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プロポーズが「お嬢さん、俺の嫁にならないか?」ってどうなの!?  作者: SAKURA MOON


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いつもと違う

カイたちが王都を出てから、すでに数時間が経っていた。


 夜の山道を、騎士たちは黙々と進んでいく。


 王都を離れるほど道は険しくなり、空気も冷たさを増していた。


 先頭を走っていた騎士の一人が、ふと上を見上げる。


「……雪ですね」


 カイも視線を上げた。


 暗い空から、細かな白いものが落ちてきている。


「北の山じゃ、もう降ってたらしいです」


 隣を進んでいたレイが言う。


「今年は早ぇな」


「少し早いですね」


 レイは空を見上げる。


 山道を進むにつれ、雪は少しずつ目立つようになった。


 道の端。


 岩肌。


 木々の枝。


 うっすらと白く染まっている。


 さらに標高が上がると、地面にも薄く雪が積もり始めていた。


 馬の蹄が、その上に新しい跡を残していく。


「そろそろユウト隊と合流するはずです」


「ああ」


 カイが前を見る。


 その時。


 暗闇の向こうに、灯りが見えた。


 近づくにつれ、人影がはっきりしてくる。


「兄貴」


 ユウトだった。


 カイたちの姿を確認すると、すぐに馬を寄せてくる。


「どうだった?」


「いた」


 ユウトの表情はいつになく真剣だった。


「数もだいたい報告通り。四十……いや、五十近い」


「場所は?」


「この先の山腹。村まではまだ距離がある」


「動きは?」


 その問いに、ユウトがわずかに眉を寄せた。


「……それが、ちょっと変なんだよな」


 カイの目が細くなる。


「変?」


「まとまってる」


「群れなんだから、まとまってるのは普通だろ」


「そうじゃなくて」


 ユウトが首を振る。


「いくつかの群れが一緒になってる感じなんだ」


 レイも表情を引き締める。


「争っていない?」


「ああ」


 ユウトは頷いた。


「それどころか、同じ方向へ進んでる」


「南か?」


「今のところは」


 カイは黙った。


 グレイウルフが複数の群れで行動する。


 それだけでも異常だ。


 縄張りを持つ魔獣だ。


 別の群れと遭遇すれば、普通は争う。


 少なくとも、平然と同じ方向へ進み続けることはない。


「村へ向かってるように見えるか?」


 カイが聞く。


 ユウトは少し考えた。


「……分からん」


「分からない?」


「村を狙ってるって感じじゃない」


 ユウトは山の奥へ視線を向ける。


「なんつーか……」


 言葉を探すように、少し間を置く。


「何かから離れようとしてるようにも見える」


 カイとレイが、同時に山の奥を見る。


「……行くぞ」


 カイが低く言った。


「これ以上、村へ近づけさせるな」


「了解」


     ***


 グレイウルフの群れを確認したのは、それから間もなくのことだった。


 山腹の木々が途切れた場所。


 薄く雪の積もった斜面に、無数の黒い影が動いている。


 四十。


 五十。


 一目では数えきれない。


「……本当に多いな」


 カイが呟く。


 騎士たちは馬を降り、剣を抜いた。


 ユウト隊もすでに配置につく。


 レイが周囲へ目を走らせる。


「左右へ回り込ませます」


「頼む」


 カイが剣を抜く。


「ユウト」


「分かってる」


 ユウトも剣を構えた。


「村の方には抜かせない」


 グレイウルフの一体が、こちらへ顔を向ける。


 低い唸り声。


 それに呼応するように、別の個体も次々とこちらを見る。


 カイが剣先をわずかに下げた。


「来るぞ」


 次の瞬間。


 群れが一斉に動いた。


     ***


 最初に飛び込んできた一体を、カイが正面から斬り伏せた。


 横から迫った二体目。


 身体を捻ってかわし、そのまま剣を返す。


 血が雪の上へ散った。


「右!」


 誰かの声。


 カイが振り向くより早く、ユウトが一体を斬り飛ばす。


「そっちは任せろ!」


「ああ!」


 レイの隊が側面から群れを抑え込む。


 グレイウルフは確かに数が多い。


 だが。


 一体一体の動きは、見慣れたものだった。


 牙の速さ。


 跳躍。


 身体の強さ。


 どれも、これまでと変わらない。


 騎士たちも冷静に対処している。


 圧倒されてはいない。


 それなのに。


 カイは戦いながら、ずっと違和感を覚えていた。


 一体を倒す。


 二体。


 三体。


 群れの数が減っていく。


 普通なら。


 ここまで仲間が倒れれば、退く個体が出る。


 少なくとも、距離を取る。


 逃げようとする。


 だが。


 いない。


 一匹も。


「……おい」


 ユウトの声にも、同じ違和感が滲んでいた。


「こいつら、やっぱ変だぞ」


「ああ」


 カイは短く答えた。


 分かっている。


 レイも気づいていた。


 騎士たちへ指示を飛ばしながら、グレイウルフの動きを注意深く見ている。


 仲間が倒れても。


 数を減らしても。


 群れは退かない。


 こちらへ襲いかかり続ける。


 いや。


 それだけではない。


「……違うな」


 カイが呟いた。


「何が?」


 ユウトが一体を斬りながら聞く。


「俺たちを狙ってるっていうより……」


 カイは一瞬、グレイウルフたちの背後へ視線を向けた。


「前に進もうとしてる」


 レイもその言葉を聞いていた。


「私もそう見えます」


 一体が騎士の脇を抜けようとする。


 レイがすぐに斬り伏せた。


 また一体。


 さらに一体。


 こちらを倒そうとしているというより。


 何が何でも、この場所を抜けようとしている。


 そんな動きだった。


「……なんだ、これ」


 ユウトが低く呟く。


 グレイウルフがさらに飛びかかってくる。


 カイはその首を斬り払い、前を見る。


「今は止めるぞ」


「分かってる!」


 剣が閃く。


 雪の上に、次々と魔獣が倒れていった。


     ***


 最後の一体が地面へ崩れ落ちた。


 山腹に静けさが戻る。


 荒い息。


 血の匂い。


 雪の上には、無数の足跡と戦いの跡が残っていた。


 カイは剣についた血を払い、周囲を見る。


 大きな負傷者はいない。


 グレイウルフの強さも、これまでと変わらなかった。


 討伐そのものは、問題なく終わった。


 なのに。


「……やっぱり、おかしかったな」


 カイが言った。


「ああ」


 ユウトもすぐに頷く。


 レイは倒れたグレイウルフたちを見渡していた。


「一匹も退きませんでした」


「それだけじゃねぇ」


 カイは、雪の上へ視線を落とす。


 グレイウルフたちが残した足跡。


 何本もの足跡が、山の奥から続いている。


 別々の場所から。


 いくつもの群れが。


 同じ方向へ。


 レイもそれに気づいた。


「……集まったのではなく」


 眼鏡の奥の目が細くなる。


「集められたようにも見えますね」


 ユウトが山の奥を見る。


「何かに追われてた、とか?」


「分からん」


 カイは答えた。


 強くなったわけではない。


 新種でもない。


 いつものグレイウルフだ。


 それなのに。


 群れ方も。


 進み方も。


 最後まで退かなかったことも。


 何もかもが、妙だった。


「周辺を確認する」


 カイが剣を鞘へ納める。


「足跡も調べろ」


「了解」


 騎士たちが動き出す。


 カイは一人、山の奥を見つめた。


 雪の向こう。


 さらに深い山の中。


 何があるのかは分からない。


 けれど。


 胸の奥に残った気味の悪さだけは、消えなかった。

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