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貧民たち

「今戻ったわ…」

 王城に向かって三日、ようやく解放されたリラは宿の部屋に戻る。

「ずいぶんと遅かったのう…」

 一人分の夜食を食べながら、ルーベンスは帰りが異常に遅かったことを心配する。

「衛兵に捕まってね…今まで絞られてたわ」

 憔悴しきった表情と声でそう答える。

 何とか解放されたものの全ての装備は没収され、拷問のストレスで艶のあった黒い毛並みはボサボサになり、目は死んでいる。

「それは大変じゃったな…しばらく休むか?」

「そうさせてもらうわ。

 そうそう、会談の話は通したから、近いうちに王国側から何らかの接触があるはずよ」

 結果を伝えるてそのままベッドの上に倒れ込むリラに、ルーベンスが毛布をそっとかぶせる。

「ひとまずは、これで一歩前進じゃな」

 村の人口不足と王国の問題であった難民。

 それをまとめて改善できる兆しが見えたことに安堵すると、ルーベンスも眠りに就く。

 翌朝、二人分の朝食を取り、朝の支度を済ます。

「そうそう、私がいない間に何か変わったことはなかったかしら?」

 ボサボサの体毛をブラシで梳きながら、自分の居ない間のことを尋ねる。

「実は、三日前に市場でスリにあってのう」

「相手の情報を教えて」

「若い青年じゃったな、赤と青色の髪が特徴じゃった」

 当時の状況を思い出しながら大まかな情報を伝える。

「すぐに取り戻してくるわ、部屋で待っていて」

 ブラシを置くと、軽く体操をして外に出る。

「それにしても、国王はとんでもないのを官僚に据えたわね」

 商業街へ向かう道中、シャラベルのことを思い返す。

 自分に気取られることなく背後を取り、平気な顔で残虐な刑を執行する。

 治癒魔法によって外傷はなく、そればかりかレッドウルフに付けられた古傷さえも完治している。

 さすがは魔帝の娘というべきか…

「できれば二度と会いたくないわね」

 植え付けられたトラウマに体を震わせながら、気力で何とか足を動かす。

「まずは現場ね、ああいうのは味を占めて同じことをひたすら繰り返すから抑えやすいのよね」

 人目のつかない路地裏に行くと、壁を素早く登って建物の屋上に上る。

 朝の市場。

 商品の陳列を行う人々を俯瞰しながら、目的の人物がいないかを探ること一時間。

 俄かに増え始めた人の中から、赤と青の髪の人物を見つける。

 物陰に身を隠し、次のターゲットを探るように市場の様子を窺っている。

「十中八九アイツね。

 あとは現場を抑えれば」

 虎視眈々とターゲットを注視していると、店主がよそ見した隙を突いて彼は商品の食料を取って逃走する。

「取ったわね」

 屋上を伝って素早く逃げるターゲットを追跡。

 相手が路地裏に逃げ込んで一息ついたところを、頭上から急襲する。

「わっ!」

 頭上からの奇襲に驚きながら倒れる青年。

 そのままリラによって地面に押さえつけられる。

「クソ、離せよ!」

 両手を使って起き上がろうとするが、人間と人狼の力の差は覆せず、そのまま抑えられ続ける。

「盗ったものを返してもらうわよ」

 地面に転がる食料を回収。

 虫がつかないように革袋に入れられていたので、汚れなどの心配はないだろう。

「さて、それじゃぁ盗んだ財布も返してもらおうかしら?」

「財布?知らねぇよ」

「三日前におじいさんから盗んだでしょ?」

「だから緑の財布なんて知らねぇっての!」

「あら、財布の色なんて言っていないけど?」

「あ…」

 自滅に言葉を詰まらせる。

「返してもらうわよ。

 でなきゃ衛兵に―――」

「わかった、返す返す!」

 解放して、財布の場所まで案内させる。

 路地裏のさらに奥。

 復興の手が届いていない廃墟の一画。

 薄暗く狭い場所に、誘導されるように進む。

「…どういうつもりかしら?」

 自分を取り囲む気配、同時に青年の足が止まる。

「馬鹿な女だ…」

 青年が振る替えると同時に挟む形で現れる十数人の少年少女たち。

 身なりは貧しく、手にはナイフや鈍器などの凶器を持っている。

「口封じに私を殺す気かしら?」

 わずかな利益のために重罪の殺人を選択する愚行に呆れるリラ。

 対する集団は応答せず、凶器を構えて接近する。

「しねぇ!」

 叫びながら鈍器を振り下ろす少年。

「素人ね」

 素早くかわすと、集団を飛び越えて挟撃状態を抜ける。

「なっ!」

 まさかの行動に集団が一瞬動揺するも、武器を構え直す。

「教育が必要ね。かかってきなさい」

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