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侵入

「国王陛下に先代陛下からの手紙を届けに参りました」

 王城前、城門を守る門番にリラは手紙を渡して用件を伝える。

「冒険者風情が何を言うかと思えば、国王陛下はお忙しいお方だ。

 お前の悪ふざけに付き合う暇はない!去れ!」

 手紙を投げ捨て、リラを冷たくあしらう衛兵。

 衛兵からしてみれば彼女は日雇い労働者の冒険者にしか映らず、手紙も王に会うための口実作りにしか見えない。

(やっぱり駄目ね。

 正当な方法でなら堂々と王城を歩けると思ったけど…)

 生垣に引っかかった手紙を拾ってその場を退くと、今度は進入路を探し始める。

(この時間なら執務室にいるはず…

 となると)

 以前入城した時に覚えた構造と今の見た目を重ねながら、城の外周を回って最適な進入路を探す。

(最後に見た時と外見はあまり変わっていないわね。

 改修と修理は進めていない感じかしら?)

 王都侵攻時に付けられた戦傷がそのままであることに、不自然さを覚える。

 国の中枢であるはずの王城の防御力が低下していることは、王やその臣下の安全が脅かされている状態であり、敵対勢力に対して絶好の攻撃機会を与えているのと同然である。

(城下町の復興に予算を回しているのかしら?

 それにしても危険なことに変わりないけど)

 広場の噴水を背に、石造りの塀に両手を付きながら現状についてあれこれと考察する。

(ひとまず、以前と同じ水路から始めてみましょう)

 防水用の袋に手紙をしまうと、王城から離れた位置にある水路の出口に向かう。

「あら?」

 落城時の脱出路として用意された地下水路の入り口が開いていることに声を漏らす。

 本来、この通路は侵入防止のために格子の内側からカギがかけられているのだが、それが無理やりこじ開けられて半開きになっている。

「先客ね」 

 使い慣れたアームブレードを展開、臨戦態勢をとると、気配を消して水路の足場に侵入する。

 ジメジメとしたカビ臭い通路。

 いたるところにキノコ類が生えており、大小さまざまな虫が嫌でも目に付く。

「いるわね」

 鋭い感覚を駆使し、脅威となりそうな存在を察知。

 足を止めて構えると、暗闇の奥からヒタヒタと湿った足音を立てながら黒い大きなトカゲが近づいてくる。

 クラヤミトカゲ。

 湿気の多い洞窟に生息するトカゲで長い舌を使って獲物を捕食する生態を持つ。

 幼体は小さいが成長と共に数メートルの成体に育ち、大人の人間さえも絡めとって一飲みにする。

「グルルルルルル」

 五メートルはある巨体から発せられる、水路に響く唸り声。

 リラを絡めとろうと舌を伸ばすも空振りに終わり、その代わりにアームブレードによる斬撃が分厚い舌を切断する。

「悪いけど、先に行かせてもらうわ」

 出血しながら激痛にのたうち回るクラヤミトカゲをよそに、先に進む。

 あれでは1日も持たないだろう。

「それにしても、前に通ったときはいなかったはずなんだけど。

 侵入対策に放ったのかしら?

 だとしても大きすぎると思うけど…」

 仮に幼体から育てたモンスターであっても、あのサイズまで育ってしまえば捕食本能によって暴走する危険性がある。

 飼育していた動物が暴走して飼い主を殺害するという事故が報告されている現状、モンスターをガードマンとするのは悪手である。

 何らかの方法で制御できれば話は変わるが…

「そういえば、城には魔帝の娘がいたわね」

 仮にその魔族がモンスターを支配する魔法を行使できるのであれば、モンスターを水路に放ったのも、城の修復が疎かになっているのも理解はできる。

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