幽鬼の森
霧の立ち込めるモートル森林。
以前は木こり場として活用されていた場所であったが、今や幽鬼の棲み処と化している。
「相変わらず気味の悪い場所だ」
地面を歩くアグナスに乗りながら、気味悪がるエトワール。
霧が立ち込める森、地面も水気を含み、ぬかるんでいる。
生い茂る木々も相まって視界の効かない環境を、アグナスの鋭い感覚を頼りに進む。
はっきり言って、森をさまよってまで遺品を探すつもりは欠片もない。
アンバリラを探すのが第一目標で遺品に関しては「一日中探したけど見つかりませんでした」とでも言い訳すればいい。
もともと安い報酬、命を懸けてまでこなす必要はない。
「とまれ」
アグナスに停止を指示。
降りて地面にカンテラを近づけると、特徴的な形の無数の足跡が照らし出される。
「この足跡は教団のだね。
アグナス、追いかけるよ」
再び騎乗すると、足跡を頼りにアンバリラ達を探す。
時折現れる幽鬼の群れを魔法攻撃で退けながら、ひたすら足跡をたどり続けていると、俄かに焼け焦げた臭いが鼻孔をくすぐる。
「おいおい、何があったんだ…?」
臭いを辿ると見えてきたのは焼け落ちた教会。
教団の財宝を隠匿している場所であるはずの施設が、廃墟と化してしまっている。
「足跡はここで止まっている、この教会を焼いたのか?何故?」
廃墟の周囲を回り、手掛かりを探す。
しかし火災のせいもあってアンバリラに関する痕跡を見つけることはできなかった。
「無駄足か…」
宿泊代が無駄になったなと内心思いながら、アグナスに騎乗する。
直後、周囲の気温が急激に下がり、エトワールとアグナスの吐く息が白くなる。
「…これは、なかなかのがいるね」
強敵の気配に槍を伸ばして臨戦態勢に入る。
槍の穂先に赤い魔法炎が煌めき、冷えた体を温める。
直後、森の奥から青い炎を纏った幽鬼が木型のモンスターを連れてゆっくりと現れる。
「ウッドマンを連れているのか、教団への手土産にはなりそうだな」
「教会の椅子がガタついている」と言っていた枢機卿の姿が頭をよぎる中、槍を伸ばす。
古木が魔力を吸い上げてモンスター化したウッドマンは体が良質な木材で出来ており、建材としてなかなかの値で取引される。
「オオォォォォ・・・・」
うめくような声をあげながら近づいていく人型の幽鬼。
見れば冒険者の成れの果てらしく、ボロボロの身分証が腰のベルトからぶら下がっている。
「行くぞ」
アグナスが翼をはためかせて離陸。
ウッドマンの根っこによる地面からの急襲を無効化して、幽鬼に対して距離を保ちながら槍の連続突きを浴びせる。
フレイムアロー
槍を突き出す度に先端から円錐形の真っ赤な火焔が放たれ、幽鬼に向かって真っすぐ飛んで行く。
「コオォォォォ・・・!」
火だるまになりながらも、もがく仕草もなく反撃に出る。
幽鬼の両手から放たれる冷気をまとった青い炎の弾。
弾道はまっすぐで躱すことは容易。
外れた火球が遠くの木に当たり、大木が瞬く間に凍り付いてパキンという音と共に折れる。
「氷霊か、それも上級の」
距離を取りながら、呟く。
氷霊とは凍死した者が幽鬼化したもので、凍てつく炎を操り、さらに長い間をさまよった個体は体温が極度に低くなり、炎による熱さえも無効化してしまう特性を持つ。
槍にはめ込んだ魔石を取り換える。
黄色い魔石。
雷の力を宿したものではあるが、込められた魔力量は少なく、攻撃の機会は1回限り。
アグナスに指示を出してさらに上昇。
対空攻撃を躱しながら、旋回してタイミングを探る。
「ここだ!」
攻撃が止んだ刹那、アグナスが一気に降下。
雷を宿した槍を氷霊の足元目掛けて一気に投擲する。
助走もあって投げられた槍は速度を落とすことなく地面に突き刺さり、放電。
槍を中心に強力な雷が走り、ウッドマンもろとも氷霊の体内を駆け巡る。
「グ・・ガッ・・・!」
感電に苦しむ氷霊。
炎の熱を無効化するほどの冷気も電撃には無意味。
ウッドマンの体内に保有する水分が一瞬で蒸発して爆発、いわゆる水蒸気爆発によって体内から砕け散る。
「あーあ、せっかくの素材が…」
ウッドマンの残骸を一瞥しながらため息をつく。
一方で氷霊もうつぶせに倒れ、ぴくぴくと痙攣、力尽きつつあるのか下半身から消滅しつつある。
「それじゃ、成仏しな」
教団の葬儀で唱えられる呪文を唱える。
カルト教団のこれに効果があるのかは分からないが、気持ち程度に冥福を祈る。
少しして氷霊は消失し、気温も回復。
冷気を放つ青い魔石が残り、纏っていた冒険者装備も泥にまみれる。
魔石を回収し、冒険者の身分証を確認。
そこには『駆け出し冒険者、サム・ユベントラ』と記されていた。




