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餅屋  作者: 川進
2/3

中段

 餅屋が外に出る時、いつもそばにいてくれた男が、背負って来た座布団を地面に置いて、餅屋を座らせました。

その前に、小さな青い火鉢を置いて、炭が赤くなっていくのを、黙って見つめています。

男は、網を置き、その上に餅を置きました。


餅屋の耳に、男が鼻をすする音が聞こえました。


向こうから、お迎えがいらっしゃるまで、こちらでお待ちくださるようにと。

まだ、山は、寒いですな。


男は、餅屋に、綿入れをそっと羽織らせると、そばに、炭と餅が入った包みを置きました。


わかっているよ。

これまで、大変世話になったね。

ありがとう。

さあ。

暗くなる前に、気をつけて、早くお帰り。


餅屋が言うと、男は鼻をすすりながら、深々と、頭を下げたようでした。

時々、立ち止まりながら、足音は遠ざかって行きました。


山の上は、しんとしています。

時々、鳥の鳴く声や、羽ばたく音が、聞こえます。

餅屋は、ひとりで、餅を焼きました。



 姫さまは、山道を登り始めました。

赤い顔をして、息を切らせて、登ります。

あれから、8日経っているから、餅屋は、もう向こうに着いているはず。

ひと目で良いから、その姿を見たいと、姫さまは、一生懸命に登ります。


あたりが暗くなり始めても、怖いとも思わず、夢中で登りました。


姫さまは、足を止めました。

どこかから、香ばしい匂いがするのです。

餅屋が、餅を焼いた時の匂いと同じだと気づいたとき、姫さまの口の両端から、よだれが垂れました。


鼻をふんふん言わせて、匂いをたどって行くと、大きな木の根元に、男がきちんと座布団に座って、餅を焼いていました。


男は、餅屋の声で、言いました。


道に、迷いましたか。

温まっていかれたら、良いですよ。

餅も、焼けます。


姫さまは、息を切らせて、火鉢のそばに行きました。

餅屋は立ち上がって、座布団を姫さまの方に押してよこしました。

餅屋は、木の根を手で探って、腰を下ろしました。


姫さまは、餅屋の、薄い灰色をした、澄んだ目を見ました。


あまりに、良い匂いがしたものですから。


姫さまが言うと、餅屋は、顔を上げました。


その、お声。

まさかとは思いますが。

ふもとの館の、姫さまではありませんか。


まあ。

よく、お分かりに。


姫さまが驚くと、餅屋は、耳を赤くして、嬉しそうに頷きながら、綿入れをかしてくれました。


さあ。

姫さま。

餅が、焼けました。


ふたりは、仲良く餅を食べました。



すっかり暗くなった頃、双子の山賊は、木陰から、様子をうかがっています。


この良い匂いが、幻とは思えんが。


いや。

あれは、タヌキとキツネかも知れない。


しかし。

腹が減ったよ。


それは、おれも同じだが。

なんだか怖いだろう。

こんな山の中で、こんな夜に、火鉢で餅をあぶる奴が、いるか。


見たことはないが。

ちと、声だけでも、かけて見るか。


いや、しかし。


腹が減ったよ。


双子は、そろそろと、近づいて行きます。


餅屋は、言いました。 

 

道に、迷いましたか。

温まっていかれたら、良いですよ。

餅も、焼けます。


網の上の餅がふくらむと、双子は、口の両端から、よだれを垂らしました。


姫さまは、手招きしました。

双子は、さっと、火鉢のそばに座って、差し出された餅を、嬉しそうに食べました。


そのうち、こちらに走って来る足音が、聞こえてきました。

息を切らせてやって来た男は、言いました。


良かった。

ご無事で。


どうして、戻った。

叱られてしまうよ。


餅屋は、驚いて、言いました。


店には、もう、戻りません。


男は、ほっとした様子で、笑いました。


そうか。

それなら、早く温かいところにお座り。

一緒に、餅を食べよう。


男は、頷くと、火鉢のそばに座って、

おいしそうに、餅を食べました。


下段に続く

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