05
そうだ。家はまだ借金まみれ。父の研究に費やした莫大な費用が、グレイ伯爵家を破滅に追い込んだ末。
「その借金、私が肩代わりしよう」
「え?」
驚いて顔を上げた。
「なぜ、そこまで……」
「君は、私に何かを証明しようとしている。その真剣さが、私には眩しい。それに……」
言葉を濁した顔が、赤くなっているように見えた。
「それに?」
促すと、トウマスは観念したように言った。
「……もう、君がボロボロになる姿は、見たくない」
心臓が、ドクリと音を立てた。
(トウマス様……)
助けを求めるべきか、迷った。もう誰にも頼らないと決めたはずだ、と。
「トウマス様、お気持ちは嬉しいです。でも、大丈夫です。借金は、私がこの店で返します」
申し出を断ったとき、トウマスは寂しそうな顔をしたが、すぐに微笑む。
「そうか。わかった。だが、何かあったらいつでも頼ってくれ」
そばを離れていった後ろ姿を見送りながら、静かに涙を流す。
(ありがとう、トウマス様……でも、もう私は、一人じゃない)
涙を拭いて、ショップスキルのパネルを開いた。
【ショップスキル】
・スキル名:資金調達
・説明:あらゆる方法で、資金を調達できる。
・スキル名:経営
・説明:最高の店を経営できる。
(これにしよう)
すぐに資金調達スキルを発動させると、パネルに様々な方法が表示された。
・方法1:借金返済プラン
・方法2:クラウドファンディング
・方法3:投資家を募る
クラウドファンディングを選んだ。
インターネットのないこの世界で、どうやって?と、思いつつ。
パネルには、詳細な方法が書かれていた。
(なるほど……こういうことか)
町の広場に、店と夢について書いたビラを配った。ビラには、寄付を募る旨を記載。
「クーラカーナ様、応援してます!」
「私の貯金、全部寄付するよ!」
ビラを見て、次々と寄付をしてくれ、町の人、漁師さんたち、みんなが店を支えてくれていた。
ついに、店の拡張に必要な資金を集めることができ、新しい店舗の場所に、昔から空き家になっていた、大きな倉庫を選んだ。
そこなら、たくさんの席を設けることができると一人で倉庫の掃除と模様替えを始めた時、店の戸が開き、漁師さんたちや町の人がやってくる。
「クーラカーナ様、手伝わせてください!」
「みんなで、最高の寿司屋を作りましょう!」
笑顔で手を貸してくれて、皆の温かい心遣いに、涙を止めることができなかった。
(貧乏令嬢じゃない。みんなに愛される、寿司になれた)
町の人たちの協力のおかげで、新しい店は驚くほどの速さで完成した。古い倉庫は、温かみのある木材と柔らかな光で満たされた広々とした寿司屋へと生まれ変わると、カウンター席は以前の倍以上になり、テーブル席もゆったりと配置する。
「すごい! まるで魔法みたいだ!」
完成した店を見て、皆は歓声を上げた姿を見て胸がいっぱいになった。
「皆さん、本当にありがとうございました。この店は、皆さんの力なくしては、決して完成しませんでした」
頭を下げると、町の人たちや漁師さんたちは「クーラカーナ様、頑張ってね!」と、温かい声をかけてくれた中には、トウマスの姿もあった。彼は、少し離れた場所から、静かにこちらのことを見ていたらしい。
視線が交わると、彼は小さく頷き、微笑んでくれた。そして、新店舗のオープン当日、朝早くから店の前には大行列ができていて、中には馬車に乗って遠方からやって来たらしき、貴族の姿も見える。
「いらっしゃいませ!」
心を込めて最初の客を迎え入れた。客は、なんと、隣国の王女様。
「あなたが、噂の月夜寿司のクーラカーナさんね。あなたの寿司は、この国だけでなく、隣国でも有名なのよ」
王女様は前に座ると緊張しながらも、最高の腕で寿司を握る。
「素晴らしいわ! こんなに美味しい寿司は、生まれて初めてよ」
王女様は言って、感嘆のため息をつき、褒め言葉は心を温かくしてくれた。
それから、オープンから閉店まで、一度も休むことなく寿司を握り続けたし、体力的にはきつかったが、心は満ち足りていた。
「失礼する」
閉店後、店の片付けを終え、一人、カウンターに座っていると、店の戸が静かに開き、トウマスが入ってくる。
「君の店は、本当に人気になったな」
隣に座った。
「これも、皆さんの協力のおかげです」
微笑むと、トウマスは少し寂しそうな顔で述べる。
「……もう、私がいなくても大丈夫そうだな」
胸がチクリと痛んだが、トウマスのために、この店を始めたわけではないけど彼の存在が大きな支えになっていたことは、紛れもない事実。
「トウマス様……」
言葉を詰まらせると、トウマスは静かに。
「私との婚約が破棄されて、君は本当に幸せになったのか?」
少し考えたら、ゆっくりと頷いた。
「はい。あの時、私は世界で一番不幸だと思いました。でも、あの経験があったから、今の私がいます。私は、自分の力で、自分の人生を生きることができています。だから……私は、幸せです」
トウマスは、静かに目を閉じた。




