした?しっかりしろ?」


なんだろう?中に何かあるのかな?もしかしたら、なにか分かるかもしれない。


俺は漆黒円に手を伸ばす――


『お兄様、いけません。』


「正太郎!」


オリガミとネムが叫ぶ。


※※※


その瞬間。イヌガミタイプが俺に突進してきて、俺を突き飛ばす。


胸のあたりにドンッという強い衝撃をうけた俺は、その場から吹っ飛ばされる。


「ぐはっ!」


勢いをおさえられず、転んでしまい尻餅をつく。


胸を強く打ち、息ができない。


一瞬だけ視界が白くチカチカして、次に、胸の奥から痛みが湧き上がる。


「はっ、はぁ……!」


呼吸を整えようとするが、上手く息が吸えない。


肺がうまく動かせず、しばらくのあいだ喉の奥でヒューヒューという音が響いた。


そんな俺の前で、ガシャンっと何かが倒れる音がした。


ゆっくりと顔を上げて、音がした方向を見る。


そこには下半身をなくした、イヌガミタイプが倒れ込んでいた。


『イヌガミタイプ、半身消滅。質量保存則、エネルギー保存則、共に適用されません。』


オリガミがメインネットワークから切り離した、観測モジュール部分からの報告が、室内に響いた。


「しょ、正太郎!大丈夫か!?」


ネムが駆け寄ってきて、俺の体の様子を慌てて調べてくれている。


俺は、自分の行動に戸惑い、言葉が出なかった。


俺は……いったい……何を?何をしようとした?


※※※


イヌガミタイプは、俺を突き飛ばし、その反動で漆黒円に触れてしまったようだった。


こんな真っ二つに破損したのに、下半身部分はどこにもない。部品も転がっていない。破壊された音も聞こえなかった。


下半身を失ったイヌガミタイプには、金属やコード、電子基板、樹脂部品などが、密に詰まっていた。しかし、それらの部品もなめらかに切断され、断面も詳細な内部構造が分かるレベルではっきりしていた。


配線も、パイプも、骨格パーツも、千切れやねじれなどの中途半端な損傷は見当たらない。不自然なほど「きれい」な断面だ。


イヌガミタイプの下半身は、はじめからそこに無かったかのように、消失していたのだった。


※※※


背筋がゾクッとした。


俺が漆黒円に触れていたら、触れた部分は、消えてなくなってしまっていただろう。


俺は、いったい何をやろうとしたんだ?自分の行動が理解できない。


床には、イヌガミタイプの上半身が転がっている。ピクリとも動かない。どうやら、バッテリー部分も消失したようだ。


このイヌガミタイプは、オリガミの物理インターフェースの一台にすぎない。


だけど、犬の形をして俺たちを色々助けてくれた個体の一体だ。なんだか、申し訳ない気持ちになってくる。


同時に、その献身的な姿に感謝の気持ちが湧いてきた。俺は……イヌガミタイプが突き飛ばしてくれたおかげで、助かったんだな……。


※※※


『お兄様、何をっ。今、手がなくなるところでしたよ。』


「す、すまん!なんか、目が離せなくなってつい!」


『「つい」ではありません!3Dプリンタのアンノウンより上の部分が消失してるのが見れば分かるでしょう!アンノウンの中に「落ちて」いって消失したんですよ!』


3Dプリンタの上面が無かったのはそういうことだったのか!


『ふう……本当に危機一髪でした。イヌガミタイプが間に合ってよかったです。お兄様の手がなくなったら、千穂さんや詩織さんが悲しみますよ。折り紙もできなくなりますよ。』


折り紙ができなくなる……?それは困る!


「ご、ごめんな?なんか吸い込まれるような感じがして、気付いたらあんなバカなことを……」


『本当にお気をつけ下さい。お兄様がいなくなってしまったら、私はどうなってしまうか分かりませんよ?世界を滅ぼしてしまうかもしれませんよ?』


「本当にすまない……これから気をつける」


オリガミからの説教に凹む俺へ、ネムが心配そうに声をかけてくれる。


「な、なあ?正太郎?大丈夫か?どこか怪我してないか?ころんだときに、頭とか打ってないか?」


「大丈夫だと思う……オリガミとイヌガミタイプが上手に助けてくれたから……」


そうじゃなければ、今頃、片手を失っていたかもしれない。


感謝しかない。


※※※


そんな俺の様子を見て、思うところがあったのだろう。


オリガミは、何やら考察をはじめていた。


『生命体の精神への干渉?興味を引かせる仕組み?そんなことがありえますか?いえ……ないとは言い切れませんね……。』


オリガミの独り言めいた考察を耳にしながら、俺は考える。


俺やネムは、漆黒円には近寄らないほうがいいかもしれない。


あれが俺のうっかりでないとしたら……ネムも同じような状態になるかもしれない。


俺とネムは、すぐに漆黒円から距離をとった。正直言って、正体不明すぎて怖い。


※※※


研究開発フロア。


ネムは、いつも座っている椅子にあぐらをかきながら、腕を組み、天井を見上げていた。俺はその隣に椅子を持ってきて座っている。


考えがまとまったのだろう。少し黙って考えていたネムが、オリガミに話しかける。


「オリガミ……こんなことはありえないよな?」


『はい。ありえませんね。』


「さっき言ってたよな?宇宙塵内の結晶のX線回折像にありえない共通性があったって」


『はい。ありえない共通性でしたね。』


「それで、その共通部分を組み合わせたら、あの模様になったわけだ」


『すべて正しいです。』


「それでさらに、円の大きさを円柱の高さとしたモデルを3Dプリンタで印刷したら、それが完成した時点であの現象。というわけだな?」


『はい。正確には完成して五秒後ですが、おおむねネムさんの仰るとおりです。』


「そうか……じゃあ、やっぱり、アレか?」


『アレですね。分かっていただけて助かります。本当に、ネムさんがお兄様のパートナーで良かったです。』


ネムとオリガミは、二人だけで通じ合ったような会話をしている。


アレってなんだよ。俺にも教えてくれよ。


「オリガミが言ってた通り、まさに世界からの『問い』だったわけだな……」


『はい。意図的なものを感じますよね?』


「しかし、昔からある仮説だったが、まさかそれの証明に立ち会うとはな」


『これだけ多くの「設定」を見せつけられたら、もう否定できないでしょう。ただ……ネムさんの反応が意外でした。多少なりとも拒絶反応があるかと考えてました。』


「人間の思考も感情も、神経細胞や神経回路網における、電気信号と化学反応による結果だからな。たいして変わらんだろ」


ネムが続ける。


「ニック・ボストロムみたいなことは、ワタシも前々から思ってたしな。量子観測問題なんて遅延レンダリング処理にしか見えないし」


いったい全体、何の話してるんだ?


漆黒円が現れた理由がわかるのか?これが何なのか分かるのか?二人には全て分かっているのか?


俺も知りたい。


「なんだよ。二人ばかりでわかり合っててずるいぞ。俺にも教えてくれよ」


そんな駄々っ子みたいな要求に、オリガミが応える。


『ネムさん。同じ人間であり、パートナーでもあるネムさんから、お兄様に伝えていただけませんでしょうか?AIの私がお伝えするのは、違うような気がしまして。』


「そうだな……わかった……」


ネムは少し思案すると、俺の目をじっと見て、真剣な表情で口を開く。


「いいか?正太郎、落ち着いて聞けよ?ワタシたちが住んでる、この世界はな……」


この世界は?


――「シミュレーション世界である可能性が、極めて高い」


はあ……?


※※※


ふむ……シミュレーション世界とな?


ここで言うシミュレーションってあれだよな?


フィジカルAIを学習させるときに、コンピューターの中に簡易的な世界を作って、そこでロボットアバターを動かして体の使い方を学習させていた、ああいう世界のことだよな……?


ってことはだ、あのシミュレーション内で学習を続けるアバターが、俺達に該当するってことか?


「この世界がシミュレーションだっていうなら、俺はAI?ネムもAI?オリガミと一緒?」


「そうかもしれないな。シミュレーション仮説ってやつだな。この世界がシミュレーション世界だとしたら、ワタシもAIだ。たぶん、千穂ちゃんもな?」


オリガミは少し考え込み、付け加える。


『私は……どうなんでしょうね?AIによって生み出されたAIなので、お兄様たちと同じかはどうか分かりませんが……でも似たようなものでしょう。』


※※※


俺がAIだって?正太郎AIか?


「そうか……AIか……俺もAIだったのか……オリガミと同じだったのか……」


それなら……なんで?なんでなんだよ……?


「俺もAIだって言うんなら……なんで……なんで……」


そして、俺は心の奥底から込み上げてきた熱い感情を、天井に向けてぶつける。


「どうして、俺もオリガミみたいに、もっと賢くしてくれなかったんだよ!!」


俺もオリガミみたいに、イヌガミタイプとかハチガミとか使って、クールに作戦進行とかしたかった。


オリガミがやってくれる、作戦中の連続報告、すごくカッコいいよね!俺もやってみたかったけど、人間だから無理だって諦めてたのに!


「もっと、賢くなりたかった!」


正太郎AIかもしれない俺の、魂の叫びだった。


※※※


そんな俺の様子を見て、ネムは少し安心したように、ニヤニヤと笑っていた。


「大丈夫だろうとは思ってたけど……やっぱり正太郎は面白いな!」


そして、最後にぽつりとつぶやく。


「……あ、シミュレーション世界にダイブしてるだけって可能性もあるか。ワタシたちが住む本当の世界が崩壊しているとかだったら……萎えるな……」



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