夜の戦いに向けて(千穂視点)
しょうちゃんは本当にすごい。
「研究所を建てるから、うるさくなるけどごめんね!千穂のおじさんとおばさんにも今度説明に行くから!」
なんて言われて一年。工事用の防音防塵壁に囲まれていて、最初はよく見えなかったが、気づいたら、すごい大きな建物が立っていた。
これが、しょうちゃんが言っていた「研究所」らしい。
※※※
私はしょうちゃんたちがいなくても、しょうちゃんの家までやってきて、リビングで自分のことをしていることが多い。
もしかしたら、しょうちゃんに会えるかもしれないからだ。アイドルの出待ちみたいなものだ。
ある日のこと。
私が、しょうちゃんの家のリビングで大学のレポートを書いていたとき。
しょうちゃんが、リビングにひょこっと顔を出した。
しょうちゃんは、まるでいつもの会話のように、さりげなく私に聞いてきた。
「千穂、研究所できたよ。見に来る?」
「絶対に行く!」
私は即答してしまった。
行くに決まってる!しょうちゃんとネムちゃんが作ったもの、私も見たい!
※※※
研究所は広かった。
よくわからない施設もあったが、ワクワクが詰め込まれたような場所もあった。
そして今、私たちは、研究所の四階の居住フロアと呼ばれる場所にいた。
まるで高級マンションの一フロアみたいに、ラウンジを中心にいくつもの玄関が並んでいた。
一番大きくて立派な玄関を開けて中に入り、興味津々でいろいろな部屋のドアを開けては、見て回った。
そして、ひときわ目を引く大きなベッドのある部屋を見つけてしまう。
このベッド……もしかして、ネムちゃんが話してたあの……作戦のためかな?
頭の中でニヤリと笑いながらサムズアップするネムちゃんの姿が思い浮かぶ。かわいい……。
そんなことを考えつつラウンジに戻り、思ったことをそのまま声に出した。
「うわー、すごいね!広いね!」
でも……なんでこんな居住フロアが必要なんだろう?私が疑問に思っていると、しょうちゃんがその理由を教えてくれた。
「だろ?俺たちに、たくさん子供ができても、ここでみんなで住めるようにしてある。じいちゃんやばあちゃんが引っ越してきたければ来れるし、なんなら千穂のおじさんやおばさんも住めるようになってる」
信じられなかった。
しょうちゃんは、私たちの間にできるであろう子供だけでなく、私のお父さんとお母さんのことまで考えて将来設計をしている。
なんてすごいんだろう。しょうちゃんは、私たちみんなを幸せにするつもりだ。
その優しさとかっこよさに、自然と涙があふれてくる。止まらない。
「ぐすっ。しょうちゃん、そこまで考えてて、くれてたんだ……」
「当たり前だろ?俺は千穂とネムとで、絶対に幸せな家庭を作るんだからな。あと、大切な人の大切な人にも幸せになってもらいたいし」
そんな嬉しすぎることを言ってくれるしょうちゃん。
もう、しょうちゃんのことが、好きで好きでたまらない。何から何まで、全てを捧げたくなってしまう。
でも……私のお小遣いなんて貢いでも、しょうちゃんにはスズメの涙だし……。
私にできることってなんだろう?美味しいご飯を食べてもらうことは当然として……他にないだろうか?
……そうだ……ネムちゃんと話し合ってたアレがある。
ちょっとどころか、すごく恥ずかしいけど……でも!それでしょうちゃんが喜んでくれるなら!
私は勇気を出して、口を開く。
「そ、そういえば、最近、夜に仲良くできてないね……ちょっと寂しいな……」
「ああ。あれか……。本当は毎日でもお願いしたいんだけど、なんだか俺の性欲って異常じゃない?毎回、千穂もネムもダウンさせちゃうしさ。日常生活に影響がありそうで申し訳なくて……」
私たちのために我慢してくれてるんだ……そう思うと、心が苦しくなった。
しょうちゃんがスッキリしてくれるなら、正直私は全部受け止めてもいい。でも……私が望んでも、しょうちゃんがそれを望まないだろう。
しょうちゃんは必死で今頑張ってるんだ。私たちのせいで我慢なんてさせちゃだめだ!
私は勇気を出してさらに一歩踏み出す。はしたない子だと思われないといいんだけど……。
「そ、そうだったんだ。で、でも、きょ、今日は大丈夫だよ!明日はお休みだし!」
「え、本当!?すごい嬉しいんだけど!」
う、嬉しい?本当に?えへへへ……。
「う、うん……でさ、ここのベッド使えないかな?さっきの寝室にすごい大きなベッドあったじゃない?」
ベッドが広ければ広いほど、ネムちゃんと考えた、あの作戦はやりやすいはず。
「確か、あったな……?ネムが夫婦のベッドだ!って言ってたような……。でも、できたばかりなのに、そんなことに使っていいのかな?」
た、確かにできたばかりの施設のベッドでいきなりそんなことをやるのはどうかと思う。でも、今のしょうちゃんの部屋のベッドじゃ、ネムちゃんとの作戦は難しい。
「で、でも!ここ、夫婦のベッドなんでしょ?じゃあ、いいんじゃないかな?多分だけど……」
そうだよ!ネムちゃんも、きっと作戦を想定してこのベッドを作ったんだ!じゃないと、こんな大きなベッドいらないもん!
「……それも、そうか。使わなきゃ、作った意味ないもんな。一応、あとでネムに確認とっておくよ」
これから、ネムちゃんと話し合わなければならない。ベッドの使用についても話すことになるはずだ。だけど、晩御飯の準備もある。急いだ方がいいだろう。
「う、うん!あ、でも。ネムちゃんには私が話しとくから!しょうちゃんは、今日の晩御飯の後に、あの大きなベッドがある部屋で待ち合わせね!」
「お、おう分かった」
※※※
その後、しょうちゃんと一緒に研究所を一通り回って、一階へと戻ってきた。
秘密の場所を紹介しようか?と聞いてきたけれども、しっかりと断った。
私からそんな秘密の情報が漏れたら、しょうちゃんに合わせる顔がない。
しょうちゃんの足かせだけには、絶対になりたくない。
しょうちゃんが、申し訳なさそうにしていたが、私の頭の中は夜のことでいっぱいだった。
「そ、そんなことより!ちょっとネムちゃんのところに行ってきていい?夜のこと、私が聞いておくから!」
「わ、わかった」
「うん!それじゃあ、またご飯のときにね!」
今夜の仲良しタイム、どれだけ時間がかかるかは分からない。
絶対に、絶対に、しょうちゃんにスッキリしてもらう。
※※※
研究所から飛び出し、しょうちゃんの家へと向かう。
ネムちゃんと、最終作戦会議を行うためだ。作戦の決行は本日の夜。
家に入った後は、ネムちゃんの探索だ。
リビングは……いない。ネムちゃんの部屋は……いない。ネムちゃんのコンピューターが置いてある部屋に呼びかけても、声は返って来ない。いないのだろう。
困った……さっそく計画が頓挫してしまうのか?
私がそんなことを思いながら、ゆっくりと廊下を歩いていると、後ろから声がかかる。
「千穂ちゃん」
ネムちゃんだ。ツルツルサラサラの紫がかったオカッパ頭。ちょっとねむたげな瞳。白いオーバーサイズのパーカーに。ショートパンツと黒タイツ。いつものネムちゃんだ。
そんな彼女は今、廊下の真ん中に腕を組んで仁王立ちしている。ちっちゃい体で胸を張って。
ネムちゃんは居場所がまったくわからないときがある。靴もあるのにどこを探しても見つからないし、気配も感じられない。でも、私が探していると、今回のように、必ずどこからか現れる。まるで誰かに教えてもらったように。
まあ、いい。いまはそんなことは重要ではない。
ネムちゃんは私を見てなぜか不敵な笑みを浮かべている。
私の言葉を待っているようだった。そんな彼女に声をかける。
「ネムちゃん……研究所行ったよ……居住フロアみたよ……」
ネムちゃんの瞳がキラリと輝く。
「そうか、ってことはアレをみたんだな?」
「うん……じゃあ、やっぱり?アレは『あの作戦』のためのものなの?」
「そうだ……ワタシは今夜、決行しようと思っている。千穂ちゃんは大丈夫か?」
「うん!私もアレをみたとき同じことを思った!しょうちゃんにも、ちゃんと言ったよ!今夜なら、仲良くできるって!」
ネムちゃんは不敵に笑う。
「ムフフフ……流石だよ、千穂ちゃん。じゃあ、今夜で決まりだな!」
「うん!ネムちゃん、頑張ろうね!」
いっしょに頑張って、しょうちゃんに、心の底から満足してもらおう!
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