赤字
「マイナス一万五千セレカ…」
「……」
痛々しいほどの沈黙が執務室を包み込む。
リーヴェルがルーベンスに突きつけた書類には村の財政収支が記録されており、とてつもない赤字が記されている。
従来からの維持費に加え、今月行われたゴブリン討伐と開拓における冒険者の雇用費と住居、農場施設の建造費。
村の収入の何十倍もの出費が無慈悲に羅列されている。
「ねえ、本当にこの村は大丈夫なのかしら?」
信じがたいほどの赤字に、遅かれ早かれ借金の返済が滞ることを懸念するリーヴェル。
「これは一時費用じゃ。
村の産業を確立できれば、きっと…」
「いつになるのよ、それ?」
言葉をさえぎる。
「そもそも、この村の産業になりそうなものって何があるのかしら?
林業は始めたばかり、ボタ山は建材の需要で高騰しているけど、そのうち底を尽きる。
冒険者業は個人依存で安定性皆無、何らかのギルドを作ろうにもこんな辺鄙な場所に人は集まらない…」
「……」
現実的な指摘にルーベンスは言葉を失う。
確かに、現在の最も大きな村の収入源はアンカラの稼ぐ金であり、それも討伐するモンスターの種類や数に大きく左右される。
畑は大きくなったが、村人の食糧用であり商品として売り出すほどの余裕がない。
難民を集めて村を発展させるという方針をアンナに提案したが、仮に集まったとしても即日に収入源になってくれるわけではない。
むしろ生活基盤の整備やルールの説明に治安維持組織の発足など、様々な手間暇がかかる。
「それと、開墾したあの畑だけど、どうやって水を用意するつもりかしら?
一人の魔法使いに依存する形だと、遅かれ早かれ限界が来るわよ?」
「それに関しては、近くの川から水を引くしかないのう」
「土木作業となると、今回よりも更にお金がかかるわよ。
言っておくけど、これ以上はびた一文貸さないし、返済期限も猶予するつもりはないわ」
「一つだけ、手がある。アンナの提案じゃが…」
「何かしら?」
一呼吸おいて、言葉を放つ。
「村人を傭兵にするという案じゃ。戦後の治安維持やモンスターの討伐で資金を賄うとのことじゃ」
「あのねぇ…」
呆れ声を漏らす。
「わかっておる、戦いを村の産業にするのはリスクが大きすぎる。場合によっては恨みを買うことになるじゃろう…しかし…ほかに方法が…」
「仕方ないわねぇ…
わかったわ。モンスターの討伐という形なら相手から恨みを買うこともないでしょうし、ギルドに掛け合って村に討伐依頼を斡旋できるようにしてみるわ」
「本当か!?感謝する」
「ただし、リスクの大きいやり方だという事だけは忘れないでよね?」
「もちろんじゃ、村の新たな産業が確立するまでの繋ぎ程度にとどめる」
「ぜひともそうして頂戴。
借したお金を回収できなかったら困るもの」
あくまでも債権者と債務者の関係であるということをリーヴェルはルーベンスに再確認する。




