第23話「職人オットーと四十人の人間」
南の境界の平地に、荷車の車軸が軋む耳障りな金音が連日響き渡っていた。
先頭を引く頑丈な農耕馬の蹄が、湿った赤土を抉る。二台、三台と連なる荷台には、真新しい樫の丸太と、角を粗く削り落とした砕石の山が積み上げられていた。
その後ろに続くのは、分厚い革の仕事着を纏った男たちの一団だった。
肩に担いだ大槌の鉄頭が、陽光を照り返して鈍く光る。腰にぶら下げた金鋸や平鑿、手斧の刃先が、歩調に合わせてガチャガチャと鳴り合っていた。
四十人を超える工事作業員。
王都の外郭街道や運河の護岸工事を渡り歩いてきた、叩き上げの掘削集団だった。
男たちの身体からは、汗の饐えた臭いとともに、乾いた香辛料の強烈な芳香が立ちのぼっていた。保存用の塩漬け肉に擦り込まれた粒胡椒と乾燥大蒜、脂の浮いたスープを煮出す鍋の湯気が、風下へ向けて濃い膜を作って流れていく。
大樹の洞の前に据えられた石卓の端で、ジークが羊皮紙の図面を広げていた。
真鍮の定規を当て、鉛筆の先を指で転がす。
「商業省の管轄外で手配できる頭領としては、あいつが大陸で一番だ。親方オットー。仕事は荒っぽいが、路盤の締め固めと擁壁の目地割りに関しては軍の工兵部隊より腕が立つ」
「金はどう工面した」
左腕の包帯の端を右手で整えながら問う。
「手持ちの測量器具を二つ抵当に入れたのさ。残りは、オットーへの出世払いだ。『東の樹海を真っ二つに割る最初の線路を敷いた男』の看板代で釣り上げたんだよ」
ジークが定規を弾くと、軽い音が一つ鳴った。
足の裏に、激しい振動が突き上がってきた。
踵の骨を揺らす、短い打撃の連打。
土竜の振動だった。いつもの緩慢な拍ではなく、地盤を激しく擦り上げるような苛立ちの波が、膝の裏まで駆け上がってくる。
〈……下で寝られん。朝から晩まで、頭の上を鉄が叩く〉
洞の敷き藁から黒い土粒が跳ね上がった。
〈……それに、臭い。人間どもの飯の汁、土に垂らすな。舌の根が痺れる。赤子が殻に籠もった〉
「分かった。昼までに線を引く」
踵を二度踏み、返信を送る。
長靴の紐を締め直し、南の平地へ向けて歩き出した。
背後で、灰色の外套を羽織ったノアが音もなく追いついてくる。首元の留め金を、右の指で弄んでいた。
「人間を入れすぎたわね」
「外の鉄路と繋ぐなら、人間の手と道具が要る。森の魔物だけではレールを水平に据えられない」
「あの連中の足音、森の奥まで響いているわ。影狼が喉の奥を鳴らし始めている」
ノアの指摘を背中で受け止め、歩幅を伸ばした。




