夜の戦い(千穂視点)
ネムちゃんが、私を見て不敵に笑う。
「千穂ちゃん、ワタシの部屋に行こう。『ケダモノ鎮圧作戦』の最後の作戦会議だ」
「う、うん……ケダモノってしょうちゃんだよね?前も思ったんだけど……しょうちゃんはケダモノじゃなくて、王子様だと思う……」
「王子様……そ、それは、ワタシもそう思うけど!よ、夜はケダモノだろ?」
ネムちゃんが子供みたいに、地団駄を踏む。
ふわぁぁぁ!ネムちゃん、かわいい!
思わずニコニコしてしまいながら、答える。
「そうだね?しょうちゃん、ケダモノな所あるよね?」
「わ、わかればいいんだよ。じゃあ、ワタシの部屋いくぞ?」
赤くなって恥ずかしがってる姿も、かわいい!
※※※
ネムちゃんの部屋は、倉庫の隣だ。
少し前まではこの倉庫で、研究してたみたいで、倉庫には大きなコンピューターが設置されていた。
しょうちゃん曰く、一億円以上するコンピューターらしい。そのコンピューターも、今は、研究所二階の研究開発フロアに移動させたらしく、ただの倉庫に戻っている。
ネムちゃんの部屋の中には、あまりモノがない。ベッドとPCが乗っているデスクぐらいだろうか。あと、専門書やらちょっとしたものが置いてある棚だ。
その棚には、しょうちゃんが作った折り紙も置いてある。
ネムちゃんをモデルに作られたネムシリーズと私をモデルに作られた千穂シリーズだ。しっかりとアクリルケースに入れられ棚に置いてある。
ネムシリーズが置いてあるのは分かるけど……何故、千穂シリーズも?
私がそれをじっと見ていると、ネムちゃんが言った。
「正太郎の折り紙、本当にすごいよな?あいつは天才だよ。計算じゃたどりつけない境地の先にいる」
「ホントだよね。でも……なんで私の折り紙まであるの?」
「正太郎に言われたからな。『この家の全ての部屋に、千穂シリーズを置く!』ってさ。そうして渡されたのが、この千穂ちゃんの折り紙だ。すごくデキがいいから、ワタシも好きで目立つところに置いてるんだけど」
そ、そう言えばそうだった!しょうちゃんに、千穂シリーズを全部の部屋に置いてってお願いしたのは私だった!しょうちゃんとネムちゃんの関係が進展しないことを願って!
は、恥ずかしい。自分の浅はかで醜い行動が嫌になる。しょうちゃんに言っておこう。千穂シリーズを置かなくていいよって。
ま、まさか……研究所にも置いたりしてないよね?いや、しょうちゃんならあり得る。しょうちゃんは言われたことは実行する人だ。研究所も自分の家と解釈して、全ての部屋においてある可能性がある。
て、撤回しなきゃ!早くしょうちゃんに「千穂シリーズ全室配置」のお願い撤回しなきゃ!
※※※
いけない、いけない!今は夜のことに集中しなきゃ。
集中力が切れてしまっていた私に、ネムちゃんが説明を続ける。
「でだ、今夜の服装だが……」
「う、うん」
「千穂ちゃんは、パジャマで。ワタシはパジャマとかないから、いつものカッコで」
「そ、それでいいのかな?スーツとかじゃなくて大丈夫?」
「それはやめておこう。千穂ちゃんのスーツは破壊力が高すぎる。正太郎が理性を失って、先手を取られたら、こちらでは対応できない。だから、日常を醸し出して行く」
「に、日常?」
「そう、日常。そうだな……正太郎、疲れてるだろうから、マッサージという名目で作戦を開始しよう。そこで……」
「そこで?」
「そこで何発か弾薬を消費させる」
※※※
その後も『ケダモノ鎮圧作戦』についての話し合いを続ける。
何故か、ネムちゃんが、しょうちゃんの詳細なボディセンシティブマップを持っていた。ネムちゃん曰く、現代戦は情報戦とのことだ。
ネムちゃんの言う通り、マップがあるとないとでは、支援攻撃の効率が明確に違ってくるだろう。しょうちゃんの弱いところが知れるのだ、うまく使わない手はない。
でも……ネムちゃんも、しょうちゃんと相対してるときは、余裕ないと思うんだけど……どうやってボディセンシティブマップなんてものを作ったんだろう?
そんなことを聞いたら、ネムちゃんはなんとも答えづらそうに答えた。
「わ、ワタシが頑張った!」
「ネムちゃん凄いね!私、全然そんな余裕無かったよ!さすがネムちゃんだね!」
尊敬の念をこめてそんなことを言うと、ネムちゃんはなんとも言えないような顔をする。
「しょ、正太郎の気持ちが分かったぞ……これはなんともむず痒いな……」
な、何か余計なこといっちゃったかな?
※※※
それから、作戦の詳細について話し合った。
第一フェイズはマッサージ。第二フェイズは裏マッサージ。最終フェイズはスイッチ戦だ。
どちらがどの部分にどんなマッサージを行うか。
しょうちゃんに何を話すか?
しょうちゃんと相対する順番。
相対していないとき、どのような支援攻撃を行うか。
内容、順番、役割を詳細に詰めていった。
そして、一時間後……。
ネムちゃんは、満足げに言った。
「孫氏いわく『算多きは勝ち、算少なきは負く』だ!これだけ準備を重ねたんだ。愛欲に突き動かされるだけの正太郎に勝ち目はないぞ!」
「うん!たくさん勉強したもんね!」
「千穂ちゃん、やるぞ!」
「ネムちゃん、一緒に頑張ろうね!」
私たちは、固く握手を交わしたのだった。
※※※
夕食後、しょうちゃんがなんだかソワソワしている。
私も、そんなしょうちゃんを見て、ドキドキソワソワしてしまう。
ネムちゃんは、そんなしょうちゃんを見て、ニヤニヤしていた。
あ、嫌な予感がする。
「ふっふっふ。正太郎、今夜はもがぁ!もががががっ!」
私は、ネタバラシをしようとするネムちゃんの口を押さえ、その小さな身体を抱える。
ネムちゃんはジタバタしているが、鍛えている私には問題なかった。
ああ……ジタバタしてる、ネムちゃんもかわいい……
はっ、と我に返り、気を取り直してしょうちゃんに向き直る。
「じゃ、じゃあ、しょうちゃん。一時間後くらいに、あのおっきなベッドがある部屋に来てね!」
モガモガバタバタしているネムちゃんを抱えて、私はリビングを飛び出したのだった。
※※※
「もう!ネムちゃんが言ってたんだよ。『兵は詭道なり』って。こちらの意図を悟らせないことが重要だって。しょうちゃんには今夜のことは内緒にしようって」
「千穂ちゃん、ごめんな。なんかソワソワしてる正太郎見てたら、ついからかいたくなっちゃって……」
私の声に、シュンとしてしまうネムちゃん。
か、か、か、かわいい!
い、いけない。冷静に、冷静になるんだ。
一時間後にはしょうちゃんがベッドの部屋に来てしまう。早めに行ってシャワーを浴びて、準備をしておかないと。
私は決意を込めた目で、研究所の方を見たのだった。
※※※
私とネムちゃんは協力しながら、一つ一つ事前準備をこなしていった。
研究所四階の居住フロア。ベッドの部屋がある世帯の玄関に入る。
まずは、そこのシャワーを一人づつ使い、身ぎれいにする。
シャワーを浴びた後は、私はパジャマ、ネムちゃんは洗いたてのいつもの服を着る。
その後は、ベッドの部屋で、ネムちゃんと作戦の確認作業をしたり、センシティブマップをおさらいしたり、行為シミュレーションをしたりしながら、しょうちゃんの到着を待ったのだった。
うううっ……ドキドキする……!
※※※
コンコン。
ノック音の後、ドアの向こうから、しょうちゃんの声がきこえてくる。
「ち、千穂?入っていいか?」
「い、いいよ。入って……」
ガチャっとノブを回し、ドアが開き、しょうちゃんが部屋に入ってくる。
しょうちゃんの顔は緊張しているように見える。
そんなしょうちゃんを見てしまって、私もドキドキしてしまい、黙り込んでしまう。
しょうちゃんは、ベッドの上にいるネムちゃんに気づき、驚いたような顔をした。
そして、不思議そうにこちらに尋ねてくる。
「あ、あれ?ネムもいるの?なんで?」
「ムフフフ……今日は千穂ちゃんとワタシで正太郎をねぎらってやろうと思ってな?」
「え?え?どういうこと?」
「まあまあ、気にするな。ベッドにうつ伏せに寝ろ。マッサージしてやる。背中とか凝ってるだろ?」
「あ、ああ。ありがとうな?」
私はネムちゃんと顔を合わせて頷きあう。よし、しょうちゃんの虚をつけた。先手を取れた。
ここからは作戦通りにやる。しょうちゃんに心からスッキリしてもらうのだ!
※※※
まずはフェイズ1だ。普通のマッサージを行い、しょうちゃんにリラックスしてもらう。
私はしょうちゃんの背中をグイグイと指圧し、ネムちゃんは脚をモミモミとマッサージしている。
「ああ〜そこそこ〜無茶苦茶気持ちいい〜肩甲骨のところ最高だあ……」
そしてフェイズ2。私とネムちゃんは勉強した技を使って、しょうちゃんを責め立てる。
「ぐわああああ!!」
「うごおおお!」
私たちがノーダメージの状態で、何発かの弾薬を消費させることに成功した。
そして、とうとうフェイズ3だ。最終フェイズとなる。これで全てが決まる。
先手はネムちゃんだ。ネムちゃんは、しょうちゃんにしなだれかかり、ふくよかな胸部装甲をみせつけつつ、しょうちゃんの耳元で優しく小さくささやいた。
「……もう、好きにしていいぞ?」
その瞬間、しょうちゃんが、ケダモノになった。そして、ネムちゃんに飛びかかっていくのが見えた。
さあ、ここからは体力の勝負だ。
※※※
……壮絶な戦いだった。
何度も何度も気を失いそうになった。
それでも、事前準備のおかげだろう、私たちはなんとか意識を保つことに成功していた。
頭がぐちゃぐちゃになりそうな幸せの猛威に耐えながら、ネムちゃんも私も、必死になって作戦を遂行することに全力をつくしたのだった。
……
どれくらいの時間がたっただろう……?私には、もう時間の感覚もなくなっていた。
そしてふと気づく。私たちの上で暴れ回っていたものが、静かになっていることに。
上半身を起こし、ベッドの上を見る。そこには……
――すごく幸せそうな顔をして、スーピーと寝息を立てて寝ている、しょうちゃんがいたのだった。
※※※
……長かった。本当に長かった。私たちはやった、やり遂げたのだ!
しょうちゃんが、意識を手放しているのに、私は気絶していない。これは快挙だ!
これも、作戦立案や情報収集をしてくれたネムちゃんのおかげだ!
私は、体を引きずり、ネムちゃんに近づく。そしてその様子に気づく。
「あ、あれ?ネムちゃん?」
「ち、千穂……ちゃんか……しょ……しょうたろうは……どうなった?」
「しょうちゃんは、気持ちよさそうに寝てるよ!私たちの勝利だよ!」
「そうか……やったんだな……わ、私たち……」
ネムちゃんの声は、今にも消えてしまいそうだった。
「そうだよ!やり遂げたんだよ!ネムちゃんのおかげだよ!」
「そ、そうか……ち、千穂ちゃん……ワタシは……もう……駄目みたいだ……」
「ね、ネムちゃん!しっかり!しっかりして!あんなに頑張ったのに!」
「ま、まんぞくして……ねてる……しょうたろうの顔……見たかったな……」
そう、途絶え途絶えの声で言って、ネムちゃんはゆっくりと天井に手を伸ばした。
その手の先には何があるのだろう。満足したしょうちゃんなのかも知れない。
だが、その瞬間、ネムちゃんの腕の力がフッと抜けるのを感じた。そして、力尽きたようにその手がベッドの上にぱたんと落ちたのだった。
「ね、ね、ね、ネムちゃーーーん!!!!」
いくら揺すっても、指先がぴくぴく動くだけで、目を覚ましてくれない。き、気絶しちゃった……?
うううっ!……耐えられなかったんだ……体を鍛えてなかったから……。
でも、ネムちゃん。私たちは……やり遂げたんだよ……。
戦友であるネムちゃん。私は彼女の最後の願いを叶えてやらなければいけない。そう、それが私のネムちゃんへの手向けでもあるのだ。
顔を上げて決心する。そして、ベッドサイドに置いてあった自分のスマホを手に取った。
私はスマホを片手に、しょうちゃんの横に膝立ちになる。そして……
――カシャカシャカシャ!
「満足した、しょうちゃんの顔」をカメラに収めたのだった。何枚も何枚も。
ネムちゃんが見たがっていた顔だ。
これでよし!この写真、明日ネムちゃんに共有しよう!
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