千穂との甘々研究所ツアー
オリガミタンクは、在庫が切れるまでは一日一個づつの追加となった。
長い期間、タンクの追加をしていなかったので、慎重に様子を見ながら進めることにした。
今までも、一度に複数のタンクを増設したことはなかったので、念の為の処置だ。
オリガミに何かあったら取り返しがつかない。慎重に慎重を期さなければいけない。
※※※
さあ、研究所もできたし、千穂にも俺たちが何を作っていたかを知っておいてもらおう。
あまり長い間、仲間はずれするのも申し訳ない。
俺は、リビングでレポートのようなものを書いていた千穂に声をかけた。
「千穂、研究所できたよ。見に来る?」
「え!いいの!?」
今まで、地下の研究室へとつながる、ネムのコンピューター室にも入らないようにって伝えてたもんな。
研究所の方にも、自分は入れないと思っていたのかもしれない。
だけど、そんなことはない。研究所は、千穂にも来てもらえるような設計にしているのだ。
「もちろんだよ。千穂に関係ある場所もあるし。今から案内しようか?大丈夫?」
「大丈夫だよ!絶対に行く!」
こうして俺は、千穂に研究所を案内することになったのだった。
※※※
俺と千穂は、今、研究所へと繋がる渡り廊下を歩いていた。
この渡り廊下は、自宅から繋がっている。
「ここを通れば、雨の日でも濡れずに研究所に行けるんだね!」
千穂はなんだかウキウキしてるようだ。ちなみに俺も最近浮かれている。新築っていいよね。
自宅から続く渡り廊下の突き当りには、研究所の通用口がある。
「そこに手の平をあてて、あそこにあるカメラを見て。静脈認証と虹彩認証が行われるから」
言葉通りに、千穂が手の平をリーダーにあて、カメラを見る。すると、ピッと音がなり通用口のロックが外れた。
「すごいね!なんだかスパイ映画みたい!」
千穂の目がなんだかキラキラしている。可愛い。
「千穂が入れるところは、さっきのやり方でどこでも入れるから。危ないところとかは、入れないようになってるから、好きに探検していいよ」
「わかった!」
なお、研究所内では「歩容認証」という認証も行われていたりする。歩行時の姿勢・歩幅・速度などの特徴を利用して個人を識別するバイオメトリクス技術だ。もちろん顔認証も同時に行われる。
そして、望まぬ侵入者には前庭砲が飛んでくる。たとえ入口を突破しても、侵入者は研究所内を歩くことすら叶わないのだ。
※※※
千穂と研究所内に入る。
だが、一階については面白くもなんともない。
「一階はクリーンルームだ」
「クリーンルーム?工場とかにある?」
「そう。私物禁止、全身クリーンルームスーツ、エアシャワー。正直、俺も極力入りたくない」
でも、オリガミタンクの組み立てはここでやらないと細菌汚染まっしぐらだ。背に腹は代えられない。
「中も何も面白くないけど、今度入ってみる?」
「や、やめとくよ……私、何かやらかしそうで怖いし……」
※※※
エレベーターのドアが開く。
「二階は研究開発フロアだ。ここではドールハウスの製品の研究と開発をするつもり」
「え?研究と開発?私、入ってもいいの?絶対に入れないほうがいいよ!私、秘密とか漏らしちゃうかもだよ!」
「大丈夫。大学とかの研究室と変わらないから。千穂がいくら、いい子で隠し事ができなくても、ここなら大丈夫!」
「い、いい子?えへへへ……」
可愛い。マジ天使。
隠し事が出来ないというのは、俺やネムにとっては美徳なのだ。隠し事ばかりの俺達には、千穂が眩しくて仕方ない。
それに、ここで開発するのはオリガミAIではなくて、通常のコンピューターで動くシリコンAIだ。オリガミAIの存在を隠すために、色々なところで喧伝してほしいぐらいだ。
「このフロア、今はネムのコンピューターぐらいしか置いてなくて、スッカスカなんだよね。これからは、大規模データセンターが完成するまでのコンピューター群の仮置き場になると思う。あとヒューマノイドや犬型ロボットをいじったりするのに使うかも。3Dプリンタとか、色々な工作機械も導入予定だから」
「そうなんだ……なんだかワクワクするね!」
わかる。俺もこのフロアが一番楽しそうだと思っている。
「あ、そうそう。ネムはここに住み着いちゃうかもしれないけど、ご飯届けたりしちゃ駄目だからな」
「え?なんで?」
「だって、あいつ自宅のリビングに来なくなりそうじゃん」
「た、確かに、そうだね」
「俺はさ、リビングでみんなで千穂のご飯を食べるあの時間が好きなんだよね」
俺が本音を漏らすと、千穂も勢いよく同意してくる。
「か、家族みたいだもんね」
「そう、それ!家族!これから3人で家族になるんだからさ。当然でしょ。俺はね、あの時間だけは大切にしたいんだ」
「え、えへへへ……家族……お嫁さん……」
恥ずかしそうに、顔を赤くし、もじもじと体を動かす千穂。
可愛すぎ。天使!
※※※
千穂の可愛い姿を見て、俺の心の中はウキウキだった。
フロアを紹介する、声も弾んでしまう。
「ここ、三階はヒューマノイドや犬型ロボット用の『フィジカルAI』学習フロアだ。ロボットたちが、色々な動きを試して、体の使い方をうまくなってもらう場所だな」
「フィジカルAI?」
千穂が不思議そうな声で尋ねてくる。一般用語じゃなかったかもしれない。
「フィジカルAIってのは、ヒューマノイドやイヌガミタイプなどの、実物のロボットが、運動したり、物を扱ったり、コミュニケーションする動作を学習・実行するAIだな。イヌガミは、このフィジカルAIが動かしてるってわけだ」
「へえ〜、イヌガミちゃん、フィジカルAIってやつだったんだね」
「そうだな。ここでは24時間、ヒューマノイドロボットや犬型ロボットが、何百体も同時にガチャガチャ動いて、より上手く自然に自分を動かせるように、学んでるわけだ」
「そうなんだ……見てみたいな!」
「ああ。学習を始めたら、また招待するよ。ただ……」
「ただ?」
「ここは多分、夜に来ると怖いかな」
「なんで?」
「だってさ、暗い、誰もいない空間で、表情がないロボたちが、LEDランプだけを光らせながら、黙々とガシャガシャと動いてるんだぜ。多分、ホラーな光景だと思うぞ」
「た、確かにそうかも……。しょ、しょうちゃん、ここに来るときは、昼間にお願いします」
「あははは。わかったよ。でも、怖がってる千穂も可愛いと思うけどな!」
「も、もう!」
うーん、千穂、可愛すぎだろ。
※※※
サクサク行こう。次のフロアだ。
「四階は居住フロアだ。人が住める階だな。自宅があるから、ここは当分使わないかも」
「うわー、すごいね!広いね!」
千穂は楽しそうに、いろいろな扉を開けたり閉めたりしている。
住む空間としてはかなり広く、玄関もそれぞれ分かれているからプライバシーも守れる。最大で六世帯が住めるフロアになっている。
「だろ?俺たちに、たくさん子供ができても、ここでみんなで住めるようにしてある。じいちゃんやばあちゃんが引っ越してきたければ来れるし、なんなら千穂のおじさんやおばさんも住めるようになってる」
「こ、子供にお父さんとお母さん?」
「ああ」
千穂の目にみるみる涙があふれてくる。
「ぐすっ。しょうちゃん、そこまで考えてて、くれてたんだ……」
少し泣いちゃってるみたいだ。嬉し涙……だよな?
「当たり前だろ?俺は千穂とネムとで、絶対に幸せな家庭を作るんだからな。あと、大切な人の大切な人にも幸せになってもらいたいし」
「ぐすっぐすっ。うん……えへへへ……しょうちゃん、大好き……」
「俺も大好きだよ。絶対に離さないし、逃さないからな」
「うん……」
顔を真っ赤にして泣き笑いをしている千穂が愛おしくて仕方ない。
俺は彼女に近づき、ギュッと抱きしめたのだった。
※※※
少しだけ千穂の温もりを味わった後、俺から離れた千穂が、恥ずかしそうにしながら口を開いた。
「そ、そういえば、最近、夜に仲良くできてないね……ちょっと寂しいな……」
「ああ。あれか……。本当は毎日でもお願いしたいんだけど、なんだか俺の性欲って異常じゃない?毎回、千穂もネムもダウンさせちゃうしさ。日常生活に影響がありそうで申し訳なくて……」
最近は外でスーツ美人と接することもないので、大きなストレスを感じずに我慢できている。やはり俺にとってテレビ局は鬼門だったのだ。
詩織さん?あの人はたしかにスーツ美人だしアプローチも激しいけど……そんな感じじゃないんだよな。分かるだろ?変態だし。
「そ、そうだったんだ。で、でも、きょ、今日は大丈夫だよ!明日はお休みだし!」
な、なんだって!?
「え、本当!?すごい嬉しいんだけど!」
「う、うん……でさ、ここのベッド使えないかな?さっきの寝室にすごい大きなベッドあったじゃない?」
「確か、あったな……?ネムが夫婦のベッドだ!って言ってたような……。でも、できたばかりなのに、そんなことに使っていいのかな?」
「で、でも!ここ、夫婦のベッドなんでしょ?じゃあ、いいんじゃないかな?多分だけど……」
「……それも、そうか。使わなきゃ、作った意味ないもんな。一応、あとでネムに確認とっておくよ」
「う、うん!あ、でも。ネムちゃんには私が話しとくから!しょうちゃんは、今日の晩御飯の後に、あの大きなベッドがある部屋で待ち合わせね!」
「お、おう分かった」
千穂がなんか積極的だ。あの恥ずかしがりやの千穂が珍しい……。
もちろん超ウェルカムだけどな!
※※※
俺は少し前かがみなりながら、千穂を次のフロアへと案内する。
五階は天井の高い、広々とした空間だ。
千穂は上を見上げながら、驚いた声を出す。
「うわあ!ここの天井は高いんだね!」
「五階はドローン用のフィジカルAI学習フロアだな。12mくらいの高さがある。ここは、この前行った、AI学習フィールドみたいに、ドローンの飛行を学習させる場所だ」
「キャンピングカーで行ったところで見た、ドローンがやってた学習だよね?ドローンショーのイルミネーション、きれいだった!」
「あれは……キレイだったな。ここは、もっとうまく飛べるようにドローンたちが頑張る場所ってわけ。ちなみに、いつでも、あのドローンショー見れるから。見たくなったら言ってくれな?」
「わかった!しょうちゃん、ありがとう!」
ここの稼働を始めたら、「よいこ保育園」の「AI学習フィールド」としての出番は少なくなるかもしれない。ただ、学習は多ければ多いほどいいので、理由がない限り「AI学習フィールド」の方もフル稼働させそうな気もする。
屋外での学習は「AI学習フィールド」しか出来ないし。
※※※
これで公開できる研究所の設備は全部かな。
俺と千穂は一階まで戻ってきていた。
あとは……。
「なあ、千穂。前にプロポーズしたときにさ、俺とネムには大きな秘密があるって言ったよな?」
「……うん」
「一応、それに関連する秘密の施設もあるんだけど……見るか?」
オリガミタンクは見せられないけど、コアフロアとディープコアをチラっと見せるくらいなら、許されるかも。
そんなことを考えていた俺に、千穂は即答してくれる。
「ううん。見ない。私、多分、秘密とか隠せないから。しょうちゃんたちに迷惑かけたくない」
「千穂……」
千穂には気を使わせてばかりだ。
千穂が大学卒業したら、絶対に秘密を伝えよう。あと……二年ってところか。
オリガミのことも早く紹介したい。大切な妹だって伝えたい。
「そ、そんなことより!ちょっとネムちゃんのところに行ってきていい?夜のこと、私が聞いておくから!」
「わ、わかった」
「うん!それじゃあ、またご飯のときにね!」
そうして千穂はパタパタと通用口から研究所を出て、自宅の方へかけて行った。
本当に今日の千穂は積極的だ、俺は前かがみにならざるを得ず、落ち着くまで自宅に戻れないのであった。
※※※
まだ、静まらない……。元気すぎだろコレ。
仕方なく、俺がキョロキョロとまだ見慣れていない研究所を見て気を紛らわせていると、徐々にズボンの突っ張りがなくなってきた。後少しだ。
そんなとき、オリガミが声をかけてきた。
『千穂さん、本当に良い方ですね。お兄様、絶対に千穂さんを手放しては駄目ですよ?あんな方、そうはいませんよ。』
うん、オリガミの言う通りだ。本当にいい子だ。俺にはもったいないぐらいだ。もったいなくても、手放す気はないけど。
ああっ!オリガミがそんなこと言うから、静まりかけてたものがまた元気に!ううっ、前かがみって腰に来るな……ちょっと座ってよう。
俺は、そんな情けない理由で、一階エントランスのベンチに腰を下ろしたのだった。
※※※
その夜。
千穂とネムと俺で、千穂の絶品手料理に舌鼓をうった後。
俺は、ソファに座って、落ち着かない時間を過ごしていた。
チラリと横目で何やらヒソヒソ話をしている婚約者たちを見る。ネムはニヤニヤして、千穂はなんだかソワソワしていた。
俺の視線に気づいたネムが、こちらを見て口を開く。
「ふっふっふ。正太郎、今夜はもがぁ!もががががっ!」
千穂がネムの口を抑える。
ネムはその手から逃れようとジタバタしているが、千穂の手はピクリと動かない。
「じゃ、じゃあ、しょうちゃん。一時間後くらいに、あのおっきなベッドがある部屋に来てね!」
そういうと、千穂はモガモガと抵抗するネムを羽交い締めにして、リビングを出て行ったのだった。
……千穂って、意外と力持ちだよな。
俺は再び前かがみになりつつ、そんなことを考えたのだった。
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