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03

 去った後、一人、カウンターに座り込む。


(トウマス様は、どうして……来たの)


 行動は理解できなかったが、一つだけ確かなことがある。


(誰にも頼らない。自分の力で、この店を守る)


 ぼんやりと立ち尽くしていた。突然の訪問と、寿司を「美味しい」と言ってくれたことが、心をかき乱す……嬉しさ、戸惑い、切なさ。

 複雑な感情が渦巻く。


(なぜ、今更……?)


 伯爵令嬢としての品格がないと蔑み、夢を否定した人なのにそんな彼が作った寿司を褒めてくれたものの、求めていた承認だったけど認められる必要はない。自分の力で、この場所で人生を生きているのだ。


「よし」


 両頬を叩いて気合いを入れた。


 感傷に浸っている場合ではないと店を守るために、もっと強くならなければならないと翌日、店の看板を新調する。

 前は「月夜寿司」と手書きで書いただけだったが、もっと立派なものにしたいと町の職人さんに頼んで、木製の看板を作ってもらった。


「すごい。これなら、遠くからでも目立つ」


 出来上がった看板を前に、目を輝かせたそこに、トウマスが再びやってきたが、何も言わずに看板を見つめる。


「どうしたのですか、トウマス様」


 尋ねると、ようやく口を開いた。


「君は、本当に変わったな」


 少しだけ胸が痛んだ。


「変わったのは、私だけではありません。トウマス様も、以前とは違います」


 何も言わず、ただ、じっと見つめている視線に居心地の悪さを感じ、話題を変えた。


「看板、素敵でしょう? これでもっと、たくさんの人に来てもらえるといいなって」


 トウマスは静かに言った。


「そうだな」


 また代金を置いて、何も注文せずに帰っていった行動は、やはり理解できなかったけど、勇気を与えてくれた。


(変わった……か。私はもう、泣いてばかりいる貧乏令嬢じゃない。私は、寿司職人)


 言葉を胸に、さらに仕事に打ち込み、月夜寿司は順調に客を増やしていき、新鮮なネタとショップスキルで作られた美味しい寿司はすぐに町の評判になる。


「今日の魚も最高だ! クーラカーナ様、本当にすごいよ!」


「こんなに美味しい寿司、食べたことがない!」


 お客さんたちの笑顔と、感謝の言葉が原動力だけど、繁盛するにつれて新たな問題に直面する。


「クーラカーナ様、今日のお魚、少し足りないんじゃ……」


「ごめんなさい、今日はもうネタ切れなんです」


 お客さんに謝る日が増えた。ショップスキルは万能ではないので、一度に釣れる魚の量には限りがある。


(このままでは、せっかく来てくれたお客さんを、がっかりさせてしまう)


 何か良い方法はないかと、再びショップスキルを呼び出した。


【ショップスキル】


 ・スキル名:養殖


 ・説明:あらゆる魚介類を、思い通りに養殖できる。


 ・スキル名:漁業組合の知識


 ・説明:最高の漁業組合を組織できる。


(養殖!)


 このスキルに賭けてみることにした。

 店の裏庭には、小さな池があり、父が観賞魚を飼うために作ったものだ。池を養殖場として使うことにした。まずは、池の掃除と整備、ショップスキルを使って、魚の卵を放流。


「養殖スキル、発動!」


 念じると、池の水が淡く光り始め、数日後、池の中には、たくさんの稚魚たちが泳いでいた。


(やった。これなら、安定してネタを確保できる)


 久しぶりに心から安堵した。


「え」


 翌朝、目を疑う光景を目にする。池の水が、赤く濁り、稚魚たちが、死んで浮いていた。


「な、何が……え」


 慌ててショップスキルを使い、池の状態を分析すると、パネルに驚くべき情報が表示された。


【池の状態】


 ・汚染物質:不明


 ・原因:外部からの投棄


(誰が……)


 頭に、すぐにあの男の顔が浮かんだ。ジョン・ベッカー。

 成功を妬み、このような卑劣な真似をしたに違いないと心は、怒りで震えたが、怒りだけでは何も解決しない。再び、ショップスキルのパネルを開いて、あるスキルに目を留めた。


【ショップスキル】


 ・スキル名:浄化


 ・説明:あらゆる汚染物質を浄化できる。


「これだな」


 すぐさま浄化スキルを発動させた。すると、池の水が再び光を放ち、みるみるうちに澄んでいく。

 死んでしまった稚魚たちは、もう元には戻らないが、まだ生きている稚魚たちもいた。

 一睡もせずに、池の監視を続けたが、ベッカーは、その後も毎晩のように、池に汚い水を投げ込む度に浄化スキルを使う。体力の限界だったが、負けるわけにはいかない。


(ベッカー、この卑劣な真似、絶対に許さない)


 心の中で誓い、ベッカーとの戦い、ベッカーとの卑劣な攻防が続いていた毎晩。

 一睡もせずに池の浄化と監視を繰り返したものの、疲労はピークに達し、目の下のクマは消えず、肌は荒れて伯爵令嬢の面影は、もはやなかった。


「もう……限界……だ」


 夜、浄化スキルを発動させながら、フラフラと地面に座り込んだ時、背後から声をかけられた。


「クーラカーナ、大丈夫か?」


 トウマスだった。彼は、ボロボロになった姿を見て、眉をひそめる。


「どうしてここに……」


 驚いて尋ねると、トウマスは静かに答えた。


「君の店の明かりが、毎晩、夜遅くまでついているから、気になっていたんだ。それに、この池の臭い……何かあったのか?」

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