第五巻 軍産業設計 第六回 弾薬と規格の青図
鄧四が机の上に紙の包みを二十並べた。
指ほどの太さの細長い包みだった。一つずつ紙を筒に巻き、中に鉛の丸い弾と量った火薬とを入れ、両端を糸で縛ってある。
「火槍の薬包の巻き方で、ひと月前に試しに巻いてみたものです」
鄧四は言った。
「十は、軍器監の火薬の倉の奥にしまった。十は、作坊の北の小屋の棚に置いた。——今朝、両方を持ってまいりました」
鄧四は包みを一つずつ手に取って、振ってみせた。
火薬の倉にしまった十は、振ると中でさらさらと乾いた音がした。
北の小屋の棚に置いた十のうち、四つは音がしなかった。鄧四がその一つの糸を解き、紙を開くと、中の火薬が黒く湿って固まっていた。紙の外側にうっすらと黴が浮いていた。
「北の小屋は河の水路のそばで、朝になると霧が入ります」
鄧四は固まった火薬を指で崩した。
「戦の野に、火薬の倉はございません」
◇
年の暮れが近づいた冬の日だった。
軍器監の奥の広間に、この一年、同じ話に関わってきた者たちが集まっていた。
軍器監から、判軍器監の洪克勤と作頭の鄧四。工部から、韋金森と羅蘭徳。試製班の克魯澤。兵部から、郎中の曹允恭。枢密院から、董元礼。それに統計局の韋明遠。
修平は韋明遠の隣に座っていた。
この集まりを言い出したのは、兵部だった。春から、暗号、作坊、銃、野の砲、馬に乗る砲と、兵器の青図が次々に描かれた。描かれるたびに、兵部の帳面には新しい品の名が増えていった。
曹允恭は集まりの初めにこう言った。
「銃と砲とは、作れば何年も使えます。弾は、撃てばなくなる。——兵部がこの先一番多く作り、一番多く運び、一番多くしまうことになるのは、弾です。弾の青図を、銃と砲の青図と同じ重さで描いていただきたい」
◇
「まず、口の大きさです」
韋金森が言った。
「銃の口の大きさが同じでも。弾の太さが少し違えば。紙の包みの長さが少し違えば。火薬の量が少し違えば。——銃は同じように撃てません」
韋金森は机の上の乾いた包みを一つ手に取った。
「太い弾は筒に詰まる。細い弾は溝に噛まない。長い包みは尻に入らない。短い包みは尻の中でがたつく。火薬が多ければ、筒が裂ける。少なければ届かない」
韋金森は包みを置いた。
「ですから、弾も銃と同じ図に書きます。筒の尻の穴の寸法。針の長さ。弾の太さ。包みの長さ。火薬の重さ。火を付ける薬の位置。砲の弾なら、火の仕掛けを捩じ込むねじの山。——一枚の図に全部を。どれか一つを変えるときは、全部を見直す」
鄧四が口を開いた。
「紙は」
「紙もです」
韋金森は鄧四を見た。
「紙の厚さ。紙の質。——どこの紙を使うか」
羅蘭徳が手を上げた。
「その紙の湿りのことですが」
羅蘭徳は黄色く染まった指先で、湿った包みの紙をつまみ上げた。
「紙を蝋か、油に浸します。蝋なら水を弾く。——ただし蝋が厚すぎれば、針が紙を突き破れない。油なら薄く染みる。ただし、油は時が経つと火薬の方へ染みていきます」
羅蘭徳は紙を置いた。
「どれくらいの蝋をどれくらいの厚さで。何日、湿った小屋に置けば、どれくらい火薬が湿るか。——試してみなければ分かりません。北の小屋の棚をお借りしたい。霧の入る小屋は、よい試しの場です」
鄧四が少し笑った。
「どうぞ」
「それから包み方です」
曹允恭が言った。
「兵が一つずつばらばらに持って歩けば、落とし、潰し、濡らす。——十か、二十ずつ一つの箱に。箱をいくつか一つの大きな箱に。何をいくつずつ、どう包むか。それも決めていただきたい。数が揃っていなければ、兵部の倉で数えられない。——それに荷車で百里揺られて、いくつ潰れ、いくつ破れるか。それも試していただきたい」
◇
克魯澤が立ち上がった。
「砲の弾も同じです。でも、砲の弾はもっと難しい」
克魯澤は壁に紙を一枚貼った。
紙には、同じ太さの丸いものが三つ並べて描かれていた。
「砲の口の大きさが一つなら。弾の重さも一つに決めます。弾を飛ばす火薬の袋も一つに決めます。——でも、砲の弾には種類があります」
克魯澤は一つ目の丸を指した。
「中が鉄の塊。城の壁や、柵を崩す」
二つ目。
「中に火薬を詰め、落ちたところで爆ぜる」
三つ目。
「中に小さな鉛の玉をたくさん詰め、敵の上で爆ぜて、玉を撒く」
克魯澤は三つの丸を手のひらでまとめて覆った。
「外から見ると、三つとも同じです」
広間が静かになった。
「夜。雨。敵が来ている。砲の兵は急いでいる。——箱の中から弾を取る。敵の兵が野にいる。玉を撒く弾が要る。でも、手に取ったのは壁を崩す弾だった」
克魯澤は手を下ろした。
「そういうことが、私の国では何度もありました」
「箱に字を書けばよい」
董元礼が言った。
「書きます」
克魯澤は頷いた。
「でも、夜は字が見えません。そして、砲の兵の中には字をよく読めない者もいる」
克魯澤は紙の上の三つの丸の縁に、それぞれ違う刻みを描き足した。一つ目には何も。二つ目には、縁に一本の溝。三つ目には、縁に二本の溝。
「指で分かるように。弾の尻に刻みを入れる。箱の角にも同じ刻みを入れる。——暗くても、手で触れば分かる」
鄧四が紙の上の刻みをじっと見ていた。
「……弩の矢も、そうすればよかった」
鄧四は低く言った。
「火を付ける矢と、ただの矢とを夜に取り違えた話を、何度か聞いておる」
◇
「では、次です」
洪克勤が言った。
「軍器監で弾を作る。紙を巻き、火薬を量り、弾を入れる。ひと月に何万と作ることになる。——そのうち、いくつかは火が付かぬ。いくつかは火薬が多すぎる。いくつかは弾が太すぎる」
洪克勤は修平を見た。
「全部を撃って試すわけにはいかぬ。撃てばなくなる」
修平は頷いた。
ここは自分の仕事だった。
「全部を撃つ必要はありません」
修平は言った。
「同じ日に、同じ作坊で、同じ火薬と、同じ紙と、同じ職人の組で作った弾を一つのひと口とします」
修平は机の上の乾いた包みの十を一つにまとめた。
「このひと口から、いくつかを選んで撃ちます。選ぶのは作った者ではなく、調べる者。どれを選ぶかは、前もって決めておかない。——選んだいくつかのうち、火が付かなかったものがいくつあったか。飛んだ遠さがどれくらいばらついたか。筒が傷んだか」
修平は韋明遠を見た。
「いくつ選べば、ひと口の全部がどれくらいよいか悪いかを、どれくらいの確かさで言えるか。——それは数で決められます」
韋明遠が懐から算木の箱を出した。
「物の値の調べと同じですな」
韋明遠は言った。
「開封の民の籠を一軒残らず調べることはできぬ。だから、何軒かを選んで調べる。選び方さえ正しければ、何軒で足りるかは数で決まる」
「はい」
修平は頷いた。
「弾でも同じです。——ひと口から何十か選んで撃ち、火の付かぬものがいくつ以上なら、そのひと口は全部出さない。いくつ以下なら出す。その線を韋明遠どのと決めておきます」
洪克勤はしばらく黙っていた。
「……線を越えたひと口は、全部捨てるのか」
「捨てるか、戻して調べ直すか。——いずれにせよこの春、作坊で申し上げたように、調べる者が否と言えば出さない」
修平は少し間を置いた。
「そして、捨てたことを隠さないでいただきたい」
洪克勤が修平を見た。
「火の付かなかった弾の数を、ひと口ごとに帳面に付けます。どの作坊の、どの組の、どの日の、どの火薬の、どの紙のひと口だったか。——十のひと口のうち、悪いのがいつも同じ作坊の同じ組から出ているなら、その組の何かがおかしい。いつも同じ硝石の同じ山から来た火薬なら、その山の硝石がおかしい」
修平は机の上の湿った四つの包みを指した。
「悪い弾は恥ではありません。どこが悪いかを教えてくれる報せです。——隠せば、報せが届かない」
韋明遠が算木を机の上に並べ始めた。
「作坊ごと、組ごと、日ごと、火薬の出どころごと、紙の出どころごと。——帳面の形を統計局で作りましょう。四つの作坊が同じ形で付けられるように」
◇
「一つ、兵部から申し上げたい」
曹允恭が言った。
「今、銃の口の大きさと、砲の口の大きさを決めようとしておられる。——兵部からお願いがある。口の大きさを多くしないでいただきたい」
克魯澤が曹允恭を見た。
「砲にも、軽い砲と重い砲が、いずれ要ります」
「要りましょう」
曹允恭は頷いた。
「ただ、新しい砲を一つ採るたびに、口の大きさが一つ増え、弾が一つ増え、火薬の袋が一つ増え、箱が一つ増える。——兵部の倉は、その全部をしまい、数え、運ばねばならぬ。戦の野で、ある隊にはこの弾、ある隊にはあの弾。取り違えれば、撃てぬ弾を何千と運ぶことになる」
曹允恭は少し声を落とした。
「どうしても要るものだけにしていただきたい。——要らぬ新しさは、兵部の倉で、戦の日に牙を剥きます」
克魯澤はしばらく曹允恭を見ていた。
それから大きく頷いた。
「その通りです。私の国でも、砲の種類が多すぎて困りました」
◇
羅蘭徳が話を火薬の倉へ移した。
「弾を作る小屋と、弾をしまう倉と、火薬を作る小屋とを分けます」
羅蘭徳は紙の上に三つの四角を離して描いた。
「人の住むところからも、作坊の本棟からも離します。周りを、土を盛った壁で囲む。倉の上には、雷を地へ逃がす鉄の柱を立てる。水の槽を倉のそばに。倉の中の湿りを測る器を」
羅蘭徳は自分の指先を見た。
「倉の中には火を持ち込まない。灯もです。鉄の道具も持ち込まない。鉄と石が当たれば、火花が出ます。——入る者は、倉の前で靴を履き替える。釘を打った靴底はだめです」
鄧四が自分の足元を見下ろした。
「倉の出し入れは、全部帳面に」
曹允恭が言った。
「何を、いくつ、いつ、誰が入れ、誰が出したか。帳面の数と倉の中の数とを、月に一度突き合わせる」
「年に一度は、倉の一番古い弾を撃って試してください」
修平が言った。
「しまっておいた弾が何年使えるか。それも数で分かるように」
◇
「箱の表書きのことです」
董元礼が言った。
「弾の箱は、四つの作坊から国中の何十という軍へ送られる。——途中で兵部の倉を通り、枢密院の定めた集め場を通り、荷車に積み替えられ、また下ろされる」
董元礼は机の上に箱の絵を描いた。
「箱を開けずに中が分かるようにしていただきたい。——何の弾か。何の銃の、何の砲のものか。いつ、どこの作坊で、どのひと口で作られたか」
韋明遠が口を開いた。
「数字で書きましょう」
韋明遠は紙の上に、零から九までの数字を並べて書いた。
「戸部と中央銀行で帳面に使っているあの数字です。字を読めぬ荷運びの者でも、十の形なら覚えられる。——口の大きさを二つの数字。弾の種類を一つの数字と印。作った年と月を数字。ひと口の番号を数字」
董元礼は紙の上の数字の並びを見ていた。
「箱の角の刻みと合わせて」
克魯澤が言った。
「手で触っても、目で見ても分かるように」
修平は韋明遠の書いた数字の並びを見ながら、この春、陳橋の駅で見た電碼表を思い出していた。字を数にする。数にすれば、国中で同じに読める。
弾の箱も同じだった。
◇
「では、いくつ作ればよいのか」
洪克勤が言った。
「弾をひと月にいくつ。蓄えにいくつ」
広間の目が董元礼と曹允恭の二人に向いた。
二人は顔を見合わせた。
「兵部には、平時の稽古の帳面がございます」
曹允恭が言った。
「火槍の兵が稽古で、一人ひと月に火薬をどれだけ使うか。神臂弓の兵が矢を何本射るか。——十年分」
「枢密院には、戦の帳面がございます」
董元礼が言った。
「西の遠征の、狄承武の表。北の辺りの、この十年の小競り合いの記録。——戦の日がいく日続き、一日に矢をいく本射たか」
修平は韋明遠と目を合わせた。
「二つの帳面を一つの机に並べていただけますか」
修平は言った。
「稽古の帳面から、一人がひと月にどれだけ撃つか。戦の帳面から、戦の一日に稽古の何倍撃つか。——枢密院が、次の戦で兵が何万、何日戦うと見立てるか。その見立てと掛け合わせれば、戦の一日に弾がいくつ要るかが出ます」
「その一日の数に、蓄えておく日数を掛ける」
韋明遠が算木を動かしながら言った。
「作坊が、戦になってから作る数を増やし始めて、増えた数が戦の野に届くまでに何日かかるか。その日数の分だけは蓄えておかねばならぬ」
董元礼と曹允恭がまた顔を見合わせた。
「……兵部の稽古の帳面を、枢密院へ写して送る」
曹允恭が言った。
「枢密院の戦の帳面を、兵部へ写して送る」
董元礼が言った。
「その写しを送るのに、照会の文が要りますな」
「要りますな」
二人とも笑わなかった。
この一年、どの集まりでも同じ場面を見てきた。暗号の鍵を扱う兵は、兵部の者か、枢密院の者か。作坊の職人の兵籍は誰の印で外すか。砲の試製班を置く文は何通か。馬に乗る砲の隊の定めは誰が決めるか。
どれも、誰かが怠けているのではなかった。どちらの役所も自分の務めを正しく果たそうとしていた。正しく果たそうとするから、文が二通になり、三通になった。
修平はこの一年の集まりの帳面の端に、小さく書き付けていた。照会の文の数を。
数えるのを、秋の終わりにやめた。
◇
「最後に、一つ」
修平が言った。
「弾を作るのに、何が要りますか」
広間の者たちが修平を見た。
「火薬は硝石と、硫黄と、炭。弾は鉛。火を付ける薬と、砲の弾の火の仕掛けには、銅と、羅蘭徳どのの爆ぜる薬。紙の包みには、紙と、蝋と、糸。箱には木と、釘。——一つずつ、どこから来ていますか」
羅蘭徳が答えた。
「硝石は、今はほとんどが北のある地方の古い土から掻き出しております。硫黄は西南の山から。——一つの地方から多くが来ている」
「鉛は、南のいくつかの坑から」
洪克勤が言った。
「蝋は、南の虫の蝋が多い」
鄧四が言った。
修平は紙に一つずつ書き付けていった。
硝石。硫黄。炭。鉛。銅。紙。蝋。糸。木。釘。
その横に、それぞれの来るところを。
「硝石の地方で大水が出たら。硫黄の山の道が崩れたら。——銃がいくらあっても、砲がいくらあっても、撃てなくなります」
修平は紙を皆の前に置いた。
「一つずつ、来るところを二つ、三つに分けていただきたい。一つが止まっても、他から来るように。——坑冶寺と太府寺に調べてもらいます」
「硝石を土から掻き出すのではなく、作ることはできぬのか」
董元礼が言った。
羅蘭徳は少し考えた。
「……できます。畜舎の土と、灰と、時間で。私の国では、そうやって硝石を育てる畑を作りました。——でも、それも一つの青図になります。今日の話ではありません」
◇
話が終わったのは、日が暮れてからだった。
広間の机の上には、この日に描かれた紙が何枚も重ねられていた。
弾と銃を一枚に描いた図。紙の包みの蝋の試し。三つの砲の弾と縁の刻み。ひと口の選び方と線。作坊ごと、組ごとの帳面の形。倉の三つの四角。箱の数字の並び。戦の一日の弾の数の出し方。硝石から釘までの来るところ。
曹允恭がそれを一枚ずつ揃えていった。
「これで、兵部は来年から数えられます」
曹允恭は言った。
「何をいくつ作り、いくつしまい、いくつ運べばよいか。——まだ銃も野の砲もないのに」
「ないから、今数えるのです」
克魯澤が言った。
「銃ができてから弾を数え始めれば、弾は銃に追いつきません」
董元礼は揃えられた紙の束を受け取った。
「来年、軍器監と工部とでこれを本当の作坊にしていく。——作ってみて、ひと口から悪い弾がどれだけ出るか。四つの作坊のどこが遅れるか」
董元礼は紙の束を脇に抱えた。
「数えるのは、そこからですな」
◇
軍器監の門を出たとき、雪が降り始めていた。
修平は韋明遠と並んで歩いた。
「林詳定」
韋明遠が言った。
「八年前、あなたが私の算木の箱を初めて見たとき。物の値を七つの市で毎月調べると言われた」
「はい」
「あのとき、弾の数を数えることになるとは思いませんでした」
修平は少し笑った。
「私もです」
二人はしばらく黙って歩いた。
雪の中に、工部から陳橋へ延びる線の柱が一本立っていた。柱の頭の白い陶の器に、雪が薄く積もっていた。
この春、枢密院の奥の一室で楊崇武は、報せを速くする仕組みは報せを守る仕組みを要する、と言った。
この一年で分かったことがあった。
銃はそれを作る作坊を要する。作坊は型と、ねじと、調べる者を要する。砲は馬を要する。馬は飼い葉と地図を要する。弾は紙と、蝋と、硝石の来るところを要する。そしてその全部が数を要する。
修平は雪の降る暗い道の先を見ていた。
来年、この紙の束が作坊になる。




