ヒューマノイドで楽したい
「ショタロサマ!アナタノタメ、ハタラキマス!」
玄武キャピタルCEOが壊れたレコードのように、同じ言葉を繰り返す。その様子からも、側坐核砲の影響化にあることが明らかだ。
玄武キャピタルについては、これ以降は、あくどいことをしないようにオリガミに任せる。
オリガミなら人を不幸にしなくても、お金儲けぐらい出来るはずだ。
玄武キャピタルが持つ国際的なネットワークは、いつか必要になったら使わせてもらおう。
「ショタロサマ!ショタロサマ!」
うんうん、わかったから。
今のところ、玄武キャピタルに使い道はない。
当分の間は、オリガミに全て任せてしまい、その組織の制圧をしっかりとやっておいてもらおう。
※※※
千羽工業には、早速ドールハウス株式会社の子会社となってもらった。
スパイ行為を行っていた執行役員は、俺のために働くか、会社をやめるかを選ばせた。
俺のために働くということだったので、「移動おもちゃ箱」に入ってもらった。
スパイ執行役員も襲撃のことは知らなかったみたいだけど、会社を売り飛ばして、従業員を路頭に迷わせようとした男だ。更生が必要だろう。
千羽社長は、俺が執行役員を残したことに驚いていた。
不思議そうな顔をしていたので、「外部とのパイプが多い人物なので、徹底した監視と俺の指示に従うことを条件に残すことにした」と千羽社長には説明した。
千羽社長は、俺の説明に納得したようだ。
だが、これは、あくまで形式的な話だ。
実際は、千羽社長や千羽工業全体を監視するための目として、スパイ執行役員には役に立ってもらうつもりだ。結局、執行役員は、またスパイ行為のようなことをするハメになってしまった。まったくもって業が深い。
なんで監視の目が必要なのかって?
だって、千羽社長、頼りないんだもん。
というか、俺のあんな説明で納得しないでほしい。どう考えても、あの説明に、スパイ行為を行った社員を残す説得力はなかったはずだ。
やはり、この会社には監視が欠かせない。そう、改めて実感した瞬間だった。
※※※
さあ、そんなことよりヒューマノイドだ。
千羽工業には、早く製造に入ってもらわなければいけない。
オリガミが作成したヒューマノイドの設計図を見つめ、千羽社長が驚きの声をあげた。
「なんですか……この設計……?すごくないですか?これは……どなたが?」
「うちの星ヶ谷准教授とサポートAIの共同設計です。千羽工業の持つ特許とうちの特許で作れるようなってるはずですが……」
「はい。これは……すばらしいですね。芸術的と言っても過言ではないと思います」
やっぱり?うちのオリガミはすごいんだから。
俺は、「ヒューマノイド早く!」という気持ちが表に出ないよう、心を落ち着けて千羽社長に尋ねる。
「とりあえずプロトタイプで数体作って欲しいのですが、できそうですか?」
「そうですね…。これだけしっかりした設計があれば、すぐに削り出しが可能と思いますし、モーター類も在庫があります。制御コンピューターは……最低限のものでいいんですよね?」
「ええ、ドールハウス株式会社の社内運用を想定してますし、制御はうちのAIが行いますので」
「それなら、すぐに作れます。一週間もあれば、試作機が完成するはずです」
一週間。思ったより短い。嬉しい。
帰り際に工場を軽く見て回ると、働いている千羽工業の皆さんはとても活気があるように見えた。
俺を見つけると、皆さんが「ありがとう!」と口々に声をかけてくれた。
無職になる心配が無くなり、ヒューマノイドなんて最先端の機械を作れる、そんな状況が嬉しくて仕方ないようだ。
こんなに感謝されたら、苦労して買収に踏み切ったかいがあったというものだ。
※※※
ちなみに、玄武キャピタルのCEOとの話し合いがうまくいき、安全になったことを千羽社長に伝えると、社長のご家族はすぐに居住フロアから自宅へ帰っていった。
帰り際、子どもたちは名残惜しそうにしていた。
「もっと、この豪華な家に住みたい!」と言っていたが、学校も塾もあるらしく、家に帰らねばならないとのことだった。
こっちとしては、別にあと少しぐらいは居てもらっても良かったんだが……。
小学生って、地味に忙しいよね。
※※※
さあ、いつものオリガミタンクの増設だ。ネムがクレーンを操作し、俺がタンクの追加作業を行う。
タンク追加作業が完了した瞬間、いつものようにオリガミの艶っぽい声がコアフロアに響いた。
『きたぁ〜♡お兄様の新しいので、私のなかがいっぱい満たされてきますぅ〜♡』
オリガミは超ご機嫌だった。
やめろ。その声、ちょっと俺の楽しみになってきてるだろ。
そんな俺にネムが声をかけてくる。
口に手をあてて、目を大きく見開いて、あたかも驚いたかのような演技をして。
「しょ、正太郎……お前……ワタシと千穂ちゃんだけじゃ物足りずに、実の妹にまで手をだすなんて……!なんてやつだ!悪魔!外道!女たらし!」
ネムは俺をからかうタイミングを逃さない。面白いことが大好きなやつなのだ。
くそっ。そのニヤニヤ顔にちょっとだけイラッとする。
しかし、今日の俺はいつもより余裕がある。
なぜならば、今日は、週に一度の夜の大運動会の日だからだ。
俺はネムの肩に手を置いて言う。
「すまん、ネム。寂しい思いさせて……今夜は寝かせないからな。でも、ネムって体力よわよわのヘタレだから、手加減したほうがいいかな?」
そうやって挑発すると、ネムはあっさりと乗ってくる。
「な、なにおう!ワタシだって生活リズム直したり、千穂ちゃんと一緒に体力づくりしてるんだ!正太郎なんかに負けないぞ!今夜は、返り討ちにしてくれるわ!」
ふっふっふ。実に楽しみだ。今夜が楽しみすぎる。
※※※
さて、オリガミAIのタンクはとうとう25個になった。一年間で15個だったのに、ここ数日で一気に25個まで増えた。
単純計算で考えても、オリガミは、かなり賢くなってきているはずだ。
オリガミ自身もそれを自覚しているようだ。
本人が言うには、少し前にオリガミを混乱させた「問い」についても、そろそろ何か分かりそうだと言うことだった。
オリガミを悩ますような「問い」か……。
できれば、それが今後大きな問題にならないといいんだけどな。
さて……それはともかくとして、オリガミタンクの在庫がとうとう切れた。
だが、ここ数日で、俺たち自身の力でオリガミタンクの組み立てができるようになっていた。
届いた部品を使って、何個かの試作を行い、なんとか使用できるまでのクオリティに引き上げることができたのだ。
そのため、新しいタンクもいくつか用意できていた。
つまり……これからもタンクの追加を毎日一個ずつ出来るというわけだ。
※※※
タンクの組み立てにおける、ネムの仕事はDNAニューロン基板を作ることだ。
もっとも、この作業は研究所を設計した時点でちゃんと計画されていたようだ。
購入したシリコン多孔基板をストッカーに入れておけば、グリッドパターンのナノインプリントが自動的に行われ、DNAニューロン基板が完成する。
完成したそれは専用のケース内に、自動的に積み上げられるようなシステムができていた。
ネムの仕事は、加工前のシリコン多孔基板をストッカーに入れることと、機械が正常動作するか確認するくらいだったりする。
※※※
ちなみに俺の仕事は、オーダーメイドしたオリガミタンク外装パーツを組み立てることだ。
この外装パーツ。意外と重いので、ネムには任せられない。
ただ、作業自体は簡単だ。はめ込み部位にシーリング剤を塗り、レールに沿って各壁面をつなぎ合わせていくだけの作業だ。
大きめのプラモデルを作る感じだ。そんなに難しくはない。
※※※
そして、タンク外装にDNAニューロン基板を組み込む作業だ。
上面だけが開いているタンク外装に、DNAニューロン基板が数百枚重ねられたケースを慎重にセットする。
その後、シーリング材を塗り、最後の外壁パーツをレールにはめ込んで密閉する。
このタンク外壁には、各種センサーやUV照射装置を一体化したデバイスも取り付ける。この作業も俺の担当だ。シーリング材を塗って、レールにはめ込むだけなので、特に難しいことはない。
これで見た目だけは、完全にオリガミタンクだ。
※※※
だが、最終工程が残っている。
タンク内部の真空化だ。
何故真空化するのか?それは、タンク内部を外部からの汚染から守るためだ。
オリガミAIは繊細だ。空気中の微粒子や水分、細菌などが混入すると正しく機能しなくなってしまう可能性がある。
そのため、タンクの内部を真空状態に保つことで、不純物によるトラブルを防ぐのである。
※※※
タンク内部の真空化は、オリガミを守るためのとても重要な工程だ。
まずは、タンクの接合部が密閉されているかどうかを目視でチェックする。シーリング材が完全に硬化していることも確認する。
次に、タンクの真空バルブに専用のホースをつなぎ、真空ポンプのスイッチを入れる。
それから、圧力計を見ながらじっくりと空気を抜いていく。密閉状態ならば、数分で、ほぼ真空状態だ。
内部の真空化が完了したら、真空バルブを閉じ、ホースを外す。
この状態で、UVをオンにして一日ぐらい放置する。
翌日、圧力計を見て真空状態が維持されていることをチェックし、密閉状態であることを確認する。
さらに、各種センサーの値に問題がなかったら、オリガミタンクの完成だ。
こうして、一日数個のオリガミタンクが作成できるようになった。
これまでと同じように、一日一個のペースでオリガミタンクを追加できるようになったわけだ。
※※※
オリガミタンクの作成作業は、それほど難しくないと分かった。
これならヒューマノイドに置き換えられるはずだ。
というわけで、まずはこの作業をヒューマノイドに任せることにする。毎日クリーンルームに入るのは手間がかかるしね。
俺はオリガミに声をかける。
「ヒューマノイドによるタンク作成の学習は、仮想空間で順調に進んでる?」
俺の「早く楽したい」という思いがにじんだ質問にも、オリガミはすぐに答えてくれる。
『順調です。仮想空間内では、何の問題もなくタンクを組み上げられるようになっております。あとは……』
「あとは?」
『実際のヒューマノイドが完成待ちですね。完成後、少しのあいだ実機で学習を行い、その後でオリガミタンクの作成作業に投入しましょう。』
「やっぱり、あとはヒューマノイドの完成待ちか。千羽工業の皆さんには頑張ってもらわないとな」
『すぐだと思いますよ?現在も、千羽工業の皆さん、目をキラキラさせて部品を削り出してますね。よほどあのヒューマノイドの設計が気に入ったのでしょう。数日中には試作機が完成する見込みです。』
「あの、オリガミがやった設計か。千羽社長も芸術的だって言ってたな」
『新しくタンクを追加したことで、より良い設計ができるようになったと思います。少しずつオリガミAIが成長している実感があります。』
「やっぱり、タンクを追加するたびに、オリガミはどんどん賢くなっていくんだな」
『はい、お兄様。その可能性が高いです。これからも毎日タンクを一つずつ増やせると思うと……夢のようです!』
うんうん。オリガミは楽しそうだ。
『これからも、お兄様の蔵書をしっかりとチェックして、よりお兄様に喜んで頂けるような「接続音」を算出しますね!やはりハート多めのセリフの方がいいのでしょうか?』
いや、そんなこと考えなくていいから。
あと、できれば蔵書のチェックは止めてほしいな……。
※※※
そして、待ちに待った、週に一回の夜の大運動会。
研究所四階、居住フロアの大ベッドの上。
間接照明に照らされた、雰囲気のある空間に。
ネムの空気が抜けるような、色っぽい声が部屋中にこだました。
「お、おほぉ…………」
体を鍛えていると豪語していたくせに、あっさりと気を失ってしまうネム。俺に返り討ちにすると言っていたのに、真っ先に落ちるネム。
そして、そんな彼女を、自分の息を整えながらも、心配そうに見る千穂。
そこには、身体中に溜まっていた欲望がすっかり抜け落ち、心地よい眠りに入っていく俺がいたのだった。
「ああ……千穂……ネム……大好きだ……」
愛しい彼女たちを薄目で見ながら、最後にそれだけを言い残す。
俺は、開放感につつまれながら、その意識を放り投げたのだった。
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