輪
下段
兄上と家来たちは、あちこちを探しまわりましたが、姫は、見つかりません。
夜になっていましたが、兄上は、すがるような気持ちで、餅屋に行きました。
黄色い着物の娘が、上手に餅を焼く、下のせがれどのを訪ねて来なかっただろうか。
もう、婿に行かれたとは思うが。
餅屋の主人は、澄まして言いました。
うちのせがれは、もともと、ひとりだけでございます。
そう言って、せがれを呼びました。
出て来た男は、似てはいましたが、やはり違いました。
主人が、言いました。
せがれは、とても上手に、餅を焼きます。
館に通わせ、餅を焼かせましょうか。
いや。
あのように、上手く焼ける者は、ただひとり。
そう言ったあと、兄上は、じっと、主人を見つめました。
主人は、耐えきれずに、目を伏せました。
行こう。
兄上は、家来を連れて、走り出しました。
祈りながら、皆で、暗い山道を駆け上ります。
そのうち、香ばしい、良い匂いがしてきました。
楽しそうな話し声も、聞こえてきます。
ぼんやりとした明かりの方に走っていくと、何人かが、火鉢を囲んでいます。
こちらを向いた顔の中に、姫さまを見つけた兄上は、ほっと、息をつきました。
姫さまの赤い頬が、つやつやと、光っていました。
明け方、兄上と家来たちと一緒に、姫さまは、館に帰って来ました。
餅屋は、男に手を引かれています。
双子も、まるで、もとからいた家来のように、後ろにいます。
父上と母上は、兄上から話しを聞いて、泣いて、姫さまを抱きしめました。
山が、赤や黄色に染まり始めたころ、
館のそばに、小さな餅屋ができました。
すぐに評判になり、人々が並んで、店が開くのを、待っているほどです。
館で毎日、無理矢理、風呂に入れられる双子は、すっかり色白な、若い家来のようです。
2人で、ぴったりとした息で、ひたすら、餅をつきます。
その餅を、餅屋と男と、姫さまと乳母とで、丸めていきます。
たくさんの餅は、店を開けたとたんに、飛ぶように売れて、すぐに無くなってしまいます。
いつも、とっておいた分を、持ち帰ります。
次々に、上手に焼かれていく餅を、館の皆で、食べるのです。
姫さまが、餅屋の口もとについた粉を、拭きました。
皆は、穏やかに、2人をながめるのでした。
おわり




