老婆の依頼
都市の一画。
チングスと別れたエトワールは依頼人の住む住宅の扉をコンコンコンとノックする。
三十秒ほどして扉が開き、古いデザインの懐中時計を首に掛けた白髪の老婆が現れる。
「あんた、もしかして冒険者かい?」
呟くような小さな声。
顔はしわくちゃであり、病を患っているのか顔色が悪い。
「こちらの依頼を見てきました」
受注の印が押された、1枚の依頼書を見せながら要件を述べる。
「そうかい、まあ、あがりなさい」
案内されるままに、家の中へ立ち入るエトワール。
小さく燃える暖炉があり、ヤカンが掛けられている。
椅子に座って老婆と対面、淹れられた茶を挟みながら、詳細を伺う。
「依頼によれば、装備の回収だとか?」
テーブルに置かれた依頼書。
そこにはモートル森林で殉職した冒険者の装備品を回収してほしいとの記載がされてあった。
「そうさ。あの子の形見を森から取り戻してほしくてね。
「たくさん稼いでお母さんに楽させてあげるんだ」といって仲間たちとモートルの森に行ったきり…
馬鹿な息子だよ」
「・・・・・」
一筋の涙をこぼしながら、そう呟く老婆。
口では「馬鹿な息子」と批判してはいるが、大切な存在だったことが震える声と表情から分かる。
「わかった。だけどあそこは広い森だ、遺品を取り戻せるという保証はない」
「大丈夫よ、無理はしないでね」
「ところで、息子さんの名前は?」
「ごめんなさい、書いてなかったわね。名前はサム。サム・ユベントラ」
「わかった」
茶を飲み干して、席を立つエトワール。
関を抜けて相棒の元に向かい、颯爽と飛び立つ。
目的地へと向かう事、およそ一時間。
霧の立ち込める森林とその前に築かれたゴーストタウンにたどり着く。
モートルタウンと彫られた朽ちた石看板を越え、街に立ち入る。
派手な彫刻の施された大きな噴水や立派な教会のある街だが、幽鬼の脅威からすべての住人は去り、今では賊徒などの反社会的勢力のたまり場になっている。
「ほお、竜騎士か」
足を踏み入れるなり、無精ひげの男達に囲まれる。
全員が幽鬼用の魔石を装備しており、ただの賊徒ではない。
「『宿泊料』だろ?一日だけならこれで足りるか?」
リーダー格らしき傷だらけの男に、金の詰まった袋を手渡す。
「物分かりがいいじゃねぇか、十分だ。
そうそう、ワイバーンはあそこにとめておきな」
ガタのついた厩舎を指さしながらへっへっへと卑しく笑うと、賊たちはエトワールの囲みを解いて引き上げていく。
ボロボロの厩舎にアグナスをとめ、隣の家屋に入る。
建付けの悪い扉を開けば、意外ときれいな部屋。
長いこと使われているのか、壁には雑に修繕された跡が残っている。




