表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/42

第十三章

 車が目的地、Hgの工房の前に到着した。

 住宅地を外れ、人通りも街灯も少ない郊外の土地に、それはポツンと建っていた。

 全員が車から降りて、その建物を見る。

「これが……Hgの工房?」

 外観は、どこにでもあるような小さなビル。3階建てで、白い壁面。窓が全て埋めてあるのと、入り口がやたら厳重ではあるが、魔術の気配はどこにもない。

「昔は病院だったんだ。魔術具の倉庫でも建てようかと思ってたんだけどね。結局、Hgが中だけいじって、工房にしたってわけだ。僕も中を見たことはない」

「廃病院を改造して、今度は魔術工房か……ぞっとするな」

 直巳が真っ白な建物を見て、顔をしかめる。

「高田。最後にもう一度だけ、Hgに連絡を取ってみて」

「わかった」

 高田はアイシャに言われるがままに携帯電話を取りだし、Hgに連絡をした。コールはされるのだが、何度鳴らしても相手が出る様子はない。

「駄目だね。でない」

「そう。なら、突入するけど――いいわよね?」

「ああ、そうしてくれ。君達がいる間に、決着をつけておきたい」

「わかったわ。直巳、開けてちょうだい」

 直巳がうなずくと、伊武とAに声をかけた。

「アイシャと高田は、ここで待ってて。伊武とA、一緒に来てくれ」

 直巳は二人を連れて、入り口に近づく。あまり見かけないような、分厚いシャッターが降りており、壁には解錠用だろうか、コントロールパネルがついている。他に入り口はない。

 コントロールパネルを見ると、カードのタッチセンサーと、数字のキーがついている。鍵穴もあるが、高田ですら鍵を持っていないというのだから、鍵の実物は期待できない。

「カードに鍵、数字か……どれか一個でも難しいのに、複合だったら絶望的だな」

「マスターキー、使いますか?」

「マスターキー? そんなの持ってるの?」

「ええ。そこに立っています」

 Aが指さした方向には、伊武が立っていた。

「ああ……マスターキー……そういうことか……うん、それでいこう」

 ようするに、鍵もドアもぶっ壊すということだ。まあ、それしかないだろう。

 トラップやセンサーの類いがないか、Aがチェックをするが、特には見当たらなかった。

「じゃあ、伊武。お願い」

「うん……わかった……」

 伊武はシャッターに近づくと、ペタペタと触って、感触や厚みを確かめた。

「ねえ……椿君……質問……」

「ん? なに?」

「この……シャッター……二度と……使えなくなっても……いい……の?」

「まあ……しょうがないかな」

「わかった……じゃあ……離れてて……」

 そういうと、伊武は背後の空間からフリアエを取り出して、シャッターに向けて構えた。

「――フッ!」

 フリアエを横に薙いで、シャッター一閃。えぐられたような斬り跡が入る。

 こんどは縦に、斜めに、また横に。何度もフリアエを振るって、シャッターがズタズタになったところで、伊武はフリアエをしまった。

 今度はシャッターの前に立つと、斬り跡に指を突っ込み、力任せにシャッターをはがし始めた。まるで、壁に貼ったポスターを剥がすかのように、ベリベリと剥がしては放り投げる。いくつかの切り込みを入れているとはいえ、人間業ではない。

 ものの数分で、シャッターはすっかりなくなっており、あたりにはシャッターの残骸が散らばっていた。

 シャッターの後ろに、ドアが見えた。これは普通のガラスドアだが、中が見えないようにサンドブラスト加工されている。

 伊武は拳を握ると、少し立てた中指の第二関節をジャブのように鋭く、ガラスに叩きつけた。ピシッと音を立てて、ガラスにヒビが入る。後は適当に殴ってガラスを割ると、そこから手を入れて、中から施錠を外した。

「終わった……よ……」

「ありがとう。お疲れさま」

「うん……シャッターは……面倒くさい……ね……ドアも……結局、割っちゃったし……大丈夫……かな?」

「ドアはまあ……蹴破るよりはいいんじゃない? ありがとう」

 直巳と伊武がシャッターとドアの破壊についての反省会をしていると、アイシャが、「やっと終わったの」と呟いて、直巳達の方へ歩き出す。しかし、高田が動かなかった。

「どうしたの? 高田。行くわよ」

「……ねえ、あれ……君達の中では普通なの?」

「あれって、シャッター壊したやつ?」

「いや、壊したって……引き裂いてたよね? シャッターなのに。カレンダー破くんじゃないんだからさ……ガラスなんて、無いも同然の扱いだったし」

「まれーならあれぐらいやるわよ。本気出せば、このビル更地にできるんじゃない?」

「……僕、ああいう人達と戦ってたんだ」

「あんたなんか日めくりカレンダーよ。生きててよかったわね。さ、いくわよ」

 全員が集まった所で、直巳が玄関のドアに手をかけた。

 その時、伊武が割った箇所から、何かの香りが漂ってきた。香水か化粧品か、いや、もっと上品な香り。それに気づいたのは、一番近くにいた直巳だけだっただろう。

「直巳、何やってるの? 早く開けてよ」

「あ、ああ……わかった」

 アイシャに急かされて、直巳がドアに手をかける。両脇では、何が出てきてもいいようにAと伊武が待機をしていた。

「よし、開けるぞ――3、2、1――」

 バン、と。直巳が勢いよくドアを開け放つ。

 その瞬間、例の香りが濃密な塊のようになって飛び出してきた。

「――花?」

 アイシャの言葉に、直巳が納得する。ああ、あの香りは花だったか。普段、香水や化粧品の匂いを嗅ぐ機会の方が多いから、逆に花という考えが抜けていた。

 花屋の匂いを何倍にも濃縮したような、強い香り。

 ドアを開けた、その先に見えたもの――花、花、押しつぶされそうなほどの花。

 壁も床も天井も、部屋を埋め付くさんばかりの花が、部屋一面に咲き乱れ、ぼんやりとした灯りに照らし出されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ