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動揺

 同時刻。

 王の執務室でアルトロが憔悴した様子でペンを執る。

 宝玉の一件以来、妻であるクランとはまともに口をきいていない。

「陛下、報告があります。人払いを」

「…」

 ヴァリアに従い、従者を遠ざける。

「凶報です、宝玉が…割れました」

「そうか…」

 ペンをおき、静かにつぶやく。

「状況はどうなっている?」

「わかりません。先代に掛けていた監視魔法が無効化されたようで、水晶には何も…」

「このことを知っているのは?」

「私と陛下だけです。緘口令は不要かと」

「一応、余の装備を用意してくれ。全ての責任は余にある。」

「おやめください。陛下の身に何かがあれば、国の大事になってしまいます。諜報部を動かして、まずは状況を確認するのがよいかと。事と次第によっては諸国と連合を組み、対応をする必要があります」

「そうか…そうしてくれ」

「は、直ちに取り掛かります」

 水晶を取り出し、諜報部へ連絡を取る。

「こちら、魔法相ヴァリア。長官へアポを取りたい、緊急の要件だ」




 王城の地下深く。

 設計図に書かれていない、秘密裏に建てられた部屋で二人の男が対峙していた。

 一人は老年の男でもう一人は白色の毛並みの美しい人狼族の男。

「戦後処理の件、ご苦労だったライラット」

 老年の男がライラットと呼ばれる諜報員を労う。

「役目を果たしたまでです、長官」

 あくまでも謙虚に返す。

「さて、仕事を終えたばかりで済まないが、緊急の任務だ。アルジャーノ鉱山村に偵察に向かってほしい」

「アルジャーノ鉱山村…ですか?」

「そうだ、詳しくは言えないが、陛下直々の要請で偵察をすることになった。行ってくれるな?」

「直ちに!」

 長官の命令を承諾すると、踵を返して退出する。


 王国の首都、アルガノス。

 その端にある霊園に彼はいた。

 慰霊塔に見せかけた入り口から姿を現すと、痕跡を消して霊園を抜ける。

 一国民として関門で手続きを済ませて王都を出立すると任地へ向けてひた走る。

 王国の影として東西千里の戦場を駆け抜けた彼にとって彼の地までの距離は大したことはなく、瞬く間にたどり着く。

 冷たい風の吹く山岳。

 『アルジャーノ鉱山村』と書かれた傾いた看板を視界の端に、彼は身を隠しながら双眼鏡で村の様子を覗く。

 寂れた村。

 それが彼の第一印象だった。

 建物は経年劣化でボロボロになり、村人の数はまばら。

 任地で何度も見かけたよくある寒村だった。

 …一点除いては。

「なんだ、あれは…」

 小高い丘の上から見渡す農地に声を漏らす。

 そこにいたのは村人に混じって働く女性の姿。

 角と赤い尻尾が生えた龍人が、農夫と共に農作業に精を出していた

 

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