黒天の龍 アンカラ
「以上が今回の取引となります」
「いつもありがとう、ランハル」
資材置き場に置かれていた物品と生活必需品の取引を終えるアンナとランハル。
簀巻きにされて地面に置かれたアンカラをよそに村人たちは薬や肥料などの物品を集会所へと運ぶ。
最初こそは意気揚々と勝負を挑んだアンカラだが、封じられていた間に力の源である魔力が抜け落ちてしまっていたらしく、一瞬で制圧された。
筋力こそは常人を超えてはいたが、それでも戦闘のプロであるアンナには敵わず、交戦早々にアンナに殴られて縛られ、今は地べたで泥だらけになりながら荒々しく息を吐いている。
「我は黒天の龍だぞ!丁重に扱え!」
「そう言われてものう…そもそも黒天の龍というものすら分からぬし。どこかで聞いたような気はするが…」
「馬鹿言え!我が成したことを人はもう忘れたというのか!?世界を支配し、人間どもを服従させていたではないか!」
深紅の尻尾で地面を叩きながらギャーギャー叫ぶアンカラに、ルーベンスは困惑する。
「黒天の龍か…」
彼女が何度も口にする単語にアンナが反応する。
「そういえば、勇士哀歌にそんな歌詞があったな」
「そうじゃ、あの剣舞の時じゃ」
はっと、思い出す。
「だがあれは『邪龍伝説』というおとぎ話を基に作られた歌だぞ」
「お、おとぎ話だと!?」
まさかの単語にアンカラが驚愕する。
「お、おとぎ話とはどういうことだ!?」
「どういうことも何ものう…仮に邪龍伝説が史実だとして、それがおとぎ話になるということは、相応の時間が経っているということではないのか?
少なくともそなたの言う黒天の龍が人を支配していたという歴史は知らんのう」
「バ、馬鹿な…」
ルーベンスの言葉に、絶句する。
どうやら彼女は太古の存在らしく、封印されてから今までの間の記憶がないらしい。
「アンナさん、その邪龍伝説について教えてくれないかしら?」
俄かに興味を持ったリラがアンナに尋ねる。
「簡潔に言うと、はるか昔に世界を支配した黒天の龍を勇者様が討ち滅ぼしたという話だな」
「よくあるおとぎ話ね。で、その黒天の龍が…コレと」
「コレとは何だ!よいか、我は滅ぼされてはおらん!封じられていただけだ!全盛を取り戻し、真の姿となった暁には再び世界を…」
「どうする?とどめさす?素材にすればかなりの値が付くと思うけど」
素早く短剣を取り出すリラ。
「さすがに可哀想じゃから止めるのじゃ」
「一旦、村の空き家に入れておこう」
「我の話を聞かんか!」
やかましいアンカラを無視してルーベンスとアンナは淡々と話を進める。
「ダン、こいつを空き家に放り込んでくれ」
「おう」
快諾すると、アンカラを縛ったまま肩に担いでそのまま空き家へと運んでいく。




