ゴリ押し正太郎
「どっちも俺の婚約者なんだ。俺、二人と結婚するから」
俺がそう言うと、爺ちゃんと婆ちゃんは素っ頓狂な声を上げた。
「「はあ?」」
やはり、これが普通の当然の反応だろう。
俺の考えを受け入れてくれた、叔父さんや柚希さんの反応の方がおかしかったのだ。
先に正気を取り戻したのは、爺ちゃんだった。
「まあ、なんじゃ。とりあえず家の中で話そうか」
※※※
俺たちは爺ちゃんと婆ちゃんに居間へと案内された。
ちなみに早瀬さんは、近くのホテルに滞在することになり、この場にはいない。イヌガミもイヌガミタイプもいるので、家での護衛は必要ないと俺が告げたからだ。少し申し訳ない気もしたが、顔合わせの場では早瀬さんも気を遣うだろうし、これでよかったと思う。
案内された居間には、畳の上に黒いソファが置かれていた。畳の香りがどこか懐かしく、鼻をくすぐる。
この部屋に入るのも久しぶりだ。昔、畳の上で寝転がりながら折り紙をしたことを思い出す。懐かしい思い出だ。
皆がソファに座って落ち着いたところで、呆れたように爺ちゃんが口を開いた。
「正太郎……二人と結婚なんて出来るわけ無いじゃろが」
婆ちゃんも同意するように口を挟んだ。
「さすがにそれはねぇ……二人ともいい子だろうってのはわかるけど」
これくらいの反応は予想していた。ここからが本番だ!
「わかる。わかるよ、爺ちゃんと婆ちゃんの言いたいこと。普通は二人と結婚できるわけないよね。重婚だもんね。その気持ちよーく分かる」
俺はゆっくりと説明を続けた。
「でもさ、今度、合法化されるんだよ。二人と結婚できるようになるんだよ。正確には、一人は特待パートナーって形になるんだけどね?」
「と、特待パートナー?」
初めて聞いたであろう単語に、目を見開いて驚く爺ちゃん。
「そう、特待パートナー。一定の条件を満たした人が、その国と世帯への貢献を条件に、もう一人のパートナーになれるんだ」
「そ、そうなのか?」
爺ちゃんは、どうも半信半疑といった様子だ。
「ああ。ネムに俺の特待パートナーになってもらう。ネムはAI関連の論文をたくさん書いている、天才科学者だからさ。国への貢献はバッチリだし、俺の会社の共同経営者でもあるから、俺と千穂の世帯への貢献も十分にできる。というかネムがいなきゃ、俺の会社は回らない」
「ビジネス的な関係ってことか?」
爺ちゃんが尋ねてきた。当然の疑問だ。
「まあ、世の中にはそういう人も出てくるだろうけど、俺は違う。俺は、千穂もネムも愛してるから、ネムにこの制度を使ってもらうんだ」
「千穂ちゃんはいいのかい?正太郎、こんなこと言ってるけど」
「は、はい。私が言い出したことなので……」
そういえば、「一緒にお嫁さんになろう」ってネムに提案したのは千穂だった。あのときは驚いたな。
最初に言い出したのは千穂だけど、今は俺自身の強い願望だ。
「千穂ちゃんが言い出したの?なんで!?」
「私が間違っちゃったときに、しょうちゃんを、ささえてくれたのが、ネムちゃんだったんです……」
間違えについては、言わなくていいと後で言っておこう。あれは千穂だけの責任じゃないし、俺にも非がある。
「間違え?いや、それはいい。ネムさんはいいのか?それで?」
「ええ。問題ありません。やりたい研究を進めるうえで、その秘匿必要性の観点から、ワタシは正太郎しか伴侶を選ぶことができませんから。それに……」
ネムは大人モードで話し続ける。爺ちゃんが続きをうながした。
「それに、なんじゃ?」
「正太郎から離れたら、千穂ちゃんのおいしい手料理が食べられなくなるじゃないですか!それは困るんです!」
ううっ、やっぱり千穂の手料理には敵わないのか……
「そんな理由?正太郎が好きってわけじゃないのか?」
まっすぐ聞いてくる爺ちゃんに、ネムは顔を赤らめながら答えた。
「い、いえ……いや……ワタシも……しょ、正太郎を、あ、あ、あ、愛していますし!」
ネムに「愛してる」って言われたの、もしかして初めてかもしれない。めちゃくちゃ嬉しい!
「ネムぅ!俺も愛してるぞ!」
「やめっ!やめろよぉ!照れるだろぉ!」
感極まってネムに抱きつこうとした俺を、ネムが顔を赤くしながら慌てて押し返そうとする。その様子を見て、千穂も慌てて間に入ってくる。
「しょうちゃん!私は!?私は!?」
「勿論、千穂も愛してるぞ!」
「えへ、えへへ……」
千穂は嬉しそうに笑って、そっと俺の背中に身を寄せてきた。
そう、俺は二人とも愛してるのだ。
そんな俺達のイチャイチャシーンを見た爺ちゃんが、驚きと感心が入り混じった目でこちらを見ていた。
「な、なんて野郎だ……正太郎……やるじゃねぇか……」
「わ、私は認めませんよ!重婚だなんて!」
まあ、婆ちゃんの反応が普通だよな。
「婆ちゃん、重婚じゃないよ、特待パートナーだ」
「第一、その特待パートナーってなんなの!?わたし聞いたことありませんよ!」
「そりゃそうだよ。だって俺が提案して、これから成立させる予定の法律だからね」
「正太郎が提案する法律!?どういうことなの?」
困惑ぎみの婆ちゃん。無理もない。
「だからね、頑張ったんだ。胸を張って合法的に二人をお嫁さんにするために、たくさん頑張ったんだ。VTuberって知ってる?まずは、彼ら彼女らを使って三千万人規模で『特待パートナー法案』が通りやすくなるような世論形成をしたんだ」
「さ、三千万人?とんでもない規模じゃな……」
さて、ここからはお金と権威、それに情熱で説得だ!
「あと、俺が作った政治団体に東堂議員とその派閥メンバーに所属してもらったんだ。ちなみに、百億円くらい政治献金として使ったよ。今、東堂議員に、法案成立のために動いてもらってる」
「東堂議員って、あの東堂派のか!?いや、百億円!?なんじゃ、その金額!」
「ひゃ、百億円!?」
爺ちゃんも婆ちゃんもその大金に驚く。
俺がどれだけ真面目に二人と結婚するつもりなのか、これで伝わったろう。
「そう、百億円。献金は合法にやってるから安心してね。東堂議員も東堂派のトップの議員であってるよ。最近は、頻繁にやり取りしてる」
「………ほ、ほんとなのか……?」
あまりの大金と大物の名前に、爺ちゃんは唖然としていた。
でも、ここからが本番だ。さらに説得を続けるぞ。
「それに、この法案を後押しするために、人間に負けないくらい優秀な介護ロボットも開発したんだ。もちろん人間の全てを代わりにできるわけじゃないけど、介護にかかるコストは今までよりずっと抑えられる。その分、浮いたお金を高齢者の医療費や少子化対策にまわすんだ」
「俺は、二人を合法的にお嫁さんにするついでに、この国の少子高齢化をなんとかしたいんだ!」
そんな俺の言葉に、爺ちゃんが小さくつぶやいた。
「ついでにすることじゃないじゃろ……」
爺ちゃんの気持ちは分かるが、俺にとってはあくまで「ついで」だ。主目的は、千穂とネムの二人と合法的に結婚することだ。二人と結婚できないなら、少子高齢化をなんとかするつもりなんてない。東堂議員にもそれは伝えてある。
爺ちゃんも婆ちゃんも黙り込んでしまった。俺はさらに、自分のパッションをぶつけることにした。
「わかる!爺ちゃんたちの複雑な気持ちはとーっても分かる!世論操作も献金で政治をコントロールするのも、褒められたことじゃない!許されないという考えもあると思う!グレーなやり方だということも理解してる!でも、それだけ、俺は二人を愛してるんだ!二人とも、一生、俺と一緒にいてほしいんだ!」
「じゅ、純愛……?」
婆ちゃんが小さくつぶやく。
……純愛、か。そうだ、これは純愛だ!
「うん、完全に純愛!わかる!わかるよ!爺ちゃん達の考えてること!でも、二人じゃなきゃ駄目なんだ!二人がいないと俺は上手く動けない!少子高齢化も解決できない!この国の大きな問題を解決できないんだ!」
「ちょとま……」
待たない。さらに情報の洪水を浴びせかけて、俺の主張を押し通す。
「わかってる!でも二人が必要なんだ!千穂だけじゃ、俺は介護ロボット開発まで手が回らないし、ネムだけじゃ、俺とネムはいつか不摂生で倒れて死んでしまうかも知れない!俺は死にたくない!ネムも死なせたくない!千穂のご飯を一生食べたい!」
「ちょっと……」
二人が俺の口を止めようとするが、まだだ。伝えたいことは山ほどある。
「大丈夫!爺ちゃんたちの、気持ち分かってるから!だからこそ、二人が必要なんだ!二人が俺のもとにいてくれれば、少子高齢化を解決に導いて、この国の人達を幸せにできる!でも一人でも欠けてたら、それができない。何より俺は二人を超愛してる!絶対に他の男には渡したくないんだ!」
「まちなさ……」
次は有力者の名前を出して、説得力を持たせる作戦だ!
「わかってる!爺ちゃん達の言いたいこと分かる!悠斗叔父さんも、俺の話には賛同してくれてるし、東堂議員も俺にはその権利があるって言ってくれてる!だから、俺は二人と家族をつくって、たくさん子供をつくるんだ!その子供たちのためにも、この国を住みよい国にしたいんだ!」
「ま……」
次は、家の繁栄の観点からアプローチだ!
「そうだよね!受け入れられないよね!でも、考えてみて!俺にお嫁さんが二人いれば、爺ちゃん婆ちゃんのひ孫も増えるかもしれないんだよ!なんせ、お嫁さんが二人いるからね!ひ孫誕生の可能性は二倍だよ二倍!二倍のひ孫が爺ちゃんと婆ちゃんのところに遊びに来るんだよ!」
「ひ、ひまご?」
お、反応が変わってきた。ここが攻めのポイントかも?
「そう、ひ孫!孫って可愛いっていうじゃない?きっとひ孫はもっと可愛いよ!それに俺は千穂が大学卒業したら、すぐに結婚するつもりだから!ネムとも、そのときに一緒に結婚するつもりだから!案外、あと数年でひ孫ができるかもよ!?どうよ!」
よく考えたら、「孫」って俺のことだよな。爺ちゃん婆ちゃんにとって、俺って可愛い孫になれてるのかな……?
でも全部言いきったぞ……なんだかスッキリしたけど、どうだろう……?
「どうよ!ってなんじゃ!わかった!わかったから!そのペラペラとよく回る口を閉じろ!」
怒られた。ゴリ押しが過ぎたかもしれない。
「正太郎……本気なのね……?」
「ああ、本気も本気、超本気だよ。二人のお嫁さんが得られるなら、この国の問題を解決していくつもり。俺は二人を愛してるんだよ!超ウルトラ愛してる!二人がいなかったら生きていけない。生きていく意味もない!それくらい愛してるんだ!」
再びペラペラと回転し始める俺の舌。
「わかった!わかったから、それを止めろ!認める!ワシは認めるから!」
「はあ、私も認めるわ……。悠斗の即日結婚でも呆れたのに、正太郎は二人のお嫁さんを連れてくるなんて……。頭痛いわ……」
「ありがとう!信じてたよ!爺ちゃん婆ちゃん!」
「正太郎、都合良すぎじゃろ……いや、でも強くなったな。宗一郎も天国で誇らしく思ってると思うぞ。呆れてるかもしれんが……いや、あいつも相当頭のネジが外れてたからな……きっと大賛成だろうな……」
俺も、父さんならきっと許してくれる気がする。あの人、昔から型破りだったし。
「なんで、うちのコたちは、こんなんなんだろうねえ……」
婆ちゃんが呆れたようにため息をつく。
そんなとき、爺ちゃんが戸惑い混じりの声を上げてきた。
視線は、俺の隣を向いている。
「おい正太郎。お前の大切なお嫁さん達じゃが、凄いことになってるぞ……?」
※※※
爺ちゃんの視線の先に目をやると、ぼうっとしている千穂とネムがいた。
二人とも、顔を赤くし、今にもヨダレを垂れ流しそうな、たるみきった表情をしていた。
ど、どうしたんだ?
「えへ、えへ、えへへへ……しょうちゃんが、たくさん愛してるって言ってくれたぁ。赤ちゃん……」
「ウヘヘへ……正太郎、ワタシのこと好きすぎるだろ……いや、ウヘヘヘへ……ワタシのこと愛しすぎだろ……ウヘヘヘ……」
やばい、愛の告白を重ね過ぎたか。二人とも人の前に出せる顔してない。
千穂もネムも、こんな姿を爺ちゃんたちに見られたくないだろう。俺は、慌てて二人を、自分たちに割り当てられた部屋まで連れてったのだった。
そんなとき、背後から爺ちゃんの声が響いた。
「おーい、正太郎。結婚前は、ちゃんと避妊するんじゃぞー?」
爺ちゃん、そんなこと大声で言わないで。恥ずかしい!
あと、父さんの実家でそんなことしないから!
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