幕間 決戦前夜
明日はクーデターを起こし、国の根幹を作り替える日。
グレンとゼシカには、アイリス王女の保護がいかに大切かを説明する羽目になった。なにより、ゼシカの抵抗が激しかったのだ。
――民衆の生活レベルを上げるには、アイリス王女の知恵が必要である。
アイリスの功績を、1つずつ説明する。中には国王や側近、兵士によって歪められた意図が民衆の噂になった時の尾ひれとなって広がるに至るまでを語って聞かせた。
貧民の炊き出しは減ったが、飢えるものは減ったこと。
気軽に通える薬師や医者は居なくなったが、効かない薬を高値で買わされて死ぬ民は減ったこと。
子供の死亡率の新規データを見せると、グレンは比較的柔軟に考えてくれたがゼシカは黙り込んだ。そして、子供の死亡率の変化を記した表を穴が開くほど見つめたかと思うと、最後には自分の部屋に引っ込んでしまった。
◇◇◇
アッシュは秘密の村の武器庫の屋根で寝転がり、夜空を見上げていた。
――クーデター前のアイリス王女の汚名返上は出来なかった。
アッシュの心は、その悔しさが拭いきれなかった。
このままクーデターを起こした場合、いくら喚いたところでもう手遅れだ。一度導火線に火がついた民衆の怒りは覆らず、アイリス王女を仇として憎み続ける。
政変後に長い時間をかけて少しずつ敵意を和らげることは可能だろうが、その気の遠くなるような期間、敵意の真ん中に彼女を置くアッシュをアイリス王女は恨むだろうか。
ただ、愚直に守りたいだけだった。
彼女の願う国の明日を。
彼女の思いを、守りたかった。
だが、彼女の全てを守るにはあと一歩足りなかった。
一言でも彼女と話すことが出来る地位まで出世出来ていたら。
もう少し弁舌が達者で、みんなを納得させることが出来ていたら。
守りたい彼女を地獄に引きずり込むことに、アッシュは悔し涙を滲ませる。
―例え恨まれようとも、アイリス王女が凛とたち続けられるよう、誠実に支え続けるのが俺の役目だ。
そう決意したアッシュは、涙を拭って立ち上がった。




