20時18分
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——————?
「馬鹿馬鹿しい提案だ。制圧が完了した今、それは最早交渉にすらなっていない」
「かもな。破れかぶれだってのぁ、テメェでもわかってるよ。けど、あながち捨てたもんでもねーぜ?俺を生かしたまんま松下さんを攫いでもしてみろ——どんな手を使ってでも、例え地の果てでも。俺はてめーを追い込むぜ。それこそ死ぬまで、な」
よくわからないけれど。
彼は、何を言っているんだろう。
「それと……あぁ、これももう言ったけどな。それこそ、そこの女学生を殺しでもしてみろ。テメェも、テメェの雇い主も、纏めて全員皆殺しだ。見た目よりしつこいぜ?俺ぁよ」
「破綻した論理だな。君が私達に辿り着く、その為の根拠も理由付けもない以上、その恫喝は成立しないだろう」
「どーかな?……ハッタリだと思うなら、試してみろよ」
本当に、よくわからない。
何で彼は、あんな事を言ってるんだろう。
「……そもそも、私が君の提案に乗ったとして。君を殺した後、私は結局再び彼女を追うし、あの少女が邪魔立てをすれば排除する。君の望んだ結末には程遠いのではないか?」
「……そこまで何もかもを高望みしやしねーよ。アンタ自身も口にした通り、制圧は終わってる。俺はアンタに負けた。言ったろ?こいつぁ破れかぶれだってな。俺がくたばるその前に、アイツらが十二分逃げおおせりゃ……ま、それだけで一先ず構いやしねーよ」
「馬鹿げた自己犠牲だな。そんな、その場凌ぎの為に君は自身を投げ出すのか」
「見解の相違だな……俺にしちゃー出来すぎって位だよ」
私達を助ける。
その代わりに、自分を差し出す?
馨さんと——私の為に?
——————そんな事、頼んでもないのに?
「……繰り返すが、君を殺した後、私は改めて彼女を拘束する。君亡き後の未来について、私がしてやれる約束は何もないぞ」
「あぁ、その言葉が引き出せただけでも御の字さ——俺の目が未だ明けてる間……履行はそんだけで構わねーよ」
そんな事の為に、花蕗君が、死ぬ?
「——いいだろう。その『約束』、確かに受け取った」
「はっ、交渉がとりまとまって一安心だぜ……」
冗談じゃない。ふざけるな。馬鹿にするな。
私は確かに役立たずだった。
折角身に付けた異能を使う暇もなく、あっさりと身柄を押さえられてしまった。間抜けと言われればそれまでだろう。
それでも、こんな結末は許さない。
「——私から……」
異能者だろうと、異常者だろうと。
神様だろうと——花蕗静であろうとも。
「——私から………………」
許さない、許さない、許さない。
無力だなんて知ってる。
無能だなんてわかってる。
それでも。認めない。
例え何を敵に回しても。誰と争うことになっても。
こんな馬鹿げた終わりは、嫌だ。
だから——
「——————私から、花蕗君を奪るな—————‼︎」
———お前達は、邪魔だ‼︎
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刹那。
天空より、極光が降り注いだ。
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飛来するは、燦然と輝く紅き剣。
実体を持たぬ、光によって構成された、常理の外縁——この世ならざる異形の刃。
その数、十や二十に収まらず。上空を覆い尽くさんばかりに展開されたそれらが、『影』の軍勢を次々と貫く。
上空より襲い来る、一斉掃射。
突如開始された攻撃に、それらを辛うじて回避した『影』達にも明らかな動揺が走る。その一瞬——わずかに緩んだ拘束を、仙波星翠は見逃さない。
顕現せしは白き光。
幻想の天上兵器『封露の天印』。
逆説の異能によって現界した光の柱が、自身と馨の背後に立つ『影』を刺し貫く。
「——————」
動作を封じられた『影』の頭部を、静の蹴りが襲う。
回旋動作に伴って放たれる左右二連撃。正確無比な蹴りが、『影』を打ち倒す。
再び二人を庇う形で身を翻す静。その眼前では、尚も掃射攻撃が継続されていた。
——その力の正体を、静と星翠は知っていた。
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長編ファンタジー小説『テサウル国物語』。
全世界で愛されるファンタジーの古典であり、仙波星翠の『パラドクス』が創出する幻想世界の参照元。
その中に登場する、二つの天上兵器。
『天使』と呼ばれる上位存在の力を引き出す形で運用される、作中においてすら異質とされる超然の異能。
一つは『封露の天印』。
白き光の柱として顕現せし、その能力——対象の行動強制封印。仙波星翠が『パラドクス』能力の応用として使用していたものがこれだった。
——そして、もう一つ。
紅き光の剣として顕現せし、その能力——対象の無条件殺害。名を『虐戮の天印』。能力の拡張に必要な条件を満たしていない現状、仙波星翠には使用不可能な、幻想世界における最強格の異能。
そして、今。
現実——そして幻想世界においてさえ、この能力を使用できる人物は、たった一人しか存在しない。
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「あぁ、まったく!あちらを見てもこちらを見ても影、影、影!薄ら暗くて嫌になってしまうわ!」
夜空に輝く月光で染め上げられたかの如き、淡くも深い銀髪。
絹糸の様に繊細で、白く美しい肌。
虹彩は夜明け前の汀——どこまでも透き通る淡藤色。
荘厳でありながら可憐。
清廉にして威風堂々。
純白のドレスが、風に揺れる。
「景観を損なってばかりで、とんと嫌になるわ!だから——ねぇ、お前達。自ら退くか、皆々私に焼き払われるか。好きな方を選ばせてあげる」
虚構の頂点、幻想の君臨者。
女王デケムは、ここに再臨した。
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数多く蔓延っていた軍勢の大部分を破壊した後、残されたのは状況理解の追いつかない三人と、残存の『影』共。それら全員の動揺などは全くどこ吹く風……気品を纏った柔らかな所作で、女王デケムは夜を眺めた。
退屈と不機嫌をない混ぜにしたその眼差しが、面倒そうに星翠へと向けられた。
「華やかさも無ければ、出迎えの一つも無い。煮湯を飲まされたというだけでも腹立たしいというのに、あまつさえこんなみすぼらしい場所に私を呼び付けるなんて、全く図々しい伽藍堂ね」
「ぁ、え、と……」
白熱した、怒り。
そんな感情を上書きするに足る、衝撃。
二の句を継げずにいる星翠へと向けて、幻想の君臨者は更なる追い打ちをかける。
「挙句、私の力を間借りした上で、この程度の有象無象に梃子摺るだなんて。呆れる無能っぷりね」
辛辣極まる言葉の数々。だが、それらに心を痛めている暇はない。
顕現の理由は『パラドクス』本体である星翠にもわからない。だが、女王がこの絶望的な窮地を脱するに十分過ぎる力を有している事は、紛れも無い事実。
だが。傲慢不遜の権化たる彼女が、自分以外の為にその力を振るうか——
「——あら?」
つい、と。引き続き退屈そうに流された視線。その双眸が、ピタリと止まる。
——瞬間。美しくも可憐な、大輪の花が咲く。
「——シジマ!」
彫像から一転、生き生きとしたその笑みに、思わず静がたじろぐ。
そんな少年の当惑などお構いなし。ふわりと駆け寄り、デケムは少年の手を両手で握った。
「シジマ、シジマ!あぁ、さっきまでの鬱屈なんてすっかり吹き飛んでしまったわ!だって私、貴方に逢えるだなんて思ってもいなかったんですもの!」
「お、おう。えーっと……ご、ご無沙汰?」
「ご無沙汰なんてものじゃないわ!貴方と交わした言葉、離れ離れになる間際があんなつまらない最後だったなんて、本当に——————あら?」
興奮しきりだったその表情が、微かに真剣な気配を帯びる。至近距離で見つめるその眼差しの熱はそのままに——けれどどこか不思議そうに、女王デケムが小首を傾げる。
「——シジマ、貴方少し変わった?」
「ぁあ?……イメチェンした記憶はねーけど……」
「そんな上っ面じゃあないわ!以前よりもより一層美しく——いいえ違うわ、外見じゃ無い。でも確かに……いいえ、記憶の中と寸分違わない。なら、変わったのは、私……?」
デケムが考え込む。
そんな場違いな熟慮を静観しておく訳もなく——ようやく体勢を立て直した『影』は新たな一団を出現させていた。
新たに姿を現したそれらが、一斉に女王へと襲い掛かる。
「——女王——!」
叫び知らせる星翠の声。
——だが、遅い。
「——————‼︎‼︎」
一瞥もくれず。意にも介さず。
天空より降り注ぐ紅き極光は、差し迫る軍勢を一息の内に一掃した。
「今考えているの。静かにして頂戴」
相対する『影』も。
星翠も、馨も——静でさえ、一言を発することすら出来ず。君臨者の思考が終わるのを、黙して待つことしか出来ずにいた。それほどに、圧倒的で絶対的な、異能。
幻想の頂点。その一挙手一投足に注目が集まる中。
「——わかった」
一言ぽつりと呟いて。デケムが静へとその顔を向けた。
そこには再び——否、先程のものよりも尚一層、燦然と輝く華やかな笑顔が浮かんでいた。
「わかったわ!私、わかっちゃったわ、シジマ!」
「ぉ、おう。そいつぁ、よかったな……?」
「私、貴方が変わったのだと思ったの!でも違ったの!変わったのは貴方じゃなくて、私だったの!ねぇ、聞いて!シジマ!」
「お、おう。聞いてる、すげー聞いてるから、なんだよ」
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「恋よ!」
「……ん?」
純白のドレスが、暗夜に踊る。
他を圧する暴力的なまでの美麗と、相反する可憐さを等しくその身に纏って。
「あぁ、なんで初めに貴方を見付けた時に気付かなかったのかしら!私ね、シジマ!貴方に恋してるのよ!」
女王デケムは、高らかに謳った。
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「…………なんて?」




