「極めてスケベ」と診断される
俺は、少しおかしくなっていた。
「とととと、東堂議員。特待パートナー法案!まだですかぁ!」
『しょ、正太郎くん、急に電話をかけてきたと思ったら、どうしたのかね?』
「お、俺の、千穂とネムが可愛くて、愛おしくて愛おしくて!切なさがボンバーなんです!こどっ、子供、こどもぉ!」
『おちつきなさい!ほら、正太郎くん、深呼吸して。スーハースーハーって』
「は、はい……すーはーすーはーすーはーすーはー」
ああ……脳に酸素が充填されていく……。
『正太郎くん、落ち着いたかね?』
「あ、はい。す、すいません……取り乱してしまいました」
何かとんでもないことを、東堂議員に口走ってた気がする……。
『それはかまわんよ。それで、なにがあったのかね?まさか、何かトラブルでも?』
「じ、実は……」
※※※
夜の生活について他人に打ち明けるのは、抵抗がある。
ただ、東堂議員との関係は、近すぎず遠すぎず、適度な距離にある。
それに、千穂とネムに会うことも、滅多にないはずだ。変な目で見られることはないだろう。
さらに東堂議員は、誠実さに誠実さで返してくれるタイプな気がするし、なにしろオリガミが止める様子がない。
相談相手として悪くないかも知れない。
俺は悩んでいたことを、東堂議員に話してみることにした。
『は?夜の生活で、相手を気絶させてしまう!?それでも満足出来なかったって?正太郎くん、キミ、性依存症ってやつかね?』
「実は……俺もそう思って病院に行ったんです」
『うん、それでどうだったんだ?』
「極めてスケベなだけらしいです」
『き、極めてスケベ?診断結果がか?』
「は、はい……」
恥ずかしい。俺はなんで「極めてスケベ」になってしまったんだ……。
『ぶ、ぶ、ぶ、ぶわっはっはっは!キミ!正太郎くん、面白すぎだろ!この前の御老公の動画といい、私を笑い殺す気かね!』
「わ、笑い事じゃないですよ!俺は真面目に言ってるんです!」
『ち、ちなみに、性依存症じゃない理由は、なんて言われたんだ?』
「に、日常生活に影響を与えると分かれば、夜の生活を控えることが出来るかららしいです……」
どうやら、性依存とは、生活や仕事や人間関係を壊しても性行動がやめられないことを言うらしい。
『なるほど!確かに性依存症とは違うな。いやはや、まさに「英雄色を好む」だな。こ、好み過ぎだと思うが。ブフゥッ!』
「東堂議員!笑わないで下さい!」
本人としては笑い事じゃないんですよ。本当に。
『す、すまん……でも、これ、議員にかけてくるような内容の電話じゃないぞ?本当に、正太郎くんは、常識の枠にしばられないな。やはり天才というのは違うものだな。』
天才……むず痒いから止めてほしい。
「て、天才かどうかはともかくとして……確かに東堂議員に話すような内容じゃなかったかもしれません……」
『それで?なんで特待パートナー法案の成立を急かして来たんだ?』
「それが……」
もうここまで来たら全部話してしまおう。なるようになれだ!
※※※
『ふ、二人で協力して、満足させてくれたから、愛おしさが爆発した!?すごいな?ずいぶんと、理解ある婚約者さんたちなんだな!』
「そ、そうでしょう!千穂とネムは俺の大切な婚約者です!最高なんですから!」
俺の自慢のお嫁さんたちだ。
『なるほどなるほど……それで、いても立ってもいられずに、法案をとっとと成立させて、とっとと彼女たちと結婚したいと……そういうわけだな?』
「まあ……そうですね。でも、よく考えたら千穂が大学を卒業するまで、あと二年あるんです。だから結婚はそれ以降ですね」
千穂とネムには、結婚は千穂が大学を卒業してからだと伝えてある。
……あれ?よく考えたら、この電話、意味なくないか?
東堂議員に愚痴を聞いてもらっただけじゃない?
東堂議員も同じことを思ったのだろう。困惑した様子で尋ねてきた。
『なんだそれは?まだ、随分と先じゃないか。正太郎くん、なんで電話してきたんだ?』
おっしゃる通りです……。
「な、なんででしょうね……?すみません。衝動的に電話してしまったみたいです」
そうだ、一つだけ聞いておこう。
「……あ、あの法案、二年以内に成立させられそうですか?」
『もちろんだ。正太郎くんたちが、介護ロボットをちゃんと普及させられればな?それが出来るのなら、私の議員生命をかけて通してみせよう』
東堂議員とは利害関係も強い。この言葉は信用できるだろう。
介護ロボットの件は大丈夫。なんとかしてくれるはず。ネムと叔父さんが!
ということは、二年後には特待パートナー法案が成立しているということだ。
つまり、千穂が大学を卒業したタイミングですぐ結婚できる!
俺は浮かれてしまっていた。
そんな俺をよそに、少し考えるように間をおいた東堂議員は、俺の予想の斜め上をいく発言をしてくる。
『二人でも正太郎くんを受け止めるのがギリギリなら……三人で受け止めれば余裕ができるんじゃないかな?』
「へ?三人?」
『うちの娘なんかどうだ?贔屓目に見ても、かなりの器量良しだぞ?それに……笹木家のお嬢さんよりは、まともだと思うぞ?』
「え?え?娘さんですか?」
『そうだな……正妻はいるようだし……特待パートナーとしてどうだ?』
な、何を言っているんだ?
※※※
『お兄様。私は、驚きました。まさか東堂議員に電凸するなんて……通話をインターセプトする暇もありませんでしたよ。』
「いや……すまん。暴走してしまった」
『千穂さんたちが部屋から出ていってすぐに、スマホに飛びつくなんて、流石に想定の範囲外でした。私もまだまだですね。お兄様の突拍子もない行動も予測できいなければいけません。早くタンクを追加してください。』
「はい……」
オリガミの言う通りだ。あんな衝動に突き動かさなければ、厄介な提案を受けることも無かったかもしれない。
ああ、なんてこったい。
※※※
時間は少しだけ遡る。
まばゆい朝日に照らされて、俺は目を覚ました。
ここ数年で、今朝ほど、さわやかな気分で目覚めたことはなかったと思う。
朝起きたら、体の中をうずまいていたモヤモヤしたものが、綺麗さっぱり消え去っていたのだ。
そんな俺に声をかけてくれる、愛しいお嫁さんたち。
「しょうちゃん、おはよう!」
「正太郎、おはよう!」
千穂とネムがソファに並んで座り、にこにこと俺の方を見ていた。
彼女たちの後ろから朝日がさしこみ、二人に後光が指しているように見える。
ああ……天使だ……天使が二人もいる……。
そうだ、俺は昨日の夜、千穂とネムに……。
間違いない。この、今までになく爽やかな気分は、千穂とネムのおかげだ。
ネムがニヤニヤしながら口を開く。
「正太郎、どうだった?スッキリしたか?」
「あ、ああ。なんか体と気持ちが凄い軽いんだ。……俺、今、最高に幸せだよ」
「ムフフフ……そりゃよかったな!じゃあ、ワタシは行くから。後でクリーンルームに集合な。例の作業やるぞ」
「しょうちゃん、私も朝ご飯作りに戻るね?三十分くらいしたら、家の方のリビングまで来てね?」
ああ、千穂とネムが行ってしまう……。
勇気を出して彼女たちに声をかけた。昨夜の体験は俺には天国過ぎた。もっと味わいたい。
「な、なあ!ま、またお願いしていいいか?」
そんな俺の頼みに、千穂はネムの方をちらりと見てから答える。
「週一ぐらいなら……ネムちゃんどう?」
「ワタシもそれくらいならなんとか……くっ!ボトルネックはワタシか!」
「ネムちゃん、今度一緒に体力つけようね?」
「お、おう。仕方ないよな。正太郎のためだもんな!」
そうして二人は部屋を出ていった。なんだか今まで以上に仲良くなっている気がする。
……俺の目には、じんわりと感動の涙が浮かんでいた。
「ううっ!俺は、俺はなんて幸せものなんだ!」
そして、衝動的にスマホを手に持ち、東堂議員に電話をかけたというわけだった。
※※※
そして今、自分の衝動的な行動を激しく後悔していた。
『東堂議員の娘さんを紹介されちゃいましたね?どうされるんですか?』
「どうもこうもしないよ。俺は千穂とネムがいるし」
『東堂議員の娘さんも、詩織さんに勝るとも劣らずに、可愛らしい方ですよ?お兄様より年下ですしね?』
「だから。俺には千穂とネムがいるから」
『笹木家の詩織さんが、お兄様にぞっこんなことも筒抜けでしたね?笹木家に張り合って、東堂家も娘さんをお兄様にと思ったのかも知れませんね。』
ううっ、なんだかありえそうな話だ。
「詩織さんのこと、どこから漏れたんだろうな。まあ、あの人なら自分で吹聴してそうか」
オリガミは淡々とした口調で俺に告げる。
『この際、全員お兄様のモノにしてしまえばいいのでは?二人も三人も四人も変わりないでしょう?笹木家も東堂家とも、確実な繋がりが出来ますよ?』
「笹木家と東堂家とのつながり?必要か?それ?」
『千穂さんやネムさんを守りやすくなります。確実に。』
ぐっ!それは、確かにそうかも知れない。
「なるほどな……一応、少しだけ考えておくよ。千穂とネムを守るなんて口実で、彼女たちを傷つけたりはしたくないし」
ただ……本当に笹木家や東堂家の力が必要になったときはどうする?
それが絶対にない、と言いきれないのがつらい。
仕方ないか……。
「万が一。万が一だぞ?そうせざるを得ない状況になった場合、彼女たちがどう思うのか……反応をそれとなく探っておいてくれないか?」
『承知しました、お兄様。』
笹木家の詩織さんの動きが知られていたんだ。東堂議員の娘が紹介されるのも時間の問題だったのかもしれない。
電話をしなかったとしても、いずれ東堂家の娘さんを紹介される展開になっていたような気もする。
ただ、俺は思った。心から思った。
衝動的な行動って、ろくなもんじゃないな……。
※※※
さて、千穂やネム以外の女性関係は、棚上げしておこう。優先順位はかなり低い。
俺が、今、やるべきことは何だ?
特待パートナー法案については、東堂議員に任せてある。
介護ロボットは、藤崎グループとネムの仕事だ。
データセンター建設はネムと先端工業建設が手をつけているはずだ。
なら、俺の仕事は「オリガミ神化計画」の遂行しかないだろう。
要は、オリガミをさらに賢くすることだ。具体的にはオリガミタンクをどんどん追加していくことだな。
そのためには、オリガミタンクの量産が必要だ。
そして、オリガミタンクを量産するためには、人手が必要だ。だが、この研究所に他人を入れるわけには行かない。となれば、労働力として使えそうなのは、ヒューマノイドしかない。
オリガミが制御するヒューマノイドなら、タンクの組み立てと追加について、俺以上の働きをしてくれるだろう。
つまり、そんなヒューマノイドがあれば、オリガミは自分で自分のタンクを追加できるようになるのだ。
もちろん、業者から、タンクの外壁パーツやシリコン板を納品して貰う必要はある。だが、そんなことはオリガミが普通にやるだろう。
さらにいうと、ヒューマノイドであれば、数の力でタンクを超スピードで組み立てることが出来る。タンクの追加作業も同じだ。
これなら、オリガミタンクの増設についても、一気に加速するに違いない。
それも俺の手を離れてだ。ヤバくね?
※※※
早急に、研究所用ヒューマノイドを量産する必要がある。
これが、これから俺のやるべき仕事だ。
「オリガミ、研究所用のヒューマノイドの設計は済んでるか?」
『もちろんです、お兄様。仮想空間でのシミュレーションも進めております。』
「よし。じゃあ、その設計をもとに藤崎グループにヒューマノイドを作ってもらおう。介護ロボットで生産ラインはフル稼働かもしれないが……なんとかして、うちのヒューマノイドも一緒に作ってもらうしかない」
この前は介護ロボットを作れと言っておいて、舌の根も乾かぬうちに、次はオーダーメイドのヒューマノイドを作れと来たもんだ。
なんて、身勝手な甥っ子なんだろう。
だが、これはオリガミの成長に直結する重要な案件だ。後回しにはできない。
よし、まずは叔父さんにアポイントを取ろう。そして、藤崎グループのビルに、直接お願いに行くぞ!
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