10時45分
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産み落とされた闇の中。
映画館から現れた【ソレ】の手には、キャラメルポップコーンのバケツと、コーラが握られていた。
「本当によ〜。それなりに愉快な能力持ってんだから、も〜少し頭使おうぜ、おじいちゃん。後期高齢者がフィジカルで十代とやり合える訳ね〜んだからよ」
【ソレ】が、笑う。
「アンタがいの一番にやるべきだったのは、パンピー連中への無差別攻撃だぜ。流れ弾で何人か殺しちまえれば一番手っ取り早かったな。連中の小細工がパンピーの保護目的なのは明らかなんだからよ〜、その前提を崩しちまえば多少なり動揺も誘えただろ〜からな……仮に保護諦めて混戦になりゃ、それはそれでウケるし」
【ソレ】が、わらう。
「ソレに比べりゃアンタらは中々の大躍進だな、少年少女。特にミスターPTSD、今のやり口は嫌いじゃ〜なかったぜ。頭ぁ使うやつは好きだぜ。ご要望がありゃハグくらいしてやるよ。幻想少女も悪くね〜。メソメソ乙女浸ってる割にゃ、存外動けてるじゃね〜か」
【ソレ】が、嗤う。
「——けど足んね〜よ。ラスボス戦がたかだか二千字そこそこじゃ、肩透かしもいいとこだ。そんな退屈じゃ、エンディングまで尺が保たね〜だろ……特に傷心乙女。アンタの底は未だこんなもんじゃね〜だろ」
——明石真が、わらう。
「仕切り直しだ演者共。今度は俺も手ぇ貸してやる。もう一度本気でご一緒に、観客方を喜ばせてやろ〜ぜ」
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「——仙波、テラスだ!」
「——!」
静の叫びに、星翠も鋭く頷く。
外に面した窓からは陽光が差し込み、周囲を明るく照らしていた。周囲が影であるのには違いないが、それでも闇の只中よりもリスクを低減出来るだろうという判断だった。
——だが。
「そうはいかね〜ぜ、少年少女。レギュレーションは揃えないとなぁ」
〔[仙波星翠の姿は、一つ下の階にあった]〕
「——————は?」
瞬きなんてしていない。
どころか視線の端からすら消していなかった。
にも関わらず。気が付けば、仙波星翠は一つ下の階に居た。
「——なんだ、そら」
意味不明な感覚だった。
何故、仙波星翠が一つ下の階に居ると断言出来る?花蕗静は、彼女の消えた原因すらわからない。下の階を確認した訳でもないのに、何故下の階に居ると知っている?
何かされた。
だが、何をされたかまるでわからない。
それでも、一つだけ確かなことがある。
「——くそっ!」
静が身構える。
その様子を見て、明石真が軽く笑った。
「いいね〜。その様子じゃ、頭の方はまだそれなりに回ってるらしいじゃね〜か」
言いつつ、明石真が老齢の男に目を向ける。
〔[拘束に使われていた天印は、消え去った]〕
突如消失した【封露の天印】。
身体の自由を取り戻した男に向けて、明石真が笑いかける。
「三流、アンタの能力の強みは遠隔性能の高さだろ。本体が身体さらしちゃ魅力半減……具無しのラーメンみて〜なもんさ」
言いながら、指で地面……見えぬ階下を指し示す。
「アンタ自身はこの場で待機。管制用の本体を後方に配置して質量戦で文系女子に挑みな。上手い事アンタが勝てたら、俺がアンタをここから逃してやるよ」
明石真の視線が、静を向く。
「で、俺はアンタの足止め役だ、メンタルヘルス。こっちのおいぼれ止めたきゃ、先ずは俺からどつきまわしてみせろよ、青少年」
「——っざけやがって」
静が構えを作る。その姿、表情を値踏みする様に眺めてから、明石真が肩を竦めた。
「とは言え、だ。半死体みて〜な今のアンタと遊んでも退屈極まりってとこだしな。エンタメとしても落第気味と来りゃ、こんな世話無い話も無ぇ〜——……ので、アンタに一つ、テーマをやるよ」
「——んだと」
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「不思議だったろ?あの幻想乙女がテメェの逆理自覚してなかったの」
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命を使い切れる瞬間を欲していた。
「俺のオカルトマジック——アンタらのいう『パラドクス』ってのはよ、相手の現実を嘘と挿げ替えるって代物でな……ま、要は超ライトな催眠みて〜な代物なんだけどよ。二ヶ月半位前か?あのインドア少女の『パラドクス』発現に合わせて、俺ぁ一つ手品を仕込んだんだよ」
誰かの為にこの身を焦がす、その時を期待していた。
「ずばり『発現当日を認識出来なくなる』っていう、スーパー細やかな掛け違いみたいなタネなんだけどな。ところがどうして、コイツが中々捨てたもんじゃ無くてな」
その、筈だった。
「能力自体を認識出来なくなっちまえば、『パラドクス』自体が消滅しちまう……ま、コイツは意外と皆様ご存知ない異能殺しの特効薬だな。超つまんね〜から一生やらね〜けど。そこにいくと、当日だけを認識から消しちまったのは我ながらファインプレーだったぜ。これなら深層心理による誤作動は起こるし……ま、この辺りの顛末は俺よりもよっぽど、アンタらのが詳しいだろ〜けどよ」
コイツは——
「暴走の結果はあのザマ……ま、退屈で冗長な三文似非青春ファンタジーって訳だ。人間ドラマとしても、エンタメフィクションとしても三流以下だぜ。週刊連載なら保って五週か?」
——————コイツが
「終いにゃ被害は人形が一つ、ガラクタになっただけと来たもんだ……ローファンタジー謳って人死に一つ出ね〜んだから、興醒め甚だしいぜ……と、長々喋っちまったけど、要約すると、だ」
コイツが。
「仙波星翠に纏わる一連の事件の遠因は、俺だ」
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花蕗静が、息を吐く。
「あぁ、そーかい……」
「お〜……そんで?ここまで聞いて、なんかご意見ご質問はあるかい?青少年」
空になっなポップコーンのバケツを放り投げ、明石真が嗤う。
「……——そうだな」
刹那。
花蕗静の上段蹴りが、明石真の頭部目掛けて振り抜かれる。
「——嬲り殺してやる」
その一撃を掌で押さえ込みながら、一口コーラを飲む。
「はっは〜、やる気が出たみたいで安心したぜ……時間潰しの暇つぶしだ。遊んでやるよ、ピグマリオン」




